フォアグラとは脂肪肝のことと見つけたり

ファミリーマートが今月末に予定していたフォアグラを使った弁当の発売を中止したという。以下、ファミリーマートニュースリリースにリンクしておく。どちらもPDF。

関連するメディアの報道の一部にもリンクしておこう。

今リンクした記事のうち、MSN産経ニュースのものがもっとも詳しく興味深い。単にフォアグラ使用に抗議を受けて中止にした経緯だけでなく、なぜコンビニがフォアグラ入り弁当を企画したのか、その背景がうかがわれる。もちろん、フォアグラ使用の是非という問題にとって、コンビニかフランス料理店かというのは本質的なことではないのだが、なんにつけてもコンビニは社会的インパクトが大きいので、興味を持たざるを得ない。
だが、それはさておき。
上のリンク先では、フォアグラを使用した弁当への抗議に特定の団体が関わっているというようなことは書かれていないが、この件についてある団体が次のような文章を発表している。

HTMLのタイトルの頭にわざわざ「Victory!」とつけているので、最初、「ああ、この団体の抗議活動で中止になったんだな」と思ったのだが、本文を読むと組織的抗議活動を行ったとは書かれていない。また、ファミリーマートがフォアグラ入り弁当の発売を公表した時に抗議声明を出した形跡もない*1。さらに、ファミリーマートに寄せられた意見が22件だったというのも少し少なすぎるような気がする*2。22件の抗議のうちアニマルライツセンター関係者がどの程度いたのかはわからないが、どうも「過激な動物愛護団体の脅迫的な抗議活動に屈した」という、わかりやすいストーリーではなさそうだ。
ファミリーマート側の公式見解と併せて考えると、どうも企画段階で十分なリサーチを怠っていたため理論武装も何もできておらず、発表後に22件の意見が寄せられて、想定していなかったリスクに気がついて発売を自粛したということではないかと思われる。
ネット上では、今回の騒動についてホットな意見も多い*3が、次の穏健な意見がもっともしっくりくる。

日本ではあまり馴染みがない食材ということで、あまり議論されることはなかったようですが(僕も人生で10回くらいしか食べたことないし、「美味しい」と思ったのは2回だけです)、欧州、アメリカなどでは、「フォアグラ大国」フランスを除いて、かなりの国で「生産禁止」となっています。

こういうのをみると、「捕鯨で叩かれる日本」としては、フランスのフォアグラ文化に同情してしまうところもあるのですが、日本人にとっては「伝統的な食材」でも、「日常的に食べてきたもの」でもないのは事実です。

今回、ファミリーマートが発売自粛という選択をしたのは、「22件の抗議」だけが理由なのではなくて、こういう世界的な「フォアグラ包囲網」について考えると、コンビニエンスストアで売る商品としては、批判が広がるリスクが高そう、という判断もあったのではないかな、と。

高級フランス料理店でも残酷だからフォアグラを出すな、というのは違うと思うのですが、より多くの、広範囲の人を相手にするコンビニの商品としては、「不適切」だったのかもしれません。

ところで、今回の騒動を昨年のふかひれスープ騒動を引き合いに出して「無印良品の毅然とした態度に比べてファミリーマートは不甲斐ない」というようなことを言っている人もいたが、少し違うのではないかと思った。

ちょっと脱線。この記事では、無印良品のふかひれスープで用いられているヨシキリザメはマグロ延縄漁の副産物だから問題ないと言っているように見えるのだが、海洋資源の持続的利用という観点からみればマグロ延縄漁は問題含みであるという論点がすっぽり抜け落ちている。混獲魚であるヨシキリザメにもそれなりの値がつくということでマグロ延縄漁が延命しているのであれば、必ずしも無問題というわけにはいかないのではないだろうか?
閑話休題
フォアグラのもとになるガチョウやカモは野生動物ではなく飼育動物*4なので、乱獲による資源減少とか種の絶滅危惧といった問題は直接関係ない*5。フォアグラ問題は、動物福祉の問題といえるだろう。
動物福祉とは何か、と語り始めるときりがないので、安直だが動物福祉 - Wikipediaへのリンクでお茶を濁しておく。ポイントは、動物の権利とは異なるということだ。同じことは動物の権利 - Wikipediaにも書かれている。なお、別にウィキペディアに書かれているから真実だと言っているわけではない。単に、当該分野について多少とも知識があれば常識中の常識だということをウィキペディアを引き合いに出して説明しただけなので、誤解なきよう。
アニマルライツセンターはその名称に「アニマルライツ」を含んでいることから、動物の権利を主張している団体のように思われるし、実際、理念にもそのように書かれている。また、アニマルライツとはというページもある。
その一方で、動物の福祉 アニマルウェルフェアというページもあって、この団体の主張の強さと射程が今ひとつよくわからない。
さらによくわからないのが、この記述。

