Hatena::ブログ(Diary)

踊る阿呆を、観る阿呆。を、書く阿呆。

                 ここはとんがりやま備忘録です。本家ウェブログは→踊る阿呆を、観る阿呆。へどぞ。

2017-08-12

[]The SECRET of KELLS

ブレンダンとケルズの秘密

トム・ムーア監督作品/2009年/フランス・ベルギー・アイルランド合作

 

関西初日、大阪・梅田で吹き替え版と字幕版を連続して観てきた。いやあ、面白かった。

アイルランドの国宝「ケルズの書」の成立にまつわる神話的エピソードをダイナミックにアニメーション映画化した本作は、昨年日本公開された『SONG of the SEA 海のうた』よりも以前に作られた、トム・ムーア監督の商業長編デビュー作…のはず。映画としての完成度はさすがに『海』の方が高いのだろうが、作品に込められた熱量はこちらの方が濃度が濃い…と感じた。

吹き替え/字幕版はどちらも長所短所があって、こればかりは「両方観てください」としか言い様がない。画面の緊張感を孕んだビジュアルをいっさい邪魔しないのはやはり吹き替え版だが、音声のセリフだけでは把握しきれない言葉の意味なんかは、言葉として字幕に表されることではじめてわかることもあるからだ。古代アイルランドの伝承や神話・伝説のあれこれなどに精通しているひとの方が少ないだろうから、まあ仕方の無いことでもあるんだけど(なので、物語をしっかり把握した後ならば、オリジナル版で鑑賞するのが一番かもしれない)。

実は、わたしは昨年『海』を観た直後に本作のDVD(英語/仏語字幕版、当然日本語などどこにも出て来ない)を購入していた。英語字幕で鑑賞していて全体のアウトラインはなんとなく把握していたつもりだったが、やはりきちんと翻訳されたものを観ると、全然わかっていなかったんだなあと思うことしきり。

 

最大のハイライトは、やはり主人公のブレンダンがただひとりクロム・クルアハと対峙するシークエンスだろうか。あのシーンは何度観ても手に汗握る、アニメーション映画史上としてもかなり上位にランクされるに違いない名場面ではないかと思う。写字師、という役職を得ている主人公少年ならばこその戦い方であり、また、ここは映像作家・アニメーション作家としての監督の思い入れもたっぷり詰まった展開のしかたであった。

そういう意味では、この映画の見どころは他にもたくさんあるし(もちろんエンディングだって息を呑むほど美しい)、いずれのシークエンスもまさに“アニメーション”でしか表現し得ないだろう説得力に満ちあふれていた。近年の、時に実写と見まごうばかりの(というか実写以上のリアルさを追い求めている)日本製アニメーション作品では決して体験することのできないセンス・オブ・ワンダーが、そこかしこに詰まっている。現在の、商業ベースの日本人アニメーション作家でこういった作風に堂々と拮抗できるのは、たぶん湯浅政明さんぐらいじゃなかろうか。映画が映画として成立する必然性、同時にそれがアニメーションでなくてはならない必然性。それらをとてつもない強度をもった説得力として提示できる映像作家。トム・ムーアというひとは、わたしにとってはアニメーション界の新しいヒーロに思えてしかたがない。この作家がこれからどのような世界観を提示してくれるのか、いち観客としてはとにかく楽しみなのであります。

2017-06-26

[]有頂天家族2

ずいぶん駆け足だったなあ、というのが第一印象。2クールとまでは言わないが、せめてプラスもう1話、つまり全13話くらいにはならなかったものか。なんだかダイジェスト版を観ているようで、せっかくの原作が少々もったいない気がした。

絵はキレイだし、声優陣の演技も申し分ない。最終回のバトルシーンも凄かった。それだけに、もう少し各場面をじっくりたっぷり観てみたかった。

アニメーション版で見る限り、話の構成は第1期のじわじわと盛り上げていくスタイルが好きで、「2」の方が静と動のダイナミズムはより計算されているように思うんだけど、トータルで「いいお話しを聞いた」という満足感はやはり「1」に軍配が上がるかなあ。

ともあれ、来月発売予定のブルーレイボックス上巻と、今月末に出るサントラCDは今からすっごく楽しみ。音楽は今回もとても印象的だったし、「2」のサントラもきっとヘビロテ間違いなしだろう。そうそう、パッケージ版はまたキャスト陣のオーコメが入るんだろうか。こちらにも期待したいっす。

【追記】

そういや寿老人(李白)さいごどこ行った???

