■プライマリー・バランスを超える財政赤字の正当化

鍋島直樹『ポスト・ケインズ派経済学』名古屋出版会

鍋島直樹さま、ご恵存賜りありがとうございました。

 ポスト・ケインジアンは、民間の貯蓄が超過している場合には、政府が赤字財政の下で公共投資をするべきだ、と発想します。
 むろん、「財政赤字」が深刻になると、かえって経済を不活性にしてしまうでしょう。ですがポスト・ケインジアンは、それほど深刻に考えないようですね。86頁参照。
 「投資に対する貯蓄の潜在的な超過が存在するときにのみ財政赤字の必要が生じる」というのはその通りですが、では民間の貯蓄が、投資に対して慢性的に超過している場合は、どのように考えるべきでしょうか。
 GDPの成長率が国債金利よりも高い場合に、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の赤字は持続可能、というのがこの学派の教義(ラーナーの機能的財政アプローチ)でありますが、この考え方に問題はないでしょうか。
 この場合、GDPの成長率と金利は、実質で考えても、名目で考えてもよい、ということになっているようですが、たとえば名目で、GDPの成長率がほぼゼロになる場合には、貯蓄が慢性的に超過している場合でも、財政赤字は正当化できないことになりますよね。そうした事態において、この学派はどんな政策を提案するのか。興味を持ちました。

■日本で成功した唯一の革命とは

大澤真幸『日本史のなぞ なぜこの国で一度だけ革命が成功したのか』朝日新書

大澤真幸様、ご恵存賜りありがとうございました。

 大変スリリングに読みました。
 北条泰時に対する追討命令が、朝廷から出されます。関東の武士たちは動揺したでしょう。それまで武士たちは、全面的に朝廷に対抗したことはなかったからです。
 泰時は、最初は「無条件降伏」を支持したようです。どうも優柔不断だったらしい。
 でも最終的には、北条泰時天皇側の軍に勝つ。これが「承久の乱」(1221)です。
 それで戦後、泰時は
(1)三人の上皇流罪にした。
(2)幼い天皇仲恭天皇)を廃した。
(3)出家していた後鳥羽の兄を還俗させて、上皇とするとともに、その息子を後堀河天皇として即位させた。
 さらに泰時は、京都に六波羅探題をおいて西国と東国を統一。
 加えて、最も重要な偉業を成し遂げます。関東御成敗式目という法律を定めるのです。合議体の評定衆によって(つまり人々の共同意志によって)、裁判の公正性を保つという制度ですね。
 御成敗式目は、国外の法を導入するのではなく、国内において、自発的な仕方で(つまり固有法として)法を築いたものでした。これによって泰時は、幕府が朝廷と対等な、正統な支配者であることを明らかにします。
 日本人はこのとき、自分たちでいわば内側からの共通意思でもって、天皇の権威を借りずに、法を制定することに成功した。いわば憲法制定権力を共同で行使したのだと。これが革命の本質であるというわけですね。
 これはハーバーマスの考える憲法制定と革命の関係に近いでしょう。この革命の理念照らしていえば、第二次世界大戦後、私たち日本人がすべきであったことは、昭和天皇を廃して別の天皇を擁立することであり、またその上で、アメリカの圧力から脱して、自分たちで内側から憲法を制定し、天皇制に依存しない権力の正統性を打ち立てるべきであった、ということになるでしょうか。

