[紙飛行機]メインコンテンツだったけど最近押され気味。もっぱら週末に飛行訓練。
[生活]愚痴と現実逃避を生きる辛さマシマシ幸せ少な目ネタ倍盛りくらいでお届け。
[趣味]ゲームと紙飛行機以外の諸々の趣味。その他のエンターテイメント。
[非実在世界]アニメとか萌え系の話題。今期はアニマスを視聴。
[イベント]航空祭とかコミケのレポート。
[ゲーム]一般向けゲームの話題。HALO,RaidersSphere,オブリビオン,同人ゲームも。
[北海の魔女]対艦攻撃機パイロットと仲間たちの戦いの日々。現在第17話まで完成。
[RSいじり]Raiderssphere関連の話題とか北海の魔女をRSEでやってみたり。
[設定その他]北海の魔女の設定とか構想のメモ。
2012年01月31日 Desert Condor
One bird, two heart.(19話)
北海の魔女 | |
中東 ルート砂漠 201Y/3/19 6:34
二日目の夜も同じように二人で腰を下ろして休むことになった。
会話の種はとっくに使い果たし、どちらが先に言い出すでもなく風化して柱のようになった岩の横に腰を下ろし、機械的に携帯食料を咀嚼して飲み込む。
それが終われば防寒毛布を被って静かに目を閉じる。心が荒むような時間を過ごしていても口論にはならなかった。たった一人で砂漠を越える心細さと危険を知っているからだ。
「ランク、ランク」
「うん? まだ起きてるよ」
「寒いでしょ」
精一杯の廻りくどい好意を察したランカスター少尉が狂鳥の方に近づく。二人分の体温で防寒毛布の中が徐々に温まってゆき、ゆっくりと瞼が重くなる。
「ねぇ」
「うん?」
狂鳥に小突かれたランクが気だるそうに目を開ける。
「あんたはさ、こういう状況でそういう気持ちになったりはしないの?」
「そういうって?」
「……種なし」
狂鳥はある意味、最も男のプライドを傷つける言葉を口にする。
「いや、もしかすると昨日ので本当にそうなってるかもしれないし」
「ごめん、昨日からきつい事ばっかり言って」
「いいよ、慣れてるから……えっ?」
アルミコーティングの擦れる乾いた音と共に、ランクの右腕に暖かく柔らかいものが押し付けられる。
「これでも、だめ?」
狂鳥はその豊満な胸をランクの右腕に押し付ける。彼女の鼓動が早くなっているのが感じられる。
「君が嫌じゃないなら」
「何も言えずに死ぬなんて、絶対イヤ」
狂鳥の言葉にはいつものような覇気はなかった。
「じゃあ、目を閉じて」
微かな月明かりだけが、重なる二つの心を照らしていた。
稜線から顔を出し始めた太陽が褐色の大地を照らし始め、震える寒さがやわらいでいく。
「う、ぐぅ……」
狂鳥は目を閉じたまま防寒ブランケットをどける。アルミコートがこすれて乾いた音をたてた。
隣ではランクが穏やかな寝息をたてている。
「ねぼすけ」
左頬を指でつつく。反応はない。
「起きろー」
軽く頬をはたくが、やはり反応はない。
「起きろ! ランカスター少尉!」
「うわっ何っ!」
耳元で名前を叫ばれたランクは慌てて起き上がろうと両手で砂を掻くが、慌てているのと目の細かい砂のせいで再びバランスを崩し、顔面を砂にめり込ませる。
「げほっ、ぐほっ……おはよう、ミリィ」
身を起こして口の中に入った砂を吐き出したランクは両手で顔についた砂を払って立ち上がる。
「おはよう、ラルフ」
「え……」
上半身だけを起こした狂鳥にファーストネームで呼ばれ、ランクは耳を疑う。
「そっちだけファーストネームで呼ぶのってズルイでしょ。だから二人のときはラルフって呼んだげる」
「これからもよろしく、ミリィ」
「こちらこそ」
ランクの伸ばした手を掴んで立ち上がる。
「さて、と。今日の朝食は?」
尻についた砂を払った狂鳥は大きく伸びをする。肩にかかっていた淡い金色の髪がさらさらと流れた。
「ごめんミリィ、その前に服を着てくれるかな。理性が保てそうにない」
「きゃーえっちー」
わざとらしい演技で胸元を隠した狂鳥は中に入り込んだ砂を掻き出しながらフライトスーツを着直す。
何かに気付いた狂鳥が反射的に身を伏せる。
「なにか聞こえる」
「何の音だろう」
狂鳥は目を閉じて意識を集中する。微かなモーター音のする方向に顔を向けて目を開く。
「いた、あそこ!」
「あれは……無人機?」
狂鳥の指差す先にランクが目を向けると砂色の色味がかった雲ひとつない空に灰色の鳥が浮かんでいた。
「味方の偵察ドローンだ、なんでこんな所に?」
