認知症が始まった。

「おい、お金を出して来てくれんか?」 父からキャッシュカードと暗証番号が告げられ、銀行に向かったのが半年前の事だった。 気安く請け負い、銀行の自動払い戻し機に暗証番号を入れると 「このキャッシュカードは使えません。詳しくは窓口へ。」と出てくる…

薬局薬剤師の果たすべきこと。

12月10日の日本経済新聞:経済教室欄に、慶応大学の駒村康平教授が「診療報酬改定の論点〜薬局薬剤師の役割見直せ」と題する記事を書かれている。 診療報酬は、財務省の決める配分比率を受け、細かな中身を中医協で決めていく。 これまで医科・歯科・調剤(…

「悪の凡庸さ」と思考する力

「全体の利益を個人の利益より優先する」だけではなく、個人の私生活なども積極的または強制的に全体に従属させる。 ウィキペディアによると、政治学上で「全体主義」を定義するとこうなり、個人主義の対義語となる。 個人に従属すべき情報も、時に国家に対…

美しい国

私が住む西宮市の東端には、南北に流れる武庫川がある。 先日、ボーイスカウト活動をしている知人がやってきて、やおら話し始めた。 「この頃ね、武庫川に住む魚が減って来たわあ。4種類ぐらいしかおらへん。」 「へえ、そうなんですか。それって、あの川床…

店頭でしかわからない事・・・ネット販売について

「あれ、ちょっと太りました?」 ある日の朝、店頭にやって来た女性の顔が、ひと月前より確かに丸くなっている。 「わかる?体重計に乗るとね、やっぱり太ってるのよ。でもね、食べる量は変わらないのよ。運動だっておんなじぐらい動くし。でね、夕方になる…

 右向け右

学生時代、朝礼や体育祭の整列の時に良く聞いた「右向け右、前へならえ。」。 社会人になってからは、とんと聞きなれぬ言葉になった。 ただ、その言葉から思いつく姿は、テレビのニュースでよく見る。 国家主席を前に行進する軍隊。高くあげられる足に、揃っ…

一般医薬品ネット販売解禁・・・第三の矢

2013年6月5日夕刻、安倍首相が経済政策「アベノミクス」の中核に位置づける成長戦略、いわゆる第3の矢を放った。この成長戦略の主旨は、規制緩和を推し進めることで民間活力を高め、国民総所得を高め、生活を豊かにするところにある。 医療においては、再生…

お食い締め

新生児は、生後100日頃に乳歯が生え始める。 その頃「一生涯、食べることに困らないように」との願いを込めて、父母はわが子に食事を摂る真似をさせる。 「お食い初め」 昔から子供の成長を願って行う儀式には、家族の深い思いが詰まっている。 嚥下反射が衰…

ヘイフリックの限界

私の好きな江戸落語の噺の一つに「死神」がある。 遊んでばかりで借金を重ね、嫁にまで愛想を尽かされた男が、死に場を求めて探している間に”死神”に呼び止められる。 趣味が人助けである”死神”は、男に治る人間と死ぬ人間の見極め方法と、病気を治す呪文を教…

前夜

*前夜 血行不良で紫色に腫れあがった足。その処置のために入院していた在宅患者が、新年を前に退院してきた。 認知症のために毎食後は飲めない、一包化しないと飲めない、粉薬も飲みにくく、要介護2の独居生活者だと紹介状に記して送り出していた。 退院し…

ある独居老人の現実

私が関わる在宅医療は、概ね高齢者が独居、或いは夫婦二人で自宅に住んでいるものばかりになっている。 その理由の一つは、所謂施設が在宅医療を必要とする高齢者が多く住んでいる理由から、効率良く訪問できるのに対し、個人宅は非効率な為、多くのチェーン…

 ある老女の死

齢90を越える老女は、早くに主人を亡くし、独りで暮らしてた。 確かに年相応の認知障害・運動障害も出てきてはいたが、金銭感覚も充分あり、食事や買い物介助で暮らす事が出来た。 若い時から自立した女性で、土地や自宅の資産もあり、現金も十分蓄えていた…

映画「ももへの手紙」

瀬戸内海に浮かぶ汐島。呉からこの島に向かうフェリーの甲板の上で、少女は母と一緒に周りの風景を見ているのだが、その表情はあまりにさえない。 そんな風情とは裏腹に、彼女は四つ折りにした一枚の紙を固く握りしめている。 それは、「ももへ…」と書かれた…

独りで生きる。

「あのお寿司変わってたねえ。人参太いのが丸ごと入ってるもん。」 「そやろ。干瓢と一緒に巻いてん。胡瓜の漬物丸ごと一本もあったやろ。」 晩御飯の足しにと、時々おかずを作っては持ってくる親父は86歳。 目も耳も衰えておらず、最近はカメラに凝って平日…

睨みを利かすカレーパン

遡ること4日前の日曜日。 その日、妻は所用で朝早くから外出。 「確定申告書いといて。」 の言葉に、二人分の申告書を食卓で作成していると、1時過ぎだろうか、娘が「よく寝た。」の声とともに起きてきた。 「もう昼過ぎ。お昼ご飯用意せんと。」 と話すと、…

