高田昌幸「真実 新聞が警察に跪いた日」が問いかけるもの

北海道新聞(道新)記者だった高田昌幸氏が、「真実 新聞が警察に跪(ひざまず)いた日」(柏書房 2012年3月31日発行)を出版しました。冷静な筆致で、当事者のひとりとして事実経過と心情を振り返った内容でした。

2003年11月から2005年6月にかけて北海道警察の裏金報道で活躍された高田氏は、昨年25年間働いた同社を退職しました。そのあとはやはりジャーナリストとして活動を続けています。道新記者時代の最後に体験したこと、退職後新たな出会いと体験をしたことを、中心に、「真実」は書かれていました。率直な心情の吐露がされていました。きぜんとしていてほしかった所属組織がとったちぐはぐな対応への残念さをふくめて。

2006年5月に高田氏は、民事裁判の被告(のひとり)となりました。訴えたのは2003年11月から2004年3月まで道警総務部長だった佐々木友善氏です。2004年11月に佐々木氏が「書籍掲載記述に対する謝罪等要求状」を高田氏らに出してからの行動でした。「要求状」を出したときは、警察の外郭団体「独立行政法人自動車安全運転センター」北海道事務所長だったそうです。天下りをした立場で、抗議および裁判に取り組んだ人だったのです。そして、道新が佐々木氏や裁判などに対してとった態度を、甲84号証で明らかにすることまでしてくれた人でもありました。副題「新聞が警察に跪いた日」には、佐々木氏が明らかにしてくれたことへの高田氏の思いもあるのかもしれません。

裁判は2011年6月16日に最高裁第一小法廷の決定で終わりました。野次馬的言い方を許していただくと、その内容は原告にとっても被告たちにとっても、玉虫色の判決の追認かもしれません。裁判終了後高田氏は道新記者としての生活に区切りをつけました。

新たな体験を2011年8月フリーになった高田氏はします。懲役9年の実刑判決を受け仮釈放中だった稲葉圭昭北海道警察元警部への取材でした。道警がねつ造と北海道新聞を抗議した「およがせ捜査失敗?、大量の覚せい剤国内流入」記事に関する、稲葉氏の話を聞くことになります。稲葉氏の話は、新聞がつかんでいた内容をはるかに上回るものでした。稲葉氏は告白告発本「恥さらし」(講談社)を出版し、自らが体験した北海道警察の異常さを明らかにしました。「真実」は、それを知ったことから、改めて起こされた裁判の意味を高田氏がさかのぼって自問し、しめくくりにしています。重い問いかけです。

佐々木友善氏が裏金報道で扱われた自身の発言なるものを誤報とし、最高裁までこだわったことは、なんだったのでしょう。「真実」を読んで改めて私も考えることになりました。人間さまざまですから、性格気持ちからして、ということはありえるでしょう。とにかくこだわりの人として、佐々木氏はあえて火中の栗をひろいました。思うぞんぶん発言も続けたようです。今回の「真実」での高田氏の問いかけに対して、改めて佐々木氏の引き続きの発言聞かせてもらいたいものと思いました。

道警の裏金問題も含め警察の裏金問題、今は広く世が認めることになりました(すっきりしたわけでなくまだもやもやが残っているようですが)。陽があたったわけです。発覚当時それをないかのような言動で一貫させて「職責」をまっとうした人が、外郭団体に就職後、恥をかかされたと裁判まで行う。たいへん面白い構図です。芦刈本部長(当時)をそれほど擁護しなければならなかった立場だったのでしょうか。その後の道警トップも含めた警察組織の意趣返しの尖兵だったのでしょうか。警察組織とはそれほどセコイとも思えませんが、不可解です。その気持ちに「真実」はさせてくれました。

これも「真実」によるとですが、「恥さらし」による稲葉氏の問いかけに対し、道警は取り合わないという態度だそうです。そのほうがもっと不可解なことと思うのは私だけでしょうか。

2012年4月21日 世話人