285ページ15行目から名台詞開始(ただし決していきなりそのページを開いてはならない)

小学星のプリンセス (小学星のプリンセスシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

小学星のプリンセス (小学星のプリンセスシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

設定の凄さにそそられて買った。

宇宙人でお姫様で婚約者!?

5年ぶりに再会した少女は当時のままの姿で!?

高校生・守本貢は、久々に小学校時代の大親友ルリスと再会する。

でも、彼女はあの頃と同じ姿のまま!?

ルリスは幼い容姿のまま成長しない人たちの惑星、小学星のお姫様だという。

しかも、5年前に貢からプロポーズされ、花嫁修業のために地球に戻ってきたって!?

そんな覚えのない貢の動揺をよそに、ルリスと貢の同棲生活が始まる!!

ねっ、凄いでしょ?
こういう設定でこういうタイトルだと、とことんおバカなドタバタコメディになるかと思いきや……いや、確かにギャグも盛り込まれてはいるのだが、社会通念との軋轢や内面化された規範意識との葛藤などにも踏み込んでいて、なかなか読み応えのあるお話だった。といっても堅苦しくも重くもなく、気軽に読めるのがいい。また、ディテールではあるが、小学星大使館の偽装方法は面白かった。
かつて、高校生にみえる男子が小学生くらいの年格好の女の子の手をひいて街中を歩いていても何の不審の念も抱かれることがない時代があった*1。その時代の人にこの小説を読ませたら、主人公のジレンマが理解できなかったことだろう。その意味でこの『小学星のプリンセス☆』はすぐれて現代的な文学といえるだろう。また、セクシュアリティの研究者にも必読だと思われる。
でも、個人的にはそういう読み方よりも、今日の見出しで言及した名台詞*2へと至る展開を素直に楽しんだ。常套的で意外性も新味もないのだが、それだけに王道パターンのパワーを感じさせられた。
これが作者のデビュー作だそうだが、ギャグとシリアスの微妙なバランスを保って、終盤の見せ場に向けて物語を引き締め、高める技術はなかなかのものだ。これはきっと、今年上半期ラノサイ杯の有力株に違いない*3
『小学星のプリンセス☆』はこれできれいにまとまっているので続篇はないと思うが、次回作にも大いに期待したい。

追記

ところで、あとがきを読むと複数のライトノベル作家への謝辞が書かれていた。この作品でデビューしたばかりの新人なのに作家と付き合いがあるということは、その種の学校出の人なのだろうと思い検索してみると、ノベルス学科BLOG≫ ブログアーカイブ ≫ 餅月望くん、あらわるという記事が見つかった。どうやらアミューズメントメディア総合学院ノベルス学科出身のようだ。

追記の追記(2008/06/30)

見出しで言及した名台詞が「まいじゃー推進委員会!」で紹介されたので、どうしても気になる人はどうぞ。なお、見出しで「決していきなりそのページを開いてはならない」と書いたのは、隣の284ページに台詞以上にこの物語の核心ともいえるイラストが掲載されているからです。

*1:さらに遡れば、17歳の男と12歳の女が同衾しても不思議ではない時代もあった。

*2:できれば引用したいところだが、この作品のクライマックスの名場面の台詞なので、さすがにちょっと気がひける。極楽トンボ氏ならどうするだろう?

*3:と言いつつ、10位までに入っていなかったらごめん。賞ものの予想は得意じゃないので……。