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【2019 輪廻転生】

★予告殺人 ★そして誰もいなくなった/クリスティ


 予告殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


このあいだアガサ・クリスティの話になって、『予告殺人』がベストですよと言われたので、読んでみたら、期待を超えて面白かった。その流れで『そして誰もいなくなった』も未読だったので読んでみたが、腑に落ちる感は『予告殺人』のほうが はるかに勝る。

それにしても、クリスティは『アクロイド殺人事件』『オリエント急行殺人事件』『ABC殺人事件』くらいは読んでいたが、前世(というか少年・青年期)の話なので、あまりに懐かしかった。この3作+今回の2作だけで概観すると、クリスティは純粋な本格推理というには、どの作も変則的だ。

ただ、19世紀っぽさがまだかすかに残るような、英国の屋敷と生活、人々の職業と振る舞い、といったものの雰囲気が想像できる気がして、やっぱり楽しい。というか、私のなかで推理小説といったら、そうした伝統的な西洋屋敷そのものかもしれない。

それにしても、2作とも一晩ずつで一気に読んだ。このスピードには自分で驚いた。5年かかっても読み終えない本棚の『逆光』のことを久しぶりに思い出した。

ところでウィキペディアの「アクロイド殺し」のページ、犯人が書いてあるのは、まずいんじゃね?

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本格推理は10代に読んだものの影響がいびつに大きく、私としては『黄色い部屋の謎』『オランダ靴の謎』『アクロイド殺人事件』がベスト3か。あと『皇帝のかぎ煙草入れ』とか。国内作では結局『不連続殺人事件』が最も忘れがたい。松本清張宮部みゆき東野圭吾などは謎解きに限らない魅力。

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ジャンルのはっきりした小説は読みやすいし、書きやすくもあるのではないか。つまり推理小説は表現としてのゴールがブレないし正解というものが必ずある。そうしたゴールや正解について合意や典型がなく、書く人や読む人の中にそのつど見出すしかない小説を、「純文学」と仮に呼ぶのだろう。

(人生もいろいろ大変だけど、当面の仕事がとにかく大変だと、まあ人生のほうはしばらくおいておくか、となるのが常の、秋の週末)

まとめるわけではないが、人生はどうなのか。ゴールや正解に合意や典型があるような、ないような。いやそもそも人生は、小説のように必ず語ったり語られたりするとも限らない。そして、ある人生が幸いにも語られる場合の形の1つが小説だったり日記だったり、ひょっとしてブログだったりするのか。

いやもちろん、小説は人生を語るためだけにあるのではない。従来の文章表現に対して、形式も内容も何でもあり、ということで近代の小説は始まった、などともよく言われる。今のブログやツイッターの自由自在さにも近かったのだろう。その長さと流通する個数があまりにも違うけれど。