「1以外は皆複数」?

この週末に出かけた綿内克幸さんのライブの前に腹拵えしたカレーが、お洒落かつ美味だったので、こちらでも写真で共有。
味や香りは何にも伝わりませんけど。


バターチキンカレー&キーマカレー S Size

ご覧のように、二種類のcombinationで一皿。Sサイズでも手を抜くことなく綺麗に盛りつけてありました。流石。

ライブの方は、綿内さんのワンマンではありますが、その両サイドに盟友の青木孝明さんのギターと、ピアノに水野エマさん、という陣容。
セットリストも、綿内クラシックス&製作中の新譜という二部構成で、絶妙のコンビネーションを堪能しました。

お土産にアクスタをゲットして帰りました。
ファーストアルバムのペンギンさんと一緒。ファースト "penguins" ですね。
このバージョンの最後の一つ、ということでサイン入り!

新譜が待ち遠しいです。


さて、今日の本題。
ソーシャルメディアの亘理陽一先生の投稿 
(ここからの連投


を読んで、私の昔の記事を思い出して、あれこれ考えていました。

こちらが私の過去ログ。この後の話しを理解していただくためにも、是非お読み下さい。
tmrowing.hatenablog.com

個人的には、「1以外は皆複数」という扱いを「ルール」と断ずることには抵抗があります。
特に気になったのは、「ゼロ」の時は複数形を使うことを根拠とする

  • Huddleston et al. (2021). A student’s introduction to English grammar. Cambridge Univ. Pr.

を引いていたところ。
確かに、 “chairs” を数える際の「ゼロ」の扱いでは、例えば、

  • There is no chair left in this room.

よりも、

  • There are no chairs left in this room.

のように複数形で表すことが多いでしょう。

でも、それは、慣用とか慣習とかの現れで、名詞によって、また時代(世代)や地域(文化圏)によっても変わってくるものだと思っています。
「歴史的状況」から「現状」とか「現況」までを研究精査し、「言語事実」と括るのが学者の仕事でしょうから、そこには敬意を持ちますが、学習者、指導者としてだけでなく、たまーに英語を使いつづけて40余年になる運用者の一人としても、「ゼロ」の扱いを根拠とすることには疑問を呈するというか、異議を唱えたいと思うところ。該当箇所を原文のまま引用しますが、

(Plural does not, as traditional grammars always say, indicate more than one: we say three chairs, two chairs, one chair, no chairs: for zero we use the plural.)
Huddleston, Rodney; Pullum, Geoffrey K.; Reynolds, Brett. A Student's Introduction to English Grammar (p.117). Cambridge University Press. Kindle 版.

でのas 以下の挿入部分の書き方はどうにも…。

ということで、「言語事実」を自分の実感とすり合わせるべく、オンラインコーパスも含め、いろいろなものを使って私も授業をしているわけですが、COCA系だと、均衡コーパスはCOCA/COHA/BNCしかないので、それ以外との直接比較に強い説得力はありません。
ただし、ヒット数があるということは、誤用も含めて「現象」としては認められ、その背景にはそれを用いた「人」や「人々」がいるということは「事実」ですので、ざっくりとした検索結果を並べていきます。
ここでGLOWBEを敢えて選んでいるのは、「ゼロの発見」の当事者たる、所謂「インド」界隈は無視できないと思った、という単なる私の個人的な理由からです。

まずはchair

GLOWBEで地域差

COHAで推移

どちらの結果でも複数が優勢ですが、米語では “no chair” の使用例が1980年代にあったことが分かります。

table

GLOWBE

COHA

chairとは対照的に、均衡していることがわかります。

ものだけでなく、人でも見てみましょう。
friend

GLOWBE

COHA

現状では、複数のno friendsが優勢ですが、歴史的には、単数のno friendの方が古いことが見て取れます。

student

GLOWBE

COHA

割れていますね。

teacher

GLOWBE

COHA

現状では割れていますが、歴史的には単数の no teacherしかヒットしませんでした。米では教師の存在感は学生や生徒よりも薄いのでしょうか?

イスとテーブルでは、テーブル1つに対してイス複数がデフォルトの発想、学生と教師でも、学生は複数、教師は一人がデフォルト、と思うかも知れませんので、「選択肢」で考えてみましょう。

alternative

GLOWBE

COHA

現状でも歴史的にも、単数の no alternativeが優勢です。ただ、このalternativeの語義としては「代案」のように、複数を意図していないこともありますので、断ずるのは難しいです。

では、optionではどうでしょうか?

GLOWBE

COHA

英語圏でも、英米とアジアで差が見られる印象です。米では近年複数のno optionsが優勢。
ただし、このoptionの語義には、抽象度の高い「選択権;選択の自由」ではなく、本来可算扱いの「選択肢」の意味で使っているものを「選択の余地」のように、不可算性が前面に出て使われる場合がありますから、断ずるのは難しいです。

同じことは、もう少し古くからある choiceでも言えるかと思って検索。

GLOWBE

COHA

こちらの方が、その傾向は強かった模様。
とはいえ、私の分析など所詮「後だしじゃんけん」ですから、何の保証にもなりません。

guarantee

GLOWBE

COHA

英米など6大メジャーとアジアとの差が大きくなった印象です。米では近年、複数のno guaranteesが隆盛。

excuse

GLOWBE

COHA

ここでも、個々の「言い訳」ではなく「弁解の余地」で捉えれば、不可算性が高まることは十分考えられます。

opinionは存在文では低頻度で一ケタ。

GLOWBE

COHA

expertの結果は注目に値するかと。

GLOWBE

COHA

GLOWBEの現状で英米で差が出ていたところが、COHAでくっきりと。

過去ログでのリンクはもう切れてしまっていて辿れないのですが、そこで引用したこの言葉を思い返しています。

過去ログでは、宮田幸一氏の論考を引いて、こう評していました。

「何を例に、何を、どう比較するか」。着眼点、観察力、分析力。名前を付けてしまえば陳腐な響きになりますが、語学の教師として求められる資質がここに顕れているように思いました。

今回の私の検索結果はただ切り貼りしただけのものですが、どの語を選び、どう比較したのか、を辿り直して欲しいところです。


冒頭で引いた、学術書ですが、「ゼロは複数扱い」という根拠に、"no + 名詞" を持ってきたのは、あまり筋が良くなかったのでは、と思いました。
次の検索結果を見ても明らかなように、はじめから "zero" と名詞の組み合わせで「言語事実」を示す方が、説得力が増したことでしょう。

  • zero + degree/degrees

では、現状では複数扱いが優勢です。

NOW

COCA

COHA

TV

ただ、私がこのエントリーで「敢えてGLOWBEを選んだ」背景を、今一度考えて欲しいと思うのです。

GLOWBE

少数派ってゼロじゃないですから。

過去ログにつけた「少数派」というタイトルは、「小数」の扱いを巡っての内容であるがゆえの「捩り」でした。
そして、その「小数」で1より小さい数の扱いでの1960年代のexpertsの論考を引くことで、過度の一般化を避ける慎重な扱いを求めていたわけですが、今でも「少数派」は存在します。

second



degree


小数で1より小さい数の扱いをAIに尋ねた結果も載せておきます。
Claude3 Sonnetの回答

Based on the provided search results, there is no clear historical evidence or consensus on when the English language started using plural forms for decimal numbers smaller than one. The search results do not directly address this specific question.
However, some relevant insights can be gathered:
1. Fractions less than one are generally considered plural [[2](https://www.quora.com/Why-is-any-fraction-less-than-1-plural)], so it is possible that this convention extended to decimal numbers as well.

2. The search results mention examples like "$1.01" [[5](https://english.stackexchange.com/questions/548010/use-of-singular-or-plural-form-for-decimal-money-units)] and "0.6 to 0.9 degrees Celsius" [[6](https://earthobservatory.nasa.gov/features/GlobalWarming)], where decimal numbers smaller than one are treated as plural. However, the dates of these examples are not provided.

3. The history of the English language [[1](https://www.amazon.co.jp/Studies-History-English-Language-Particularizing/dp/3110494507), [4](https://www.oxfordinternationalenglish.com/a-brief-history-of-the-english-language/)] does not seem to directly address the treatment of decimal numbers and plurality.

In summary, while the search results do not provide a specific date or period when this convention started, they suggest that it has been a common practice to treat decimal numbers smaller than one as plural in English, similar to fractions.

Sources
1. [amazon.co.jp - Studies in the History of the English Language ...](https://www.amazon.co.jp/Studies-History-English-Language-Particularizing/dp/3110494507)
2. [quora.com - Why is any fraction less than 1 plural?](https://www.quora.com/Why-is-any-fraction-less-than-1-plural)
3. [hoover.org - Flawed Climate Models](https://www.hoover.org/research/flawed-climate-models)
4. [oxfordinternationalenglish.com - A brief history of the English language](https://www.oxfordinternationalenglish.com/a-brief-history-of-the-english-language/)
5.[english.stackexchange.com - Use of singular or plural form for decimal money units](https://english.stackexchange.com/questions/548010/use-of-singular-or-plural-form-for-decimal-money-units)
6. [earthobservatory.nasa.gov - Global Warming](https://earthobservatory.nasa.gov/features/GlobalWarming)

Bing (ChatGPT4) の回答

The use of decimal numbers in the English language, and the rules for their pronunciation, have evolved over time. However, it’s challenging to pinpoint an exact time when decimals smaller than one started being treated as plural.
In the Middle Ages, a bar ( ¯ ) over the units digit was used to separate the integral part of a number from its fractional part1. Later, a “separatrix” (i.e., a short, roughly vertical ink stroke) between the units and tenths position became the norm among Arab mathematicians1. When this character was typeset, it was convenient to use the existing comma or full stop instead1.
Positional decimal fractions appear for the first time in a book by the Arab mathematician Abu’l-Hasan al-Uqlidisi written in the 10th century1. This suggests that the concept of decimal fractions and their usage in language has been around for at least a millennium.
As for the specific usage of treating decimal numbers smaller than one as plural (e.g., “0.9 degrees” or “win by 0.01 seconds”), this likely evolved naturally as part of the language’s adaptation to mathematical and scientific advancements. It’s worth noting that the treatment of numbers in language can vary based on context and regional usage2.
I hope this information helps! If you have any other questions, feel free to ask. 😊

本日はこの辺で。

本日のBGM: 千のない (スカート)

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確信と核心

前回の記事

「…を活かす」を活かすには?
tmrowing.hatenablog.com

の補足で、「…を活かす」の裏返しで「活かせない」または「活かさない」という文脈で使われる表現の整理をしておきましょう。

ツイッターなどのソーシャルメディアでもよく見る言い回しで、辞書でも典型例が収録されているものがあります。

The opportunity was too good to pass up.
絶好の機会だったので見逃せなかった(『動詞を使いこなすための英和活用辞典』、朝日出版社、2006年)
※全く同じ用例は、『英和イディオム完全対訳辞典』(朝日出版社、2003年)にも見られる。

他の辞書でもこの典型例を載せているものは結構見つかります。

The offer is too good to pass up.
その申し出は断るにはもったいない. (Wisdom)

This chance is too good to pass up.
この機会を逃す手はない (O-LEX)

It’s too good a chance to pass up. (Collins)

Her offer was too good to pass up. (MW’s Learner’s)

辞書での、この言い回しの収録の有無を見ていてで、ちょっと気になったのが、英国系出版社のもの。
句動詞としてはこの項目や用例を収録している、OALDやCOBUILDやLDOCE、Cambridgeも上述のような例を載せていないのですね。
OALD

pass something ⇔ up
(informal) to choose not to make use of a chance, an opportunity, etc.
Imagine passing up an offer like that!

