『アイドルマスター』ついてのまとめ




 TVアニメ作品『アイドルマスター』全話観終わっての感想のまとめ。



 シリーズ演出が高雄統子さんになると聞いた時、「これはすんごく面白くなるぞ」と思って興奮してました。

 それで蓋を開けてみたら、なんかぼんやりとしたというか、「何がしたいんだろうなぁ」っていう感じで、あまりノレずにいた。


 面白いことは面白いんだけど、そこまで興味が出ないという感じ。第1話「これからが彼女たちのはじまり」から第5話「みんなとすごす夏休み」まで、もやもやしながら視聴していた。


 今となっては、この第1話〜第5話まではこれからの彼女たちの飛躍のための準備期間で、必要不可欠なものだったと思うし、彼女のたちの成長を描くためには、みんなで過ごした時間は描かなければいけないのだろう。

 第1話から第5話まで僕がもやもやして視聴していた訳は、何を目標としているのかがよくわからなかったこと。はっきり云って、この作品が一体何をしたいのかよくわからなかった。このまま、彼女たちの下積みの日々を延々と描いていくのかなぁなんて思ったりした。この不透明さが、作品に没入させることのストッパーになっていたように思える。


 でも、その不透明さを変える転機となる回がやってくる。


 それは、第6話「先に進むという選択」。ここから、『アイドルマスター』が俄然面白くなっていく。第6話で伊織と亜美とあずさの3人組ユニット「竜宮小町」が鮮烈デビューする。これにより忙しい3人組と忙しくない春香たちの構図によって、差異が描かれていく。ここら辺から、この作品の目標というか、描きたいものが徐々に見え始める。僕が感じていたもやもやが消え始めるのはこの第6話からだ。


 次の第7話「大好きなもの、大切なもの」から765プロの面々の当番回が本格的に始動する。既に第3話「“準備”をはじめた少女たち」で雪歩の当番回は描かれていたが、僕は第7話から本格的な当番回が始まったように考えている(第3話はちょっと中途半端な感じだったように思える)。やよいと伊織と響の三人がメインの回だが、やよいの当番回と云っていいだろう。これが、面白かった。アイドルたちの性格や周辺環境を掘り下げる当番回は、作品により没入させてくれる。やよいの家庭事情と伊織と響との交流を舛成孝二監督が見事に描く。


 第8話「しあわせへの回り道」もすごく面白かった。あずさと真を中心に多くの人を巻き込むドタバタ劇が繰り広げられる。横浜の街をウエディング姿で走り回るあずさとタキシード姿で追う真。昔からあるベタな話だが、ストーリーを綺麗にまとめていて見応えがあるエンターテイメント性が高い回だった。黒服の男たちと真のバトルも迫力があってよかったし、ラストの大人数での疾走は見てて笑ってしまった。僕はこの回を見て、「アイドルマスターっていくらでも話を作れるんじゃん」と思い、作品の幅の拡さと作品が持つ強度を感じた。何でも出来るなぁと思い、わくわくしして視聴し始めたのがこの頃。


 第9話「ふたりだから出来ること」は、双海姉妹が探偵に扮する当番回。いつも一緒だった双海姉妹が竜宮小町で忙しい亜美と暇な真美という状況での二人の様子が描かれる。山内重保さんがコンテ・演出を手掛けていることも見所だ。『アイドルマスター』は参加している方も豪華であり、そのことは後述。


 第11話「期待、不安、そして予兆」、第12話「一方通行の終着点」、第13話「そして、彼女たちはきらめくステージへ」は、765プロ感謝祭ライブを主軸に美希のエピソードが描かれる。スタッフがこの作品で見せたいことが明確に示される3話だったと思う。この辺にくると僕のもやもやしたものは一切なくなっていた。描きたいものが見えてくると、すごく見やすくなるんだよなぁ。



 第14話「変わりはじめた世界!」から物語は一変する。765プロの面々が人気アイドルへと駆け上がり、人気アイドルとしての彼女たちを描くという目標が定まる。それと同時に「Jupiter」が所属する961プロとの対立という軸が出来上がり、描くものがよりはっきりとしていく。


