英語教育の明日はどっちだ! TMRowing at best Twitter

2012-07-18 written corrective feedback

大津由紀雄 編著 『学習英文法を見直したい』 (研究社) がいよいよ来週発売となります。

某ネット書店の頁でも発売前から、3桁の順位が出ているところを見ると予約好調のようです。

ただ、今日、その同じページに、「一緒に購入されている本」として、ある本を見つけました。

  • 関正生『世界一わかりやすい英文法・語法の特別講座』 (中経出版)

あるミュージシャンのファンが、ニューアルバムが出たらそれを買って聞くのは自然な行為だと思います。「買いすぎっ!」と窘めるのは、せいぜいが家族くらいでしょう。

書籍でも同じことが言えます。この著者のファンが、この本を買い求め一所懸命に読むことに対してとやかくいうつもりはありません。

ただ、entertainmentの世界と、学びの世界は一緒にはできないように思います。

これから本気で英語を身につけようというという人、真摯な努力を払う意志のある人は、教材選びには慎重であって欲しいと思うのです。そういう「意欲があり」「誠実な」学習者の皆さんには、「ことば」に対して敬虔な指導者についていくことをお勧めしたいと思います。

何年か前、初めてこの著者の本を見た時に思ったことがあります。

これだけ「丸暗記不要」「丸暗記撲滅」を謳い文句にして、従来の受験英語の指導手順や伝統的な学校文法の分類整理や記述を「丸暗記を強要するもの」と決めつけて批判しているのだから、パターンを分類整理して覚えなければ何も始まらない『語法』の参考書は絶対に出さないのだろうな。

そんな風に、冷ややかに眺めていたのですが、ここにきて「語法」を扱う教材も出てきてしまいましたので、文法の扱いも含めて、きちんと取り上げることにした次第です。

この本での著者の物言いは極めて単純です。

徹頭徹尾、これまでの使えない教え方・考え方を (X) で持ち出して一刀両断に斬り捨て、それとは全く異なる、著者の持論を (◎) で示す、という形で提示されています。

その姿勢は、「英文法の核心」として囲みで示される極度に単純化した公式のような文言に表れていると言えるでしょう。

この (X) で示される教え方・考え方が、従来の学校文法を代表する記述であり、しかもそれが、本当に「英語の実態」や「実像」、「本質」とかけ離れていて、使えないのであればいいでしょう。

ところが、この本での (X) の記述はあまりに恣意的な記述となっているのです。あくまでも、この著者にとっての「仮想敵」として、この著者が拵えた文言なのですね。

「語研」でも「英授研」でもいいので、真っ当な教師が研修を積む「現場」に足を運んで協議に参加してきて下さい、といいたい気持ちで一杯です。今時、こんな酷い教え方を中学や高校でしている教師はいないでしょう、というようなレベルの記述があちこちに見られます。

テーマ1の「現在形」「現在時制」(pp. 15-16) に関する、この著者の考察の甘さは、過去ログでも指摘していますのでそちらをご覧下さい (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110630)。

この本でも、その時と同様に、

  • What do you do?

の助動詞のdoの方に下線を引いて、現在形であることを強調しています。「する」にあたる文末で原形で形合わせをしている本動詞のdoの意味には何もコメントせず。慣用表現とされるこの質問の文では、doの目的語に相当する内容が、疑問詞のwhatとして前置されていますから、もし、答えとなる平叙文を想定する場合には、 “do something” とでもいう結びつきになるはずなのですが、「職業」について述べる際に、

  • I do lecturing. 私は講師をしています (『ウイズダム』 第2版、三省堂)

というパターンを取る例はそれほど多くありません。

COCAから例を引くと、

  • I as well as many of my colleagues do consulting from time to time, but I'm not a permanent adviser. I don't receive a salary from the Israeli government.

