三人寄れば本読みの知恵

すばらしいとき (世界傑作絵本シリーズ)


雨。ベビーカーと迷うが、
抱っこひもで出陣。
かたつむり、一匹。


家事のとも。
曽我部恵一withダブルオー・テレサ無政府主義的恋愛 [DVD]


もうずっと前にともだちからゆずってもらったDVDを、
初めて再生。2004年のライブ。曽我部さん、若い。


「浜辺」好き。『瞬間と永遠』に歌詞カード入ってなかったの、
ほんとに残念。今でも残念。


動物電気通信、来た。2017年6月に本公演。
コバケンさん、辻さん、森戸さん、高橋さん、姫野さん、みんな出る。
楽しみ。行けるかな。そういえばもうコンドルズに顕ちゃんは出ないのかな。
『イヌの日』初演のダブル小林共演を見れたのは、ほんと良かった。


乳児、幼児ともに回収して、妻の帰りを待つ。
ちょうどのタイミングでバトンタッチ。
「何時ころ帰ってくるの?」
「十時くらいかな」


たぶん無理だろうと思いつつ、
ぎりぎり幼児が起きているくらいの時間を言っておく。
駅まで小走り、いつだって小走り。


車中のとも。
山下賢二、三島宏之『ガケ書房の頃』(夏葉社)


僕はガケ書房を町のCDショップとしても機能させたかった。(p.107)


たしかに、ガケ書房にはCDが置いてあった、という印象がある。
結局ガケさんでCDは買わなかったけど、コンディションが合えば、
どれか面白そうなのを探せた気がする。とは言え、今回の読書で、
ガケCDなるものを知った。当時は全く目に入ってなかった。
しょせん、音楽に憧れるだけで金を払えない男に過ぎない、
ということですな、あたしは。おほほ。


さて、やってきました、天王寺
今日は、このイベント。


スタンダードブックストアあべの本棚編集術
第2回 生活のなかの本棚を編集する 


ゲスト
砂川昌広(とほん店主)
鳥居貴彦(ミシマ社社員・「ミシマ社の本屋さん」店長)


司会
北村知之(スタンダードブックストアあべの書籍担当)


キッチン、トイレ、ベッドルームのなかに本を並べることを想定し、
各10冊ずつ選書する、という今回の企画。
自分では寝室や台所に本を置くことはないので、
その辺りのコリ固まった世界観もぶっ壊してくれないかなぁ。
などと、他力本願な「期待」を携えての参戦、どうなるかしら。


カウンターにて、箕面ビールセットをお願いする。
おつまみの入った紙コップが安定しない。テーブルをともにした女性チームも、
苦戦している。もう、転がしてしまえ。北村さん、スナガワさんの正面に陣取る。
木製のブックトラックのような、図工の時間に図工室で使うような台の上に、
今日の選書された本が並んでいる。あれはおそらく、キッチンのやつだろう。
左の方に、コミックばかり並んでいる群れがある。すごい選書だ。
店内をうろついていた鳥居さんもやってきた。
「見ないでください」と謎のけん制。
どうやらコミック群は鳥居氏選書だ。


北村さんの挨拶から、イベントスタート。
順に、スナガワさん、鳥居さんと紹介される。
スナガワさんは、さすがの金魚シャツ。


(ファッションチェックも入るのかよ!とは中川社長のツッコミ)
(そう、ついたての横から、社長がいろいろヤジを飛ばしたりして、楽しい)


まずは、キッチン。北村さんから、いわゆる「料理本」の紹介。
これは、北村さんがどこかのサイトで紹介していたんじゃなかったか。
『新ベターホームのお料理一年生』*1、『ひとり料理これだけあれば』*2
実際に台所に置いてあるというのだから、本物です。


そして、「キッチンは作るところでもあり、食べるところでもある」という話。
夜中にダイニングテーブルで本を読む、というのが北村さんの読書の核になってるらしく、
ひとりで集中して読めるし、読みながら飲み食いしたくなったときに便利だという。
そういう、夜中に静かにじっくりと読む本を選んだ、というあたり、
実体験がないとなかなか思いつかないんじゃないかしら。
リストには『小さなユリと』*3や『悲しみの秘儀』*4が。
『ムナーリのことば』*5も紹介されていました。


