気まぐれ日記

日記とは名ばかりのほぼ小説の掲載をしているブログ

Record Of A War In Cross World 第2話  後編

「うわぁ、俺アイツの次だぜ?やだなぁ、アイツ速すぎだし」
「あー…。どんまい」

この軍に来てからよく聞くようになった感心したような、羨むような微妙なニュアンスをはらんだ言葉。
まるで春風に運ばれでもしたかのようにそれはバロムの耳に入った。
(速い、か)
目をやると発言の主はどうやらAグループのようだった。初めの一ヶ月は二つのグループに分かれて訓練を行うのだが実践用の軍服の腕に仮留めされた布の色でどちらか判別できるようになっている、AはオレンジでBはブルーだ。
「……ふむ」
興味が湧きバロムの視線が今まで興味がなかった障害物走のスタート地点に注がれる。

バロムは今までのBグループ内の訓練でいつも他のメンバーにかなりの差をつけて一番だった、それをバロムは当然だと思っているが同時に少しばかり物足りなくも感じていた。
だから、もしAグループの中には自分と競えるほどの者がいるなら、今日から全員合同の本格的な訓練が始まる、そのなかで少しは退屈を紛らわしてくれるかもしれない
そんな期待が興味と共に湧いたのだ

「次っ!!」

教官の声で5人がいっせいに走り出す。先ほどの男が言っていた者が5人の内の誰かは分からなかったが、それほど速いなら恐らく一番の者だろうとバロムは障害物走の様子に目を凝らした。

すると

「……ほう」
思わず声が漏れる。
始まって早々に他の4人に差をつけて駆けていく焦げ茶色の髪の男がいたのだ。
その赤い瞳が印象的だった
(確かに速いな)
目測では正確には分からないが恐らく自分を除いたBグループの者たちより遥かに速い。

自分のタイムと比べれば速さについては期待していた程ではないが

(だが、それよりも)
バロムの視線は男の体の動きにあった
しっかりした体格なのは見てとれたが、その動きが軽やかで無駄が少ない。
どう見ても軍に入ってから訓練を始めた者の動きではなかった
(我とのタイムがそのうち縮みそうだな。)
直感的にそう思った。

少しばかりの期待を混じらせて


「3分21秒!!」
その声が響く、目測より速かったな とバロムは素直に感心した。
様子をそのまま見ていると男はタイムと教官の言葉を聞いて驚きも喜びもせず、離れているため聞き取れはしなかったが口の動きから察するに礼を述べ、それからその場を離れた

「やっぱり速いよあいつ、うわぁ俺アイツのせいでしかられそう」
「大丈夫だろ、あんな馬鹿みたいに速い奴ぬけばお前は普通の速さだよ」
また、先ほどの男達の会話が始まる
力がなければ必要とされない、それを危機感として持つなら分かるが
何故この男は怒りに似た感情をあの茶髪の男に向けるのか、理解しがたかったがどうやらそれは他の者達にとっても同じだったらしく
周りを見ればこの男と同じような表情をした者達が多々見られる

(くだらんな、全く……。どいつもこいつも)
呆れと蔑みと嫌悪を込めて心中でつぶやく
そういえば自分も似たような視線を送られていたような気がしなくもない、興味もないが。

次にあの茶髪の男に目をやると、どうやら当人もその視線と雰囲気に気づいているようだった。

「……」
なんとなく、自分ならなんとも思わないがこの男はどんな反応をするのだろうかと
暇を持て余していたが故の出来心でそのまま様子をバロムは見続けていた
すると男の口がわずかだが小さく動く
バロムはその動きを追った


“すまん”


その言葉にバロムの瞳が少しだけ開かれる
言葉の真意を思考する間もなく更に男の口が動いた、恐らくバロム以外は読み取れていないだろう
少しの間呟き続け、男の口が めんどくさい で閉じられる。

「次!!Bグループの6〜11番!!」
ふいに教官の声が響く、それはバロムを含むグループだった
その声でバロムの足がスタート地点に向かう、バロムの表情は涼しげなままだったが
どこか不穏な雰囲気をまとっていた

(なんだ……あいつはっ)
ちっ と小さく舌打ちすると傍の男が軽くびくついたがバロムは気に留めもせずスタート地点に並ぶ

舌打ちせずにはいられなかった
先ほどまであった淡い期待感はバロムの中から見事に消え去っていた、失望のような怒りのような言葉にし難い感情がふつふつと湧き上がっていたのだ

(手を抜くだと……、ふざけるなよ)
どうやら完全にその気にはなっていないようだが、その思考自体が許しがたかった
スタート直前、バロムの手が拳をつくる
「次っ!!」
教官の声が響くと同時にバロムは駆け出した
すでに思考はとにかく速くゴールすることしかなかった



