鳥巻メモ

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一九八四年


ジョージ・オーウェルの「一九八四年」の世界では、
国家と個人は、同じ意思を持たねばならない。


裏切り者がいないか、四六時中、監視され、
裏切り者は、密室で極限の恐怖と苦痛を与えられ、
国家と同化するまで、洗脳されてしまう。


読了後、
救いようのない気持ちにさせられるだけに、


逆に、主人公の、貧しいけれど
監視されていない地域(じつは違うのだが、、、)
で見る窓越しの女性の描写が、引き立ってみえる。


その女性は、庭で行きつ戻りつしながら、
洗濯バサミを口にくわえたり、取り出したりして、
その度に、ハナうたを歌い、おしめを干している。
50過ぎの、ウエストが1メートルほどある女性を、
ウインストンは美しいと思う。そして彼は、
「空は誰にとっても同じもの」と感じる。


本書から引用させて頂こう。


「彼女は子どもを何人生んだのか。優に十五人は生んでいるだろう。
短くとも野バラの美しさを開花させた時期もあっただろう。ほんの
一年くらいかもしれない。それからは受精した果物のように突然膨
れ上がり、固く赤く粗くなって、以降の人生は洗濯、床拭き、繕い
もの、料理、掃除、家具磨き、壊れものの修理、床拭き、洗濯に追
われた。最初は子どもたち、それから孫たちのために三十年以上も
それを休まず続けてきた。そしてここにきてもなお彼女は歌ってい
るのだ」(「一九八四年」P338 高橋和久氏 訳)