COBUILD米語英英和

pass up PHRASAL VERB
If you pass up a chance or an opportunity, you do not take advantage of it. 機会を 逃す、見送る
The official urged the government not to pass up the opportunity that has now presented itself.
その役人は政府に今そこに現れた機会を逃さないように強く要請した.

LDOCE

pass something ⇔ up
to not make use of a chance to do something
pass up a chance/opportunity/offer
I don’t think you should pass up the opportunity to go to university.

Cambridge

pass sth up
to fail to take advantage of an opportunity:
I can’t believe she passed up the chance to go to South America.

この背景のヒントとなりそうなのが、『研究社英和活用大』に見られる次の用例。

It's too good a bargain to pass up [(英) miss].
見逃す手はないよい買い物だ
※この用例は pass やpass up の項ではなく、名詞のbargainのところにある。

英語法では、pass upの代わりに missを用いる、と読める書き方です。

その辺りを頭に入れて、次の検索結果を眺めてみると、まあ、納得は行くかな、と。

類義表現で、

  • pass up / turn down
  • miss / refuse / lose / ignore

の6つを比較しています。

Ngram viewerで。
英の状況が示唆的ですね。

高値安定とも言える、英でのmissに、pass upが2000年代以降猛追している状況がわかりますね。

COCA系
ベンチマークとして COCAとCOHAから

地域差を推測するべく、NOWとGLOWBEの照らし合わせ
missに関わる情報は見逃せませんね。

TVコーパスで6大メジャーの実態推測と、古いけれどBNCも振り返り

ということで、調べて切り貼りしただけですが、折角まとめたので、前回の記事同様「活かして」下さるようお願いします。

因に、ですけれど、この<too good to 原形>の定型表現では、何といっても

  • too good to be true

の頻度が高く、クリシェと言ってもいいくらいで、バーナード・ショウが、作品のタイトルで捩ったほどです。

en.wikipedia.org

(とはいえ、私の書いた教材『チャンクで積み上げ英作文』のスタンダード編では、「四角化ドリル」の10で、

  • 5. 話がうま過ぎる申し出 an offer too good to be true

を入れてはいるんですけどね…)

Ngram Viewerのグラフを参考までに。

今日取り上げる、もう一つの「気になる語法」は、「間違いなく;疑いなく」という「裏返しでの確信・断言」の表現。
きっかけは、しけんや英語塾の、四軒家忍先生のこのツイートでした。

可能性の査定を%で示すことへの警鐘は、もう大昔の2005年に、このブログでも書いています。

tmrowing.hatenablog.com

その過去ログで引いているのが、CGSAE (1993年)

『ジーニアス英和』のスタッフも参考にしていたという、The Columbia Guide to Standard American English (1993), Columbia University Pressでは、
doubtless(ly) < no doubt < undoubtedly = without doubt < unquestionably
という関係を示してはいたが、%のスケールは用いていない。パラフレーズでも、probably, certainly, absolutelyという大きな枠の中でのものを示しているのみ。

私が気になるのは、CGSAEでは “undoubtedly = without doubt” と示されている副詞句の "without doubt" の方。
without doubtよりもwithout a doubtを見聞きする機会が増えたな、というのが個人的な感触でした。

without doubtの例

without a doubtの例

ツイッターのタイムラインで検索。
without doubt

https://twitter.com/search?q=%22without%20doubt%22&src=typed_query&f=live

without a doubt

https://twitter.com/search?q=%22without%20a%20doubt%22&src=recent_search_click&f=live

実際、どちらも目にするわけですが、印象としては without a doubtが多いかな、と。


既に、『ランダムハウス英和』で次のような提示をしていますので、「どちらもアリ」、というのは分っていました。

without (a) doubt 疑いもなく,確かに

英系の専門的な辞書でも、

She is without a doubt the best player I know.
疑いもなく,私の知る限り彼女がベストプレーヤーだ (Oxfordコロケーション)

とaのある用例を載せているものもあれば、

She is, without doubt, the most beautiful woman I have ever seen. (Longman Collocations dictionary and Thesaurus)

のように、無冠詞の without doubtのみを項目立てしているものもあります。

次のような誇張した表現だと、a のある方が普通、というのも「不思議だな」とは思っていましたが、そんなもの、という認識でした。

It was without a shadow of a doubt the best we’ve played.
間違いなく今までで最高のプレーだった. (COBUILD米語英英和)

ということで、この機会を活かすべく検索して、実感!

全体

withoutに続くdoubtのaの有無は2015年以降でほぼ拮抗、と見ていいでしょうか。グラフを見る限りでは、やはり、a の隆盛は2000年代以降、という感じ。beyondでは逆に、aの無い方が優勢です。


米では顕著ですね。


英でも、aが猛烈な勢いに見えますね。

小説

小説で、こんなに早くから a が優勢だったとは思いもしませんでした。ただ、比較的低頻度のbeyondの方で、aの有無にそれほど大きな差がないのは意外でした。

COCA系でGLOWBEで10年前の地勢図を。

無冠詞

不定冠詞

これを見る限りでは、10年前の時点で、英でもwithoutに関しては拮抗していた様子が窺えます。

NOWで最近の情勢も。

無冠詞


不定冠詞

ベンチマークとしてCOCAを。

無冠詞


不定冠詞

without に関しては4倍くらいの頻度の差で不定冠詞が優位で、beyondに関しては無冠詞が優勢。

COHAで経年変化をもっと大きなスパンで。

無冠詞


不定冠詞

グラデーションがよく分かるのでは?

TV

無冠詞


不定冠詞

UK/IEでは、withoutに関しては、拮抗。beyondに関しては無冠詞が優勢という結果。

ここで、更に気になったので、文頭でのイントロどどいつとしての表現で、類義のNo doubtも調べてみました。

COCAで No doubt

COCAで無冠詞

COCAで不定冠詞

もう、ケタ違いで No doubtじゃないですか。さっきまで調べていた冠詞の有無とか、ドングリのなんとやら状態!


Ngram Viewerで経年変化も。



やはり、ケタ違いです。
オンラインコーパスでの比較は簡便だけれど、その先の「目的」は何なのか?その比較にどれほどの意味があるのか?を見失ってはいけませんね。
ただ、これだけ使用頻度が違う表現を扱って、テストで同義の言い換えを求めたりとか、「確信度」を%で比較するっていうのは、ちょっと考えた方がいい、ということもわかります。

自分の語感や認識を修正、微調整することの重要性をあらためて感じた次第。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Don't speak (No Doubt)

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 「…を活かす」を活かすには?

今日は「気になる語法シリーズ」で新たな記事。

「活用」の話し。
「活用」といっても、動詞や形容詞の活用形の話しではなく、

  • 「…を活かす;…を活用する」

という意味に関わる表現形式を取り上げます。

高校段階以上の教材やテストでは、次のような例文を見ることが多いのでは?

1. あなたはこの機会を最大限に活かしなさい。
You should make the most of this chance.

2. 彼は逆境の中で精いっぱい頑張ろうとした。
He tried to make the best of a bad situation.

"make the most of" に続く内容は、プラスマイナスの制約が弱いのに対して、"make the best of" の方は、対象は「通例 goodとはみなされない、みなし難い;不本意な」もの、こととなる、というような知識が求められているのではないかと思います。

その一方で日本のテストでは、make the most of の方を正答として求める出題が多いような印象を受けます。of に続く、ものや環境の選択の幅が広いことがその背景にあることでしょう。

3. 時間をできるだけ有効に使いなさい。
   Make the most of your time.
4. あなたには才能を最大限に活かして欲しい。
I want you to make the most of your talents.

この4の例で、(?) make the best of を使うと、文法的には誤りではないが、「あなたの才能」はgoodとは言えないシロモノ、というような解釈をされかねないので、bestとmostの選択であれば、通例mostを選ぶ、という理屈で解答に当たっての選択肢を絞ることになるでしょう。

「goodとはみなされない、みなし難い(=not good enough; not satisfactory)」ものごとを取り上げている、適切なmake the best of の例を見ていきましょう。

5. 今ある物で我慢するほか仕方がない.
We have no choice but to make the best of what we have. (W)
6. I was in a mess and there was no one to help me, so I just had to make the best of it.
私は混乱していたし、助けてくれる人もいなかったので、その状況を受け入れ何とかするしかなかった。 (MED、2002年)
7. I’ll help you to make the best of the voice that you do have, though it’s not good enough for professional singers.
プロの歌手になるには十分ではないけれど、あなたが持っているその声を最大限に生かすお手伝いをします。 (ロングマン句動詞辞典、1983年)

映画のワンシーンがこちら。
Game of Thrones - The Bear and the Maiden Fair (2011年)

must make the best of our circumstances.www.getyarn.io

How do I make the best of my circumstances?www.getyarn.io

テストで出題される問題は、だいたい、上記の知識で対応可能ですが、実際の「活用」の生息域では、さまざまな表現が交わされているので厄介です。

「活用」のためには、まず「使う」ことが必須ですから、動詞useに対応する名詞のuseを文字通り活用します。

8. 君はこの機会をうまく生かしなさい
You should make good use of this opportunity.

この場合の名詞useは不可算扱いで、無冠詞です。形容詞はgoodの他に fullやeffective 、maximumなどが使われます。
形容詞の部分が「どの程度の活用なのか」を示すものですが、この表現の場合には、ofに続く名詞の評価にはそれほど強い制約はなく、かなり幅があると思います。

9. I hope you will make full use of our facilities.
あなたが我々の設備を十分にご活用なさることを願っております (G6)

10. 映像メディアの特質を十分生かした授業をしています
I am teaching courses which make full use of the unique characteristics of image media. (O-LEX和英)

形容詞goodを踏まえて、比較級はbetterが考えられます。

11. 彼女はこれからは時間をもっとうまく活用しようと決心した
She decided to make better use of her time from now on. (W和英)

12. We could make better use of our resources.
私たちは資源をもっと有効に使えるはずだ (Oxford類語)

比較級があるなら、最上級もある、となるのが人情。
ただし、日本の教材や辞書では、最上級はほぼほぼ定冠詞theのついたものが示されます。

13. Try to make the best use of your time.
時間を最大限利用するようにしなさい. (コンパスローズ)

14. 自分の特長をうまく生かせる仕事に就きたい
I'd like to find a job where I can make the best use of my talent. (O-LEX和英)

15. 子育ては親を目一杯利用してという若い人が多い
There are many young couples who want to make the best use of their parents in raising their children. (W和英)


続いて、COCA系の検索結果を見て下さい。
NOWはデータ量が多過ぎて、年ごとの変化は出してくれませんでした。それでもbetterの無冠詞だけでなく、bestの無冠詞もかなり拾っています。

COCAで米語の状況を。
話し言葉のヒット数こそ少ないですが、better, bestともに無冠詞でも実際に使われていることがわかります。


TVコーパスを見ると、英文化圏の網掛けの色が濃くなっているのが分かります。

そしてGLOWBE。10年前のデータにはなりますが、英国でのbetter/bestの網掛けの濃さは何を物語るか?
GLOWBEは均衡コーパスではありませんが、無視できない結果だと思います。

この検索結果に見られるような、無冠詞での make best use of の実例を見てみましょう。


Do your learners have access to iPads but you are not sure how to make best use of them for supporting your learners with ASN? Join our #FreeWebinarWed on 15th May where Linsey will take us on a journey to unlock the power of digital pedagogy!
学習者がiPadにアクセスできるようになったものの、ASNの学習者をサポートするために、どうすればiPadを最大限に活かせるのかわからないということはありませんか?5月15日(水)に開催される 無料ウェビナーに参加して下さい。リンゼイがデジタル教育の力を引き出す旅へと誘います!
https://twitter.com/CALLScotland/status/1786282041233039480


Made best use of the weekend weather to get wet! Superb diving around Strangford Lough, the largest sea lough in the British Isles and one of just three UK Marine Nature reserves. Let's work together to retain and enhance such a unique asset
週末の天気を最大限利用して、びしょ濡れになりました!イギリス諸島最大の海峡であり、イギリスでわずか 3 つの海洋自然保護区の 1 つであるストラングフォード ラフ周辺での素晴らしいダイビング。このようなユニークな資産を維持し、強化するために協力しましょう
https://twitter.com/ChrisMccracken_/status/1782521422130155680

どちらの投稿も、英文化圏ですね。

次の動画の中でも、無冠詞の “make best use of” が使われていました。

youtu.be

2分少々過ぎから、こんな内容になります。


Using assessment, teacher-made classroom based tests, quizzes, uh and any other form of elicitation of student performance in the classroom as part of, you know, the everyday teaching, how can we make best use of these activities to promote learning, in other words the quality of the students learning?