続いて、スナガワさん。いわゆる「キッチンといえば」の選書。
北村さんもスナガワさんも料理をするそうだが、スナガワさんは、
材料から調べられるのがいい、ということで有元葉子『材料別おかず事典』*6を。
そして、美味しそうな食べ物が出てくる本から、それに関連する本、
「コーヒーを淹れる場所としてのキッチン」ということで、珈琲本。
気になったのは、『My Dining』*7、『コーヒー「こつ」の科学』*8
『それからはスープのことばかり考えて暮らした』*9


『それからはスープのことばかり・・・』は、砂川さんが頻繁におすすめする本だが、
今日が今までで一番気になった。これまでのボディブローが効いてきたのか、
はたまた「キッチン」と絡められて、文脈力爆発したか。
ちくま文庫の『玉子ふわふわ』という本も紹介されて、
何人もの人の「玉子エピソード」のアンソロジーということだったが、
その中の向田邦子のことを話すスナガワさんの語り口が印象的だった。


あと、北村さんとスナガワさんがともに挙げていた本で、それはこの企画のなかでも、
10冊×3シチュエーション×3人=90冊の中で唯一のダブりだったそうだが、
『キッチン・コンフィデンシャル』*10というのがあった。砂川さんはオチのように、
「読んでないんだけど装丁がかっこいい」と笑いながら紹介していて、
「中身もいいです!」と北村さんが補足したのが面白かった。
北村さんは、しかし、その「読んでいないけど装丁がいい」という紹介を、
けっこう重要なこととしてキャッチしたようで、あとで改めて、
「そういう観点から手に取ることがあっていい」と解説していた。
(正確な言い回しは忘れてしまったけど、そういう感じだったはず)


今回、北村さんは「本を読むこと、本に触れること」というのを、
丁寧におすすめする発言が目立っていた。「本棚編集術」でやりたいことの一端が、
垣間見えた気がした。集まった人たちの中に、読書への欲望は着火されただろうか。


さて、問題のコミック兄さん、鳥居さんの登場だ。
「本を見ながら料理作ります?」という懐疑的な発言からスタートした鳥居さん、
即座に「作るよ」と北村さんから返されてもなんのその、学生時代の思い出話から、
並べられたコミックたちの「紹介」とも言えないような言及、これが、
酔っぱらった頭にひどく可笑しくて、へらへらへらへら笑いこぼした。
鳥居さんにとっての「キッチン」の選書は、「食べながら読む」という方針。
学生寮の話とか、笑いながらだったけど、いろいろ記憶も刺激されました。


キッチンの次は、トイレ。北村さんは、滞在時間が短く、すぐに忘れてOKな本など、
「ことばの本や入門書」を中心に紹介。習慣的に行くから手に取る、という要素も肝。
リストの中に神楽坂モノガタリで買った『雨のことば辞典』*11が入っていて嬉しかった。(「いい本です」言ってた)
『月刊みすず』の「読書アンケート特集」をトイレに置く、というのは、
なるほど、面白そうだ。他にも『宮沢賢治オノマトペ集』*12
『近代日本の文学史*13などが紹介された。


続いてスナガワさん、トイレは読書の「主戦場」だそうで。
読んだままトイレに行ったり、閉鎖空間で異次元体験を満喫した後、
トイレから出てきて「現実世界への帰還」を味わったり、
目の前にある「扉」を意識した「扉本」を読んだり。
もっとも、お子さんもいる今はなかなか「トイレ読書」もままならないそうで、
そういう「主戦場」を失った読書人がどのように別の場所を見つけるかも気になるところ。


そして、鳥居さん。「トイレで本、読みます?」いろいろな人がいる。
そんな鳥居さんの選書は「パッと行ってパッと帰れる世界」がテーマ。
バリー・ユアグローの『一人の男が飛行機から飛び降りる』*14が紹介されていた。
懐かしい。これ、学生時代だったか、単行本を「タイトル買い」した記憶が。
実家にあるだろうか。今度、持ってこようかな。本の造りも良かった気がする。
分厚いんだけど、けっこう軽くて、持った感じが好きだった。


