les signes parmi nous

堀 潤之(Junji HORI) 映画研究・表象文化論

ゴダールの2枚のBlu-rayディスク

3月末に紀伊國屋書店から販売された(発売はマーメイドフィルム)『右側に気をつけろ』(89)と『ゴダール/ソニマージュ初期作品集』のBlu-rayディスク(DVDも併売)に付属するリーフレットに解説原稿を寄せた。後者には、ゴダール&ミエヴィルのコラボレーションによるソニマージュの最初の3作品、『ヒア&ゼア・こことよそ』(75)、『パート2』(75)、『うまくいってる?』(76)が1枚のディスクに収められており、そのうち『パート2』は国内初DVD化となる(他の3作品は、以前ハピネット・ピクチャーズから出ていたDVDのHDリマスター版となる)。

「『右側に気をつけろ』解説」、『右側に気をつけろ』Blu-ray DISCリーフレット紀伊國屋書店、2013年3月、1–18頁

「『ゴダール/ソニマージュ初期作品集』解説」、『ゴダール/ソニマージュ初期作品集』Blu-ray DISCリーフレット紀伊國屋書店、2013年3月、1–27頁

単純な好き嫌いで言えば、『右側に気をつけろ』はゴダールフィルモグラフィーのなかでわたしが最も好きな作品の一つである。荘厳さと滑稽さ、悲しみと笑い、希望と絶望、生と死といった相矛盾する要素が何の矛盾もなく同居している奇跡のような作品だ。リーフレットでは、ごくオーソドックスに、着想から撮影に至る経緯をたどり、喜劇、死、音響といった要素に特化した作品分析を行っている。

『ソニマージュ初期作品集』のなかでは、やはりなんといっても『ヒア&ゼア』が圧巻だ。汲めども尽きせぬ多くの着想が凝縮されたこの作品は、はるか『映画史』以降の地平までをも予見するような、後期ゴダールのプロトタイプ的な作品と言ってよい。リーフレットでは、この作品に限らず、ソニマージュ設立の経緯から、ミエヴィルの役割、ヴィデオ・テクノロジーの活用、「ここ」の重要性、各作品のポイントまでを平明に解説したつもりだ。

フランス本国ではゴーモンから2010年に10枚組のDVDボックス、2012年には8枚組のDVDボックスが発売されており、両方合わせて作品数にして22作品(収録短篇は含めず)がすでにリマスター版で視聴できる。関係者へのインタヴューを主軸とするボーナス映像も豊富で、英語字幕や仏語字幕も収められており、ゴダール作品のDVDとして決定版と言ってよいだろう。

2つのDVDボックスに含まれている作品のうち、『ウイークエンド』『たのしい知識』『ありきたりの映画』『東風』『ウラジミールとローザ』『万事快調』の6作品はすでにIVCから出たジャン=リュック・ゴダール+ジガ・ヴェルトフ集団 Blu-ray BOXに収められている。また、『はなればなれに』(64)と『フォーエヴァー・モーツァルト』(96)は紀伊國屋書店/マーメイドフィルムからこの2月に販売済みで、付属のリーフレットには細川晋による非常に詳しい解説が収められている。4月以降も『中国女』(67)、『恋人のいる時間』(64)、『勝手に逃げろ/人生』(79)のリリースが予定されている。

はなればなれに [DVD]フォーエヴァー・モーツァルト Blu-ray中国女 Blu-ray恋人のいる時間 Blu-ray勝手に逃げろ/人生 Blu-ray

これで22作品のうち日本でDVD化されていないのは、製作年順に『ブリティッシュサウンド』(69)、『プラウダ』(69)、『イタリアにおける闘争』(70)、『ゴダールのマリア』(85)、『ソフト&ハード』(86)、『JLG/自画像』(95)の6本だけとなった(うち『ゴダールのマリア』と『JLG/自画像』は紀伊國屋書店の旧DVDがある)。『パート2』のようなきわめて実験的な作品までリリースされたのだから、ジガ・ヴェルトフ集団期の他の3作品(『東風』を除けば、この3作品こそジガ・ヴェルトフ集団期の主要な成果なのだから)、および究極のホームムービーである『ソフト&ハード』のリリースにも期待したい。