上で「駆け足」って書いたけど、最後の最後までなんか投げっぱなしでぶった切られた感が残ったなあ。ちと残念。

2017-06-18

[]TAP THE LAST SHOW

2017年東映/水谷豊監督作品


“古き善き”を濃厚に感じさせつつも、現代風に仕上げられた映画だった、という第一印象。

ストーリィ自体は王道というかまあぶっちゃけベタなもので、特に出演する若きダンサーたちのそれぞれのバックグラウンドのあたり、やや取って付けた感はある(脚本というか設定として、いちばん難しい箇所でもあるんだろうが、それにしても深窓の令嬢のアレとかまるでアレだよね、とかは思ったが)。

わたしはテレビをほとんど観ないので、出演している役者さんがどれが誰だかがわかるのはほんの2、3名だけだ。その分、画面に映る人たちは「その役」というよりも「その人」そのもの、という目で見ていた。しかし、このドラマをそういう目で見られるのは、この作品の多くのシーンでリアルなドキュメンタリーを撮っているような気にさせられるから、なのかもしれない。

なにより、この映画のもっとも重要な「ダンスシーン」がマジモンなのだ。映画的にはきっとクライマックスのショウ・タイムが見せ場なのだろうけど、わたしがいちばん面白かったのはむしろ前半のオーディション〜練習シーンの、若きダンサーたちの本気の姿だったりする。そのへんに「ウソ」っぽさがほとんど感じられないからこそ、この作品は「映画」たりえているのだろう。



今年ももう半分近くになるんだけど、これまで観た中で特に「ダンス」が印象的な映画というと、湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』と、今回の『TAP』のふたつだけかなあ。ひとつはそもそもストーリィのごく一部だし、さらに言えばダンスシーンはひときわアニメーション的なファンタジーあふれる演出。対するもうひとつは、まるでライブ中継みたいなリアルな実写映像。と、まるで正反対なんだけど、それぞれ「ダンス」をきちんと「ダンス」としてフィルムに定着させてやるぞという強い意志が感じられるのがたいへん心地よかった(別作品の悪口をあまり言わない方がいいとは思うけど、これらの日本映画に比べて某・米アカデミー賞受賞作品のダンスのがっかり具合ときたら、もう)。


この手の映画では主役連中よりも脇を固める登場人物の渋さに惹かれることが多い。今回もたとえば「八王子のジンジャー」と「アステア太郎」のデュエットにはニヤリとしたし(ああいう演出は往年のハリウッドミュージカル映画の十八番だよなあ)、劇場の事務員さんのことあるごとに光る演技など、心に残るシーンが多かった(メインのご老体おふたりの演技はなにしろ往年のハードボイルドすぎて。いやもちろんコレは褒め言葉ではあるんだけど)。もうひとつ、ほんの一瞬の出番だけど、ぽっちゃりダンサーさんのご亭主さんの、まあ似たもの夫婦感というかいかにもさにも笑わせてもらった(一見無駄なようで、こういう遊びがなけりゃ映画全体がどれだけ淋しいものになってしまうか)。

 

とはいえ、個人的には物語の隅々にまで共感/納得できたわけではないし、肝心のショウの音楽/編曲も個人的にはあまり好きになれない。

けれども、それでもクライマックスのダンスシーンには思わず息を呑んだし、なんなら盛大なスタンディングオベーションをしていたかもしれない(映画館に他の観客が誰もいなけりゃ、絶対大きな拍手をしていた)。

ダンスシーンのメイキングと、それからあのショウの(観客の視線などの、ダンス以外のシーンがない)アナザーバージョンが特典ディスクとして付くならば、絶対DVDでもブルーレイでも買います! まあ、いや、そういうのが無くてもたぶんディスクは買っちゃうとは思うけど。

ダンスをちゃんとダンスとして映像に残してくれた。この映画は、そんな当たり前のことをきちんとやっているから素晴らしい。正直言ってドラマ部分の方はわたしにはよくわからないけど、それはそれとして、「ダンス映画」として、実にいいものを見せていただいたことに最敬礼! なのであります。


【翌日追記】

一晩経って、ああそうだ、この映画ってもっと笑いがたくさんあった方が良かったんだ、ということに気が付いた。別にドタバタギャグをやる必要はなく、クスリとさせる感じのユーモアがもっと散りばめられていたら、話のメインである「かっこよさ」と相まってさらに素敵な映画になっていたと思う(劇場の社長とか、そういう味を出そうとしていたことは判るが)。脚本を含め全体からなんとなく感じる余裕のなさというか「いっぱいいっぱいな感じ」は、この映画が初めての監督によるものだからなのだろうか。