最後は、ベッドルーム。北村さんは、休みの日、昼間からゴロゴロ読む、
というシチュエーションでベッドルーム選書。鳥居さんが「ゴロゴロ読む」のわりに、
大型の絵本や写真集が選ばれていることにしきりに首をひねっていたが、おそらく彼は、
あおむけで読む図を想像していたのだろう。北村さんは、うつぶせで読むんじゃないかな。
そんな大判の本で気になったのが、『リトル・ニモ』*15だ。佐々木マキの『うみべのまち』*16も気になる。
また、子どもの頃に読んでいた絵本を今も読む、というので、
『すばらしいとき』*17という本を紹介。一時期、絶版になっていて、
図書館で見つけたとき、カラーコピーして自分で製本して持ってた、
というくらいの好きぐあい。幸い、のちに復刊したそうでございます。
高野文子の『しきぶとんさん』もリスト入り。これは名作ですからねぇ。


スナガワさんは、1ページでも、1文でも読んで寝たい、
という気持ちで、詩集や短歌の本など、短くてもグッとくる本や、
夢の本、読み聞かせの絵本などを紹介。


「全然共感できないけど『キリスト教の人はこんな風に考えるんだ』と思って悩みを相対化する」、
というスナガワさんのヒルティ『眠られぬ夜のために』*18の読み方は、
そんな読み方があるのか!と驚かされました。そういう本を常備してるって、
レベルたけぇな、砂川氏。正直、読んでみたいとは思わなかったが、
寝る前に読む本の要素として、「日付がふってある」というのは、
なかなか魅惑的な気がします。あと、タイトルがズバリの、
『一日の終わりの詩集』*19も気になる。それぞれの詩の最後が、
問いかけで終わっているそうで、その答えを考えながら眠りにつく。
とてもいいじゃないですか!


その他、『明恵*20、『かばくん』*21、『ぶたぶたくんのおかいもの』*22などが気になった。


さて、オオトリ、鳥居さん。北村さんがダイニングテーブル、
スナガワさんがトイレ、とそれぞれお気に入りっぽい場所だったので、
ベッドルームこそ鳥居さんの独壇場かと思いきや、一番好きなのは、
電車の中だそうで、それは僕と同じなので大いにうなずいたのだけど、
その理由(?)が、あんなに堂々と眠れる公共の場所はない!みたいな話で、
やはり独特の主張に苦笑い、テーマらしきものは「寝落ち最高」でしょうか。
読了していない読みかけの本も紹介していて、その紹介のしかたって、
なんか伴走者みたいですごく好感をもてるなぁ、と感じた。


北村さんが、幅広い視点と読書の入り口設置を意識した選書で口火をきり、
スナガワさんが、テーマに沿った実直な選書(でも幅広い)で深みを加え、
鳥居さんが、笑いの絶えない軽妙な語り口と正直で実感のこもった選書で現実世界とをつなぐ。


たまたまなのかもしれませんが、話す順番もキャラクター(?)も、
実に絶妙なバランスが成立していて、わたくしめには、
とてもとても面白いイベントでございました。
キッチン、トイレ、ベッドルームという空間も、
時間のことや、そこで何をしているか、という点をしっかり考慮すると、
様々な顔が見えてくることを、改めて教えられた気がします。夜中のダイニング、
とか、休日の昼間のベッドルーム、とか。そのうち、今回の「生活のなかの本棚」、
自分でも選書してみようかな。イベント前には、とても無理だと思っていたが、やってみたい。


惜しむべくは、イベント後、閉店時間が迫っていたこと。
あと1時間、いや30分あれば、余熱のこもった財布を抱えて、
たいそう刺激的な本屋散策ができただろうになぁ、という。*23
せっかくなので、今日の選書の中から売り物の1冊を吟味。


購入。スタンダードブックストアあべの。
ロバート・マックロスキー、Robert McCloskey、わたなべしげお『すばらしいとき (世界傑作絵本シリーズ)』(福音館書店