あの男に歴然とした差を見せ付けてやる為に。



「3分1秒!!」
教官がバロムのタイムを告げる、今までで最高のタイムだった
少し乱れた息を整えてから視線をあの男に向ける。すると既に男はバロムをその視線におさめていた

バロムは少しばかりの笑みを男に向ける
(いいか、貴様がこれから
あの訳の分からぬ愚か者どもの為に本気でこないなどという愚行を犯すならばそうしていろ
我は貴様の届かぬところから貴様を見下し続けてやるからな)

そう心中で宣戦布告とも取れる言葉を吐いてバロムは男から背を向けた




「ちっ、思い出すだけでイラつく……っ」
ダンッ!!
バロムの手元にあった本が乱暴に床へ叩きつけられた
本に視線をやり、あんな者のことなど既にどうでもいいだろうと冷静でない自分にそう言いきかせた
どうしてあの男がそこまで気になるのか、それは、あのように興味の湧いた人間はめったにいなかった。だからあのような発言に怒りを覚えたのだろうと自己分析をしてから立ち上がる
(外に出るか)
傍にあった机の引き出しからスティック状のカロリーメイトを取り出すとそれを持って部屋の外へと出て行った



「……」
寄宿舎の外に出た場所の隣には数少ない自然の小さな森があり、バロムの足はそこへと向かっていく
いつもなら自主訓練をするものや憩いの場所として訪れるものが見られるが、この時間ならそれも無いだろうと見越しての行き先の選択だった。
簡単に舗装された道を通っていく。しかしながら、バロムはこの森に入るのははじめてだった
いつもは部屋で食事を済ませるのだが、今日は何故かなんとなく外で食べたい気分になったのだ
(いい場所だな)
春らしい空気と風、ゆれる植物と木の葉が心地良い。
あたりをぐるりと見渡し、バロムの脳内で初めての気に入った場所として登録される

しかし、バロムの心が少しばかり和み始めたその時
ひゅんっ となにか風を切るような音が静かにした
「……ん?」
まさかこの時間にひとが?
疑問が浮かぶが、よく考えて見ればジュバレと話したり思いふけっていた間に一人や二人食事を終えていてもおかしくはないくらいに時間はすぎている
バロムの脳裏で人がいるなら帰ろうかという考えが浮かんだが、人が見えない場所にいればいいだけだと思いなおして再びバロムは奥に進み始めた。
ひゅんっ 
ひゅひゅんっ

段々音が大きくなる、さっさと音の主を通り過ぎてしまえばいいと構わず進む
すると木で見えなかったその主の姿がふいに姿を現した。

その人物は、焦げ茶色の髪をした――

「!!」

驚いたのは恐らくバロムの方だろう、対する男……リクは驚いてはいるが珍しいものを見るような目をしていた
ほんの数秒間互いの目が合った後リクの表情は普段のものに戻り、一方のバロムの表情はしかめられていた
バロムの表情に何かを感じたのかリクが口を開くがその前にバロムの口が開かれていた
「なぜ貴様がここにいる。」
その口ぶりにリクの表情も変化する
「自主訓練だ。それに、どこにいようが俺の勝手だろう」
「ふん、手を抜くつもりの癖してそれだけは立派だな」
「!?、な……!?」
先ほどまでそのことを考えていたせいか、嘲るようになったバロムの口調、そして言葉にリクも声を荒げた
こいつは何をいいだすのか とでもいいたげなリクをバロムは睨む
「誰が手をぬくって言った?というか、俺はお前と話したことなんて…」
「訓練中の自分の発言もわすれたか?」
その言葉にリクの一瞬しかめた顔がはっとしたものに変わる
「まさか聞いていたのか?」
「あぁ、はっきりとな。そして我に軽々しく話すな」
「はぁ?」
ぎろりとバロムの視線がリクを貫く
「我は貴様が嫌いだ。」
「はぁ… !?」
はっきりと言い放つといぶかしげだったリクの顔が更に深くそうなった、話したこともない相手に言われたのだから当然だろう
そして、いきなり何をいいだすのだとリクがバロムを問い詰める前にバロムの背中がリクに向けられる
「おいっ」
リクの声を無視してバロムは歩いてゆきやがてその姿はみえなくなった



突風のように現れ去っていった男の背中を見届けて、リクの口から思わずため息が漏れる

「な、なんなんだあいつ……」

バロムの思考などリクには知るすべもなかった


To Be Continued……

【あとがき】
やっと2話目が終わりましたー、ぐだぐだで申し訳ないです;;
そして展開をりんごに任せるような終わり方してごめんなさい;;orz
でも楽しかったですー////////

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