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tokujirouの日記

2010-05-05

「碍」と「害」の字の由来

22:19

「障碍」の字の由来について、故丸山一郎先生(元埼玉県立大学教授)は5年前の小論文に「碍の本字は礙であり、大きな岩を前に人が思案し悩んでいる様を示す。つまり自分の意思が通じない困った状態。意思が通らない、妨げられているという同じ意味の障と碍を重ねた障碍は人が困難に直面していることを示す言葉であった」と書いておられます。この「障碍」こそが「チャレンジド」の的確な邦訳であると主張する人もいますが同感です。


内閣府障がい者制度改革推進会議の構成員である佐藤久夫先生(日本社会事業大学教授)が同会議へ提出された資料によれば、佐藤教授は10年前、香港を訪問された際に丸山教授とご一緒に国際リハビリテーション協会(IR)社会委員長ジョセフ・コック氏から上記の「障碍」の由来の話を聞かれたとのこと。


他方「害」の字の由来、語源はどうでしょうか。一般にはこの字にはマイナスイメージがあるといわれていますが確かに害の熟語は全てマイナスイメージでプラスイメージの熟語は皆無です。


全訳漢字海(三省堂)に記載されている熟語は【前熟語】害悪・害意・害毒・害虫・害鳥・害心・害馬【後熟語】加害・禍害・干害・寒害・危害・凶害・公害災害・殺害・惨害・残害・自害・実害・障害・傷害・侵害・阻害・霜害・賊害・損害・毒害・迫害・被害・風害・弊害・妨害・無害・薬害・厄害・有害・要害・冷害であり無害以外は全て負のイメージの言葉です。


しかしながらイメージが悪いというだけで、地方自治体が国に先行して安易に表記を変更するでしょうか。既に10の道府県と5つの政令指定都市が「障がい」との交ぜがきを採用しています。市町レベルでの採用は無数と言ってよいでしょう。そもそも戦後に福祉施策を始めるにあたり傷痍軍人など身体の不自由な人々を総称する際に「障害」を人にあてはめて「障害者」としたこと自体に誤りがあり、それを是正しようとする動きであると考えるのが自然でしょう。

(障碍は碍が当用漢字からはずれ使用できなかった)


そこで「害」の字の成り立ちそのものに単なるマイナスイメージではなく何か決定的な否定的な意味合いがあるのではと思っていたところ、偶々去る4月21日の国会の質疑で馳浩議員から「害」の語源の解説があり納得した次第です。これは先に書いたとおりです。


再び「漢字海」によれば、「害」の語義は(ア)傷つける(イ)犯す(ウ)殺す とあり(ウ)殺す。の例として「為陶謙所害」=陶謙のそこなうところとなす=陶謙に殺された(三国・武帝紀)を挙げています。「殺害」や「自害」に通じるものでしょう。


「害」の【なりたち】の項には以下の記述があります。

(説文)《形声》そこなう。「宀(=イエ)」「口」から構成される。「宀」「口」は、そこなう発言が家の中から起こる意である。「丯」が音。(釈名)「害」は「割」である。物を割り削るようなものである。(釈天)これは馳浩議員の語源の説明の裏づけとなるでしょう。


「漢字海」には「碍」についての語義は動詞が「さまたげる」「制止する」「とどめる」「見えなくする」「さえぎる」「じゃまをする」名詞は「気がかり」と記されています。【なりたち】の項には(説文)《形声》とどめる。「石」から構成され「礙」が音。とあります。


以上のように「碍」と「害」は意味が全く異なりその【なりたち】も違うことが明らかです。加えて「害」には単なるマイナスイメージと言う以上のいまわしい意味すら含まれていると言えるでしょう。


戦前は障碍の対象が主として事物であり、人が対象となったのは戦後、傷痍軍人に対する「福祉」の必要性と概念が発生して以降のことであることを考えると、戦争直後の混乱期に制定された当用漢字から「碍」の字が漏れたことは、その使用実績からしてやむおえないことであったと言えるでしょう。


しかしながら、当用漢字の内閣告示1946年)から4年経過後に「身体障害者福祉法」(1950年)を制定するに当たって「しょうがい」の表記をめぐって議論があったのかどうか。故丸山一郎先生によれば法令で「障害者」の表記が使用されたのはこれが戦後初で、これ以降この表記が普及したとのこと。何の議論もなしに「障碍者」の「碍」の字が当用漢字に無いから、あるいは単に発音が「ガイ」で同じというだけの理由で「障害者」に書き換えられたとすれば無神経極まりないと言わざるを得ません。


