気まぐれ日記

日記とは名ばかりのほぼ小説の掲載をしているブログ

Record Of A War In Cross World 第8話

「ありがとうございました!!」

正午を少し過ぎたころ、兵士たちの声で訓練が終わった

ペアになってから何回目の訓練か―

バロムとリクはとてもペアとは言いがたい代物のままだ、教官ですら何故この組み合わせにしたのか疑うほどに
いや、もう皆がわかっていることだった
あの二人のストレスは見るからに相当溜まっている
このままでは二人とも駄目になるだろうと

けれども教官はそんな二人をこんなことで駄目にしたくはなかった
いつも訓練では厳しいことしか言わないし二人についてもケンカを始める度に怒鳴ってきたが、二人の実力は将来軍の大きな力となるということをはっきりと確信していた
なぜなら
今はもう届かない場所に行ってしまった自分の同期と同じだったからだ


兵士たちがバラバラと解散する中
ほとんどのペアは共に食堂に向かっていくが、バロムとリクはお互いに避けてでもいるかのように離れていく
それもそのはずで、リクは食堂にバロムは自室にいつものように向かっているのだ

「リクベルト、バロム。止まれ」
二人が離れきるその前に教官の声が二人の耳に届く
リクはすぐさま体勢を正して教官の方を向き、バロムはこれでもかと不機嫌そうにぐるりと教官の方を向いた
「よし、話がある。二人ともこっちへ来い」
その声を合図に二人とも不審に感じながらも教官のもとへと集う
当然のように顔を合わせた二人の表情は良くなかった
「お前たちを呼んだのは今からの行動を指示するためだ。いいか
二人とも、今日から毎日昼食を食堂で一緒にとれ」
「なっ……!?」
「なにをふざけたことを」
教官の言葉に二人が声をあげる
二人にしてみれば貴重なイライラせずに済む時間を削られることになるからだ
「なんの権限があってほざく!!」
キレ気味なバロムの言葉にリクは「おい、口の利き方っ」と注意をするものの心中は同感だった
しかし、流石というべきか
バロムやリクにどんな顔をされようが教官は微動だにしない
「教官の命令だ。図に乗るなよ新米ども
実力があれば地位は関係ないとでも思っているのか?あいにく軍は上下関係がきっちりした組織でな
俺はお前たち新米の総指揮、命令を下せる立場の役職で地位を持っている
その命令に逆らうなら命令違反になるぞ、なんならウィル総大将に令状をもらってやるぞ」
「……っ」
威厳のある低く重い言葉に不満を顔にだしながらもリクはうなだれる
(また、上司だからってこういう目にあわされんのかよ……っ)
ウィルの時と同じだ。逆らえず従うしかない。分かってはいたがやはり受け入れがたいものがあるのも事実だった
一方のバロムも命令違反という言葉に舌打ちをして黙っている

「いいな?」
「……はい」

リクだけが教官の言葉に応えた





「おいっ!!どこ行くんだよ!!」
「黙れ、どこに行こうが勝手だ」

リクの予想通り
やはりバロムは命令だと言われたにも関わらずいきなり別行動をとろうとした
ちっ、と舌打ちをしてバロムの腕を掴むとバロムはギロリとリクをにらみつける
「命令、だ。」
何故こうも人をにらむのか(自分の場合は嫌いだからだろうが)分からない。そうすればそうするほど人を遠ざけるのが分からないのだろうか
負けじと“命令”というリク自身不満なそれを突きつける
「……そんなくだらん命令、逆らったところで反省文で済む。
ならば貴様とあんなゴミ溜めのような場所に行くのに比べればマシだ」
はんっ、と鼻で笑い、本当に嫌そうに眉間にしわを寄せたバロムに、またリクのイライラが溜まっていく
普段人が食事をとる場所をゴミ溜めだと言われて遺憾に感じたのだ
しかしリクの中で
確かに、こんな奴と昼まで一緒にいるくらいなら文面だけの言葉を書けば済む反省文を書く方がいいかもしれないと
そんな考えが一瞬よぎる
(問題にはなるが、……降格や懲戒処分にはならないな)
いくら上官命令とはいえ、たかが昼を共にするのに反しただけではそんなことには決してならない
そしてバロムもそれを見越しての行動なのだと気づく
「貴様も我と食事など、不味くなるのがオチだろう?」
そう馬鹿にしたような口調ではき捨てるとバロムは再び歩きだした
「……」