キングスカレッジ・ロンドンの教授の使う英語で、無冠詞の ”make best use of” が聞かれることを確認しました。


この辺りも、NgramViewerで見ておきましょう。

全体





米では、比較級のbetterはそれなりの頻度ですが、bestの無冠詞とは大きく差があります。この米の状況に比べて、英の方が、無冠詞のbestの比率が高く、他の表現との差が小さいように思います。

その一方で、名詞 useの意味に頼らず、分母・母集団から引き出す、という表現でmake the most of の代わりに、(?) make most ofを使う人もいるようです。

次の英文は、お茶の水女子大の2022年度の前期入試の公式解答例(2024年5月8日現在)からの抜粋です。

ライティングの解答例ですね。

問題
https://www.ao.ocha.ac.jp/past_test/body/d009462_d/fil/R4_gakubuippan_eigo.pdf
解答例
https://www.ao.ocha.ac.jp/past_test/body/d009462_d/fil/R4_kaito_eigo.pdf
2022年度の問題の掲載は今年度いっぱいですので、お早めに。


私が気になったのは、一行目の “… help us make most of our failures” の部分です。
確かに、近年、無冠詞のmake most of を大部分とか大多数などといった割合の表現ではなく、「活用」の文脈で、chance(s)とかopportunity(opportunities)などと一緒に使う人がいるなぁ、という印象は持っていましたが、failureと使うのはちょっと驚きでした。

定冠詞や所有格での限定があるものだというのが私の理解であり語感。

そして、「イマドキ」の表現では名詞が単数形のところを確認。

その一方で、failureとの共起は、各種オンラインコーパスでも芳しい結果は得られず、NOWで1例が見つかったくらい。


この文脈では、”took advantage of” と置き換えて意味が通るので、”made most of” を「活用」の意味で使っていることが窺えます。

WEBでの検索をしばらくやっていて、一例見つかったものがこちら。

Internationalisation and entrepreneurship: lessons from SME failure in the United Kingdom and the Netherlands

https://www.hva.nl/binaries/content/assets/subsites/ondernemerschap/onderzoek/fenix/fenix-data-03-internationalisering-bij-falen.pdf?1644343001662

オランダのAMSIBの大学生の所謂「卒論」に当たる論文のようです。


論文では引用符がついていたので、参考文献の原典に当たってみました。

Lee, J., & Miesing, P. (2017). How entrepreneurs can benefit from failure management. Organizational Dynamics, 46(3), 157-164. doi: 
https://doi.org/10.1016/j.orgdyn.2017.03.001

“filure(s) management” という分野の論文ですから、とにかく到る処に ”failure(s)” が出てきます。
大学生の論文の “systematic ways” で絞り込んで検索してみたところ、該当箇所がヒットしました。

原典では、
“the systematic ways to make the most from failure”
という表現になっているではありませんか! そうです、先ほどの学生の引用での (?) make most of failure は、全くの誤記だったのです。

ということで、調査・精査は振り出しに戻りました。
無冠詞のmostをあたかも名詞であるかのように使い「活用」の意味を表す用法は、現代の英語ではどの程度浸透してきているのか、気になるところです。
個人的には、気持ちはわからないでもないけれど、やめて欲しい使い方です。
特に、ofの後に多数や多量を意味するような名詞句が来ると、聞き手/読み手は混乱すると思います。

16. She makes most of her own clothes, copying any fashion which takes her fancy.
彼女は気に入ったファッションをまねて洋服の大部分を自分で作る. (コウビルド米語英英和)

この文を書いて (?)「自分の服を最大限に活用する」というつもりだ、といわれても、というのが正直な気持ちです。
やはり、少なくとも定冠詞のtheをつけて、”get the most out of “ と置き換えられるような言い方をするのが好ましいと思うのですね。

NOWで get the most out of

ただし、頻度では、get the most out of よりも、make the most ofが相当に優位です。

関連表現を比較しておきます。

全体





get the most out of を入れて比較

make the most of を入れて関連表現と比較

この最後の検索では、 "make most of"が、「生起・産出」の文脈なのか、「活用」の文脈なのかは不明です。
ただ、ここまでの一連の検索結果や、実例を観察すると、"make most of" を「活用」の文脈で使うのは、少数派と見るべきかと思います。

上述のお茶の水女子大の解答例に関しては、大学側が

  • 解答例等について、個別のお問合せにはお答えいたしかねます。

と明記しているので、私のような一介の英語講師が問い合わせてもダメでしょうが、受験生(候補)が説明会とかで尋ねるのはありなんじゃないか、とか思ったりして。

もし、この解答例に関して、何か情報を得られた方がいましたら、ご連絡お願いします。

本日はこの辺で。

本日のBGM: いかすぜ!ポジティブ・シンキング (パール兄弟)

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おかげさまで…

2004年9月に立ち上げたこのブログも、途中の休止期間や、手痛い、いや停滞期間を経て、おかげさまで今年で20周年となります。
今では、一日に100名程度の訪問数に減ってはいますが、ご愛読に感謝致します。

2024年に入ってから、前回のエントリーで41本を書いたことになります。
2021,2022,2023年の3年間のエントリーの総計が41本でしたから、今、書いているこのエントリーで、その3年分を越えることになります。
休止や停滞期間も含めて、ソーシャルメディアのプラットフォームで言えば、「ツイッター」で英語関係の情報を小出しにしていましたので、今年のブログ記事では、そちらでの既出情報や、授業を振り返って思い出したことも含めて、私が知っていること、考えていることを、生きているうちに、そして忘れてしまわないうちに書き残そうと思って書いています。

現在非常勤で出講中の高校の生徒にも、

  • (私が)いつ死ぬか分からないから、訊きたいことは今のうちに訊いておきなさい。

と言っています。
まあ、9月に20周年記念イベントができるまでは生き延びようとは思っていますが。

ということで、
「気になる語法シリーズ」
からまた一つ。

副詞句で「原因」を表す表現にも色々あることは、高校段階で「教わる」知識だとは思いますが、まず、教わったように覚えてくれるとは限らないし、そもそも、何をどう教えているかは、教材によって、教師によって様々ですから、自分の教室やオンラインの個別指導では、初めて学ぶ人にも全部教えるつもりで教えています。

A が理由/原因で
というときに前置詞を用いた句で、
ofを含むもの

  • because of / on account of

toを含むもの

  • due to / owing to / thanks to

私の場合は、テストに出るから、というよりは自分の英語表現で、一読了解の英文を書くということをより重視していますが、テストも無視しているわけではありません。

1970年代までの入試出題例からbecause ofとdue to。

We had to put off our departure because of the bad weather.
(われわれは悪天候のため出発を延期しなければならなかった)

It was because of its inadequate size that I was disappointed in the building.
(私がその建物に失望したのはその不適当な大きさのせいであった)

The need of new political and social ideas is due to our increase of efficiency.
(新しい政治観や社会観が必要になってきたのは、われわれの能率増進のせいである)

Due to the disagreeable weather, we were obliged to cancel the outing.
(悪天候のために、外出を中止せざるを得なかった)

(西尾孝『実戦英単語活用辞典』 日本英語教育協会、1981年)

1980年代の英検出題データからbecause of とdue to

Most people start judo because of the self-defense aspect. (3) ほとんどの人は自己防衛の見地から柔道を始める

Due to the storm, we put off climbing the mountain. (2) 嵐のため登山は延期した。

(高本捨三郎 監修 『実用英語サクセス小英和』 日本英語教育協会、1985年)

英文用例の後の数字は、当時の出題級。(※今とは全く違うので注意)

2000年以前の入試出題データから because of とdue to

The once numerous koalas almost became extinct because of excessive hunting.
かつて無数にいたコアラが狩猟のし過ぎでほとんどが絶滅寸前になった

The Ford Model T car sold very well not only because of its low price but because it offered a good amount of power.
フォード社のT モデルの車が売れたのは単に低価格だからではなくかなりの馬力があるからだ

It is all due to my friend’s help that I have succeeded.
私が成功したのはひとえに彼(※ママ)が手伝ってくれたおかげだ

The accident happened due to his carelessness.
その事故は彼の不注意で起こった

古藤 晃 編 『クラウン受験英語辞典』(三省堂、2000年)

※のmy friend’s helpは文字通りには「私の友人の支援」とでもなるべきところだが、ここでは書籍にある通りに引用している。

2010年代以降の、比較的近年の入試出題例から because of とdue to。(※便宜上和訳を付けています)

Jeff didn’t accept the job offer because of the low salary.
給料が安かったので、ジェフはその仕事のオファーを受けなかった。

Because of the accident that happened on the highway near my house, several people were injured, but fortunately no one got killed.
自宅近くの幹線道路で事故が起き、何人かが負傷したが、幸いにも死者は出なかった。

Due to the heavy snow, the flight from Narita Airport will be delayed.
大雪のため、成田空港からの便は遅延します。

Morning classes were cancelled due to a hurricane warning declared three hours ago.
3時間前に発令されたハリケーン警報のために、午前中の授業は中止となった。

約50年に及ぶ出題例を眺めましたが、どれもこれもいかにもありそうな例で、

  • 日本の学習者が英語ができないのは受験英語のせい!

のような批判は当てはまらないと思います。

辞書ではどのように扱われているか?

  • because of / on account of
  • due to / owing to / thanks to

の用例を見ていこうと思います。

物書堂版アプリでも2023年改訂版がリリースされたCOBUILDの米語第3版ではどのような扱いでしょうか?
まず、成句としてのbecause ofを項目として立てていないことに驚きます。
この米語第3版のアプリ版で用例検索をすると、70ヶ所くらいに、because of の用例が出てくるにも関わらずです。(これは中級5版も同じく成句扱いしていません。中級ではbecause of の用例自体は14ヶ所に出てきます)

  • Many families break up because of a lack of money.

同じアプリ版でもコウビルドの第10版では成句扱いで検索できます(その前の9thも8thも同じ)。

on account of は成句扱い

  • The president declined to deliver the speech himself, on account of a sore throat.

due toは成句扱いせず

  • The country’s economic problems are largely due to the weakness of the recovery.
  • Due to the large volume of letters he receives Dave regrets he is unable to answer queries personally.

owing toも成句扱いせず。しかもoweの項目の一番最後を見ないとダメ。(これは中級5版も同じ)

  • Owing to staff shortages, there was no food on the plane.

thanks to は成句扱い。いきなり「it分裂文」で登場!

