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2014-10-31

★(日本人)/橘玲


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この本は書名からいって日本人論ということになろう。しかしなんだか大回りする。進化生物学を通して人間全体を考え、グローバリズムとアメリカを考え、日本のむしろ官僚や政党を考えるといったぐあいに。

そして終盤、やや唐突に以下のように述懐する。

国際的な価値観調査によれば、日本人は世界でもっとも世俗的な国民だ。

 日本人は世界の誰よりも、「他人に迎合するよりも、自分らしくありたい」「自分の人生の目標は自分で決めたい」と考えている。ご利益のない神を信じず、地縁も血縁も捨てて「一人一世帯」の無縁社会に生きている。こうした特異な価値観を私たちは当たり前のことと思っているが、じつは日本人は歴史の最先端に建っているのかもしれない

しかし、この述懐は私の心情にぴったり張り付くように感じた。しかも、日本人を考える土台として、なぜか進化生物学やグローバリズムをめぐりたくなる心情も、やはりとてもわかる気がした。


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橘玲という人は、前に『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』を読んだときから、他の誰とも微妙に重ならない意見を静かに指摘していると思ってきた。しかしそれゆえカテゴライズしにくくもあり、ただずっと気になる存在だった。

のだが、今回は日本全体さらには世界全体に関する息の長い考察が展開されるなかで、この人の核心が見えたと思った。というか、最終的にリバタリアンであることをカミングアウトする一冊と言っていい。(べつに今まで隠していたわけではなく、ただ私がズバリそうは理解していなかったということだが)

この立場から著者は、近代の自由と民主主義や現在のグローバルスタンダードを普遍的な価値として肯定する。それにとどまらず、リバタリアンのいわば一歩手前にある新自由主義(ネオリベラリズム)を明瞭に紹介して推挙する。しかも、そのネオリベを体現したシンボル的存在として注目するのが橋下徹大阪市長なのだった。

アメリカ的グローバリズム、新自由主義、橋下徹……。左翼思想になじんできた者なら表立って礼賛しにくいというか糾弾すべきはずのものが並ぶ。橘玲に気になりつつもどこか遠巻きにしていた気持ちは、こういうことが理由だったのだろう。

橘玲が『宝島30』の編集者だったという情報も、同じように私の気持ちに作用する。

要するに、私は、経済や政治のグローバル化だけでなく新自由主義や橋下徹市長も全否定できないのだ。かつての『宝島30』も同じだ。それどころか、これらにこそ思想的オルタナティブを、内緒で、しかし長く感じ取ってきたのだろう。少なくとも硬直化した一部の左翼思想から脱するか転じるかの劇薬をここに見つけ出せるのではないかと。


まだ回りくどい。たとえばこう考えてみてはどうか。

「日本の従軍慰安婦だけは戦時女性差別のなかでも特別に悪い」という見解がグローバルスタンダードと呼ばれるように、「TPPに参加しないのは悪い」という見解もまたグローバルスタンダードなのである。


なお、上のことを考えたのには、同書とともに以下の神保哲生と萱野稔人の対談も影響した。

http://www.youtube.com/watch?v=UanXGI8OZ2s

この対談は1年前の従軍慰安婦問題に関する橋下市長の記者会見を丁寧に分析し批判している。今年は朝日新聞が誤報を認めたことで従軍慰安婦問題が大いに議論され私としても大いに勉強になったが、そのあとからこの対談を見て、従軍慰安婦問題の核心がむしろ初めてわかった気がした。


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さてさて本来のテーマたる日本人論について。同書のどこにうなずいたのかというと、一神教的な神を信じる体験が私たちには乏しいという点が中心だ。それは「死んだらおしまい」「ひたすら孤独」ということでもあろう。


この日本人の孤独については、またまた相当大回りになるが、西村賢太の『苦役列車』なども私には参照項となった。

◎苦役列車について( http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20140919/p1


以下も日本人の孤独をめぐるエントリー。

◎ 曖昧と妥協(http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20140726/p1

◎日本病の幹細胞 発見!(http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20130922/p1


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橘玲は、新大久保などでのヘイトスピーチや浦和レッズサポーターの差別的横断幕をめぐって、「新大久保も埼玉スタジアムのように私的空間として管理すれば解決する」と、きわめて特異な意見を述べていた(以下)。これもまさにリバタリアニズムの立場からだった。

http://www.tachibana-akira.com/2014/05/6407


ほかにも、海南島の踊る人々についてレポートしていたかと思えば、『亜玖夢博士の経済入門』で不完全性定理について書いたりと、活動は幅広い。

◎海南島の踊る人(http://d.hatena.ne.jp/tokyocat+travelog/20130104/p1)=いちばん下=

亜玖夢博士の経済入門/橘玲

 亜玖夢博士の経済入門