花を開いた雑木林のエゴノキ
俳句では初夏の季語に位置づけられているエゴノキが真っ白な花を一斉に付け始めた。咲き出したほんの短期間、エゴノキは素晴らしい芳香を周囲に発散して、昆虫たちに信号を送るようだ。良いタイミングで木の下に行くと、爽やかな香水のドームの歓迎を受けることがある。
花は時間が経つと、一つ一つの花ごとにまとまって地面に落ちて、まるで雪が降ったみたいに樹下を白く彩る。見上げると、ぽとりぽとりと降ってくる花を見上げることになることがある。薄暗い雑木林では、咲いている花よりも、落ちている花が目印になって、エゴノキに気がつくことが良くある。
最近では、武蔵野の雑木林では毎年5月の中旬に花を開く。私の印象では、これから少しずつ暑くなるな、という季節感の予告のような花となっている。エゴノキの花を読み込んだ歌を引用してみよう。大西民子の心象に降るエゴの花の何と痛々しくて美しいこと・・・。
散りしける売子木(えご)の花掃く土の上
わが呟きを聴く人もなし
とめどなく降る売子木(えご)の木の花見つつゐて
芯の重みに堪へ得よわれは
てのひらをくぼめて待てば青空の
見えぬ傷より花こぼれ来る 大西民子
咲いている姿よりも、散っているたたずまいを印象に留める人の多い花である。昔の子ども達は、落ちた花を集めてママゴトをしたり膨らんだ実をもいで竹鉄砲の弾にしたりして遊びに使って楽しんだ。遊び上手は、どこにどんな樹があるか頭にはいっていたものだった。