  • It is thanks to this committee that many new sponsors have come forward.

ということで、痒いところを痒いと認識できないまま終わってしまう感じがします。
同じコウビルドでも、第10版ではbecause ofを成句扱い(その前の9th/8thも同じ)しているので、その記述を見てみましょう。

PHRASE [B1]
If an event or situation occurs because of something, that thing is the reason or cause.
• Many families break up because of a lack of money.
• Because of the law in Ireland, we had to work out a way of getting her over to Britain.

一応、文頭でのイントロの用例も載せてくれています。この項目以外も含め辞書全体で用例検索すると、because of は80例ヒットします。

物書堂のラインナップでのもう一つの上級学習者用英英辞典であるOALDではどうでしょうか?
because of は「成句」で検索しても出てきません。意外ですか?
OALDでは語彙項目として独立した見出し語として立てているので、「単語」の検索で前置詞としてヒットするのです。凄いですね。
定義と用例は以下の通り。

used before a noun or noun phrase to say that somebody/something is the reason for something
・They are here because of us.
・He walked slowly because of his bad leg.
・Because of his wife(’s) being there, I said nothing about it.

これ以外にも、Language Bank に、類義表現が示されていて、その中にbecause of の用例も一つ追加されています。

物書堂アプリ版でのOALDの用例検索の難点は、同じ用例が複数の箇所に収録されている場合に、その全てを拾い上げて示すところ(これはG系も同じ)と、idiomsなど囲み記事内の用例で探せないものが一部あるところですが、その話しはまた別の機会に。

英和辞典のbecause of の扱いをちょっと見てみましょうか?

WisdomとCompass Rose

G6とG5

ということで、この辺りの成句扱いしておく方が何かと便利な表現に関しては、日本の学習英和辞典の方が余程学習者思いで、丁寧な作りをしているかが分かると思います。
ただし、用例の収録や配置、その補足の注記等では辞書によっての温度差が大きいところです。
一見多数の用例を収録しているかのようなG6(G5)も、その用例の多くはデジタルプラス周りにされているので、紙のG6を買って使っている人は、相当に大きなハンデを背負っていることを自覚した方が良いのですが、この辺りは出版社の公式サイトやソーシャルメディアのアナウンス、月刊誌の『英語教育』などでは全く触れられていないのは、不誠実だなといつも感じています。

先ほど、コウビルドの米語第3版の物足りなさをぼやきましたが、私が普段使っているコウビルドの米語版は、今は販売を停止している『米語英英和』です。収録語数や語義、用例は元版の米語第2版からかなり減らされていましたが、日本語と英語のキーワードを組み合わせての用例検索が可能で、コリンズコーパスから得られたリアルな用例、しかも和訳のついたものに辿り着くことができるという点で、英語の指導に使う辞書としては、欠点を補って余りある利点のある辞書でした。
2年ほど前のツイートがこちら。

コウビルドの米語版改訂に期待を寄せてしまう背景には、米語・米語法の実態を反映した、新しい、信頼のおける辞書が欲しい、という願いがあるのだと思います。
分からないでもないです。

現行の辞書だと、米語を扱うものとしては、Merriam-Websterから、上級学習者向け、とされる

  • Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary (MW’s ALED; 2nd, 2017年)

が出ています。
この辞書では、上記のそれぞれの語彙項目で複数の用例を示しているのでありがたいのですが、この辞書のアプリ版は出ていません。
アプリ版で出ているのは、同じMW'sでも、初級から中級の学習者を想定したLearner’sの方です。
アプリ版Learner’sを持っている方は、それぞれの語彙項目中での収録用例を比べてみて下さい。基本語に関しては、ほぼ一致すると思います。
そして、今回のターゲットとなる表現では、全てLearner’sに収録された英文と同じで、MW’s ALEDにしか収録されていない用例というものはありませんでした。
becasue of

The picnic has been canceled because of [due to, on account of] bad weather.
Because of this [= for this reason], only very rich people can afford to live on the island.
Because of you, we missed the bus. [= you caused us to miss the bus]
The accident happened because of [= through] carelessness.

on account of

The game was cancelled on account of the rain.
They were treated badly on account of their beliefs.
On account of his bad behavior, he will not be allowed to play with the new toy.

due to

The accident was primarily due to her carelessness.
Due to the bad weather, the game was cancelled.
Their success is due to a lot of hard work. = They are successful due to the fact that they work hard.
Traffic was slow due to roadwork.
The pool is closed due to the approaching storm.

owing to

The ambassador was absent owing to [= due to] illness.
She walks with a limp owing to a childhood injury.

thanks to

I’m a lot happier these days thanks to my new girlfriend.
Thanks to a new technique, patients typically recover from the surgery in only a few days.
Thanks to you we have to do the whole thing over again.

OALDでも見られる方法ですが、適宜、用例にパラフレーズを施して利用者の便を図っています。ありがたいことです。


2000年代早々に、紙辞書から撤退しオンライン辞書に特化し、その後、オンライン辞書からも撤退したマクミランも、かつては充実した米語版辞書を出していました。
私が2000年代に最も頻繁に引いた辞書と言えるでしょう。ここからのスピンオフでessential learner’s 版こそ出ましたが、この本体、本編が一度も改訂されることなく消えていったのは本当に残念です。
昔はiOSで使えるアプリ版も存在しました。

  • Macmillan English Dictionary for Advanced Learnes of American English (MED-ALAE, 2002年)

では、because of はbecauseの項に入っています。

The first game of the season was canceled because of the snow.
Because of the Asian crisis, the company’s profits fell by 15% during 1997.
Stacey retired in 1987, partly because of ill health.

3例目に引いた英文で、partly because ofと副詞partlyがついた用例を入れているところなど、編者の目が確かだと思わされます。(英和では、ウイズダム、コンパスローズにはbecause of の項目にpartlyのついた用例がありますね)

on account of はあっさり。用例も一つのみで、the childrenの背景はよく分からないもの。

She can’t work too many hours on account of the children.

due toは独立した前置詞の扱いで4例を配していますが、中の扱いで太字で小見出しを立てています。

The company’s financial losses were due to poor management.
He almost died due to lack of oxygen.
・largely due to
The negative image of immigrants is largely due to ignorance.
・partly due to/due in part to
The workforce was reduced, partly due to budget pressures.

副詞largelyやpartly、副詞句のin partのコロケーションへの注意喚起がありがたいです。in partの用例がないのが残念。

因に、この語彙項目のコロケーションに関しては、L2の学習者にとっては、OALDやLDOCEくらいの配慮があって然るべきだと思っています。
左 OALD (10版、2020年)         右LDOCE (6版、2014年)

owing toは2例。

Flights from Boston were canceled owing to bad weather.
Owing to the rising cost of fuel, more people are using public transport.

thanks to は2例。慣用表現の no thanks to が1例。定義ごと引用します。

1. used for saying that someone or something is responsible for something good that happened:
Thanks to this treatment, her condition has improved.
2. used for saying that you blame someone or something for something bad that happened:
Air traffic is in chaos, thanks to the government’s incompetence.
no thanks to spoken used for saying that someone or something did not help you to achieve something:
At long last we made it, no thanks to you.

本当に良い辞書だったと思います。

因に、MED最後の no thanks to ですが、OALDではidiomsの囲みに収録されています。(LDOCEでは名詞のthanksの語義区分の3で扱っています)

物書堂のアプリ版だと、このOALDの用例はダッシュに続いているためか、用例検索ではヒットしないのですね。OALD伝統の用例のパラフレーズで的確な補助線が引かれていたりと、内容は良いだけに、アプリでの検索の制約など、明らかにして欲しいものです。


それでは、最後に、partlyやin partなどの副詞/副詞句と「…のために」の前置詞表現とが共起する際の語順と頻度を、Ngram Viewerでざっくりと見て終わりにしましょう。単なる置き換えでは済まないところもありますので、しっかりと見比べて下さい。

because of と共起する副詞・副詞句。

because of に関しては割り込みはナシ。ただし、in partとpartlyの差は縮まってきていることに注意が必要。largelyとmainlyもこれで見る限りでは差はないように見えます。

COCA系でも見ておきましょう。

ニュース英語NOWでpartlyとin partの外付け。


近年では明らかに逆転していて、 in partの方がヒット数は多い模様。

ベンチマーク足る、COCAで。


こちらでも、近年は in part が優勢。

この辺りの「実態」は辞書ではどの程度反映されているのか、私の持っている物書堂アプリ辞書の約30冊で検索してみましたが、唯一、コウビルドの米語版で、because of でも、partlyでも、in partでもない、contagionの項目で一例がヒットしただけでした。しかも米語版では第2版からこの用例はあるという。(第2版に基づく、日本独自編集の米語英英和では、contagionという語彙項目自体がカットされています)

その他の前置詞も見ていきましょう。
due to と共起する partlyとin partでの語順と頻度

私が英語を身につけた 1970年代の終わりから1980年代では、partlyは外付け、in partなら割り込み、と相場が決まっていた印象ですが、近年では in partの外付けと割り込みの差が余りなくなってきている模様。partlyが割り込むとちょっと…というのはよく分かる。

thanks to と共起する partlyとin partでの語順と頻度

これを見る限りでは、若い世代の方たちでも、thanks to では、in partが圧倒的で、しかも割り込みで使うしかないな、という気になりますよね。
古くは、A. P. Cowieらの編んだ、Oxford Dictionary of English Idioms (1993年;それ以前の句動詞との2巻本の第2巻だったものを別物として出したもの)では、

Thanks in part to the elaborate accompaniments, in part to the well-known acoustic difficulties of the theatre, and in part to the singers' own failings, much of Geoffrey Dunn's translations remained inaudible. (The Sunday Times の1967年から1983までのデータから採られた例)

という、in part の本領をこれでもかと発揮する用例を載せていたのですが、最近の辞書でこんなに長い用例で紙面のかなりのスペースを占めることはしないでしょう。

参考までにowing toとpartly/in partでの語順と頻度。
owing to そのものの使用頻度も考え合わせなければいけないかもしれません。

こちらも参考までに on account ofと副詞。

ざっくりですが、高頻度組で because of vs due to。

on account of, owing to, thanks to の三者競演。

ここまで長い記事におつきあいいただきありがとうございます。
今日は、「前置詞」としての用法を取り上げましたので、because of や on account of がSVを従えるものなどは扱っていません。
また、本来は<前置詞+名詞=副詞句>であるはずが、be動詞に続く補語の位置を占め、焦点としての役割を果たすことになる

  • The reasson ... is because of ...

  • ... success is thanks to ...

などに関しては、過去ログの

tmrowing.hatenablog.com

で少しだけ触れていますので、そちらをお読みいただければと思います。
私一人にできることは限られていますが、ご愛顧にお応えして、できることだけを続けていくだけです。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Arigato (大江千里)

youtu.be

near to tears

なんと、もう5月。今年の3分の1が終わってしまった…。

今日は「気になる語法シリーズ」で新たな記事を。

高校生の英作文で時々見られる文法・語法上の誤りの中で、余り指摘されていない印象があるのが、次の出だしの一文のようなもの。

I was in a hurry to oversleep in the morning and the train I got on was delayed significantly due to signal failure. When I finally arrived at school late, I realized that I had left my assignment at home.

