綿(ワタ)の語源について(その2)

英語のWadやドイツ語のWatte等はサンスクリット語のBadara又はVadaraとは無関係だという。その根拠はわからない。よほど確かな根拠があるなら別だが今のところは保留にしておく。英語・ドイツ語等と日本語との関係もサンスクリット語を介して、もしくは介さないで繋がっている可能性も無くはないだろう。ロシア語でも綿は「ワータ(vata)」というそうだ。


さて、Wadとは詰め物という意味で、枯草などを詰めるのもWadであり、現在は合成繊維を詰めてもWadである。木綿を詰めるのが一般的だったからwad=綿になったと一応考えられる。一方日本ではハラワタというように臓物のこともワタという。中に詰めるもの(あるいは中に詰められたもの)をワタというのが語源だとしたら、木綿が詰められるようになったのはそれほど昔のことではないように思われるので、wadから派生してヨーロッパで綿の意味になり、また日本でも綿の意味になった可能性はある。つまり綿の意味でのワタは偶然の一致だが元を辿れば同じ意味だという可能性も無くなないように思われる。


ただ、さらに考えれば、「中に詰めるもの(あるいは中に詰められたもの)」ではなくて「中に詰められたもの」に限定される可能性もなくはない。というのも絹糸はカイコの繭から取った動物繊維であるが、カイコの繭はカイコの口から出された絹糸によって作られているからだ。すなわち絹糸はカイコの体内から出てきたものだ。科学的には

絹糸は唾液腺の変化した絹糸腺(けんしせん)という器官で作られる。後部絹糸腺では糸の主体となるフィブロインが合成される。中部絹糸腺は後部絹糸腺から送られてきたフィブロインを濃縮・蓄積するとともに、もう一つの絹タンパク質であるセリシンを分泌する。これを吐ききらないとアミノ酸過剰状態になり死んでしまうので、カイコは歩きながらでも糸を吐いて繭を作る準備をする。

カイコ - Wikipedia
ということだそうだが、そんな科学的知識の無かった時代において「絹糸はカイコの内部に詰まっているもの」という考えがあったということもあり得よう。


何かに詰める素材としての「ワタ」ではなくて、「カイコのワタ(腸)」が「ワタ(綿)」だという可能性は無いのだろうか?


なお、「このわた」とは「ナマコのはらわた」という意味だけれど、「ナマコ」は古くは「海鼠」と書いて「コ」と読み、後にミミズ型の動物一般を「コ」と呼ぶようになったので家の中で飼うものを「カイコ」、生で食べるものを「ナマコ」と言うようになったという説がある。というのを自分が書いてたのを検索して思い出した。
八幡の由来 - 国家鮟鱇


ところで「ハラワタ」は漢字で「腸」と書くことからみても、内臓といっても大腸・小腸のことであり、広い意味では「糸」と相似しているように思う。また

3 ウリなどの内部で種を包んでいる、やわらかい綿のような部分。

はらわた【腸】の意味 - goo国語辞書

ただし、「綿」と書いて「わた」と読むのは、本来は塊状の繊維全般を指す語である。布団や座布団の中身を繊維の種類を問わず「綿(わた)」と呼ぶが、これはその本来の用法である。古くは、中でも真綿(絹の原料)を意味することが多かった。

木綿 - Wikipedia
などを見て思うのだが、木綿等の「ワタ」は絹の「ワタ(真綿)」に類似するからだけではなく、植物のハラワタという意味がもしかしたらあるのではないかと思わずにはいられない。


※ ところで細長い繊維状のものといえば「わら(藁)」があるけど語源は何だろう?検索しても見つからなかった。「た」と「ら」は変化しやすいように思うので、これももしかしたら「わた」なのだろうか?