■戦略家グナイゼナウ

橋爪大三郎『戦争の社会学光文社新書

橋爪大三郎さま、ご恵存賜りありがとうございました。

 貧乏な家庭に生まれたアウグスト・フォン・グナイゼナウ(1760-1831)は、軍人になり、アメリカ独立戦争にはイギリス軍として参加しました。帰国するとプロイセンの軍に加わります。
 グナイゼナウは、ナポレオンの作戦の特徴を研究します。
 ナポレオン軍の戦略は、敵の主力に、敵を上回る兵力を集中させて決戦を挑むというものでした。敵が崩れて撤退すると、そこを追撃して、立ち直れなくする。
 この戦略に対抗するためには、けっして決戦に応じない、その前に撤退する、というのがグナイゼナウの考え方でした。もっとも相手が退いたときには追撃を加える。これを繰り返していれば、決して負けない。軍事力は消耗しない。最終的には、ナポレオン軍のほうが消耗して、勝つことができるというわけですね。
 ワーテルローの戦い(1815)でも、こうしたグナイゼナウの采配が光りました。
 ベルギーのワーテルローでは、互角の戦いが続く中、それ以前に敗走したはずのプロイセン軍が、ふたたびナポレオン軍のまえに現われる。側面を突かれたナポレオン軍は総崩れになり、パリに戻ったナポレオンは退位しました。

■『職業としての学問』を徹底的に精査した労作

ヴェーバー『職業としての学問』の研究(完全版)

ヴェーバー『職業としての学問』の研究(完全版)

野粼敏郎『ヴェーバー『職業としての学問』の研究』晃洋書房

野粼敏郎様、ご恵存賜りありがとうございました。

 野粼先生の研究人生のなかで、おそらく主著になるであろうご労作であると思われます。粘り強い研究の末に、包括的な研究の成果を一書にまとめられましたことを、心よりお喜び申し上げます。
 あるべき研究者の像は、いわゆるプロテスタンティズムのように一つのことに専念するタイプではなく、今井弘道氏がいうような、批判的な市民であるというわけですね。専門化がすすむ学問において、自らの本分を信じて邁進するだけでなく、その学問の意味を批判的に問い返して、社会生活の場面においては市民として発言し行動する。このように制度のなかで埋没しないことが重要である、という主張は、まさに今日のリベラルにふさわしい立ち位置であると思いました。

シノドス国際社会動向研究所シンポジウム01

シノドス国際社会動向研究所」(略称「シノドス・ラボ」)の企画の第一弾として、
下記のようなシンポジウムを開催します。

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「若者の政治参加と社会運動――シノドス国際社会動向研究所シンポジウム01」
富永京子×橋本努×仁平典宏

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参加無料です(申込が必要です)。
詳しくはこちら→http://synodos.jp/info/19670
若者の社会運動から、「新しい中間層」とその政治の可能性を考えます。
是非、ご参加いただけるとうれしいです。

以下、同HPの内容をそのままコピーします。

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2011年の東日本大震災以降、若者たちを中心として、路上での抗議行動が盛り上がった。脱原発運動や特定秘密保護法に対する反対運動、安保法制反対デモである。ところで、かつてゼロ年代にも、若者たちは反貧困運動や反グローバル運動に従事している。それでは、ゼロ年代の若者たちと、震災後の若者たちのあいだには、一体どのような違いがあるのか?

ゼロ年代に見られた運動の担い手には、問題の当事者性をめぐってふたつの類型がみられた。ひとつは、問題の当事者でないにもかかわらず、途上国や貧困層のボランティアや支援にあたる人びと。もうひとつは、自らが「貧困」「不幸」であるという強いフレームを掲げて、当事者としての立場から貧困運動に携わる人びとであった。

ゼロ年代の運動参加者たちと、2011年以降の運動に参加する人びとは、同じく社会運動を担う「若者」であるが、社会問題への関わり方が大きく異なっている。

かつての反貧困運動の中では、運動に従事した者たちは、格差・貧困問題に即して「若者」というアイデンティティを構成した。しかし、安全保障・特定秘密法案というテーマに即すとき、それとは別の構成の仕方が必要になる。そこでサブカルチャーを共有していること、デモに用いられる「パロディ」や「ネタ」を共有していることが、「若者の運動」であるとアイデンティファイするひとつの要素になった。

さらに重要な点として、自分を社会の中でいかに位置づけるかという問題がある。安保法案反対デモ、特定秘密保護法反対運動に従事する若者たちは、自分たちを「不幸」とは捉えない。自らは幸福で豊かだが、しかし安保法案や特定秘密保護法のもたらす問題を、将来的に自分の生活に被害をもたらす課題として捉え、運動に関わった。それは典型的な中道左派的運動でもある。

これまでの中道左派的な運動は、普段から政治に関心を持たないような人びとへの要求をそれほど行ってこなかった。なぜ2011年以降の若者たちは、「普通の人びと」への訴えかけを熱心にしたのか? そこには、震災後の社会や市民の見方における転換があるのではないか?