という例が、1991年のPBS Newshourにありました。

この類例として、当初、このブログで示していた、次の用例では、比較の構文中での代動詞 do (= make money) と読むべき例でしたので、謹んで訂正させて頂くと共に、自戒のためにも、ここに載せておきます。

幼児教育に関わる教師の発言が、1991年のPBS Newshourにありました。

I made more money with a cleaning service that I ran myself than I do teaching preschool. People value you more for washing their goddamn toilet than they do for taking care of their kid.

この表現の読み誤りを指摘して下さったT先生に感謝致します。T先生からのご指摘を引いておきます。

PBS Newshourの引用ですが、こちらはdo lecturing の類例の do teaching というより

I made more money with a cleaning service that I ran myself than I do (=make money) teaching preschool.

と読めませんか。

あとのPeople value you more for washing their goddamn toilet than they do (=value you) for taking care of their kid.

にもすんなりつながります。

ご指摘の通りだと思います。今後とも、よろしくご指導ご鞭撻願います。

平叙文での出現頻度として、この「パターン」はそれほど多くないのに、答えを引き出すwh-質問では決まった言い方だからこそ「慣用表現」なのでしょう。

この項目を教師は難しく教えすぎだ、とこの著者は考えているようなのですが、このような表現形式での単純化・一般化を上手く行うためには、類似表現である、

  • What do you do in your spare time? 余暇には何をしていますか (『ウイズダム』 第2版、三省堂)

との対比や、

  • do the cooking, do the washing (up)

  • do the kitchen, do the laundry

との対比などをしっかり捉えることで、副詞句に頼ることのない (またはできない) 「現在時制」そのものにフォーカスを当てることが必要です。多くの「英語という言葉がわかっている教師」が、それを知っているからこそ、拙速なことはできないし、しないのです。

次に、「進行形」の扱いを取り上げておきましょう。

  • なぜ進行形が「未来」を表せるのか? (p.18)

ということを示す例として、あげられているのが次の例文。

  • They are getting married next week.

「丸暗記不要、頭を使えば解ける」が持論のこの著者は、

get marriedで「結婚する」という意味ですが、実はこれ、「結婚という動作の途中」→「結婚に向かって進行中」→「結婚する予定」になるだけなんです。

というのですけれど、どこが「…になるだけ」なのでしょうか?「→」では、何がどのように発展・変容しているのでしょうか?上位概念から下位概念ですか?一般から特殊ですか?抽象から具体ですか?

それに加えて、ここでの next weekという副詞句の扱いはどうするのでしょうか?

そもそも、”marry” という他動詞の意味と用法は、日本語と比較すると、かなり不思議な感じがするものです。(過去ログの太田朗 『英文法・英作文---整理と拡充』 (研究社、1956年))からの引用を参照されたし http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120624)

“get married” でさえ、実感を持って使いこなすのは容易ではないのに、それがさらに「進行形」になる、というのは初学者にとって「悩み所・迷い所」といっていいでしょう。

「日本語で考えること」を英語へアクセスするための足場として許容するとしましょう。「結婚する」が動作なら、なぜ、その「進行形」の「結婚している」という日本語に対応する英語表現は、”(be) getting married” という形式にはならないのか、を併せて説明してもらいたいところです。

最近本当に多いですよね、こういう「劇場的」なことばの使い方で、現象を切り取ろうというアプローチをとる人たち。ちょっと話が逸れますが、大事なことでもあるので、少しお付き合い下さい。

「英語母語話者のイメージ」「フィーリング」を前面に出した英文法の記述の「先駆け」となったと言うのが正しいかどうかわかりませんが、その路線に文字通り「道」をつけた大西泰斗&ポール・マクベイのお二人と、その後に路上に颯爽と現れて、独自のフォームで走っているランナーたちとの差はかなり大きいと感じています。大西氏の著作の「勇み足」と思える部分には私も批判的な物言いをよくしていますが、それでも大西氏の「概念を切り取る視点・着眼点の鋭さ」とか「対象との間の取り方の巧さ」が、卓越した英語力・語学力に裏付けされていることは確かでしょう。後続のランナーたちにも見ならって欲しいところです。美味しいところだけをつまみ食いしているだけでは、いつまで経っても料理を作るところまで辿り着けないのですから。

