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2014年06月28日 合い言葉は狂気 「渇き。」

toshi202014-06-28

[][]「渇き。」 「渇き。」を含むブックマーク 「渇き。」のブックマークコメント

監督:中島哲也

原作:深町秋生

脚本:中島哲也/門間宣裕/唯野未歩子


♪そう!家は楽しいところ。笑顔の集まる楽しいところ。大和ハウスは楽しいところ♪(「大和ハウス」CMダイワマンシリーズより。)*1


 中島哲也監督の新作である。


 僕は中島監督を天才だと思っている。

 「下妻物語」で人気監督に一気に上りつめた、CMディレクター出身の彼が突き詰めたスタイルはある種独特であり、そのスタイルは多くのファンを獲得したが、同時に忌避感を感じる人も少なくない。「映像作品」としてなら認めるが、映画として認めないという意見もTwitter上でよく見かける。しかし、僕はそういう「アンチ」を生み出すほどの強いスタイルを作れる作家は稀有だと思うし、彼の作る作品群はいい意味で脈絡がない。近作で言えば「嫌われ松子の一生」「パコと魔法の絵本」「告白」とそれぞれにタイプの違う作品が並ぶ。

 彼は新作に向かうときに、作り手として「今まで見られなかった風景」を求めているようにも思える。そして監督が「新しい風景」を見出したのがこの小説である。

果てしなき渇き (宝島社文庫)

果てしなき渇き (宝島社文庫)


 原作の中の主人公やその他登場人物の過激な暴走ぶりに「うわあ」「おおう」と言いながら読み終えてから映画に臨んだにも関わらず、それでもやっぱり「うわあ。」とか「おおう。」とかいう言葉を漏らしてしまう、そんな世界が広がっていた。

 常に新境地に挑む天才の、凶暴な新世界である。

 

 「このミステリーがすごい!大賞受賞作」である原作小説は、入口は結構レンジが広い。狂言回したる主人公・藤島昭和(役所広司)は元・刑事。ある事件がきっかけで家庭は崩壊、そして刑事を退職。しがない警備員におさまっている。それでも彼は人の親。別れた妻から連絡が来て、事情を聞いてみれば高校生の可愛いひとり娘・加奈子(小松菜奈)が失踪。部屋には麻薬が残されていた。ミステリの出だしとしては正道ともいうべき物語である。妻と険悪で、いきなり犯しはじめたりと最低な男ではあるが、彼なりの心情が原作では描かれており、さらにはひとりの親として失踪した娘の行方という「謎」を追う姿が物語の求心力になっている。

 だが、話が進むにつれて娘の知られざる一面が浮き彫りになっていく。物語は三年前、「ボク」と名乗る高校生の目線で生身の加奈子を追う物語と並行して、藤島は娘・加奈子が生み出した地獄へと足を踏み入れていくことになるのだが、その世界を行く彼の暴走は、凶暴化の一途をたどっていく。


 中島監督は、映画化するにあたり、原作にはあった「主人公・藤島昭和」に対して観客(読者)の共感を得られるような配慮を一切捨てる。映画のキャッチコピーには「愛する娘はバケモノでした。」とド直球の「ネタバレ」を堂々とやることで娘を無事を祈りながら行方を追う「ミステリ」としての求心力は顧みない。彼の中にある「理想の家族像」は住宅CM(それこそ大和ハウスのような)の中にしかない薄っぺらさ。藤島は原作では徐々に明らかになる彼の中にある怪物性を、映画では最初から全開にしている。彼の中の心情はト書きされず、開幕でいきなり「クソが!」を連発するなど、スクリーンに映る藤島は最初から「怪物」なのである。そして彼が出会う登場人物たちもまた、一筋縄では行かない怪物性を隠し持っているのである。

 では観客はこの映画のどこに「共感」すればいいのか、と言えば三年前の「加奈子」を追う「ボク」の物語だ。


 藤島パートではなかなか姿を現さない「加奈子」は、「ボク」パートでは彼を翻弄する少女として登場する。野球部を辞めたことをきっかけに元チームメイトたちに手ひどくいじめられるようになった「ボク」は、同じ学年の「藤島加奈子」に惹かれていた。そんな彼の心を知ってか知らずか加奈子は彼に急接近してくる。加奈子が手配したと思われる「不良」グループの暗躍でいじめから逃れることが出来た「ボク」は加奈子に誘われて、とあるパーティーへと顔を出すのだが、そこで「ボク」は屈辱的な体験をすることになるわけだが。

