les signes parmi nous

堀 潤之(Junji HORI) 映画研究・表象文化論

『ゴダール・ソシアリスム』関連資料(4) BIBLOS

ゴダール・ソシアリスム』関連資料(4) BIBLOSとして、主にフランス語による参考文献をインタヴューと批評に大別し、簡単なコメント付きで挙げておく。ただし、網羅的なものではなく、面白いと思ったものを独断と偏見で厳選したものにすぎない。英語で書かれたもの(今年の秋頃までのもの)にも、以前、一通り目を通したつもりだが、あまり内容豊かなものはなかった(トロントでもニューヨークでも、いわゆる「ナヴァホ・イングリッシュ」による字幕版しか上映されなかったからでもあろう)*1。その後に出たものですぐれたものがあれば、いずれ追記したい。そろそろ出始めている日本語による批評には、すぐれたものが多くあるはずだが、パリ幽居中のため残念ながらまだほとんど目を通していない(あわせて関連資料(1)TEXTOS(2)VIDEOS(3)AUDIOSもご参照ください)。
INTERVIEW

  • プレスブック所載のルノー・ドフランとのインタヴュー(Sud Rail Magazin, 15 avril 2010) ※邦訳は劇場販売のパンフレットに掲載されている(堀潤之・柴田駿訳)。

ゴダール・ソシアリスム』をめぐる主なインタヴューは、この4つ。最初のものは正確にはインタヴューではなく、ゴダール自身による禅問答めいた一問一答だ。プレスブックそのもの(フランス語)はここからダウンロードできる(英語版はここ)。ルノー・ドフランはもちろん架空の人物で、68年5月に激しい闘争が行われたフランのルノー工場への目配せである。
セルジュ・カガンスキーとジャン=マルク・ラランヌによるインタヴューは、この作品への最良の導入と言ってよいだろう。68年のゴダールの朋友ダニエル・コーン=ベンディットとの対談は、思い出話や与太話も含むより雑多な内容で面白い。コーン=ベンディットは最近、『フランクフルター・アルゲマイネ』紙にも興味深いインタヴューを寄せている。
メディアパルト』は、エドウィー・プレネル率いる独立系の有料インターネット新聞。最近ではベタンクール事件の火蓋を切ったことが記憶に新しいが、文化記事も充実している。インタヴュー全体への導入の記事(Edwy Plenel, Ludovic Lamant et Sylvain Bourmeau, «Avec Godard, en liberté», Mediapart, 10 mai 2010)もある(ただし講読していないと読めない。この記事によると、インタヴューは2010年4月27日に行われ、記者たちは仏訳が出たばかりのクラカウアーの『映画の理論』を手土産に持っていったそうだ)。
なお、6月16日にはジュネーヴForum Meyrinで、6月18日(!)にはパリ17区のCinéma des Cinéastesで、それぞれ上映後の討論が行われ、前者に関しては映像の抜粋を見ることができるほか、いくつかの紹介記事も出ている(ジュネーヴに関しては、Rafael Wolf, «Godard parle enfin!», Le Matin, 17 juin 2010; Elisabeth Chardon, «Voir et comprendre Godard», Le Temps, 18 juin 2010、パリに関しては、«Jean-Luc Godard, devant le public à Paris pour présenter "Film Socialisme"»; Thomas Sotinel, «Godard parle, le soir du 18 juin»などを参照)。
また、『ゴダール・ソシアリスム』を直接めぐってのものではないが、ゴダールへの最新のインタヴューとして、スイスの『ターゲス・アンツァイガー』紙への11月30日付けのインタヴュー«Das Kino ist heute wie eine ägyptische Mumie»(独語)と、ごく短いものだがスイスのテレビTSRで放映されたインタヴュー(仏語)もある。後者によると、次回作の『言語よ、さらば』Adieu au langageは、アンヌ=マリ・ミエヴィルとの生活と、イヌの散歩についてのものになるらしい。プレスブックのインタヴューで、「イスラエルパレスチナが、600万匹の犬を招いて、一緒に隣人として散歩し、互いに言葉は交わさず、犬のことしか話さないとき」に中東に平和が訪れると語っていることが思い起こされる。
余談になるが、『ル・モンド』や『リベラシオン』といった大新聞を避けて、『テレラマ』はともかく『メディアパルト』や『レ・ザンロキュプティーブル』といった独立系のメディアや、(スイス連邦デザイン賞の受賞というきっかけがあったとはいえ)これまでになくスイスのメディアに接近するなど、ゴダールのメディア戦略は相変わらず面白い。ゴダールは最近、サルデーニャ島の小さな街の名誉市民となったのだが、来年に同自治州の州都カリャリで催される小規模なレトロスペクティヴにはゴダールも参加すると言われている(この記事を参照)。カンヌにもハリウッドにも行かなかったゴダールは、サルデーニャ島には行くのかもしれない。