さあ、今回取り上げた『…特別講座』の「進行形」の話しに戻りましょう。

この著者は、“get married” で「結婚という動作」という説明をしていますが、それって「挙式」のことでしょうか?では、その「途中」って?ダスティン・ホフマン主演の『卒業』みたいな場面?それとも、リチャード・ギア主演の『愛と青春の旅立ち』みたいな場面?それとも日本的に、「お役所に婚姻届を出す」場面?

1文しか示されていなくても、そこにはフォーカスを当てる表現形式以外に、その文の意味を左右する「文脈」や「場面」、「話者の意図」というものがあります。そして、そこが前提として押さえられていないことで、処理や理解が進まないことも多いのです。

丸暗記は不要、と説くこの著者の本では、「丸暗記はダメ!理屈を理解して、意味のある暗記をしよう」、と繰り返し「理屈を支える物語の記憶」を求められます。しかも、その「理屈」の多くが、著者独自の「語り」なのです。これまでにない、新たな頭の働かせ方で、「語り継ぐ」意味のある、価値のある「理屈」ならまだ「納得」もできるでしょう。けれども、その「理屈」が、彼の中では自明であるらしき「アプリオリ」なものとして語られるだけでは、学ぶ方は困惑するだけです。パラダイムシフトではなく、せいぜいが、”makeshift” でしょう。

この著者は、幾度となく、次のような「劇場的」なアプローチで「受験生」の心理を掴もうとしています。

  • 「ネイティブが言うから」ではなく、英語のイメージだ!
  • ニュアンスは要らない、形から攻めれば全く問題ない!
  • 日本語で「…」のように訳してみて変だったら○○!

これらが相互に矛盾することなく、最終的に英文法学習全体を破綻せずに行えるのなら凄いことだと思います。

ところが、文法・語法のどの項目に対して上記のどのアプローチが当てはまるのかというと、そこには法則性や、原理原則があるようには思えません。ad hoc でなければ何なのでしょうか?

たとえば、「進行形」の項目で、p.18にある、

  • 「進行形にできない動詞」なんて覚えなくていい!

という小見出しの直後に、

  • 「途中」って訳し方が不自然なら進行形にできないわけです。

として、

英文法の核心 (p.18)

(×) 進行形にできない動詞を覚える

(◎) 「途中」って訳し方が不自然なら進行形にできない!

という囲みを示しています。

凄いですよね。日本語に訳してみないと、進行形が可か不可かを判断できないなら、そもそも日本語に頼ることのできない英語の母語話者はどうやって「進行形の可否」を判断しているんでしょうか?

  • ここは、動詞のリストを闇雲に覚え込もうとするのではなく、日本語訳の助けを借りても良いから、「動詞それぞれの意味」というものをきちんと捉えることが大切なんですよ。

という指導が必要なところでしょう。 過去ログだと、 

で示した、黒川泰男監修 早川勇著 『よくわかる新高校英文法』 (三友社出版、1982年) からの画像ファイルを再度貼り付けておきますから、ご確認下さい。

早川_progressive1.jpg 直

早川_progressive2.jpg 直

早川_progressive3.jpg 直

早川_progressive4.jpg 直

30年前の高校生用の学参で既に図解入りで「きちんと」説明がされている項目だということがわかってもらえると思います。「ミスター2000冊」は、この本をまだ読んでいないのか、それとも既に読んだ上で否定しているのか、知りたいところです。

この著者は、さらに、

  • どういうときに「現在完了進行形」を使うの? (pp. 21-22)

で、

中学校で「for やsinceがあれば継続用法」と習いますが、これはかなり雑な説明です。正確には「継続」には「現在完了進行形 (have been -ing)を使うというのが本当のルールです。」

