tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『花の下にて春死なむ』北森鴻

花の下にて春死なむ (講談社文庫)

花の下にて春死なむ (講談社文庫)


年老いた俳人・片岡草魚が、自分の部屋でひっそりと死んだ。
その窓辺に咲いた季節はずれの桜が、さらなる事件の真相を語る表題作をはじめ、気の利いたビアバー「香菜里屋」のマスター・工藤が、謎と人生の悲哀を解き明かす全六編の連作ミステリー。
第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞作。

この本、タイトルからしてずっと気になっていたのです。
何を隠そう西行法師の
「願わくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」
という歌が大好きな私。
普通に小説なんかを読んでいてもよく引用されているような気がするので、人気がある歌なんだと思います。


この作品は、北村薫さんや加納朋子さんらの作品でおなじみの連作短編集という形を取っています。
いわゆる「日常の謎」(殺人が全く起きないわけでもありませんが)を扱っているという点でも、彼らの作品に非常によく似通っています。
だから、彼らの作品が好きな人であれば、きっと『花の下にて春死なむ』も抵抗なく受け入れられるはずです。
舞台は「香菜里屋」という名のビアバー。
ここのマスター・工藤を謎解き役に、常連客たちが繰り広げる、さまざまな謎に満ちた会話が楽しいのです。
工藤がなんと言っても不思議な魅力に包まれています。
常連客はみななかなか味のある人物ばかり。
そして、やはり外せないのがこの作品に登場する、工藤自慢のおいしそうな料理の数々!!
読んでいてとてもおなかが減ってきてしまいました。
料理もおいしそうだし、ビアバーだけにもちろんビールも。
普段それほどビールは好きではない私ですが、この作品を読んでいるうちにむしょうにビールが飲みたくなってしまいました。
さらに、ビールと料理に舌鼓を打ちながらの謎解きの妙。
こんなバーが近くにあったら、毎日でも通ってしまいそうです。


なんでも作者の北森さんは調理師免許を持っているとか。
作者が料理する絶妙な謎解きを、おいしいビールと料理と共にご堪能あれ。