ヒトカケラ

ヒトカケラ (MF文庫J)

ヒトカケラ (MF文庫J)

 <第三回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作>受賞作。


 電波ー!
 この物語のメインキャラの5人は、全員がオカルト研究会の部員なんですが、主人公=普通、蓬莱ありす=電波、君島麗華=普通、三島純也=電波、真央塚杏=電波と、部員の60%が電波で構成されています。いやはや、凄い主人公です。よく、こんな連中と普通に暮らしていけるな。いきなり「宇宙人に好きだと言われたらどうしますか?」とか、「私のかけらを探してください」と言われたら、普通は引きます。
 第一章で物語は完結して、第二章で一章で語られなかった舞台裏を補足していく形になっているのですが、あとがきを読むと分かるとおり、作者さんが、伏線をうまく隠せないのなら、全部を伏線にしてしまえばいいんだと思ったようで、ほとんどの会話が伏線になっています。そのため、最初から電波的な発言が続出します。最後まで読めば、裏側ではこんなことがあったのだなあと、納得できるようになるのですが、そこまで辿り着くのが難しかったです。
 まあ、電波、電波と言っていますが、別に馬鹿にしているわけではありません。物語の核心に迫る台詞は、最後まで読まないと訳が分からないのですが、それ以外の日常会話は、さばさばした先輩と無邪気な後輩が交わすものだし、時々馬鹿な掛け合いがあって面白い。中盤の山を越えると、後はラストまでただ淡々と進んでいくだけなので、地味という印象もありますが、ラストは綺麗にまとめられていますし、読了後の気持ちは心地よかったです。
 前半は混乱してしまう部分が多かったのが残念でしたが、物語の雰囲気は結構気に入っています。メインキャラの多くが、自分の気持ちを誤魔化すために嘘をついていたり、好きな相手に本当の自分を隠すために嘘をついていたりと、何かしらの嘘をついて暮らしていましたが、真相が明かされた時は、心にじーんとくる優しい話だったと思います。恋愛がテーマの中心に置かれていますし、割と気に入る方も多いんじゃないでしょうか。