あまりにもイベントがよかったので、
いつになくいじけた気持ちも湧いてこず、
素直な気持ちで打ち上げに混ぜてもらいました。
中川社長もいらっしゃって、愉快な焼肉パーティー
奈良への道のりの思って最後ドキドキしながら時間を気にしていたが、
ちょうど閉店、ぞろぞろと店の外へ。JRが微妙だったのでひとり、
お先に失礼して、ビニ傘と、『すばらしいとき』を抱えて小走り。
頭が痛い。飲みすぎるほど飲んでいないはずだが、イベント中の、
箕面ビールがきいていたのかもしれない。途中から、減速。
なんとか環状線に滑り込んで、空いている席に腰をおろす。


鶴橋のホームに降りると、見慣れないセブンイレブン
なんと今日オープンらしい。買い物したくなるが、腹いっぱい。
近鉄線のホームに降りてきて、特急に乗ってやろうかと思いつく。
しかし、特急券売り場に人が並んでいる。そうこうしているうちに、
特急がホームにやってきた。諦めよう。そうしてふと、
傘しか手にしていないことに気づく。
持っていたはずの袋がない。環状線か!
酔った頭に悩む暇を与えず、すぐさま取って返す。
「次の電車が来ちゃうんです」JRの係員に事情を説明するも、
忘れ物センターの連絡先を書いた用紙を渡される。
急いで再び近鉄線のホームに戻ったが、
快速急行は出発したあとのようだった。


渡された紙を見ると、受付時間は過ぎている。
とぼとぼと、もう一度、JRの係員のところへ戻る。
「電車、行っちゃいました」なので、ゆっくり、
私の『すばらしいとき』の行方を探してくれ。
「明日、電話してください」・・・終了。


車中のとも。
山下賢二、三島宏之『ガケ書房の頃』(夏葉社)

結局、あの日の僕は君に認めてほしかったのか。(p.163)


購入本の紛失を、紛らす読書、山下さん、よろしくお願いします!
オカタケ師匠の本で、「買ったばかりの本を網棚に忘れた」的な記述あって、
まさか、と思っていたが、自分が経験するはめになるとは、ね。


いざとなれば、自店で買い直そうかな、
と自分を励ましながら寒空の下、帰宅。
娘は当然、眠っていた。妻に、イベントが面白かったことを熱弁、就寝。

*1:新・ベターホームのお料理一年生』(ベターホーム協会)

*2:木村緑『ひとり料理 これだけあれば』(京阪神エルマガジン

*3:黒田三郎詩集 小さなユリと』(夏葉社)

*4:若松英輔若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義』(ナナロク社)

*5:ブルーノ・ムナーリ、阿部雅世『ムナーリのことば』(平凡社

*6:有元葉子『有元葉子の365日の献立 材料別おかず事典』(家の光協会

*7:AO、青『My Dining』(ブックロア):http://booklorebooks.net/

*8:石脇智広『コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために』(柴田書店

*9:吉田篤弘それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫)』(中央公論新社

*10:アンソニー・ボーデイン、野中邦子キッチン・コンフィデンシャル』(土曜社)

*11:倉嶋厚原田稔雨のことば辞典 (講談社学術文庫)』(講談社

*12:宮沢賢治、栗原敦、杉田淳子宮沢賢治のオノマトペ集 (ちくま文庫)』(筑摩書房

*13:伊藤整近代日本の文学史』(夏葉社)

*14:バリー・ユアグロー柴田元幸一人の男が飛行機から飛び降りる (新潮文庫)』(新潮社)

*15:ウィンザー・マッケイ小野耕世リトル・ニモ 1905-1914 (ShoPro books)』(小学館集英社プロダクション

*16:佐々木マキうみべのまち 佐々木マキのマンガ1967-81』(太田出版

*17:ロバート・マックロスキー、Robert McCloskey、わたなべしげお『すばらしいとき (世界傑作絵本シリーズ)』(福音館書店

*18:ヒルティ、草間平作、大和邦太郎『眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)』(岩波書店

*19:長田弘一日の終わりの詩集』(みすず書房

*20:河合隼雄明恵 夢を生きる (講談社+α文庫)』(講談社

*21:岸田衿子中谷千代子かばくん (こどものとも絵本)』(福音館書店

*22:土方久功ぶたぶたくんのおかいもの』(福音館書店

*23:とかいって、手持ちがないから欲求不満で死んでいたかもしれない