以上のような動きは、市民が自らの「声」を政治に届けようとする試みであり、シノドス国際社会動向研究所(シノドス・ラボ)が目指すところの「新しいリベラル」や「オルタナティブな市民」像を構想する上でも重要な事例である。そこで、富永京子による新刊『社会運動と若者――日常と出来事を往還する政治』(ナカニシヤ出版)を題材とし、「若者の政治参加と社会運動」をテーマにシンポジウムを開催する。

震災後の若者の社会運動は、どのような社会変動を映し出しているのか? また、日本にかぎらず近年、台湾・香港の社会運動や、アメリカから世界に広がったオキュパイムーブメント(占拠運動)など、国内外でさまざまな若者の運動が見られたが、これらは果たして「新しいリベラル」の台頭と言えるのだろうか?

シンポジウムでは、『「ボランティア」の誕生と終焉』(名古屋大学出版会)の著者、仁平典宏氏をお招きし、シノドス・ラボ理事の富永京子と橋本努が、社会運動のみならずボランティアという形を含めての政治参加、それらが提示するオルタナティブな社会のありようについて、議論を通じて考えていく。


シンポジウム詳細

日時:5月20日 15時30分〜17時30分

場所:NagatachoGRID地下1階「SPACE0」

参加費:無料

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下記のホームページの「フォーム」よりお申し込みください。
http://synodos.jp/info/19670

会場はこちら。
https://grid.tokyo.jp/

仁平典宏さんの著作『「ボランティア」の誕生と終焉』。

「ボランティア」の誕生と終焉―〈贈与のパラドックス〉の知識社会学―

「ボランティア」の誕生と終焉―〈贈与のパラドックス〉の知識社会学―

シンポで取り上げる富永京子さんの著作。

社会運動と若者:日常と出来事を往還する政治

社会運動と若者:日常と出来事を往還する政治

昨年出た以下の本が、富永さんの処女作です。

以上です。

「シノドス国際社会動向研究所」設立に向けて

「新しい政治を生み出すために、シノドス国際社会動向研究所をつくりたい!」

このメッセージとともに、先月、研究所の設立に向けてクラウド・ファンディングをはじめました。

https://camp-fire.jp/projects/view/21892

これまでファンドに協力していただいたみなさま、心からお礼申し上げます。

また、この機会にシノドス国際社会動向研究所の趣旨にご賛同いただけましたら、
あと残すところ6日の募集ではありますが、どうかサポートしていただけますと幸いです。

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いま私たちは、この研究所の設立に際して、
「一般社団法人」の資格を得るための手続きを進めています。
さまさまなルールを決めて、定款を作成しました。
各種の書類を揃えて、できれば四月から本格的にスタートさせたいと思っています。

最初に企てる研究・社会調査は、
まさに「新しい中間層の可視化」です。
私たちはいま、この研究を進めています。

この他にも、さまざまな研究をすすめていくつもりですが、
この研究所の運営、あるいは理論的なバックボーンについてのアイディアは、
当初、韓国の「中民研究所」のハン・サンジン氏から得ています。

http://www.earnglobal.org/main/z2_main.php

もちろん私たちが目指すところは、この研究所とはまったく別のものになるでしょうが、
一つの先例として、これからも参照していきたいです。
社会科学の研究を通じて、政治に貢献するための回路を作り出したいと思っています。

シノドスでは明日以降、この研究所の設立をめぐって、「鼎談」を載せる予定です。

http://synodos.jp/

こちらもよろしければご訪問いただけますと幸いです。
引き続き、どうぞよろしくお願いします。