テニスが“うまい人”と“強い人”の違い


基本的にテニススクールに来る人というのは、自分のテニスを上達させたいがためにお金を払ってスクールに来ているわけです。

そんな人たちに、


 「今後どういうふうになりたいですか?」


という質問をすると、決まって


 「うまくなりたい」


と答えます。

私もそう答えますし、ほとんどの人もそう答えるでしょう。別にまちがってはいません。

でも、


 「あの人テニスうまいから今度誘って相手してもらおうよ」


とはいいますが、


 「あの人テニス強いから今度ぜひ誘おうよ」


とはいいません。

なぜなら一般のプレーヤー同士ではプロと違って試合の勝敗でポイントなどがつかないために、“見た目”が“うまい”か“下手”かで相手のレベルを判断し、表現するしかないからです。

では、そもそも“(見た目で)テニスがうまい”というのはなんのことを指しているのかというと、それは


 テニスがうまい=テクニックやスキルが秀でていて、なおかつ見た目がよい


というほどのことであり、そしてもう一方の“テニスが強い”というのは、


 テニスが強い=(自分の)見た目がどうであろうが、試合に強く、どんなことをしてでもゲームに勝つ


というほどのことであります。

※ここで注意しなくてはならないのは「あの人はテニスが強い」というのは、「あの人は見た目めちゃくちゃで筋もあまりよくないけど、試合になるとめっぽう強い」といった、「自分のほうが(見た目は)うまいのに、どうみても格下の相手に何度やってもゲームに勝てないひがみ」からこの表現が使われることもままある、ということであります。

ですから、見た目は“ものすごくうまい”けど試合は“弱い”人、逆に見た目は“ものすごい下手”なんだけども試合には“強い”人というのも当然出てくるわけです。

まあ、たいてい見た目が下手な人は試合にも弱いわけで、なかには見た目もうまいうえに試合も強いといったような人もいますが、ごくまれですし、そもそもそういう人はスクールに来る必要がないので滅多にお目にかかりません。

かくいう私もつい最近まで、絶対にうまくなりたい、またうまくなるはずだと信じて、土日はスクールに通って熱心にレッスンを受け、自分自身でも確実にうまくなっているつもりでした。

ですが、いくらうまくなったつもりで、というか「totsugekiさん、絶対いいところまでいくから試合出てみなよ」と後押しされて大会や試合に出場してみても、勝つどころかいつもの自分のプレーすらできません。

私自身、スクールで熱心にレッスンを受けることで「うまく」はなっていましたが、「強く」はなっていなかったのです。

そんなとき居酒屋でKコーチに、


 「練習してうまくなったら試合に出ますとかって人けっこういるけど、オレの経験上、そういう人は試合じゃ絶対に勝てない。……なんでかわかる?」

 「いえ」

 「だってうまくなるまで練習するっていうけど、いくら練習したからって、そんなのおじいちゃんになるまでやったって強くなるわけないじゃん。そうだよね?」

 「……え? ええ、そうですね」

 「totsugeki!(なぜか呼び捨て) お前はうまくなりたいのか、それとも強くなりたいのか、どっちだ!!」


と会話の最中に突然大声で聞かれ、うまさと強さの違いがわからず答えることができずにいると、


 「どっちになりたいかもわからない奴は試合には絶対勝てないぞ! ていうか、即答できないなら話はここまでだ!! もう帰る!!」


と一喝されたうえに一蹴されてしまったのであります。

それ以来、うまさと強さの違いを真剣に考えるようになったわけですが、結論からいうと


 テニスがうまい=身体的な技術がうまい

 テニスがつよい=精神的な強さ


ということができます。

そして、わざわざお金を払ってテニススクールに来るくらいテニスに対してモチベーションが高い人たちの大半は、


 “スクールでレッスンを受けてテクニックやスキルを身につけて自分のテニスを上手くみせる”


ために日々熱心にスクールに通っているわけです。

ですが冒頭にも書いたとおり、これはまちがいではありませんし、私もそのうちの一人でした。

ただ、レッスンさえ受けていればある程度の技術は身につきますが、精神的な強さというのはいつまで経っても身につきません。

身体的な技術と精神的な強さというのはいわば両輪で、いくら片方が激しく回ったとしても、もう片方が回らなければ最大限の力を発揮していることにはなりません。

そして精神的な強さを身につけるためには大会や試合に積極的に出場し、たくさんのギャラリーがいるなかで強い相手にもまれて、1ゲームも取れずにわずか15分で試合が終わってしまったり、はたまた5-5のノーアドで相手のサービスをブレイクして勝つといったような、ぎりぎりのところでの勝負を経験しなければならないのです。

いま、私は試合や大会に積極的に出場し、精神面を鍛えている真っ最中なわけですが、さきほどのKコーチの質問に答えるならば、


 「私は強い人間になりたい」


ただそれだけであります。