一本足の蛸 このページをアンテナに追加 RSSフィード

「なぜなら彼女は一本足の蛸です。彼女の足は他の誰にも繋がっていません。人として生まれながら人類や他の生命体の何とも共有する部分を持たないのです。真の孤独とは、彼女のために用意された言葉ですよ」

谷川流『絶望系 閉じられた世界』電撃文庫(2005),p.243

2008-07-28

[]駐車場料金はなぜ下がるのか 23:35 駐車場料金はなぜ下がるのかを含むブックマーク 駐車場料金はなぜ下がるのかのブックマークコメント

この記事では駐車場料金が下がる原因をふたつ指摘している。

どちらも直近の状況の説明としては説得力がある。だが、駐車場料金の下落傾向は改正道路交通法が施行された2006年6月に始まったわけではない。地方都市では旧市街地を中心にもう十数年前から、いや、ところによっては数十年前から駐車場が無秩序に増え、料金が下がり、ときには無料化にまで至るという現象が生じているのだ。

以前、日本政策投資銀行の藻谷浩介氏の講演会で聞いた話*1をもとに、そのメカニズムを説明しよう。

  1. モータリゼーションと郊外化の進展に伴い、中心市街地の地盤沈下が始まる。
  2. 中心市街地の建物が老朽化または陳腐化するが、衰退しつつある地に積極的に資本を投入して建物を建て直す意欲がおこらない。
  3. 建物を解体撤去し、土地を高値で売却できる日を待つことにする。
  4. その日を待つ間、土地を遊ばせておくのはもったいないので、とりあえず駐車場にしておく。
  5. それまで駐車場がなくて車の便が悪かった場所なのて、そこそこ儲かる。
  6. 近隣の地主が真似をして、建物を取り壊し、駐車場にする。
  7. まちは歯抜け状態となり、客足は落ち、駐車場の稼働率が下がる。
  8. 仕方がないので、駐車場料金を下げる。
  9. そのうち、駐車場経営では全く儲からなくなる。
  10. でも、これまでに蓄えた資産年金があるから当座の生活には困らず、何が何でも資産活用をしようという気にはならない。
  11. 過去の栄光を知っているから、捨て値で土地を貸したり売ったりなどはせず、いつか時代の風向きが変わって高値で土地を売却できる日を夢見る。
  12. なに、そのうち行政が中心市街地活性化のため再開発事業を始めるはず、明日があるさ

だが、明日はないのだ。

商店街はシャッター街となり、アーケードつき駐車場街となり、やがてアーケードが撤去される頃には荒廃した野原が広がることになる。傾いた廃屋、無料駐車場、もと駐車場だった空き地などがまだらに入り組み、広い歩道にパブリックアートが配置された立派な道路が途中まで作られて放置され、その先には旧態依然の路地が細々と繋がり、その隣には都市型スーパーの撤退したあとに入った行政主導のショッピングストア……が撤退して空き家となったビルがあり、そのまた隣には中心市街地活性化の切り札として莫大な税金を投じて作られた多目的ホールと立体駐車場があるが、ホールの稼働率は10パーセントを割り込んで月に一度の布団即売会が頼りという有様で、立体駐車場のほうは商店街跡地の駐車場との競争に負けて無料化したものの地元高校生の溜まり場になって苦情が相次いだため閉鎖し、税収入が減少したせいで撤去することもできず壮大な落書きスペースと化している。

かつての栄光は夢のまた夢、近場に仕事場があば住宅地として再生できる可能性もあるが、さもなければ人口流出に歯止めがかからず、やがてまちは完全に消滅することとなる。

上のリンク先で紹介されている、東京五反田駅近くやナゴヤドーム近辺の駐車場は、地方都市とは立地条件が全く違うため、今述べたような悲惨なストーリーを辿ることはないとは思うのだが、供給過剰の駐車場のせいでまちの密度が低下してまちそのものの価値が下がってしまう恐れはあるのではないか。

大都市だからといって油断はできない。過当競争の駐車場が淘汰されたとき、あるいは原油価格の高騰が一段落ついたときに、まちと駐車場を巡る状況が好転するのかどうか、注意深く守っていくべきだろう。

まあ、見守ったとろでどうなるというものでもないが。

追記(2008/07/30)

違和感あるなあ。「まちの密度が低下してまちそのものの価値が下がってしまう」ならば、もっと密度が低い郊外に負けてしまうのは何故だ。

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中心市街地と郊外の同一業種の商業施設を比較したとき、一店舗あたりの集客力や収益*2でみれば郊外が勝っているとしても、単位面積あたりの集客力や収益で比較すれば、必ずしも郊外が中心市街地に勝っているとはいえないのではないか。もし、面積単位での比較でも郊外が勝るのなら地価が高騰し、郊外型店舗は次第に都心型店舗に置き換わっていくことだろう。

逆に旧市街地が衰退して地価が下落すれば、郊外型店舗形態へと移行して再び活性化が始まる……というふうに推移するなら、中心市街地問題は長い目でみればあまりたいしたことではないのだろうが、実際には市街地の地価はそう簡単には下がらないし、下がったところで細かく分筆されて権利関係が複雑になっているから郊外型の大規模店舗が立地するのは難しい。

*1:ただし、ちゃんとメモを取っていないので、藻谷氏の説明を忠実に再構成できているかどうかは保証できない。

*2:本文で「まちそのものの価値」と書いたのは必ずしも商業的な価値ばかりではなく、まちに住む人やそこに訪れる人にもたらすさまざまな便益をも含むものとして考えているが、簡単のため、ここでは商業的価値に話を限定する。