その背中をリクは追わなかった











がちゃ
リクと別れたあと、バロムは寄宿舎の自室のドアを開けた
「よう」
「……」
現れた床に座って待ち伏せていたジュバレにバロムの表情が険しくなる

ばんっ!!
怒りをぶつけるようにドアを閉めた
「おいおい、もうちょっと優しーく閉めらんないのか?」
「今度は貴様か……っ」
「は?」
不機嫌そうなバロムに、まぁいつものことかとジュバレはいつものように笑みを浮べた
「行こうぜ食堂」
いつものセリフ
しかし今日ばかりはそれがいけなかった

バロムは無言でジュバレの元へ行くと右手の拳を振り上げてなんとも美しいストレートをジュバレの腹に食らわせた

「ごぶっ!?、てめ……!?」
流石のジュバレも痛そうに腹を押さえながらバロムをにらむ
「貴様が悪い。顔をボコボコにしてやらなかったんだ、感謝しろ」
「……そら、どうも……!!」
しれっとしたバロムにムカつきつつもゆっくりと立ち上がる
「……で?すっきりしたか?」
痛みで笑顔を引きつらせつつもバロムを見ると、どことなく雰囲気が通常に戻っているのに安堵した
数日まえからずっとそうなのだ
あの、ペア発表の日から毎日イライラして時には物にあたろうとするバロムにジュバレは物に当たったり人に迷惑を掛けるくらいなら自分に当たれと言った、他に被害が及ぶのだけは阻止したかったのだ。
バロムはジュバレを気違いでも見るような蔑んだ目をしたが、その言葉に従ってひたすらジュバレに八つ当たりをしているのだった
「……少しはな、貴様はマゾか。気色が悪い。」
「ほっといたらお前が誰構わず奴当たるからだろうが、俺には男に暴力振られて喜ぶ趣味はねーんだよ。女の子なら大歓迎だけどな」
「黙れ色魔」
「色魔いうな!!女性博愛主義者だ」
「ほざけ」
「あが!?」
どや顔のジュバレにバロムはもう一発ストレートを食らわせると、ため息を一つ吐いて自分のベッドに座った
「いてぇ……っ、明日エルクに見てもらおっと
……あーあー、誰かさんのせいで痛いなぁー」
わざとらしい声をあげてジュバレはバロムをじとりと見る
バロムは鬱陶しそうに「黙れ」と言って視線を落とす
「それよりも、食堂はいいのか?
さっき呟いていた女とでもさっさと食べてこい。」
「女?、あぁエルクのことか
ははっ、ちげーってエルクは男だよ」
ジュバレはからっとした笑みを浮べた
「赤い髪に緑の目した長髪の子でさ、研修医なんだ
お前も、もしかしたら会ってんじゃね?」
「……」
バロムはすぐに脳内検索をかける。しかしながらバロムの記憶にそのような人物は見当たらなかった
「知らん、というか我は関係の無い赤の他人の顔などいちいち記憶しないからな」
「……お前って暗記苦手?」
「無駄な記憶力を使わないだけだ。貴様と同じするな」
「んだと!?確かに俺,暗記苦手だけどな!!」
ジュバレにイライラをぶつけたお陰か、悪態をついてはいるものの
バロムの心中は部屋に帰る前よりだいぶ穏やかになっていた
相変わらず見下してはいるが笑みを浮べていることからそれが伺える