 この「ボク」の物語はモノローグがしっかりとある。加奈子に惹かれていく心情が言葉として紡がれていく。この映画の中で最も「下流」で加奈子の餌食となる「ボク」は此岸から彼岸へと足を踏み入れていくことになる。


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 レイプ、ドラッグ、血みどろの暴力を尋常ならざる過激さをもって描く本作を、本来ならR-18でもおかしくないところを、あえてR-15にまで下げてみせたのも、つまり、この映画を見せたいのは親世代の大人ではなく、他ならぬ「ボク」と同じ十代の若者たちなのではないか、と思う。


 ウツクシイ同級生の「トクベツ」になりたい。


 その一念を「ボク」はとうとうと心情を語る。「恋愛」という名の「社会的に許された狂気」に身をゆだねた結果、彼は心と体に深い傷を負い、そして彼は自らの中に眠る「怒り」と「怪物性」を開花させてしまうのである。


 加奈子の人生の中でもっとも下流にいる三年前の「ボク」。加奈子の「源流」である現在の「藤島」。ふたりの追いかける道はやがてひとつに交わっていく。その先にいるのは他ならぬ「加奈子」である。その「加奈子」を体現するのが小松菜奈である。


 この映画で中島監督が何をしたいかと言えば「破壊」ではないかと思う。暴力で身体を破壊する。麻薬で正気を破壊する。そして、なにより、映画で出演俳優の「パブリック・イメージ」を破壊する。


三匹が斬る! DVD-BOX

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 そもそも役所広司という俳優は狂犬のイメージがあった。僕の中にある役所広司といえば1987年から95年まで続く「三匹が斬る!」シリーズの千石こと久慈慎之介である。ほれっぽい純情さを持ちながらも、ひとたび怒りに火がつくと「てめえら全員ぶっ殺してやる!」と同田貫(どうたぬき)で敵を峰打ちなどせず、ばんばん豪快に斬って斬って斬りまくる。初期シリーズなんかでは、憎しみの対象になったら敵は一撃では絶命させてもらえず、二撃三撃斬りつけるくらいのことをしていた。

 そんな彼も舞台「巌流島」やドラマ「合い言葉は勇気」を皮切りに今ではすっかり三谷幸喜作品の常連俳優のひとりとなり、その健全なイメージでCMでもひっぱりだこだ。そんな彼が、娘を激しい執着を持って暴走する果てに見るクライマックスは、彼のパブリックイメージのひとつである、住宅CMのイメージをぶっ壊すことで始まる。


 その他。妻夫木聡、二階堂ふみ、橋本愛、國村隼、中谷美紀、オダギリジョーなど、CMやドラマ、映画でひっぱりだこの豪華俳優陣がそろって「加奈子」に魅入られ翻弄され弄ばれ、誰ひとりとして共感できない「怪物」になってしまった者たちを怪演している。やりすぎでもいい。彼らの築き上げてきた世間へのイメージをとことん破壊する勢いで演出された物語は血と暴力で混沌としていく。

 そして、この作品でいよいよ中島監督は「下妻物語」の中島哲也、というイメージすらもぶっ壊そうとしているんではなかろうか。



 本作は「下妻物語」の監督の作品として見に行くと確実にひどい目に遭う。そのくらいの荒々しさ、禍々しさをたたえているこの作品は、加奈子を演じる小松菜奈を中心に、俳優はおろか、監督みずからの世間へのイメージすら破壊しつくす。作り手が小松菜奈ちゃんにならそうされてもかまわない!という狂気すらたたえているのが、本作の凄みである。「下妻物語」の中島哲也から「渇き。」の中島哲也へ。映画の登場人物はおろか、監督まで「加奈子」に魅入られながら暴走し、観客の心に消えない爪痕を残す問題作に仕上がっていると思いました。十代の若者よ、書を捨てよ。映画館へ行こう。7月4日までなら学生は1000円だ。(★★★★)

 

合い言葉は勇気 DVD BOX

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*1 D

FUKAMACHIFUKAMACHI 2014/07/01 00:20 おもしろく拝読しました。新人女優さんは小松菜奈ちゃんであります。

toshi20toshi20 2014/07/01 00:31 うわわ、恥ずかしい間違いを・・・。
ご指摘&拙文お読みいただき恐縮です。

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