tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『この闇と光』服部まゆみ

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)


失脚した父王とともに、小さな別荘に幽閉されている盲目の姫君・レイア。優しい父と侍女のダフネ、そして父が語り聞かせてくれる美しい物語だけが、レイアの世界の全てだった。シルクのドレスや季節ごとの花々に囲まれた、満ち足りた毎日。しかしレイアが成長するにつれて、完璧だったはずの世界が少しずつ歪んでゆく―。

…正直この作品はどう感想を書いていいものやら迷っています。
何を書いてもネタばれになりそうで。


主人公は「冬の離宮」に幽閉された盲目の王女、レイア姫
彼女を「光の娘」と呼び、物語の世界を語って聞かせる優しい父王。
それとは対照的に、レイアに憎しみに満ちた言葉を投げかけ、レイアを恐怖ですくませる侍女のダフネ。
レイアが軟禁されている別荘の1階には、異国の言葉を話す兵士たちがいて、父王は民衆の間で争いが起こるとそれを鎮めに外の世界へ出かけていく…。
これだけ読むとファンタジーですね。
…ええ、事実この作品は紛れもないファンタジーなのです。
でも、それだけじゃないのがこの作品のすごいところ。
途中でレイア姫が○○○だというのには気付いたのですが、それがああいう展開につながっていくとはね。
とにかく中盤でくるりと世界が反転するさまがお見事。
あまりに急激に転換するので、私などはしばらくその展開についていけなかったほど。
これはもう作者にしてやられたと言うしかありません。
光と闇、この作者が描く二つの対照的な世界は、最後にはどちらが光でどちらが闇だったのか、読者を惑わせてくれます。
なにやら耽美な雰囲気も醸し出されていて、この美に満ちた独特の世界観はハマると抜け出せなくなりそうな、不思議な魅力にあふれています。
読者に結末を委ねるリドル・ストーリー的な終わり方もなかなかうまいと思いました。
できるだけ頭を空っぽにして、この独特の世界観に浸ってみることをおすすめします。
☆4つ。