『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』第6話 山本沙代と男と女


 脚本/黒田洋介、コンテ/山本沙代、演出/羽生尚靖、作監/馬場充子。



 第6話「In the DEAD of the night」は良いシーンが結構あるんですが、白眉だと個人的に思っているのが、Bパートラストの小室孝と宮本麗がキスをするシーン。観たときしびれました。この素晴らしいシーンは、原作漫画通りなのか、それとも山本沙代さんの独自のカット割りなのかが気になって、原作漫画を買って読みました(2巻に収録されている第6話)。それで、このシーンはどっちなのかというと、後者なんですよね。原作漫画ではここの描写って、麗がいきなりといっていいぐらいに孝にキスをする感じなんですけど、それを山本沙代さんが麗の一方的なキスというものではなく、時間を掛けて(カットを割って)二人が見つめあいながら口づけをするという濃密なキスシーンに仕上げているわけです。見せ方が抜群に巧い。めちゃめちゃ濃いよ、このシーン(原作漫画あっさりなのに)。

 肌理細やかな孝と麗の芝居も見事。ホント、芝居がすごくいい。



 それで、そのシーンについて色々と書いてきます。


 原作だとこのシーンの舞台は階段の踊り場なんですが、螺旋階段に変更されている。


 麗が孝のTシャツの袖をギュッと掴むと、俯瞰から二人を捉えたショットになり、孝の表情は映されるが麗の表情は映されることはない。次のショットは、俯く麗のクロースアップと孝のクロースアップの応酬(二人の視線が交差することはない。孝は麗を見つめ、麗は俯いている)。

 下を向いていた麗が顔を上げ孝の顔に迫る(キスをしようとする)。二人の顔は一度は接近したのだが一定の距離を保つ。視線が交差した二人だが、一瞬相手から目を逸らす、再び相手を見つめ、一定に保たれていた顔と顔との距離は再び近接し、互いの額が接触する。徐々に向き合う二人の身体、孝の胸に置かれた麗の手。二人の口づけに至るまでの経緯、二人の心情を見事にあらわしたこのショットがすんごくいいんです*1。二人のやりとりの間も絶妙だ。



 その次の崩れ落ちる二人を捉えたショット、二人のキスを見せない徹底さ*2。口づけを見せないというのが効果的で、直接描写よりも間接描写の方がこのシーンでは的確。


 孝の片足が階段から出るという芝居の細かさ。




 とても印象的で目を奪われるこのショット。前のショットからこれにぱっと切り替わるとインパクトがある(カメラが越えて反対から捉えられる)。孝と麗の顔が重なり、互いの半分の顔しか映し出されない。二人の半面はフレーム上で混じり合い、一つになる。キスをしてから、孝の表情は周到に排除され、麗の表情のみが映し出されていく。孝ではなく、麗を描く。



 上目づかい且つまるで女豹のポーズのような麗。こういう剥き出し感溢れる女性の姿は山本沙代さんっぽい感じが(ミチコの時の)。麗が再び孝に迫ろうとした瞬間にEDへと流れ込む(流れ込み方がいい)。

 麗の心情、女の心情をありありと描くこのカット割り。キス前の麗の表情とキス後の麗の表情の変化も良いです。乙女の顔から、一人の女の顔になるという変化。



 それに加えて、このシーンがいいのは、台詞の排除*3と「ハァ、ハァ、ハァ」という二人の息(諏訪部順一さんと井上麻里奈さんの演技)と噴き出る汗。何も言葉を交わさないかわりに視線と息を交わして、二人は交じりあっていく。カット割りと芝居でキスに至る二人とキス後の二人の心情(特に麗)を見事に表現する。


 黒田洋介さんも山本沙代さんも演出処理の羽生尚靖さんも、というか携わったスタッフの方全員素晴らしいです。この原作漫画からの変更は個人的にすごくよかった。



 それと、Cパートでの孝の「勃つ」の台詞の時の麗の尻の見せ方とかも原作よりも的確だなとか思ったり。台詞とマッチしている。


 他にも良いシーンが結構あると先述しましたが、例えば眼鏡警察官が子供に首を食い千切られた母親を撃つ所とか良かったです。あそこは原作にないところで、撃つ時のロングショットとか、桜が舞ってくる所とか、見せ方がいいなと。


 OP(荒川)とED(はなまる)以外で、山本沙代さんのコンテが見れてよかった(ミチコ以来かと思ってたけど、破でコンテやってたことを思い出す)。良き回でした。


おまけ


 原作では、どんな料理作ってんだかわからないのですが、アニメでは描写される。毒島先輩らしい料理。こういうさらっとした描写好きだな。

*1:ここは山本沙代さんの手腕というか、担当したアニメーターの方

*2:原作漫画でも見せませんが

*3:原作漫画はいきなりキスするので台詞がない