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2013年11月18日 「いのちの記憶」に出会うまで 「ペコロスの母に会いに行く」

toshi202013-11-18

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監督:森崎東

原作:岡野雄一

脚本:阿久根知昭


あなたに触れた よろこびが 深く 深く

このからだの 端々に しみ込んでゆく


ずっと 遠く なにも わからなくなっても

たとえ このいのちが 終わる時が来ても


いまのすべては 過去のすべて

必ず また会える 懐かしい場所で


(二階堂和美「いのちの記憶」より)



 記憶とは人生そのものである。


 ボケる。というのは今のことを少しずつ「わからなく」なっていくということであるが、しかし、記憶というのはなくなるわけではなく、その取り出し方が不全を起こしやすくなっている、というものなのかもしれない。


 この映画の主人公のゆういちは今から20年前に離婚して子連れで実家に戻り、そこで地元でサラリーマンをしている男性である。彼の趣味は、地元の喫茶店やバーで「ペコロス岡野」として活動している。本業の仕事はさぼり気味で、その合間に歌の練習やらをしていたりするのだが、それは案外まわりにバレバレだったりもする。

 だが、最近、母親の様子がおかしい。今やってたことも、これからやろうとしたことも忘れてしまう。やがて少しずつ奇行が目立ちはじめ、困ったゆういちが知り合いの介護士さんに相談すると、認知症の初期症状であるという。そこで、ゆういちは母親を施設に預けることにするのだが。


ペコロスの母に会いに行く

ペコロスの母に会いに行く


 主演は明らかにハゲかつらをかぶったことがまるわかりの岩松了、母親には89歳にしてい映画初主演の「渡鬼」のイビリ役でおなじみ赤木春恵

 岡野雄一氏が長年タウン誌に連載したものをまとめた、4コマコラム漫画を原作にしたこの映画の面白いところは、「釣りバカ日誌」もかくやの、どこか往年のプログラムピクチャーコメディのような主人公日常を描きながら、しかして、物語はそのゆういちの母親の認知症が始まり、やがて施設に預けざるを得ないところまで進行してしまう母親の姿をゆういちの視点で描いていく話であるが、そんな深刻な題材であろうとも、あくまでコメディを映画の肉体として貫いたことであ。


 人間とはかくも「おかしい」ものである。

 とおの昔に死んだ妹のことも、十年以上前に他界したゆういちの父親の死も、忘れていく。さらには、はげちゃびんの頭さえ触れば認識でいたゆういちすらも、いよいよ認識できないようになる。

 だが、それでも、コメディ演出を貫くことで、ボケた母親も、それに振り回される俺たちも、みな「どこかおかしい」人々なのだ。そういう目線で貫かれている。ゆえにこの映画はやがて、認知症が少しずつ進行していく母を克明に描きながら、彼女の中にある、ゆらいだ「記憶」の底から少しずつ、彼女の人生を拾い上げていく。


 母が幼い頃。終戦直前に天草に住んでいた頃に長崎へと移り住んだ幼なじみがいた。だが、長崎に原爆が落ちて、安否がわからなくなっていたが、夫(加瀬亮)と移り住んだ街の色街で、彼女は幼なじみと再会する。

 夫はひどく酒癖が悪くDVを繰り返すような男であり、幻覚を見て家に逃げ帰ったり、給料日に全部お金をすっからかんにしてしまうこともあった。だが、不思議と幼いゆういちは父親を憎めずにいて、年老いてから父親はすっかり好々爺になっていたという。

 だが、若き母はすっかり追い詰められていた。堤防の先で海を見ながら、幼いゆういちの手を握って立つ母。だが、そんな時、一通の手紙が彼女を押しとどめる。

 それは色街で見かけた幼なじみからの手紙だった。


 母親の中にはその記憶がいまも染みこんで離れず、時折、その記憶がフラッシュバックするようになる。

 ゆういちはその後、会社をクビになりフリーライターに転職。すっかり母親の施設へ毎日のように訪れる中で、20年前に父が健在だった頃行った、ランタン祭りに行ったことを思いだし、母親の姉妹や息子や介護士さんとともに母親を連れ出すのだが、ひょんなことから車いすにのっていた母親が、いなくなっていることに気づくのである。

 その時、母に何が起こったか。


 記憶の底にある人生。そこからゆっくりと「そこに眠っていた」人々が蘇る。


 その場面を見た瞬間、涙が止まらなくなった。ボケたからこそ、見える風景。ボケたからこそ、会えた人々。その美しさ。人間のおかしみに寄り添ったからこそ、クライマックスのシーンはまるで奇跡のようにそこにある。

 85歳の森崎監督が89歳の女優を主演に迎えて撮り上げた「コメディ」は、母親の身体を流れる大河のような人生を象徴する美しいクライマックスへとつながる、大傑作となった。必見である。大好き。(★★★★★)