コンパッショネートユース(CU制度)

重度の病気で他に治療法がない患者に対し、海外で承認されていて国内で未承認の医薬品を提供するする制度を「コンパッショネートユース」という。 この制度は、アメリカ、ヨーロッパ(EU)等では既に導入されており、がんなどが進行し、新薬の審査・承認を待…

高齢者が住む家

川に向かう坂の途中に、その住居はある。 大阪と神戸、その真ん中に位置するこの地に建てられた県営住宅は、築30年を超す。 復興を支え、戦後を支えた人達が住んだこの住宅も、いつしか齢を重ね、今は住人が大方70歳を超えた。 階段だけだったエントランスが…

映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

広汎性発達障害の為、高度な知能を持つが、人とのコミュニケーションがうまくとれず、奇異な行動をとる11歳の少年オスカー(トーマス・ホーン)。 少年の父(トム・ハンクス)は、その障害も含めて息子の全てを受け入れ、理解し育てようと努力する。 そんな…

映画「50/50」

2011年12月初旬、前立腺がんの転移により一人の男性患者が亡くなられた。 彼が気付いた時には、既に前立腺がんは骨にまで転移していた。 そして彼はリビングウィルを書き、何も治療をせず生きていく事を選んだ。 妻も、その子供たちも、その考えを尊重し、家…

プロボノ活動

2011年12月11日午前10時。 大阪地下鉄本町駅の西隣、阿波座駅を降りて数分歩いた裏通りに目指すビルがあった。 1回はビルの車庫。階段を上がった2階に、一つのフロアを複数の企業が共有するスペースがある。 ここで行われる説明会を聞く事が、私のその日の目…

映画「エンディングノート」

人は古より不老不死を請い願う。 紐解かれる歴史の中に、いかに人がこの事に情熱を費やしたかを見る事が出来る。 しかし、決して変わらぬ事実がある。 人は必ず死ぬのである。 映画の冒頭、主人公の葬式が始まる。 四谷イグナチオ教会。 行われている葬式の…

ある急患の夜

「大雨警報が出たね。」 いつもより早く帰れた今日、テレビを見ながら夕飯を作る娘に声をかけた。 奥様は中学校の同窓会とかで、とうの昔に出かけている。 その時、電話が鳴った。 表示を見ると○○診療所からだ。 「悪いね。○○さんに薬をお願いしたいんだけど…

垣添忠生と妻を看取った8人の男達

手術後の検査の結果が出た。 結果は「多発性転移」 ガンの手術は完璧だった…それなのに。 全てを妻に告げると、妻は健気に笑った。 「あなた、私がいなくなると寂しいわよ。」 独り、医師は妻を自宅で看取った。 「妻との約束は二つあったんです。 一つは世…

流動性の罠

8月になって、米国信託保管銀行大手のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)が、大口法人顧客に対して、預金手数料の徴収に踏み切った事をご存じだろうか。 預金する事に手数料がかかるのである。 「えー、なぜお金預けるのに手数料がかかるの?…

リタルダンド

リタルダンド。 音楽用語で「だんだん遅く」という意味。 齢50を超え、再婚も果たしたばかりで、若年性アルツハイマーに罹った音楽雑誌編集長の主人公。 仕事のスケジュールを忘れ、地図が読めなくなるなど、少しずつ記憶が消えていく恐怖。 その主人公を支…

プライド

東関東大震災によって、広範囲の地域で多くの人々が被災した。 同時に、地震に起因する福島原発事故は、人々だけでなく、日本の経済、そして世界レベルでのエネルギー問題までにも多大な影響を与えた。 今後日本は一時的に急激な景気悪化を招く。復興の為に…

ブラックスワンとべき分布

大恐慌は、理論的には数万年に1回しか起こり得ないという。 しかし、実際にはサブプライムが起こったように、数十年に一度起こっている。 つまり、確率論や従来からの経験則で類推できる無いような事が実際には起こっており、それを総称して「ブラックスワン…

余命こそ人生の本番

いくつかの理由がって、永らくブログを更新していなかった。 ところが、最近ちょくちょく知人や患者さんからの「ブログ辞めたんですか?」という声を耳にする。 こんな日記でも読んで下さる方がいる事が嬉しいものだ。 幸い更新しなかったおかげで、ネタは沢…

自負というプライド

東関東大震災によって、広範囲の地域で多くの人々が被災した。 同時に、地震に起因する福島原発事故は、人々だけでなく、日本の経済、そして世界レベルでのエネルギー問題までにも多大な影響を与えた。 今後日本は一時的に急激な景気悪化を招く。復興の為に…

川辺に咲く桜

その桜は、阪神大震災で倒れた。 もう花は咲かず、朽ち果てるのだと思っていた。 当時、私はボーイスカウトのリーダーをやっていた。 一人のローバースカウト(大学生)が、この川の上流で家族とともに地滑りにあい、埋まった土砂の中の自宅から遺体となって…