私のライティングのシラバスでは、「ナラティブ」が基本で、そこから「描写説明」を経て、「論証文」へと進みます。ここで例に採った英文は、「日本語の諺や慣用句を英語で説明する課題」でのドラフト。
「泣きっ面に…」とか「踏んだり…」の場面描写の類いですね。
気になるのは、勿論

  • (?) I was in a hurry to oversleep

の部分です。
これを書いた本人は、恐らく、「理由や根拠を表すのに不定詞(to+原形)が使える」と覚えていて、

  • 「朝寝坊をして急いでいて…」のような内容を書こうとしたのだと思われます。

でも、上記の書き方だと、(?)「急いで寝過ごした」という、現実味の感じ難い意味で解釈されかねません。

教科書、辞書をはじめ、巷の教材でも、不定詞(to 原形)が理由や根拠を表す例は見聞きしているはずなのですが、適切・的確には捉えられていなかったのでしょう。

時系列に沿って書けば何でもないことで、次のような英文をDeepLが容易く書いてくれます。

朝寝坊をして、慌てて家を飛び出し、電車に乗ったら信号故障で大幅に遅延。ようやく遅刻して学校についたと思ったら、課題を家に忘れてきたことに気がついた。
I overslept in the morning, rushed out of the house, and when I got on the train, it was delayed significantly due to signal failure. When I finally arrived at school late, I realized that I had left my assignment at home.

高校生レベルの殆どの教材では、「感情の理由・原因」というように明確な「生息域」を示して用例が提示されていると思うのですが、to + 原因の部分だけにマーカーで色を塗って、赤いフィルターをかざすような作業が英語の文法語法学習であるかのような習慣が身についていると、手当ても大変です。

今、手元にある教材からちょっと用例を引いてみましょう。

「感情の原因を表す」
My parents will be delighted to see you.
We were all surprised to hear that he was successful.
I am glad to hear that you got back home safely.
『コーパス・クラウン総合英語』(三省堂、2022年)

「感情の原因を表す」
I’m glad to see you.
I’m sorry to hear that.
Emily was surprised to see the photograph.
I was disappointed to find that Ann was out.
I would be thankful to receive your reply by Monday.
『アルティメット総合英語』(第2版、啓林館、2022年)

私自身が、この項目・表現形式を教える時は、形容詞のhappyとsorryは後回しにして、to原形で示される動作・行為と感情が生じる時系列が誤解なく一意に決まるものを優先しています。

どういうことかというと、

あなたに会えて幸せだった I was happy to meet you. (Genius 和英)
I'm sorry they objected. 彼らが反対したのが残念だ (O-LEX英和)

のように、不定詞が「感情の原因を表す」happyやsorryの場合もあれば、

I’ll be happy to answer questions if there are any. 質問があれば喜んでお答えします. (COBUILD米語英英和)
I'll be more than happy to show you around (the) town. 喜んで町をご案内しましょう(Wisdom英和)

のように、今後の行為・行動での申し出に当たっての心的態度の表明や、

I'm sorry to say that I can't accept your offer. 残念ですが,お申し出は受けられません(O-LEX英和)
残念ながら採用を見送らせていただくことをお知らせいたします
I'm sorry to inform you that you have been unsuccessful in your application.(Wisdom 和英)

のように、相手への配慮を伴うアナウンスのイントロで用いられる、日常的なやりとりで使われる場合もあるから。

(?) 不定詞は未来志向
(?) 不定詞の to は→

などといった過度の単純化、過度の一般化によって、却って理解が妨げられないような配慮をしておきたいところです。


ということで、まずは「感情の原因」の用法の整理から。
この「パターン」で用いられる主な形容詞は、上記学参でも示されています。
上記2冊の情報を合わせると次のようなリストになります。このリストはリストで便利かもしれません。

delighted/excited/glad/happy/pleased/proud/relieved/satisfied/thankful
amazed/angry/sad/shocked/sorrysurprised//upset/disappointed/frightened

ところが、これらの形容詞に続いて「感情の原因」を表す表現形式には「不定詞(to 原形)」以外にどのようなものがあるのか、また、不定詞が続く場合にはその動詞の意味内容に制約や特徴があるのか、は限られた用例から推測するしかありません。
(be) surprised の続きにはどのような形があるのか、辞書の用例検索をすると、

I was surprised that the meeting ended so quickly. 会議があっという間に終わってしまったのには驚いた.(G6)

You'll be surprised how kind he is. 君は彼がとても親切なのに驚くだろう (G6)

I was surprised at how many people came. あまりにも多くの人が来たので驚いた (W)

I was surprised to learn that he was only 23. 彼がまだ23歳と知って驚いた (Oxfordコロケーション)

You'll be surprised to see how much a ceiling fan can cut down (on) your energy costs.
天井のファンによってどれだけ燃費が節約できるかお知りになればびっくりなさいますよ (W和英)

  • that SV
  • 直接のhow SV
  • at + how SV
  • to 原形 that SV
  • to 原形 how SV

のパターンが観察されました。
では、このそれぞれの使用頻度や、習熟度のレベルはどうなっているのでしょうか?

COCAで概況を。

直接that SV

thatの省略との単純な比較はできませんが、per milで見てみると、それなりの使用頻度であることはわかります。

次にhowが続く場合。前置詞の有無と頻度はどうなっているか?

直接 how

ヒット数としては、beが638, 過去形が143、現在形が22で、突出して、beが多いことが分かります。この前には助動詞が来るだろうと予測はできます。
SPOK/WEBでコンコーダンスラインを見てみます。



’d = would と ’ll = will だということがわかります。

続いて、前置詞がhowの前に来る場合。

前置詞 at/by how だとatが優勢。ヒット数としては、過去形が500, beが352、現在形が91です。

過去形では前置詞なしが優勢、助動詞+beの場合には前置詞ありが優勢、というような印象ですが、過度の一般化、過度の単純化は慎みましょう。

to 原形 that の場合。to原形はlearn/see/hear/findで比べています。

1059ヒットのうち、learn が427、find が313、seeが171、hearが148でした。

to 原形 how

ヒット数は激減ですが、実際に2010年代でも使われていて、過去形の例も、be の例もあります。
これ以外の型はCOCAではヒットしませんでした。
やはり、時制や助動詞、人称代名詞も含めて、形容詞の後に何が続くのか、まで実感を持てるような学習/指導が望ましいように思います。

その部分が手薄なのに、

I wouldn't be surprised if he knows [knew] the fact.
彼がその事実を知っているとしても私は驚かないだろう
(!if節中の仮定法はその内容が事実の可能性が低いと話者が考えていることを暗示).(W英和)

I wouldn't be surprised if she won three gold medals.
彼女が3つ金メダルをとっても私は驚かないよ. (G6)

のような英文を、入試での出題例があるからといって、既習事項との関連のないまま教材化してもご利益は薄いのではないか、とずっと思っています。

上記リストにはない、形容詞として用いられるimpressedの実例も見てみましょう。

甥がもう大学生だと聞き感慨深い
I was deeply impressed that my nephew had grown up to be a college student. (O-LEX和英)
He was impressed at how well she could read.
彼は彼女があまり上手に読めるので感心した (G6)
We were impressed to see how well they’d done already.
The dancers were impressed to learn that Hughes was staying at their hotel.
ダンサーたちはヒューズが彼らのホテルに宿泊していると知って感動していた(G6)

上記用例が辞書の用例検索でヒットします。

この二つだけ取り上げてみても、「形容詞」のリストで整理するだけでは不十分だということがわかってもらえるのではないでしょうか?

次のツイートに見られる形容詞などは、日本の教材では殆ど出てこないという印象ですが、ソーシャルメディアで日々、世界各地から届けられる訃報に接し、英文ライティングのシラバスではobituaryを書かせている私にとっては、基本語中の基本です。


https://x.com/TheBonnieRaitt/status/1785408724070494635

  • saddened

の扱いを最新のコウビルド(第10版)と中級(第5版)で対照してみましょう。

先ほどのツイートの言葉のような例が全くありませんね。

OALDでは3例ヒットします。Oxford系の類語、連語でも恐らくあるかと。

和英だとO-LEXは「御愁傷」の項に、ジーニアスは「哀惜」の項に用例があり、英和だとG6(G5)も、saddenのデジタルプラスにのみ用例が見つかります。最新のG6だけでなく、G5から既に紙の辞書のジーニアスにはsaddenに用例が一つもないのですが、他の英和にはこのお悔やみや哀悼のことばがないので、大修館さん、G7では紙面にも復活させませんか?

  • saddened to 原形

ってそれだけの使用頻度はいまだにあると思うんですよ。

NOW

COCA

ということで、「感情の原因」にまつわる、感情のもやもやを書き連ねてきました。

私がnoteで公開している「診断テスト」(100題+語義8題)のうち、レギュラーの100題の78番に次のような問題を配しているのを、多くの方はご存知ないでしょうね。

  • 78. 私が合格したと聞いて父はうれし泣きした。

この問題の肝は、「嬉しいと思う」という感情と「泣く」という行動の因果関係と、「合格の知らせを聞く」という行動と「嬉しく思う」という感情の因果関係の二段階をどう表現するか。

という狙いがあり、ここまで説明してきたように、感情の原因を不定詞(to+原形)で表すことができる人も、それをもう一つの行動・行為と感情の因果関係との二段階で整理できているか、を診断したいという教師側の目論見が潜んでいるわけです。

詳しくは、「診断テスト・中級編」の解説でお楽しみ下さい。

note.com

本日はこの辺で。

本日のBGM:涙がこぼれそう (The Birthday)

open.spotify.com

「ここグリグリね!」

本日のブログのタイトルは、私が授業中に重要事項に言及する時の決まり文句です。

  • テストに出る確率が高いから印を付けておけ。

ということですね。

他に定型といえるようなものとしては、

  • この項目は、英語の先生を100人つれてきたとしたら、95人はテストに出したくなるところ。

というのもありますね。もっとも、それを言った後ですぐに、

  • 私は少数派かな。

と付け加えることもしばしば。

私の授業「アルアル」のご紹介でした。

さて、

「コウビルド活用法」(その1〜その3)

note.com

の改訂版については先日、こちらでもお知らせしました。

今日はそれに続いて、「コウビルドのトリセツ」(その4)として新たな記事を公開しました。

note.com

その4だけでA4にして27ページの大部となっていますが、巷のどの取説サイトや動画よりも、「コウビルドの芸風」を捉えたものになっていると自負しています。
「その4」の主な内容は、

・『コウビルド英英辞典(第10版)』の2023-2024年の改訂での特色
・コウビルド(第10版)中級(第5版)との比較と留意点
・コウビルドの弱点を知り良さを引き出す

となっています。
冒頭で、今回(2023年)の第10版の改訂の特色・特徴を紹介しています。
また、中級(第5版)との差異にも言及しています。既に公開している「辞書活用法(前半/後半)」での「手持ちの辞書を知るためのチェックポイント」からいくつかの項目を取り上げて比較していますので、比較の「物差し」となる、そちらのチェックポイントも合わせてご覧下さい。
「辞書活用法」を含む、こちらのマガジンが便利でお得です。

note.com

先日も呟きましたが、今回のコウビルドの改訂は感動的ですらあります。
ただし、21世紀以降、自動詞・他動詞表記を排し、動詞型等、記号の意味付けを根本的に変えた現行のコウビルドの良さも、巷ではあまり理解されていないような状況での今回の改訂です。これが十分に理解されないというのは、日本の英語学習・英語教育にとって大いなる損失だと思いますので、物書堂さんのアプリ辞書での「コウビルド」改訂版リリース記念セールが終わる前に、無料のオンラインセミナーを開催することとしました。

セミナー受講料は無料ですが、テキストとしては「コウビルド活用法」と「コウビルドのトリセツ」の「その1〜その4」までを想定していますので、別個お買い求め下さい。
内容のバランスとしては、「その4」での改訂の特色に重きを置きますが、それを理解するためには「その1」から「その3」まで、目を通しておくことが重要だと思いますので、趣旨を十分に理解してお申し込み下さい。