中学校で習った考え方を根本から変えてください。

などと言っています。中学校の教科書や学習指導要領を知らなかったら調べるとか、尋ねるとかしないのでしょうか?それでいて、『…中学英語』などという本を書いてしまうのだからカリスマは違いますね。

冒頭の数頁でこんな調子ですから、後は推してシルベスタ・スタローンだと思います。

  • テーマ8 原級 as 〜as … (pp. 58-62)

では、「2000冊」の本領が発揮されていますが、この項目に関しては既に、過去ログで取り上げていますのでそちらをお読み下さい。

もっと凄い理論は、こちらにありました。

  • テーマ10 no 比較級 than … (pp. 70-74)

予備校の先生が大好きな、いわゆる「クジラの構文」の扱いなのですが、この著者も、noのカードを勝手に二回切っています。否定の作用域についての正しい理解は、学習参考書を何冊読んでも芳しい成果には繋がらないのではないかと思います。過去ログでは、随分前に、某カリスマ教師のブログに質問をした辺りで何回か書いているはずです。現在、神奈川大にいらっしゃる久保野雅史先生からも、当時的確なコメントを頂いていましたから、お手数ですが、コメント欄も参照願います。

  • テーマ12 「助動詞」の本当の意味

に至っては、もう「脱帽」といってもいいかも知れません。「本当の意味」などということばを口にするのであれば、お願いですから、澤田治美先生の本を読んでからにして下さい。

  • 澤田治美 『視点と主観性---日英語助動詞の分析---』 (ひつじ書房、1993年)

語法変、じゃなかった語法編でも、目に余る記述があちこちにあります。

  • 大ブレイク中 “in case” の引っかけパターン (p. 321)

in caseを副詞節を導く接続詞として使う場合に、そこには「〜するといけないから」というように、 (?) 「notが含まれる」のだそうです。それは、英語本を2000冊読んだとしても誰も書いていないでしょう。

そして、

  • persuade型 「persuadeの語法」5つを一瞬で言えるようになる! (pp. 367-369)

あらあら、本になってしまいました。この項目に関しては、既に、過去ログで、

とかなりの手間暇をかけて論じているので、皆さんの判断を仰ぎたいと思います。

疲れました…。

英語教育学者や教科教育法の担当者、さらには中高の英語の先生方など、いわゆる英語教育プロパーの世界の住人は、こういった「受験業界」の方たちの「教材」を正面切って批評したりすることが少ない、あるいは全くないでしょう。

私もよく言われます、

  • 何、目くじら立ててるんだよ。
  • だったら、それに代わるもっと良いものを出版しろ。

などなど。

このブログを読んでくれている方の多くが気づいているでしょうが、私の教えている教室には、高校生の英語学習に適した教材が「学級文庫」として用意されており、その中に学習参考書もあります。私自身は、それらの信頼に足る教材があるので、屋上屋を重ねる必要をあまり感じていないのです。既に良いものはあり、そこに至る発達段階のギャップを授業でどのように埋めるか、ということに主たる関心があるといえばいいでしょうか。

ただ、現場で地道に真っ当に、英語の正しい姿を教えている教師を沢山知っていますから、現場での指導法を、都合のいいように「仮想敵」扱いして、不当に非難するのは看過できないのです。

いつもの繰り返しを今日はさらに大きな声で、

  • より良い英語で、より良い教材を!

本日のBGM: Only the truth (The Last Shadow Puppets)

tmrowingtmrowing 2012/10/11 06:06 この日の内容に関連する過去ログのエントリーは、
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120617
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110630
になります。併せてお読み下さい。

tmrowingtmrowing 2013/06/29 13:37 記事の中で、do lecturingの類例となる、<do + -ing>に関して、誤った用例を差し替えると共に、加筆修正しました。謹んでお詫び致します。