昨今のモダンギターによく採用されるファンドフレット。今日は、このファンドフレットについてだらだらと書いてみたいと思います。いろいろ調べつつ書いていますが、もし間違っていることなどがありましたら是非教えていただければと思います。では、いってみましょう!
また、このFanには「扇形に広げる」という意味もあります。ファンドフレットの意味はこちら。過去分詞形のFannedを使ったのがファンドフレット。「扇形に広げられたフレット」という意味です。英語の厳密な意味で言えば、このファンドフレットの方が正しいかと思います。ファンフレットはそこからの略称ですね。
つまり、弦ごとに違ったスケールを設定しているのがファンドフレットです。そのため、マルチスケールギターと呼ばれることもあります。1本のギターの中に複数のスケールを使用していればマルチスケールなので、別にファンドフレットである必要はありません(たとえば1弦だけ別のスケールで、あとは普通のスケールでもマルチスケールギターです)が、マルチスケールギターといえばほぼファンドフレットギターなので、ほぼ同様の意味として定着しています。
- ファンドフレットの歴史
ファンドフレットの歴史は、1980年代にさかのぼります。1988年6月30日、アメリカ、カリフォルニア州のラルフ・ノヴァク氏が特許を出願します。タイトルは「FINGERBOARD FOR A STRINGED INSTRUMENT」。弦楽器のための指板。新しい革新をもたらす指板として出願された特許は、1989年6月14日、特許として認められます。パテントナンバーはUS Patent 4,852,450。
ラルフ・ノヴァク氏のギターブランド、Novax Guitarsでは現在もファンドフレットギターを多数制作しています。この画像はNovax Guitarsの制作したストラトタイプ。ストラトなのにファンドフレットです。
フレットを斜めに打つ、という発想は1974年にリッケンバッカーが「スラントフレット」という形で制作しています。各弦のスケールは統一されており、単に斜めにすることで立ってプレイするときの演奏性を高める、という目的でした。
ラルフ・ノヴァク氏は、低音弦側のスケールを伸ばすことで、各弦のテンションを統一。オープンチューニングで低音弦をゆるめても演奏性を高めるという目的で開発をしました。
こちらが特許出願時に掲載された図です。エレキ、アコギの両方のスケッチが描かれています。エレキの方はベースですが、ヘッドレス+ファンドフレットという現代的なギターの形がすでにできあがっているのが分かります。
- 特許の権利期間
さて、最近のギターに多くファンドフレットが採用されている理由。演奏性や音楽のトレンドなどとは別に、もう1つの理由があると考えられます。それが特許の権利期間。現在のアメリカの特許は出願日から20年、権利が永続します。そして1995年6月8日以前のアメリカの特許は、出願日から20年、または特許が認められてから17年のうち長い方、となります。このファンドフレットの特許は、出願日が1988年6月30日。認可が1989年6月14日。すなわち2008年6月30日をもって、特許の権利期間が終了しています。つまり、現在、どのメーカーも自由にファンドフレットのギターを制作することができるという環境が整っています。
- ドロップチューニングと多弦化
1990年代半ばから2000年代ごろを境に、特にメタルやパンク、コア系などのラウド系ジャンルを中心に、ドロップチューニングが一般化します。6弦だけをゆるめるドロップDチューニングや、そこから全弦を下げるドロップCチューニングなどは多くの楽曲で多用されるようになります。ヘヴィなハイゲインサウンドを求め、また6弦ルートのパワーコードを多用するプレイに合わせたスタイルです。
さらにヘヴィサウンドを求める方向としては多弦化も挙げられます。
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- ライトハンド、高音弦を多用するリードプレイと、ヘヴィなリズムプレイ
ジェントに限らずですが、モダンなメタルの方向性はテクニカルなリードプレイでは高音弦を、リズムプレイではヘヴィなトーンを求めることが多くなっています。実はこのスタイルにギターの多弦化とファンドフレットというスタイルがぴったりとはまります。
ファンドフレットは、ロー弦のテンションが通常のギターよりも高いため、低音弦のドロップダウンがやりやすくなります。さらに、フレットが扇形に広がっている・・・逆に言うと、1弦側のフレットが狭くなっているため、高音弦のフレット間移動がやりやすくなります。単にネック全体のスケールを長くする、エクストラロングスケールよりも演奏性が高まるということもあります。
- チューニング安定性の向上
ファンドフレットのギターは、クリアで安定したトーンを作るギターが多いです。
ギターのピッチというのは、弦の太さなども考慮すると「直線のフレットでは完全なピッチを作ることはできません」。そのため、フレットごとに正確なピッチ割合を計算して作られるトゥルーテンパーラメントフレッティングシステム(TTFS)といったフレットも存在します。
一方、ファンドフレットは直線です。
中にはこういった曲線フレットのファンドフレットギターもありますが、どちらにしてもフレットごとのピッチ割合については通常のギターと変わりません。にもかかわらず、ファンドフレットのギターは通常のギターよりもピッチの安定性が高くなりがちです。
もちろん、この種のギターは構造上堅牢なものも多く、またモダンなスタイルのピックアップなどの特性にもより、そういったハイファイ傾向のあるサウンドを作りやすい、ということはあります。しかし、そのピッチの安定性にファンドフレットが果たす役割もあります。ファンドフレットは、ロー弦のテンションを高くするために作られています。結果、各弦のテンションが一定化します。すると、たとえば押弦時の弦のゆれ、伸びなどの弦ごとの差が縮まるのではないかと考えられます。結果、特に和音でのピッチが安定すると言われています。
- ファンドフレットは正義?
ファンドフレットは、その構造に意味がある、ということはここまでいろいろと触れてきました。では、ファンドフレットこそギターの進化であり、通常のフレットはもう古い、となる時代が来るのでしょうか?それは無いだろうと考えます。たとえば前述の和音のピッチ安定性。これはたしかにメリットがあると私も実際に触れて感じましたが、一方でクラシカルなロックのような和音が出ないように感じます。
また、ピッチの安定性は、通常のフレットでもしっかりと作られたギターでは実現することができます。
こういったクラシックなスタイルを継承するモダンなハイエンドギターは、演奏性が非常に高いと共に、チューニングの安定性も素晴らしいです。ファンドフレットじゃないからチューニングが安定しない、ということは絶対にありませんし、演奏性が低いということももちろんありません。
むしろ極端なファンドフレットは特殊なジャンル専門のモデルとなり、その他のジャンルではとても弾きづらいギターとなる場合も多いです。ただ、一方でここまでファンドフレットがモダンギターの世界を席巻したのにはやはり理由があります。
特許の権利期間の終了と音楽ジャンルのはやりがたまたま一致したということもたしかにあると思いますが、ここまで述べてきたようなメリットがあるのもやはり事実です。ファンドフレットを求めるプレイヤーが増え、またファンドフレットのギターやベースを制作するメーカーがしばらくは増えるのでは無いかと思います。
一度、そういう新しい技術に触れてみることはとても良いと思います。その上で、やはりいろいろなメリット、デメリットなどを考えながら、自身のスタイルに合うギターを探していくことが大事では無いかと思います。
もしかすると、こんなギターが自分のスタイルに最適、ということがあるかもしれませんw
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