#拡散よろしくお願いします 
物書堂さんのセールが終わる前に、緊急開催です。
無料のセミナーですが、受講の条件がありますのでご注意下さい。
※申し込みページの諸注意を必ずお読みの上で申し込みをお願いします。

「コウビルドのトリセツ」のオンライン・トリセツ
5月6日(月曜・祝日)14:00 -17:00 定員30名
passmarket.yahoo.co.jp

ということで、カレンダーの5月6日は「グリグリ」でお願いします。

GWを見越して、オンライン個別指導の課題も配信して、出講先の高校生用のハンドアウトもアップロード完了。トリセツの改訂執筆で調べモノが集中し、COCAの本日分のクエリーをほぼ使い果たしたので、仕事は一段落。

先日の「辞書」関連のセミナー受講者の一人が寄せてくれたコメントを思い出しています。

このセミナーでは辞書活用に留まらず、これまでの辞書変遷史、松井先生の語法・語義指導の一端を学べることも重要かと思います。ライティング指導のセミナーでも教えていただいた語法・語義指導のポイントをさらに深く理解できる機会にもなりました。これ自体が単独でセミナーになると思います。
https://twitter.com/tmrowing/status/1782323882822885840

語義語法の指導のために、私が普段からやっているのは、辞書の読み比べと、オンラインコーパス等での検証ですね。
普段の流れはこんな感じ。

普段、私が接する英語は、「洋楽」などと言われる音楽を除けば「英語ニュース」が大部分を占めますので、COCA系の利用でも、NOWコーパスとGLOWBEがデフォルトです。
最近ではあまり米英やインドなどの映画やドラマも見ませんので、随分偏っているとは思いますが、その分、こういったオンラインで得られる資料で補う努力はしています。

拙著『チャンクで積み上げ英作文』を作る過程でも、ほぼ毎日COCAのクエリーは消費し尽くしていましたが、その時にちょっと衝撃的だったのは

  • 全く知らない人/赤の他人

に相当する英語のチャンクの実態でした。






ここに示したもののうち、均衡コーパスはCOCAとCOHAだけですから、結論めいたことは言いにくいですが、地勢図のようなものは見えるように思います。

私が英語を身につけたのは1970年代から80年代にかけての時期ですが、strangerと結びつく形容詞はtotalまたはperfectで覚えていました。
こうして検索結果を見れば、その頃でも、completeはかなり使われていた筈ですが、私の記憶には強く残っていなかったのです。
そして、現在ではcompleteが優勢。perfectはかなり少数派で、今後は絶滅危惧種のようになるのか?などと感じたのでした。
ということで拙著では、そのささやかな抵抗の意味も込めて、敢えてperfectもあるよ、ということを示しました。

日々の英語ニュースを紹介するツイートを細々と続けていますが、その程度の英語との関わりでも、今の英語とのギャップに驚いてばかりです。
ただ、私自身は、6大メジャーの英語ネイティブの使う英語が全ての英語学習者、英語使用者の規範だとは思っていません。
empowermentとかownershipとか便利な言葉でぼんやりさせたくはないのですが、以前にも紹介したことのある、この見識を繰り返して、本日はお開きにしようと思います。

本日のBGM: Fighter (Glim Spanky)

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もう「…しないようにする」なんて目標なんて立てないよ絶対

マッキーの歌の歌詞みたいなタイトルで始まった本日のエントリー、英語の文法・語法に関する話しではあるのですが、「気になる語法シリーズ」のための執筆ではありません。
先日、英作文関連で出講先の生徒からとある質問があったのですね。本人への回答はもう済んで、本人の疑問も解消しています。
有料記事にするほどのものではないのですが、学習者(指導者も?)には有益な情報だと思いますので、その生徒への回答に加筆してこちらでもシェアしておくのがいいかなと。

  • 否定の目的での不定詞 not to 原形が動詞表現にダイレクトに続く生息域

とでもなるでしょうか。

生徒からの質問を簡潔にまとめると次のようなものでした。

「例題XXの解答解説で、『…しないように』という意味で、… not to 原形を使ってはいけない理由を教えて。逆に言えば、どういう表現でなら否定の目的をnot to 原形で表せるの?」

その例題は、というと、

祖父は時勢に取り残されないよう、新聞を毎日読むようにしている。

というような意味内容の日本文で、完成すると次のような文になることが期待されているであろうものです。

My grandpa makes a point of reading the newspaper every day so that he won’t fall behind the times.

My grandpa makes a point of reading the newspaper every day so as not to fall behind the times.

日本の教材の多くでは、

「…しないように」と否定の目的を表す場合に、動詞表現に続けて not to原形 とするのは一般的ではない。
否定の目的の場合は, in order not to原形やso as not to 原形を使うか、句ではなく節で so that 主語+ willなどの助動詞+ not 原形 を使う。

と説かれているというのが私の印象です。
日本の辞書でウィズダムとジーニアスの和英の記述を見てみましょう。

絶対的なルールとしてではなく、「通例…とは言わない」とか「…の方がふつう」という書き方ですね。

ただ、テストではその部分の知識が問われることが多いでしょう。
次のような文は目にしたことがあるのではないかと。

I got up at five in the morning in order not to miss the first train.
私は始発電車に乗り遅れないように朝5時に起きた。
I used the knife carefully so as not to cut myself.
私は自分(の手)を切らないように注意してナイフを使った。

私の授業でも、知識として上記のことは伝えますが、それに加えて

目的の意味を肯定的に置き換えて表現することを心がける。

ということを説いています。
上述の例であれば、

My grandpa makes a point of reading the newspaper every day to keep up with the times.

I got up at five in the morning to catch the first train. 

などで対応しましょう、という趣旨です。

この置き換えが常にできるとは限りませんが、

傷口を濡らさないように、私は防水の絆創膏を膝に貼ってシャワーを浴びた。
To keep the wound dry, I put a waterproof bandage on my knee and took a shower.

家族をどれほど愛しているかを言うのを忘れないようにしなさい。
Remember to tell your family how much you love them.

網戸とは、空気は通すが、蚊は中に入れないようにするものです。
A screen door is something that lets in air but keeps mosquitoes out of the house.

などとすることで、”not to原形” を回避することが可能です。
今、私は「回避」といいましたが、まさに「回避=avoid」などの表現を使うことで、not to原形を使わずに済ませることも可能です。

渋滞に巻き込まれないように、私たちはいつもより早めに出発した。
To avoid getting stuck in traffic, we left earlier than usual.

ただ、英語では慣用的に、動詞表現にnot to 原形が続いても全く問題ない例があるので、冒頭の質問をした生徒の悩みもよく分かります。
be careful not to 原形 やtry not to 原形 は多くの辞書や教材で示されているでしょう。

A TV interviewer must be careful not to offend.
テレビのインタビュアーは不快感を与えないように注意しなければならない (Oxford類語)
I’m trying not to be sentimental about the past.
私は過ぎたことには感傷的にならないようにしている.(COBUILD米語英英和)
Take care not to burn your fingers.
指にやけどしないように気をつけなさい.(COBUILD米語英英和)

carefulやtryなどの注意や努力の動詞・形容詞表現以外でも、choose/decideなど一部の選択・決定の動詞では用いられています。

He chose not to go to university.
彼は大学に進学しないことに決めた. (Wisdom)
Susan has decided not to marry him, hasn't she?
スーザンは彼とは結婚しないことに決めたんだね.(Wisdom)

不定詞と共起するrememberの表す意味はdon’t forgetの裏返しとなります。この意味で、not to原形と否定を伴うのは実際には低頻度である、ということは知っておいていいでしょう。Don’t forget to 原形を使うか、肯定的に置き換えてRemember to原形を使えば簡潔で誤解の余地が生じませんから。

She remembered not to go out alone.
彼女はひとりで外出してはいけないことを覚えていた (G6)
Don't forget to indent your paragraphs.
段落は字下げして始めることを忘れないように(O-LEX)

ここまでに述べてきたものとは少し毛色が違いますが、tell/askの受け身は、「命令・指示」や「依頼・要請」の文脈で使われます。否定の命令・指示や依頼・要請を受け身で表現した場合に、not to原形が「過去分詞」に直接続いて「目的」の意味を表しているかのように見えるので注意が必要です。

ディスコへは行くなと言われてよけいに行きたくなった
When I was told not to go to the disco, I was all the more tempted to (go there).(Wisdom和英)
Sessions started at 9:00 a.m. and subjects were asked not to eat or smoke for at least 1 hour before.
一連の実験は午前9時に開始され、被験者は少なくとも1時間前から食事や喫煙をしないよう求められた。
(Oxfordアカデミック)

askに関連しては、次のような表現も認められています。ことがらとしての目的語を依頼・要請するので、見た目はあたかも「否定の目的」のように見えるものです。

The woman asked not to be quoted by name.
その女性は名前が出ないように求めた. (Wisdom)
The spokesman asked not to be identified.
スポークスマンはニュースの出所を漏らさないよう求めた.(研究社英和活用大)

ここまでに取り上げた表現をNgram Viewerでざっくりと見てみましょう。

全体



remember not to が低頻度、というのはこちらのデータでも感じられるでしょう。上・アメリカ英語、下・世界中のニュース英語。


NOWで見ると、askの受け身がtryに肉薄しているのが注目すべきところでしょうか。「要請」はニュース英語での頻出表現の一つと言えるでしょうね。
均衡コーパスのCOCAとCOHAで米語の状況を深堀しておきましょう。


COHAでも、carefulとtryの両横綱は健在。carefulの方が早い年代から使われているので、累計の差に現れています。tellやaskの受け身がchooseやdecideと並び、それなりの頻度となっています。
グローバルな状況での地域差ももう少し詳しく見たかったのですが、GLOWBEでは全体概況しか処理してくれませんでした。

振り出しに戻って、「祖父の新聞購読」の話し。
not to 原形は通例使われないというだけですから、so as not [in order not] to fall behind the timesなら問題はありません、その不定詞句全体を、カットアンドペーストで文頭に移動も可能です。
「時代についていく」と肯定的に置き換えれば、それを決意しての目標設定も容易ですが、「離されない;取り残されない」のは、成果達成の目標設定というよりは、結果として生じる状態、というところが考え所でしょうか。
授業では、carefulとtryを押さえておけ、と説いていますが、その背景にはこういった下調べがあってのことです。
今回の質問を寄せてくれた生徒も、他の生徒諸君も、安心して授業を消化吸収して下さい。

本日はこの辺で。

本日のBGM: To choose not to choose (Fireworks Banquet)

open.spotify.com

コウのトリ

更新が暫く空きましたが、『コウビルド』の改訂10版が物書堂版のアプリでリリースされたのを受けて、私が2021年に書いた「トリセツ」をせっせと改訂していました。

noteのマガジンと記事を更新しています。

辞書を使いこなすには?(2024年版;暫定版です)
note.com

『コウビルド』活用法(暫定版)
note.com


今回の物書堂さんの改訂では、

中上級レベルの
『コウビルド』(第10版)

米語に特化した
『コウビルド米語』(第3版)

中級学習者向けの
『コウビルド中級』(第5版)

がリリースされています。

物書堂さんのサイトはこちら。
www.monokakido.jp

今回の改訂で、『コウビルド米語版・第2版』と、それに基づく日本独自企画の『コウビルド米語英英和』は販売を停止しました。
この二つを既に購入済みの方は、統合アプリ内で管理している場合には、今後とも使えるとの回答を物書堂さんからは得ています。

