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2004-10-03

六本人 歩く

わが日記に、本はよく登場するが、人はほとんど登場しないと気づく。しかし先日は珍しく人に会うために六本木まで出た。1年ぶりに顔を合わせた2人とランチ。両者とも界隈のオフィス(一人はヒルズのタワー)で勤務中のくせに、そろって素足にビーチサンダルで、驚く。気持ち良く晴れた日。本当は私もサンダル気分だったが、六本木というハレの磁場におされてスニーカーにした。ところで1年前このメンバーで同じ店でランチした日も、このスニーカーだったと気づく。いやそれは出かける前から気づいていた。

「夫がスリランカの仏教にハマっている」という話が出た。瞑想を積極的に実践する原始仏教で、さる高名な師が日本にいて注目されているらしい。教えてもらったサイトには「ヴィパッサナー」と呼ばれる瞑想について説明があった。

参照→http://www.j-theravada.net/4-vipassa.html

で、その瞑想の3原則というのが「1スローモーション 2実況生中継 3感覚の変化を感じ取る」。《一つ目は、スローモーション。からだをふつうのスピードで動かすのではなく、できるだけゆっくりスローな動きで行うこと。》 おや、この原則1は、私はすでに日々実践に励んできていたのでは? …とこれはあながち冗談でもない。《自分を徹底的に観ることです。自分が自分自身の主宰者でいられるのは、この○○○を実践している時だけとも言えるでしょう。それ以外は、自動的な反応で行動したり、他人や外部から操られているようなものです》。○○○にはもちろん「ヴィパッサナー」が入るのだが、試しにこれを「ブログ」に置き換えてもその境地は窺える。…なんて言うと師に怒られるか。それでも「2 実況生中継」「3 感覚の変化を感じ取る」と、なおさら神妙な気分になる…。


 *


しかし私の師というなら、やっぱりこの人、中島義道か。『どうせ死んでしまう……』。あまりに正しいフレーズ(書名)に、溜め息しか出ない。論点のひとつは、《どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではならないのか》という抜き差しならない問いだ。しかしもう一つの、仕事をめぐる問いがさらにラジカルだった。

《仕事を厭々ながら続けている人は多いと思う。そういう人は一つだけ確実に真実を見ている。それは、所詮いかなる仕事も、それほど重要ではないということである。じつは、地上には命を賭けるに値するほどの仕事なんか、まったくないのである。》この先制パンチに続き―― 

《私の眼が腐っているのか、私はいかなる仕事を見せつけられても、虚しさがこみあげてくる。寿司屋は毎日寿司ばかり握っていて楽しいのだろうか。消防士はいつも火を消してばかりいて厭にはならないのだろうか。バスの運転手も一日中運転ばかりして、アホらしくならないのだろうか。》

《いま生きている他人のために道路を造ること、少し後の他人のために構造改革を断行すること、ずっと後の子孫のために緑の地球を残すこと……こうした仕事にあなたの時間をすべて譲り渡して、もうじきあなたは死んでしまう。それでいいのであろうか。あなたが懸命に「その人たちのために」と思って仕事に励んできたその人々も、やがて生まれて来るあなたの子孫たちも、いずれ跡かたもなく死んでしまう。》

《そのことを知って、目前の仕事に命を懸ける。はたして、ほんとうにそれでいいのだろうか。「いい」と即断する人は、この残酷さについて徹底的に考えていないからなのだ。思考を停止しているからなのだ。明日、人類も地球も宇宙も滅亡することがわかっているとき、大学改革のために会議を招集するであろうか。新車を開発するであろうか。》

いやまったく、つくづく「ほんとうにそれでいいはずがない」。そして、このような問いをほんとうに問う人が、こうしていないわけではないのだという事実に、ふと救われる。いや、こういう人はただひっそりしているだけで、世の中にそれほど少ないわけでもないのではないかとの予感もわきあがる。おかしなことに、そういうことに気づいたときほど生きていることが楽しいと思えることはない。

でもこういう話は、観念的というのか思弁的というのか、そういう印象にしかならない怖れがあり、それではまったく紹介した甲斐がないので、さらに引用しておく。世間的つきあいをことごとく断ってきた著者が、そうした「半隠遁」の意図をこう述べるのだ。

《簡単である。明日にでも死ぬかもしれないからである。いつもそのことだけを考えていたいからであり、そのことが自分にとって最大の問題であると確信しているからである。テロの撲滅より、不況の克服より、東アジアの安定より、「しばらく前に生まれてきた(勝手に生まれさせられて)、たちまち死んでいかねばならない」というこの絶対的不条理を問いつづけることが、人生においていちばん重要な課題だと確信しているからである。私は「ああ、残酷なことだなあ」と呟きながら眼を醒まし、「ああ、残酷なことだなあ」と呟きながら眠り込む。この残酷さに比べれば、いかなる人間のなす残虐非道も悪行もささいなことに思われる。》

このオジサン、マジだと思う。少なくとも私がマジである程度には、間違いなくマジだ。

『どうせ死んでしまう……』 ASIN:4048838865

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