tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『あの頃の誰か』東野圭吾

あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)

あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)


メッシー、アッシー、ミツグ君、長方形の箱のような携帯電話、クリスマスイブのホテル争奪戦。あの頃、誰もが騒がしくも華やかな好景気に躍っていました。時が経ち、歳を取った今こそ振り返ってみませんか。東野圭吾が多彩な技巧を駆使して描く、あなただったかもしれれない誰かの物語。名作『秘密』の原型となった「さよなら『お父さん』」ほか全8篇収録。

光文社文庫の東野圭吾作品2作品同時文庫化その2。
作者が言うところの「わけあり物件」、すなわち、さまざまな理由で今まで単行本等に収録される機会のなかった短編.を集めた短編集です。


東野さんは「わけあり物件」と言われていますが、個人的にはなかなか面白いと思いました。
全て短編なのでそれほど読み応えがあるわけではないのですが、題材もさまざまで物語の舞台や雰囲気もそれぞれ異なります。
あまり印象に残らなかった作品もないではないのですが、わりとどれも平均してそれなりに楽しめました。
体調を崩している時に布団の中で読んでいたので、こういう軽く読める短編集は相性がよかったのかもしれません。


一番印象に残ったのは「再生魔術の女」でしょうか。
養子をもらうことになった夫婦の夫の方に突きつけられる、ある衝撃的な事件の話です。
タイトルにもなっている、養子を斡旋した女性が淡々と主人公を追及していく様子がなかなか怖い。
ラストのオチも決まっています。
これはもっとふくらませて長編にしても面白そうだなと思いました。


ふくらませて長編にしたと言えば、「さよなら『お父さん』」はあの『秘密』の原型となった作品です。
もともとこの短編があって、短編の出来が気に入らなかったために長編として改めて書き直したとのことですが、原型と言うだけあって筋書きはほぼ『秘密』と同じ。
『秘密』のラストで涙したのと同じように、この短編でもラストは泣けました。
短編作品が持っていたよさをそのまま長編にふくらませ、完成度を高めたのが『秘密』だったんだな、という創作の裏側を垣間見れたような感じで面白かったです。


あとは「二十年目の約束」も東野さんらしい作風でなかなかよかったです。
また、この本のタイトル『あの頃の誰か』は一番最初に収録されている「シャレードがいっぱい」という作品から来ていますが、これはバブル時代に書かれた作品で、当時のバブリー要素がてんこ盛りです。
東野さんは「もはや時代小説」と言われていますが、私にとってはあまりにも現実感に乏しくて、ファンタジーかギャグか?といった感じでした。
東野さんもこういう作品を書いていた時代があったんだなぁなどと妙に感心してしまいました。


ということで、昔の東野さんのある意味レアな作品が楽しめるお得感のある短編集でした。
気楽に読めてよいと思います。
☆4つ。