そんな時


コンコン
ドアを叩く音が静かに響いた
「こんな時間に珍しいな、ほいほーい」
すぐにジュバレが近づいてドアノブに手をかける
がちゃり ゆっくりドアを開くと、ジュバレの表情が驚いたものになった
そこにいたのはリクだった
「んん?、どちらさん?」
若干いぶかしげなジュバレの胸元にあてがわれたバッチで
リクは上等兵なのだとすぐ気づき姿勢を正した
「戦闘部門前衛部隊所属二等兵、リクベルト=アウルです。」
「あれ?もしかしてバロムのパートナー??」
「……はい。」
その会話にバロムも気づき、リクがここを訪ねてきたのに驚いた後
不機嫌そうに眉間にしわを寄せた
今更何の話があるというのか

「バロムー、パートナーが呼んでんぞー」
ドアからジュバレがバロムに呼びかける
バロムからすれば能天気で腑抜けたジュバレの声がバロムのイライラを倍増させた
「知るか。」
どすの利いた低い声
リクにもそれは聞こえて顔をしかめる
そこに反対の明るい声が通った
「おいバロムー、せっかく来てくれたんだぞ?
ごめんなー、今うちのお嬢さんは機嫌悪くてさぁ」
最後の部分は小声でささやき、笑うジュバレにリクは、お嬢さんという単語に顔を若干ひきつらせつつも、先輩だからなのか自分とは正反対なジュバレのバロムに対する対応に少しばかり唖然としていた
しかし、何か決心をしたように真剣な面持ちになる
「……中、入ってもよろしいでしょうか?」
「ん?、あぁ、どうぞ」
快く入れてくれたジュバレに感謝しつつ、リクはベッドに座ってこちらを睨んでいるバロムの前に進む

「何をしにきた」
「……」

顔を互いにしかめたまま数秒間見詰め合う

リクは一つ息をすって口を開いた


「いくぞ、食堂に」


その言葉に驚いたのはジュバレで、唖然としたのはバロムだった


「……貴様、さっきの話を既に忘れたか?」
蔑んだ目で睨むバロムに微動だにせず真剣な目でリクは見つめる
「忘れていない、だが……
このまま逃げるのは癪にさわる。それだけだ」

ハッキリとした口調にバロムの表情がピクリと反応する
しかし、バロムは呆れた表情だった
「くだらんな、我は行かん」
そうはき捨ててそのままバロムの身体がベッドに横たわる
その様子に、予想できていたのか拳を握り締めたあとにため息を吐いてリクの身体が出口のほうに向く
ジュバレは決して口出しをせずその場を見守っていた

ドアにさしかかった時、リクの口が再びひらかれる
「俺は例えメシが不味くなろうと
絶対に命令には従う。……お前とちがってな」

ばたん
言葉の終わるのとほぼ同時にドアが閉められる

バロムの口から悪態が漏れたのはそのあとだった
「ほざけ腰抜けの愚か者がぁああああ!!」
「バロム落ち着け!!」

その叫び声を部屋の外で聞いたリクは顔をしかめながらもこれでいいのだと自分に言い聞かせた


自分の都合で命令違反を平気で行うなどあってはならない
平気で行うバロムのような人間と同じにはなりたくはなかったのだ


そして
今、そういうことからバロムに背を向けたら
あのルームメイトにまた駄目だしをくらいそうだったから―












「……バロム、お前ら今どうなってんの?命令って?」
怒鳴った後、何故かバロムが急に黙り込んだせいで静まり返った部屋の中でジュバレが苦笑いを浮かべていた
「……」
イラついているのが分かるがバロムは無言だった




そして

この日から
いままでジュバレが行っていた食堂への誘導をリクがやるようになるのだが


まさかこれが


“きっかけ”になるとは二人とも予想などしてはいなかった



To Be Continued……




【あとがき】
きっかけとは例のアレです(笑)
こうすることで訓練以外の互いを知りなにかのきっかになればというのが教官の狙いだったり


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