 第15話「みんな揃って、生放送ですよ生放送」の生放送を疑似したフルメンバー揃ってのどんちゃん騒ぎは、めちゃくちゃ面白かった。メンバーの個性を十二分に生かした構成は見事で、ギャグ満載で笑いぱなっしだった。


 第16話「ひとりぼっちの気持ち」、第17話「真、まことの王子様」、第18話「たくさんの、いっぱい」、第19話「雲間に隠れる月の如く」まで961プロとのバトルを描きながら、響、真、律子、貴音の当番回が続く。僕が好きなのは、柴田由香さんがコンテ・演出をした「真、まことの王子様」で、ラストのメリーゴーランドの美しさは圧巻だった。第18話の律子の回も良かったなぁ。当番回により、キャラクターをより掘り下げていき、一人一人の魅力が溢れ出ていく。


 そして、第20話「約束」の千早の回は、ホントに素晴らしい出来だった。高雄統子さんの力が発揮された回で、緻密な画面構成に舌を巻いた。


 第21「まるで花が咲くように」で961プロとのバトルに終止符が打たれ、第22話「聖夜の夜に」からみんな忙しくなりバラバラになっていくことを必死に止めようとする春香の姿が描かれる。そこで、春香は徐々に自分が何をしたいのかに迷っていくことになる。第23話「私」&第24話「夢」での舛成孝二監督&高雄統子さんの春香の心理描写は鬼気迫るものがあり、特に高雄統子さんがコンテ・演出を担当した第24話は『アイドルマスター』での高雄統子さんが参加した回の中でベスト1だと僕は思っており、『アイドルマスター』全話中の№1だと思うほどすごかった。京アニを離れ、A-1にようやく慣れてきたせいなのか、遺憾なく高雄統子さんの持ち味が出ており、コンテ・演出を担当した第2話「“準備”をはじめた少女たち」よりも良かった。第2話はストーリーを処理するので精一杯な感じで第24話は高雄統子さんの「我」が思いっきり出ていたような気がした。周到に計算された画面構成と人物の心情が見事に定着した映像はどの回よりも秀逸だった。


 最終話「みんなと、いっしょに!」でニューイヤーライブを行い、『アイドルマスター』は大団円を迎える。



 第1話〜第5話までを下積み時代&キャラ紹介、第6話〜第13話までを当番回の本格化&アイドルとしての飛躍、第14話〜第21話までを人気アイドルとしての活躍&961プロとの対立&各キャラの当番回&千早の迷いの克服、第22話〜第24話までを春香回というシリーズ構成はよく練られたものだなと思いました。回を重ねるごとにキャラの厚みが増して面白くなっていくのは視聴していて心地よかった。


 ラストに今までいまいちぱっとしないというか、無個性という感じがしていた春香という存在が一気に花開いて、765プロのアイドルを繋ぎとめる絆の象徴として描かれるのは巧いなぁと思った。なぜ彼女がメインヒロインの立ち位置にいるのかが理解できたのも良し。


 『アイドルマスター』はスタッフも豪華で、舛成孝二さん、山内重保さん、鶴巻和哉さん、望月智充さん、今泉賢一さんといった監督クラスの方や、ガイナックス繋がり、A-1 Pictures繋がりで多彩な顔ぶれが参加しており、見ごたえのあるフィルムに仕上がっている。それとこの作品で気になったスタッフは高橋正典さんで第7話・第13話・第23話・第25話(連名)で演出、第8話でコンテを担当しているのだけど、参加された回どれも面白かった。今後参加される回が気になる。



 視聴していて、『アイドルマスター』は何期でも出来そうなくらいキャラクターに魅力があるし、話も事欠かないくらいの強度を持っていると思った、ぜひ続編がみたい。今後はもっと他のキャラにもスポットあてた回がみたいな。響や伊織ややよいが活躍する回がもっと見たかった。アイドルの家族が出てくるエピソードがもっとあると厚みが出そうだなと思った。



 2011年を代表する作品の一つであり、紛れもない傑作でした。