tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『つきのふね』森絵都

つきのふね (角川文庫)

つきのふね (角川文庫)


自分だけがひとりだと思うなよ!
死ぬことと生きることについて考えてた。どっちがいいか、どっちがらくか、どっちが正解か。今までずっとそういうこと、考えてきた気がする。


あたしはちゃんとした高校生になれるのかな。
ちゃんとした大人になれるのかな。
ちゃんと生きていけるのかな。

中学生って、一番不安定な年頃ですよね。
親や学校の先生などの周りの大人にとってもその不安定さはやっかいなものですが、一番不安定さを持て余して困っているのは当の中学生本人たちなのかもしれない。
この本を読んでそう思いました。


主人公のさくらは中学2年生。
ある事件をきっかけに、さくらは大親友の梨利を裏切ってしまいます。
それ以来仲良くできなくなってしまった二人。
そんな二人をなんとかして仲直りさせようと奮闘する、梨利に想いを寄せる勝田くん。
万引きで捕まったさくらを助けてくれた24歳のスーパー店員、智(さとる)さん。
4人のもろさ、傷つきやすさが上手く描かれています。
この中で一番いい味を出しているのが勝田くん。
そうそう、中学生の男の子って、女の子から見ると馬鹿馬鹿しくて子どもっぽくて訳の分からないことばかりやるんだよね。
でも、時々急に頼もしい側面も見せたりしてね。
そんな男子中学生の「訳の分からなさ」を前面に押し出して描かれているのが勝田くんです。
やはりこれは森絵都さんの女性ならではの視点でしょうね。
でも、男の子だろうが女の子だろうが、中学生が持つ悩みや不安はみんな同じようなものです。
早く大人になりたいと思う一方で、自分が本当に立派な大人になれるのか不安感に苛まれることもある。
いっそのことノストラダムスの予言(この作品の舞台は1998年です)が当たってしまえば楽かも…なんて考えたり、自分自身の存在価値に疑問を抱いたり。
私にとって中学時代というのははるか昔のことになってしまいましたが、思い返してみれば私もそうだったなと。
でも、大人になってから分かったのは、大人になっても自分に自信を持つのはとても難しいことだし、いつだって迷い悩みながら生きていくのが人間というものなんだということ。
20歳を超えたら大人だと思ってた。
ひとりで何でもできるようになると思ってた。
もっともっと自分を好きになれると思ってた。
でも、実際はそうじゃなかった。
今、自分の将来に悲観的になって、悩んだり苦しんだり悪さしたりしてる中学生が目の前にいたら言ってあげたい、「大人だって子どもと同じように弱くて傷つきやすくて不安定なんだよ」って。


ラストシーンが非常に感動的でした。
そう、大人も子どもも男も女も賢い人も普通の人も頭悪い人も、その存在の貴さはみんな同じ。
それさえ分かっていれば、きっと明日からも笑って生きていけるよね。
☆4つ。