更には31年後の1981年に当用漢字が見直され常用漢字に改定された際にも何の疑問も持たれなかったとすれば「有識者」の見識が疑われてしかるべきでしょう。


これは障碍者に対する配慮云々以前の問題です。今からでも遅くはありません。過ちは直ちに正しましょう。

zundamoon07zundamoon07 2010/05/07 12:58  はじめまして。「リハ医の独白」http://d.hatena.ne.jp/zundamoon07/というブログを書いているものです。エントリー内容に感銘を受け、私のブログでご紹介させていただきました。
 語源を探るということは、言葉の本質に迫ることです。Rehabilitationという言葉も、もともとはラテン語に由来し、re(再び)+ habilis(適した)+ ation(すること)、すなわち「再び適した状態になること」を意味します。中世ヨーロッパにおいては「教会からの破門の取り消され、復権すること」を指していました。このことから転じて、名誉回復、復権、更生などの意味を持つようになり、転じて、身体障碍をもった方の医療に用いられるようになりました。
 本エントリーで紹介された「害」と「碍」の違いについては、リハビリテーション専門職養成校の講義でも使用させていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。

tokujiroutokujirou 2010/05/07 17:14 zundamoon07さま 
拙稿をお読みいただきありがとうございます。弊方は普及・啓発を目的に発信していますので講義などでご利用いただければ望外のよろこびです。こちらこそよろしくお願い申し上げます。

遥香遥香 2010/11/22 11:12 こんにちは。
 11月22日の拙ブログにて「『障がい者制度改革推進本部』(本部長・菅直人首相)が、戦前に使用されていた『障碍(しょうがい)』の表記使用を見送る方針を決めたこと」を「産経新聞」(11月18日配信)が報じていたことに対してコメントを作成するに際して引用・参照させて頂きました。私も貴ブログの「字」の由来にまで遡って「障碍」の意味を明らかにした内容を読み「障碍」表記が望ましいと考えるようになりました。
 「障碍者」という表記が一般的につかわれるようになるにはまだ少し時間がかかりそうですが、いずれは「障碍者」が表記として採用される必然性があるように思います。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。

tokujiroutokujirou 2010/11/30 11:54 遥香さま
コメントをありがとうございました。第1ラウンドは敗れましたが第2ラウンドの一歩を踏み出しましたので引続きご支援をよろしくお願いします。「障碍者」表記をどんどん使用し普及を図りましょう。

言葉狩り反対言葉狩り反対 2013/04/13 00:11 http://blog.motoyuki.net/2008/03/post_0492.html
実に参考になる。都合の良い「つまみ食い」はいけませんね。

みゅうみゅう 2014/07/25 08:24 障碍者です。
楽しくもあり、私と母の疑問も解決しました。

みささいっしょうけんめい店みささいっしょうけんめい店 2015/06/09 17:59 はじめまして。「致知」という雑誌にあった記事のなかに「障碍者」の文字をみつけ、意味が知りたくなり検索の末、こちらのページにたどり着きました。
読みやすい文章、説明で、とても感銘をうけました。無知な自分ではありますが、勉強させていただきました。ありがとうございました。
このページにたどり着いたことに感謝。
差し支えなければ、アメーバのブログにも書かせていただきたく、ご了承いただければ幸いです。
お時間ありましたら、「みささいっしょうけんめい店」でご検索ください。
直接アドレスクリックよりは、ご安心して閲覧いただけると思います。
何卒、よろしくお願い申し上げます。
突然のコメントで、乱文をお許し下さい。

多謝無限

tokujiroutokujirou 2015/06/09 18:49 みささいっしょうけんめい店さま       tokujirouです。

「障碍者」の表記に関心を示していただきありがとうございます。

アメーバのブログに書いていただいて結構です。「障碍者」表記
の普及にご協力をお願いします。

massimomassimo 2016/03/29 23:20 私も以前から「障がい者」の交ぜ書きは不自然と思い、何故「障碍」と書かないのか不思議に思っていました。このブログを読んで得心しました。

massimomassimo 2016/03/29 23:20 私も以前から「障がい者」の交ぜ書きは不自然と思い、何故「障碍」と書かないのか不思議に思っていました。このブログを読んで得心しました。

safsaf 2016/10/09 12:23 こじ付けですね。害も碍もおなじ、「邪魔するもの」を意味する。
違う漢字を使おうが、ひらがなを使おうが、同じ意味。
健常者の自己満足に過ぎない。

通りすがり通りすがり 2017/08/28 07:50 私も以前から障害でも障がいでもなく障碍と書くべきだと思っておりました。ご説全く同感です。
ただ、やむおえないはやむをえない(止むを得ない)のお間違いだと思いますので老婆心ながら。

AmatiAmati 2017/09/03 07:02 ただの言葉遊びであり、障害を障碍とすべきというのは違和感以外の何者でもありません。
「害」は「殺す」「そこなう」それで何の問題があるのでしょう?
「しょうがい」とは機能が殺されている状態、損なわれている状態。どこが違うのでしょうか?

逆に「碍」が「妨げる」「邪魔をする」という意味ならば、その邪魔を取り除けば機能が回復するという意味です。
「しょうがい者」の人たちは何かが邪魔で機能が使えない人ですか?多くはその人の特性だったり、欠損していたりであって、何かが邪魔をしているわけではありませんよね。
邪魔があるということは、そのもののせいに出来るということです。
つまり、そのもののせいにして逃げる口実を与えているんです。

「しょうがい」に向き合うには先ず自分の特性に向き合うことから始まりますよね。
だれかや何かのせいにすることではありませんよね。
私には「障害」を「障碍」と書く人こそ障害者の邪魔をしているようにしか思えませんね。