CRITIQUE

  • Jean-Marc Lalanne, «Film Socialisme», Les Inrockuptibles, nº 755, du 19 au 25 mai 2010, p.46-47.
  • Yannick Haenel, «Film Socialisme de Jean-Luc Godard», Transfuge, nº 41, juin 2010, p.68-71.
  • Cyril Béghin, «Vent et or», Cahiers du cinéma nº 657, juin 2010, p.24-25.
  • Nicole Brenez, «Liberté, fraternité, prodigalité», Cahiers du cinéma nº 657, juin 2010, p.26-27.
  • Frédéric Bonnaud, «JLG, socialisme démocratique», Trafic 75, automne 2010, p.13-22.
  • Emeric de Lastens, «L'or des mers et le peuple des images», Vertigo 37, p.56-59.

上記はおおむね日付順に並べたリスト。ジャン=マルク・ラランヌの批評は、様々なタイプのイメージの混在という事態に抵抗の契機を見て取るという着眼点で、わたし自身、表象文化論学会のニューズレター『Repre』に寄せた短評を書くにあたって非常に啓発された。
エマニュエル・ビュルドーの記事は、映画の荒々しさを反復するかのような迫力で、断片的ながらすぐれた着想に満ちあふれた瞠目すべき批評である(ただし、『メディアパルト』を講読していないと読めない)。
ジャン=リュック・ドゥアンは、1989年にRivagesからゴダールについてのすぐれたモノグラフィーを出しているが、つい最近、事典形式でゴダールについての様々なトピックを取り上げたJean-Luc Godard, Dictionnaire des passions (Stock, 2010)を上梓した。この『ル・モンド』の記事では、家族、幾何学、ヨーロッパといったゴダールにおける反復的なテーマに焦点を当てた紹介をしている。
Independencia同人のアルチュール・マスとマルシアル・ピサニによる記事は、論というよりは、「黄金」「オデッサ」「ナポリ」「バルセロナ」「動物」「子供」「伝説」等々といったゆるやかなテーマ設定のもと、興味深い細部を連想によって繋げていくエッセイのおもむき。とはいえ、細部の正確な読解に関しては突出しており、シナリオ採録の注釈を付けるにあたっても非常に有益だった。作品の基本的なディテールも分かっていないのに、見当違いの印象だけで「批評」をした気になるよりも、はるかに好感の持てる文章だ。
ヤニック・エネルは、戦時中ポーランドレジスタンスで活動していたヤン・カルスキをめぐる小説の著者としてとりわけ知られているが(カルスキはクロード・ランズマンの『ショア』の主要な証言者の一人でもあり、この小説をめぐってランズマンとエネルの間で激しい応酬が繰り広げられたことは記憶に新しい)、『Transfuge』(ここ数年間で確固たる地位を確保しつつある、小説と映画をめぐる月刊誌)のクロニックも書いている。この号では、ジャン=ダニエル・ポレの『地中海』がどれほど多く引かれているかに注意を促している。
カイエ・デュ・シネマ』には2つの批評が載った。シリル・ベガンによる稠密な批評も一読に値するが、ニコル・ブルネズの批評は『ゴダール・ソシアリスム』を「革命的思想の力が再び肯定的となった」作品とみなす視点を力強く打ち出していて面白い。
フレデリック・ボノーが『トラフィック』に寄せた記事は内容も豊かで気軽に読めるものとしてお勧めできる。白ひげのロベール・マルビエの経歴や、〈スペインの黄金〉の顛末にもきちんと触れるなど、『ゴダール・ソシアリスム』の破天荒な歴史的脈絡にきちんと触れている点がよい。なお、Canal+で放映されたゴダールへのインタヴューをラジオで紹介する彼の姿をここで見ることができる。
エメリック・ド・ラステンスによる文章は実は今し方ざっと目を通したばかりなのだが、細部の読解も的確で、写真の形象や歴史家ブローデルへの着目などがとりわけ興味を惹く。
以上の批評はいずれも印刷媒体に載ったものだが、ウェブ上での言説にも注目すべきものはたくさんある。とりあえず、CritikatのArnaud Héeによる記事と、Maurice Darmonの個人ブログでの重厚な分析を挙げておく。

*1:9月29日のニューヨークでの上映後には、アネット・マイケルソン、リチャード・ブロディ、ジャン=ミシェル・フロドンによる討議があったようで、興味がそそられる。ブロディによる告知を参照。