原田芳雄が死んだんだね

http://www.asahi.com/health/news/TKY201107190338.html
無頼派アウトロー的でかっこいい、世代的にはやや上の部類なんだろうが、かっこのいい、感情移入できる役者さんだった。映画少年だった10代から20そこそこの頃には、この人の映画を沢山観た。
遺作となった「大鹿村騒動期」のプレミアム試写会に車椅子姿で出ているのを写真で観たときには、あまりの変わりように驚きつつも、相当な重病、たぶんガンなんだろうなと思った。そしておそらく長くないのだろうなとも。それでもこんなに早く逝ってしまうとは。
それで昨日から持っているDVDをひっくり返して、この人の主演作を観てみた。やっぱりこの人の代表作はというと、私の場合はこの映画になる。

この摩訶不思議な映画、おそらく鈴木清順監督のベストワン作品にして、原田芳雄の代表作だろうと思う。無頼なイメージそのままに演じた中砂糺なる人物は、生と死の間を行きつ戻りつする不思議な人物像だった。
何度も何度も観た映画だが、その難解さは半端なく、観る者の理解を拒絶するようなところがある。今回10数年ぶりに観たのだが、意外に面白く観ることができた。ひょっとしたらこの映画は、鈴木清順監督の遊び心満載の映画、理屈でわかろうとするのではなく、映像美や様式美、イメージのコラージュみたいなものを楽しめばいいのではと思った。気軽に観れば、みょうに安っぽい冗長さとかも面白かったりもする。
しかしやはり鈴木清順は一流の映画監督である。女優をとにかく美しく、美しく撮る。大谷直子大楠道代の美しさといったらない。女優をとにかく美しく撮るという部分ではヒチコックとあい通じるものがあるなとさえ思う。
さらにあくの強い原田芳雄の過剰なまでの演技は、妙に素人っぽい藤田敏八との対比の中で倍加するかのようだ。おそらくこの映画の原田芳雄は一世一代の演技をみせたと思う。
次に彼の出世作ともいえる黒木和雄監督の「竜馬暗殺」。これはそれこそ三十年ぶりくらいに観たように思う。当時としては妙にレトロな活動写真のようなモノクロの映像に、まあいっぱしの映画少年だった私なぞは、けっこう新鮮味を覚えたものだ。でも今観返してみると、意外に面白くもない。あまり斬新という気もしない。
この時代にあっては新しい竜馬像を作ったという原田芳雄の演技も、なにか普通に原田芳雄的であったりもする。若い時にはもっと思い入れたっぷりに愉しめたのにと思いつつも、少々残念な映画という感じだ。 最後に観たのは再び鈴木清順監督の「陽炎座」。これは「ツゴイネルワイゼン」の翌年に製作された映画である。前作同様、凝った映像、イメージを紡いだような映画だが、やや軽るみにふったようなところもあり、私的には大好きな映画だ。この映画では原田芳雄のフォロワーとしてつとに有名だった松田優作が一世一代の名演をしている。この人、セリフ回しとかも本当に原田芳雄に似せているな〜と思った。
この映画の中で原田芳雄は後半部分に突然現れる。アナボルだのという、たぶん今風にいえば過激派くずれみたいな役柄を演じている。これが妙に意味不明な人物像なのだが、原田芳雄はなにか楽しんで演じているように思えた。 この映画を観終えたのが3時をだいぶ回った頃。せいぜい2〜3時間寝たら仕事に行くという大変残念な状況だ。いい年なんだからこういうのはもうやめなくちゃとも思ったが、まあ仕方がないかとも思った。永遠の無頼、我らが原田芳雄兄いの追悼なのだから。
もう一つ彼のことで思い出したことがある。あの野太い声で、彼は一時期ブルースを中心とした歌い手であったことを。彼の歌については、たぶんこれも今は亡きTBSのアナウンサー林美雄のパック・イン・ミュージックで紹介されていたのをよく聴いた。深夜の闇の中でイヤホンを通して、彼の哀切たっぷりの歌を聴いた。
そのなかでもとりわけ好きだったのは「プカプカ」、おそらくライブでやった音源だっただろう「早春賦」など。とくに「早春賦」は大好きで、自分でも原田芳雄ヴァージョンをコピーして歌ったりもした。Youtubeでも音源とかはアップされていない。たぶん二度と聴くことができないのだろう。そんなときに見つけたのがこの曲。これも大好きだった。ピコこと樋口康雄作品。

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冥福を祈る。