追想特急〜lostbound express

    東良美季の不定期更新webコラムです。どんな平凡な人生にも見るべきモノはある──、そんな慈悲深い眼差しで読んで頂ければ幸いです。日刊更新の毎日jogjob日誌もよろしく。ゴッド・ブレス・ユー。
プロフィール

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東良美季(Miki Tohra)。1958年11月13日生まれ。川崎市出身。國學院大學文学部哲学科卒。雑誌編集者、AV監督、音楽PVディレクター、グラフィックデザイナーを経て現在は執筆業。最新刊『猫の神様』(新潮社)

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2005-12-25 あの失われた真冬のアパートの夜〜『豊田道倫・映像集2』

tohramiki2005-12-25

 一度だけ、豊田道倫*1のライヴを観たことがある。CDは三枚目*2とベスト盤*3だけ持っていて、カンパニー松尾によるPVも何本が見ていた。松尾に連れられ打ち上げの席お邪魔して一緒にお酒を飲んだこともあったので何度も観ていたつもりになっていたのだが、実はその時の一度きりしかない。2003年の12月末、シアターPOOに於ける恒例のオールナイト・ライヴだった。

 噂には聞いていたが不思議な空間だった。狭い店内に客はびっしりと入っているものの、皆うつむいたまま押し黙っている。そんな中、年末ということで特別に着込んだのだろうか、ラスト・ワルツのロビー・ロバートソンを思わせる赤ワイン色のシャツに、洒落たジャケット姿の豊田さんがエレキギター1本で淡々と唄っていった。

 

 豊田道倫は“ローファイ宅録派”として我々の前に現れた。いや、単に僕がそう思い込んだのかもしれない。それは彼の声が絞り出すようでも叫ぶようでも、何処か囁くように聞こえたからだ。そう、夜中に小さなアパートで、隣近所を気にしながら友達が唄ってくれたあの曲のように。真冬の寒い夜に石油ストーブを囲み、ちんちんと湯気を上げるヤカンを見つめながら、例えば缶入り焼酎を飲みながら「こんな曲出来たんだよ──」と。

 曲と曲の合間にボソボソっと豊田さんがMCとも言えないような冗談を言う。客のうち4割ほどがクスクスと笑う。暗闇に眼が馴れて来ると、何人かの客が眠っているのがわかる。それでも豊田道倫はかまわず、ただ淡々と唄い続けていく。

 そしてまた昔々、遥か彼方の冬の夜を思い出す。数人でやはり小さなアパートに集まって、ギターを弾いてはぼそぼそと唄う。やがてフト見ると、酒に弱い友達は寝息を立てている。そんなことを考えながら聴いていると、僕も少しお酒が入った状態で行ったので、気がつくといつの間にか眠っていた。眠った頭の中で豊田道倫の唄が鳴っては消えて、また鳴り始めふと我に返るとまた唄っていた──。

 そんな豊田道倫のDVD映像集*4がHMJM*5から発売されている。カンパニー松尾が延々撮り続けている一曲ワンカットのライヴ映像。松尾はこれを“ハメ撮りロックンロール映像”と言っていた。豊田の唄と演奏をその会場の空気の熱さもも冷たさもひりひりするような肌の感覚もすべて、まるで飲み込むように体感する映像だ。シアターPOOにて宇多田ヒカルのカヴァー「Travering」*6に始まり、東京だけでなく、名古屋、京都他のライヴハウスを追いかけた全19曲。4曲目、ゲストの川本真琴がピアノで呟くように唄う「友達のように」も聴きものだ。

 そしてHMJMの個性溢れる監督4人による競作ビデオクリップが5曲。カンパニー松尾は2000年のPV「砂嵐」の流れを汲んだ懐かしい家族写真のような「大人になれば」と、2004年の傑作『Auction02』京都の雨のシーンを思わせる「新宿」の2曲。松尾アキヒトは兄よりもさらにセンチメンタルな──というとまるでジェイムス・テイラーとリヴ・テイラーのようだが──心象風景が美しい「抱きしめた」。堀内ヒロシは豊田道倫にナント学ランを着せ(笑)、高校の教室でシャウトさせた「うなぎデート」。そして石造りのトンネルから伸びる廃線の上、ワンシーン・ワンカットで繰り広げられる松江哲明*7の「グッバイ・メロディ」はまるでドアーズの『ストレンジ・デイズ』のようだ。

 

 全編126分。石油ストーブの暖かさとすきま風の冷たさ。あの失われた真冬のアパートの夜が、ここには詰まっている。

*1豊田道倫公式ウェブサイドは→こちら松本亀吉によるカンパニー松尾インタビューもアップされている。

*2:『豊田道倫』パラダイス・ガラージ(iPOR SUPUESTO!)

*3『かっこいいということはなんてかっこいいんだろう』(CDとカンパニー松尾による「映像集96-00」DVDのカップリング。)

*4『豊田道倫・映像集2』(ハマジムレコーズ)

*5:『豊田道倫・映像集2』を含むカンパニー松尾作品に関しての情報はHMJMウェブサイト。に。

*6:写真はエレキギター1本で「Travering」を唄う豊田道倫 at シアターpoo。

*7:ドキュメンタリー映画作家・AV監督、松江哲明くんのブログは「every japanese woman cooks own curry」←コチラ

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