C10 vs C9

C米3 vs C中5

C米2 vs C米英英和


先週の土曜日には、物書堂さんの春のセールに合わせた、「辞書活用法/指導法」に関するセミナーもオンラインで開催しました。
今回リリースされた3つのコウビルドの特徴や改訂の目玉、他の辞書との比較での得手不得手など、いくつかのポイントは、このセミナーで先取りで報告をさせてもらいましたが、私の「トリセツ」の方でも、その1〜その3に加えて、新たに「その4」で詳しく扱う予定で鋭意執筆中ですので、完成版は今暫くお待ち下さい。
現時点で noteのタイトルに「暫定版」とあるのは、そのためです。

ツイッターの方でも情報提供やアドバイスはしていました。


オンラインセミナー受講者からの声も匿名でご紹介。

本日の辞書活用セミナーではどうもありがとうございました。圧倒的な知識と膨大な情報でついていくのがやっとでしたが、iPadでの辞書の使い方や用例の検索の仕方など、やったことのないもの、知らなかったことがたくさんあり、非常に刺激的でした。また、コーパスを使用してさまざまな用例を確認していらっしゃる様子なども 大変参考になりました。noteも購入させていただいたので、これから 再度丁寧に読み直し、自身の実践にも活かしたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。

※こちらこそ、緊急開催でのご参加ありがとうございました。「物書堂」さんの春のセールに間に合えば何よりです。

もうお一方は、超長文でいただきました。ありがとうございます。

「やっぱり辞書を引くのは楽しい」というのが一番の感想です。物書堂+LDOCE, CALDでの横断的な辞書検索、コーパスとの併用を行う中で、このような語義、用例、使用域があるのかと気づき理解が深まるというこの過程がいかに重要かを再認識しました。自分でブックマークを作り整理するという作業もこの理解をさらに深くし、自分の中のことばの感覚を成長させるために大変有効であるとも感じられました。

学生時代から数冊の辞書に当たるというのを基本としていました。近年は物書堂のおかげで検索の利便性がこれまでとは比べ物にならないくらいで、調べる際には大変助かっていますが、自分はまだまだ物書堂の可能性を自分が引き出せていないことを痛感しました。特に示して頂いた後方検索は感動ものでした。

またこのセミナーは辞書活用に留まらず、これまでの辞書変遷史、松井先生の語法・語義指導の一端を学べるということも重要かと思います。ライティング指導のセミナーでも教えていただいた語法・語義指導のポイントをさらに深く理解できる機会にもなりました。これ自体が単独でセミナーになると思います。

セミナーの中で言及されていましたが、学校現場ではスマートフォンを使用禁止やタブレットもiPad以外のものというのは本当に多いと実感しています。生徒は与えたものを意外と使いこなすものなので、その中の選択肢にベストなものがあるのにそれをそもそも使えない環境にしてしまうことが1番の問題だと思います。

とりあえずブラウザの検索窓から直接意味を調べる、翻訳サイトを使う、という最悪な状況はなんとかしないと行けないと思い学生への辞書指導をきちんと行いたいと思います。このセミナーを自分の中に十分に落とし込んで、伝えていければと思います。

欲を言えば、これは松井先生に言っても仕方ないのですが、OSの環境によらず全ての生徒、学習者が利用できるようになれば良いのにな、と思うのが正直なところです。松井先生による活用法がこれだけ確立されているのですから。

※お役に立てていれば何よりです。私の開催する他のセミナーも受講していただいたことがあるので、講座内容に関するミスマッチの心配があまりないというのは、お互いの安心材料ではあるかなとも思います。

noteで公開している、ガイダンスのマガジンや記事は、物書堂さんのセールが終わってからも、アプリ辞書では有益な情報を提供できるものだと思っていますし、『コウビルド』のトリセツに関しては、現時点で考え得る最良・最高のガイドブックとなっていると確信しています。


最後に、辞書に関連して英語そのものの話も、ちょっとだけしておきましょう。

天体としての地球を表す大文字のEarthの使い方/使われ方をどのように扱っているか?
物書堂さんのアプリ辞書で比較。

W vs G

O-LEX vs CR

COBUILD 10th vs OALD

COBUILD 米語 vs COBUILD中級

この中で、無冠詞で大文字の用例を(   ) なしで示しているのは、O-LEXとCOBUILD&米語のみ。
そして、その定義は他とは大きく異なるもの。

N-PROPER
Earth or the Earth is the planet on which we live. People usually say Earth when they are referring to the planet as part of the universe, and the Earth when they are talking about the planet as the place where we live.

  • The space shuttle returned safely to Earth.

大文字だけでなく、定冠詞の有無での使い分けの傾向にまで言及している。
同じCOBUILDでも、中級ではこの辺りには全く触れず。

実態はどうなのか?Ngram Viewerで見てみましょう。
「地球から離れて」

全体





小説

かつては米国語法と言われていたようですが、英の実態を眺めても、十分定着した用法であることが窺えます。
「地学」という科目が、日本の高校での開講が少ない理科科目であることの影響があるのか定かではありませんが、日本の教材ではこういった語法の変化に対する反応が鈍いような印象を持っています。
辞書の記述の更なる精査が必要な項目でもあるしょう。

本日はこの辺で。

本日のBGM: コスモポリタン (佐藤隆)

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"to my dismay" という表現に関して、失望したことには…

新年度の準備に余念のない日々ですが、昨年から継続する教材などは、十分精査してよりよい使い方を考えておくことが大事。
私の使ったもので言えば、例えば、このような英文。

To her great surprise, her uncle failed in the business. 
彼女がとても驚いたことに,おじさんが事業に失敗した。
Much to her disappointment, the fireworks were canceled due to rain. 
彼女がとてもがっかりしたことには,雨のために花火が中止になった。

イントロで総括するかのように「主語の感情」を述べる「どどいつ」=前置詞+名詞のチャンクの用法で、学参や問題集だと数例が箇条書きやパネルでの一覧で対訳がついて終わり、という感じ。

辞書ではそれなりに用例がありますが、「生息域」はなかなか。
例えば、Oxford類語には、フォーマルな文脈で用いられるという注記がありますが、そこでの用例はこの一文。

To her chagrin, neither of her sons became doctors.
残念なことに,彼女の息子は二人とも医者にはならなかった

フォーマルと言うからには、誰が誰に対して、どのような場面で、何を目的に発する文なのか?
といった実感に少しでも迫りたいと思うのですよね。
「辞書にも、もう少し、バラエティ豊かな用例を配して欲しい」という思いで、前任校では、学級文庫に異なる辞書を数多く用意していました。
当時の写真を参考までに。

表現のバラエティ、という点では、代名詞の所有格以外の用例も欲しいところです。
所有格は所有格でも、アポストロフィの例が、Longman連語にあります。

To everyone’s surprise, they announced that they were getting married.
To Edward’s disappointment, Gina was not at the party.

同辞典には感情の程度を強調するものもあります。

To my utter surprise, I won first prize for my essay.

BBIの連語辞典は、私の世代やその上の世代では人気のあった辞典ですが、「強調」の例をところどころ載せています。

To everyone’s great disappointment, she failed the course.

BBIでは、かっこづけで用例のオプションも示しています。

To my great dismay, she was absent again.
= Much to my dismay, she was absent again.

(Much) to my relief they got home safely.

(Much / Greatly) to my regret, she retired last year.

BBIで気になるのは、

  • オプションで強調形を示している名詞と、示していない名詞の差に何かあるのか?
  • 強調での修飾語が前置の場合と後置の場合での差は?
  • 前置のmuchとgreatlyが両方とも使えるものと、muchしか使えないものがあるのか?

というようなこと。

特に、「強調形」は、入試問題でも時折出題されているようですから、「頻出問題集」の類いでは、一例・一題くらいは収録しているものが多いでしょう。

入試問題の実例を少し眺めてみました。

To my great surprise, she won first prize in the speech contest.

これは、誤文指摘で出題されていたもの。誤文の方は示しません。

Much to the dismay of my Singaporean friends, the first app I ever downloaded was LINE, the instant messaging app that is popular in Japan but apparently not in Singapore.
(シンガポール人の友人たちを大いにがっかりさせたのは、私が初めてダウンロードしたアプリがLINEだったこと。日本では人気のあるメッセージアプリだが、シンガポールではそうではなさそうだったので。)

これは長文の中での空所補充。選択肢はあるので、まあ容易な部類かと。

そうかと思うと、次のようなのもあります。文章全体の第一段落です。

Dr. Jekyll and Mr. Hyde came to Robert Louis Stevenson in a dream, in October 1885, on a wind-whipped night by the sea. He'd fallen asleep uneasily, and as his wife, Fanny, remembered, "my husband's cries caused me to rouse him, much to his indignation. 'I was dreaming a fine bogey tale,' he said reproachfully"
ジキル博士とハイド氏がロバート・ルイス・スティーヴンソンの夢に現れたのは、1885年10月、風が吹きすさぶ夜の海辺でのことだった。彼は眠ったものの落ち着かない様子で、妻のファニーはこう回想している。「夫が何度も叫ぶので、私は起こしたんです。で、彼に物凄く怒られました。『せっかく、怪物の出てくる良い話で夢を見てたところだったのに」と恨めしそうに言ってましたね。」

出典はリンク切れが無ければこちらで読めます。

Findings: A Bogey Tale
By Brian Doyle | June 1, 2006
theamericanscholar.org

こんなものを語句の注無しで読まされる受験生も大変ですが、大手予備校の解答速報ではまず出てこないし、過去問を一般の教材として活用しよう、とはならないような出題校だと、殆ど話題にもなりませんね。

このタイプの感情表現で使われる名詞の代表例は

驚き surprise
落胆 disappointment
歓喜 delight
安堵 relief
後悔 regret
悲嘆 sorrow

など。
ただし、感情・情緒は重なる領域も多分にあるので、

  • chagrin = annoyance + disappointment

だったり、

  • indignation = shock + anger

だったり、はたまた

  • dismay = fear, worry, or sadness

だったりするので、ばっさりと境界線を引くことは難しいものだということは知っておくのが良いと思います。

その意味では、次のような入試での問い方は要再考ではないかと。

An opposite situation is described in Somerset Maugham's story "The Alien Corn." Here the elegant young son of a newly ennobled family, being groomed for a gentleman's life of hunting and shooting, develops, to his family's dismay, a passionate desire to be a pianist.

What does the underlined phrase, "to his family's dismay" imply?
(a) His family had always expected him to be interested in music.
(b) His family was shocked that he had developed an interest in music.
(c) His family believed that he would lose his interest in music.
(d) His family assumed that he would grow interested in music in Germany.

上智大学の2019年の出題で dismayを文脈に則して解釈させるもの。
本当に (b) のshocked で適切でしょうか?

私が類義語や反意語を確認する際によく引くのはCollinsの辞書ですが、そこでは適切な文脈を当てはめられるように、

  • Much to her dismay, he did not call.

という用例を配して、次のような類義語を載せています。

dismay
a feeling of alarm or depression
disappointment, upset, distress, frustration, dissatisfaction, disillusionment, chagrin, disenchantment, discouragement, mortification

ここには、"shock" は出てこない模様。
語義が分かっている人のほうが悩んだりしませんかね?

