いざ言問はむ都鳥/澤木喬

いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)

いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)


 例えば泡坂妻夫「紳士の園」やチェスタトン「名ざせない名前」といった作品群を彷彿とさせる、傑作短編集。
 
 本書を指して「壷中の天」とは編集部の便概であるが、非常に本質をついた評である。
 近景と遠景の境界が溶け合い、全てが同一平面上であったという紙絵的世界を全編に渡って静かに端正に描出する様は、読者に閉塞、幻惑といった陰翳を拒絶させる事なく擦り込み、暗い静謐を与えることに成功している。
 加えて語り手の視点。絶えず移ろい、あまり定まらない茫洋とした焦点で語られる視点に最初は読み辛さを感じたが、読み終えた後にはこの視点なくして作品世界は成立しないことに気付く。
 このアンチ・フォーカスとも言える風景/観察者は作者最大の特徴であり、なかなか得がたい世界・語り・謎を現出させる。
 
 生態学者たる主人公が痕跡を採集するフィールドが、実は自然の中ではなく造園めいた世界であったというアイロニカルな設定も素晴らしいし、バークリーばりのトークライブな推理も良い。
 
 何はともあれ、創元推理文庫最強のカードの一枚であることはいえよう。「日常の謎」系のハシリなんて呼びこみよりも、チェスタトン―泡坂ラインの正統な後継とでも言った方がしっくりくるんじゃなかろうか。埋もれている事が信じがたい傑作。