この自然界では、いろいろな動物や植物がお互いに影響しあいながら生活しています。微妙な自然界のバランスを人間の身勝手な行為によって破壊してはなりません。全ての生き物は、等しく、この地球に生きる権利を持っているのです。

動物たちには人間から虐待や搾取されず、自然の生活をする権利があります。

基本的人権の尊重と同様、動物にも動物らしく生きる権利が尊重されるべきであり、種によってその権利は左右されるべきではありません。

冒頭2センテンスは生物多様性の考え方に通じる。だが、生物多様性と動物の権利は常に両立するわけではない。たとえば外来種による生態系の攪乱や、地域個体群の遺伝的攪乱を防止するために、「防除」と称して捕殺が行われているが、動物の権利を擁護する立場の人はそれをよしとはしないだろう。殺処分の代わりに不妊手術を施せばよいという考え方もあるが、捕殺に比べると不妊手術には莫大なコストがかかる上、その効果も限定的なので、実際にはなかなかうまくいかない。また、不妊手術が動物の権利を侵害すると考える人もいるかもしれない*6。ここには、矛盾とは言わないまでもある種の緊張関係があるのだが、アニマルライツセンターがどう考えているのかがよくわからない。
もう一つよくわからないのは、第1パラグラフで「いろいろな動物や植物」「全ての生き物」と書いているのに、第2パラグラフ以降では「動物」に限定されていることだ。この絞り込みのロジックがわからない。
動物の権利を主張する人の中には、人間の権利を人間に類似した動物に拡張していくという発想の人もいる。どこまで拡張するのかについて議論はあるものの、このスタイルだと植物まで権利を拡張しなくても不思議はない。苦痛を感じる能力がないから、とか、権利主体となる「個体」概念が適用できないことがあるから、とか、いくらでも説明が可能だ。しかし、アニマルライツセンターの論法であれば、なぜ植物を権利主体から除外するのかについての説明が難しいのではないだろうか?
フォアグラの話題からかなりそれてしまった。
毎度のことながら、論点をまとめきれずに散漫な文章を垂れ流してしまう。別に反省はしていない。
だが、あまり話を広げすぎると大変なので、今日のところはこのくらいで。

参考図書(ただしどちらも読みかけ)

動物からの倫理学入門

動物からの倫理学入門

ぼくらはそれでも肉を食う―人と動物の奇妙な関係

ぼくらはそれでも肉を食う―人と動物の奇妙な関係

この文章を書くときに調べてみつけた愉快なやりとり

*1:これは単に探し方が悪いせいかもしれない。

*2:では、件数の相場はどれくらいか、と訊かれても困るのだが……。

*3:いちいち個々の意見にリンクはしないが、はてなブックマーク - Victory!ファミリーマートがフォアグラ入り弁当の販売中止を発表! | 畜産:動物はあなたのごはんじゃない|NPO法人アニマルライツセンターあたりから察することができるだろうと思う。

*4:と書いたが、カモは野生種と飼育種の両方があるので、そのあたりどうなっているのかちょっとわからない。野生のカモを捕まえてフォアグラを作ることもあるのだろうか?

*5:もしかしたら、ガチョウの餌を大量に必要とすることが何らかの問題のもとになっているかもしれないが、そこまで調べきれなかった。

*6:アニマルライツセンターは東京都御蔵島における猫の不妊去勢事業を行っているので、そのような立場をとっていないと思われる。