もう少し、語義や類義語を見てみましょう。
同じ辞典で、

  • consternation

を引くと、その語義と類義語はこうなっています。

consternation
a feeling of anxiety or dismay
dismay, shock, alarm, horror, panic, anxiety, distress, confusion, terror, dread, fright, amazement, fear, bewilderment, trepidation (formal)

語義では "anxiety + dismay" で、こちらの類義語には "shock" が入っているのですね。

上述の『Oxford類語』では、「類語スケール」で、意味の強さを表す工夫をしています。

<<

こちらでは、shockを上位語として、そのスケールの一番弱いところに dismayを配しています。
collinsで語義を説明するのに使っていた "alarm" の入るスケールが右にありますが、そちらを見てみます。
fearを上位語としていますが、そのスケールには shockは見当たりません。

米国の辞書出版社の定義に目を移すと、MW's の学習用では

dismay
a strong feeling of being worries, disappointed, or upset

となっています。shock に近い要素があるとすれば、これまた悩ましい、形容詞の "upset" に求めることになるでしょう。
同辞書で形容詞のupsetを引くと、

  • angry or hanhappy

と、そっけない返事。
米語で頼りになる学習者用辞書があまりない現状なので、少し古いですがマクミランの米語辞書から、形容詞のupsetの定義を、

  • very sad, worried or angry about something

なかなか、shockへ辿り着けず凹みます。
同意語、類義語などとよく言いますが、「語義」と「言い換え」の難しさを感じます。

他にも、上述の辞書からの引用例、入試出題例でも見られた「強調形」で典型的な、

  • much to one’s 名詞

  • to one’s great 名詞

とは、いつでも置き換え可能なのか?
も悩ましいところです。

実例を見ておきましょう。


The past two years, the Braves have closed in Philadelphia, much to their dismay. This time, they opened celebrating with a 9-3 comeback victory Friday.
(過去2年間、ブレーブスはここフィラデルフィアでは試合が開催されないままだった。今回、金曜日の試合で9-3の逆転勝利で祝杯をあげた。)

報道見出しですが、ここでは、 "much to their dismay"です。


Deputies said, "To our great dismay, the dogs have been identified as the two black labs, Colby and Caleb, that were stolen from the Waid Park area last week."
(副保安は、"大変残念ですが、この犬は先週ウェイド・パーク地区から盗まれた2匹の黒ラブの、コルビーとケイレブであることが判明しました "と語った。)

こちらは、 "to our great dismay" で文頭。公的な立場にある人の話しを引用した部分なので、話しことばではあっても、ある程度改まった場面、とは言えると思います。
どちらの表現も使われていることはわかりますが、そこから先の「使われ方」は、これだけではよく分かりません。

辞書や教材で、こういう「痒いところ」を押さえておいて欲しいと、無い物ねだりをしながら、いつもいつもいつも、ざっくりと検索し、比較検討して、授業に臨んできました。

それでは以下、検索結果を。
COCA系では、単語レベルではありますが、キーワードを元にした「類語」での検索が可能ですので、そちらを見て、語義と類語同士の頻度の差を確認します。

COCAで、surpriseの類語で検索

COCAで、dismayの類語で検索

COCAで、disappointmentの類語で検索

注目すべきは、 "dismay" から類語検索をすると、"disappointment" も "shock" も出てくるのですが、"disappointment" から検索すると、 "dismay"も"shock"も出てこない、というところ。相互に置き換え可能というわけではないということですね。
同様のズレは、chagrinにも当てはまります。

COCAで、chagrinの類語での検索

COCAで、regretの類語での検索

ここでも disappointmentが出てきます。

COCAで、sorrowの類語で検索

disappointmentの磁場に引き寄せられていますね。

COCAで、horrorの類語で検索

dismayやshockが出てきました。

プラスの意味合いの語も見ておきましょう。

COCAでdelightの類語

COCAでsatisfactionの類語

COCAでreliefの類語

relief一択ですね。

続いて、「強調形」の比較。

COCAでmuch to one's surprise

同じく to one's great surprise

頻度では、ダブルスコア以上で "much to" が優勢です。

COCAで much to one's disappointment

同じく、to one's great disappointment

大きな差は見いだし難いです。

COCAで much to one's dismay

同じく、to one's great dismay

disappointmentの磁場に影響されつつも、much to優勢。

COCAで much to one's chagrin

同じく、 to one's great chagrin

圧倒的に、much to 優勢。to one's greatの方はdisappointmentの磁場に呑み込まれた感じ。

COCAで much to one's regret

同じく、to one's great regret

disappointmentの磁場に呑み込まれ、大きな差は見いだせません。


最後は、Ngram Viewer で見てみましょう。

surprise/relief/joy で
全体




reliefeをベンチマークにして、dismay/delight





dismayをベンチマークにして、chagrin/regret
全体




<much to one's 名詞>と <to one's great 名詞>との間にそれほどの差がない名詞もあれば、明らかにどちらかが優勢な名詞もある、ということが確認できたと思います。
公式化して、過度の一般化でわかったつもりになるのではなく、

  • 「何が自然な結びつきで、英語らしい表現か」

というのも名詞によって変わってくることを理解しなければなりませんね。

本日はこの辺で。


本日のBGM: the disappointed (single version)/ XTC

open.spotify.com

eatables and drinkables

4月に入ってから、10年以上も前のこの過去ログのアクセスが急増していたのが解せなかったのですが、「もしかしてだけど…」案件が浮上。
ツイッターでも紹介していました。


もしかしてだけど…
これからやって来た?

こちらでも写真をアップしておきましょう。



ありがたいやら、驚くやら。


私がレジェンドというか巨人の本を読むのは、まあ、借りるなら高い肩だからそうするだろ、とは思うけど、レジェンドが市井の英語教師のブログを読んでいるって、あらためて凄いなと。
こちらの本は、チャンキングのところと、最後のコーパスの分析のところくらいしか読んでなかったけど、再読します。

今日は花祭り。
今年は桜の開花が遅く、お花見シーズンなのに、雨模様が続いたので、結局一度も花見に行かずに終わりました。

旨い日本酒で花見酒、は来期にお預け。

ということで、気になる語法シリーズは、飲食に関わる名詞の単複です。

まずはベタに、「飲食物」そのものから。
「食」を表す名詞foodの単複。

  • The basic necessities of life are food, clothing, and shelter. 生活必需品は衣食住です。
  • The season finale provided thought for food. このドラマの最終回には考えさせられた。

では不可算扱いが基本だけれど、具体的な「食べ物」を指す場合に、単複は悩ましいもの。

辞書で「飲食物」を引くと、日本語の「飲」先、「食」後との違いばかりが強調されている印象。

food and drink 飲食物(!この語順で用いる) (ウィズダム英和;以下W4)

food and drink 飲食物 (通例この語順) (ジーニアス英和、第6版;以下G6)

一方で、次のような記述もあるのですね。

food and drink (英)/food and drinks (米) 飲食物
Gina had prepared food and drink / drinks for the party.
ジーナはパーティーの飲食物を準備していた (Oxford コロケーション;以下Oxford連語)

辞書で検索できる範囲で用例を見てみると、同じOxford系でも、「類語辞典」では、

Gina had prepared food and drink for the work party.ジーナは作業班のために飲食物を用意してあげていた

とdrinkは単数形(辞書形)表記の用例だけが示されています。原著の出版年は類語が2008年、連語が2009年で1年しか違いませんから、コーパスが改訂された、とは考え難いです。

同じジーニアス英和でも、第5版 (2014年;以下G5) では、

Food and drinks may not be consumed in this room.
この部屋で飲食はできません.

と "drinks" は複数形になっていたものが、G6では、

Food and drink may not be consumed in this room.
この部屋で飲食はできません.

と単数形(辞書形)の表記になっています。G6は2022年ですから、この8年で単数形にしようという見直しがなされたのでしょうか?
同じG6の用例でも、

The old table groaned under the mountain of food and drinks.
古いテーブルは山のような食べ物と飲み物の重さにきしんだ.

ではdrinksと複数形ですし、ジーニアスの和英では

先日取引先から飲食の饗応を受けた
The other day our business partner treated us to food and drinks.

と複数形で対応させています。ジーニアスの和英第3版は2011年ですから、時代の変化に合わせた、というのは当たらないように思います。
O-LEXでは、英和も和英も

food and drink 飲食物
飲食物 food and drink

と、drinkには単数形(辞書形)を示していますが、O-LEX和英(第2版、2016年)の用例の中には、

高級レストランでの飲食では,しばしばサービス料が別に取られる
At fancy restaurants, they often charge you for service on top of your food and drinks.
飲食物を集会所に持ち込んでもいいでしょうか
Is it alright to take food and drinks into the assembly hall?

と 複数形drinksの例が見られます。そして、どこにも注記はありません。


ということで、オンラインコーパス等に頼って、いつものざっくりとした検索。
Ngram Viewerで。

全体

米。これを見る限りでは、米でも food & drink are [were] >food & drinks are ですね。
food & drinks は1980年代終わり頃から増加傾向。
food & drink の足し算/合算でも単数扱いでis [was]は少ないです。

英。英でも、food & drink で複数扱いが優勢だけれども、合算でも is と単数扱いするのは、米よりも比率は高いか。 これを見る限りでは、food & drinks はそれほど頻度が高くない。

COCA系で見てみましょう。

ベンチマークを期待してCOCAを見るも、ヒット数が少なく、得られる情報も少ない。

GLOWBE。 やはり文頭縛りは厳しい。米でヒットなしという衝撃。

ヒット数を期待してNOWで。food & drinks とdrinksだけ複数のものの頻度上昇。
food & drinkの合算で複数扱いするものと単数扱いするもののヒット数自体にはそれほど差は表れず。最新の地域差データを知るには、NOWの用例をしらみつぶしにするしかない?

ということで、”food & drinks” で78ヒットの用例で出典を見て、

US 35
UK 7
AU 6
CA 5
NZ 2

という結果。所謂「6大メジャー」で、約70%。米&加の北米で50%強。米のみで約45%という割合になりました。
NOWコーパスは均衡コーパスではないので、この数値から何かを断定するのは難しいですが、Ngram Viewerでの米の概況で、

  • food & drink > food & drinks

という頻度であっても、food & drinks という言い方が、より多くなされる文脈は地域や文化圏で言えば米国、北米ということは言えなくはない、と感じます。
今回は文頭が Foodで始まるもの、という縛りで検索していますので、もう少し柔軟に文中の環境で、コロケーションの指定で拾ったりすれば、もう少し言語事実が明らかになるかも知れないと思います。

「飲食物」のついでに、「野菜と果物」でも、fruit and vegetablesか、fruits and vegetables か、そして単複での動詞の呼応は?という悩みどころかを見ておこうと思います。
学習用の辞書ではこんな扱いです。

種類をいうときはCだが, 複数形はfruitの方が普通)
いろいろな果物
various fruits / various kinds of fruit. (!後の方が普通)
新鮮な果物や野菜は健康によい
Fresh fruit and vegetables are good for your health.
(W和英)

そうかと思うと、英和では次の用例を収録。

I eat a diet rich in fruits and vegetables.
私は果物と野菜の多い食事をとっている
(W4)

ジーニアスでは、

数えるときはa piece of fruit; 特に種類を表すときはC
fruit(s) and vegetables
果物と野菜, 青果(物)
(G6)

O-LEX英和では、

(果物全般を表す場合は集合名詞 U,種類を表す場合は普通名詞 C,食品を表す場合は物質名詞 U扱い.ただし個々の果物を指すことはまれ)
Eat more fruit and vegetables to stay in good health.
健康を保つためにもっと果物と野菜を食べなさい

こちらもざっくりと検索してみましたので、そちらを載せて本日はお終いです。

Ngram Viewer全体


英。この英での近年の動きは、更なる精査・吟味に値すると思います(既に先行研究がありましたら、教えて下さい)。

COCA

GLOWBE

NOW


本日のBGM: ベジタブル live version 2022 (大貫妙子)

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