主に市街戦などで使用される小型の無人偵察機は品定めするように頭上をゆっくりと旋回し始める。
狂鳥からやかましい電子音が鳴り響き、二人は顔を見合わせる。狂鳥は全身のポケットを探り、ようやく電子音の元をポケットから取り出す。
「え、嘘……」
数度画面を操作した狂鳥の表情が驚きに変わる。
「どうしたの?」
狂鳥は何も言わず、画面を怪訝そうな顔のランクに向ける。ランクの表情も驚きに変わり、 狂鳥の顔と携帯電話の画面を見比べる。画面上端の電波感度を表すインジケーターのアンテナマークの横に棒が二本立っていた。
発信元は文字コードが違うためか、おかしな表示になっている。
「出るよ?」
「う、うん……」
狂鳥の言葉にランクも頷く。
「もしもし」
「あー、君たち、無事かね」
聞き覚えのない声に狂鳥は首を傾げる。
「はい? どちら様でしょうか?」
「ケルマーン基地のマッケンジー中佐だ。無人機を中継して発信している」
「あ、はぁ」
「間もなくそちらにヘリが到着する。そのままの位置で動くな。以上」
「了解しました」
通話はそこで途絶え、無人機は翼を振って西へと引き上げていった。
連絡から10分後、マッケンジー中佐の言った通り汎用ヘリが砂丘の影から姿を現した。
「来た、あそこ! ランク、信号弾を」
「わかった」
ランクは頷くと信号拳銃を取り出して斜め上に向けて構え、引き金を引いた。間の抜けた発射音と共に赤色の信号弾が打ち上がり、煙を吐きながら砂漠の空に放物線を描く。
「気付いた!」
ゆっくりと旋回しながら捜索していたヘリが信号弾の打ち上がった方へ機首を向け、ゆっくりと砂埃を巻き上げながら近づいていく。
ヘリからロープがたらされ、砂漠迷彩の戦闘服に身を包んだ兵士が二人、降下してくる。ガスマスクに阻まれてその表情をうかがい知ることはできない。
兵士は着地するなり肩からかけた幅広の紐をランクと狂鳥にそれぞれ渡す。
「このハーネスを巻いて下さい」
くぐもった声に言われるがままに、ランクはハーネスで兵士と自分の体を固定する。狂鳥ももう一人の兵士のハーネスに身体を固定する。
「上げてくれ」
兵士が手信号で合図するとロープが引き上げられ、釣り針にかかった魚のように空へと引き上げられる。
「チャーリー・キロ4より作戦本部、パイロット二名を回収。これより帰投します」
「了解チャーリー・キロ4」
狂鳥とランクが席についたことを確認したパイロットがスロットルを開き、ヘリは高度を上げて機首を西へと向ける。機内にいるものはランクと狂鳥以外の全員が防護服に身を包んでいる。
「ラジフは、どうなったんです?」
「聞きたいか?」
「いえ」
ランクは俯いて言葉を濁す。
「基地に着いたらいくらでも教えてもらえるさ。そんなことよりもっとヤバイことが起こってる」
「いったい何が起こったんです?」
兵士は静かにランクの質問に答えた。
「第三次世界大戦だ」
「どういうこと?」
それまで窓の外を流れる砂漠を横目で眺めていた狂鳥がはっとこちらに顔を向ける。
「共和国が宣戦を布告した。本国がヤバイってんで基地は大忙しだ」
中東 ケルマーン空軍基地 201Y/3/18 11:04
基地に着くなり、二人は押し込まれるようにして真っ白のテントに案内された。入り口には放射能管理区域であることを示す黄色いマークが描かれている。
テントの中では防護服に身を包んだ四人の人影が待ち構えていた。
「物々しいなぁ」
テントの中を見回したランクは小さく溜め息をつく。まるで産業廃棄物か何かのような扱いには温厚な彼にもいくらかの反感を抱かせた。
「はい」
「何か身分を証明するものは」
「これで大丈夫かな?」
ランクはドッグタグを外して手渡す。書類とドッグタグを見比べた兵士が頷いて書類のチェックボックスをマークする。
「確認できました。こちらの方は処分させて頂きます」
無造作に放射性廃棄物と書かれた厚手の袋にドッグタグが入れられ、金属のぶつかる硬い音を立てる。
「あ、それ捨てちゃうんですか」
「万が一、放射性物質が付着していたとして君はそんなものを兵舎に持ち帰るのか?」
「いえ……」
「いいよ、後からまた貰えるんだし」
狂鳥もドッグタグを外して軍医に手渡す。
「ご協力、感謝します」
「では、これから幾つか質問に答えて頂きます。ラジフ基地を攻撃を受けたとき、君たちは何をしていた?」
「国境周辺の哨戒飛行を終え、着陸態勢に入るところでした」
狂鳥が質問に答えると軍医の隣に立っていた記録係がクリップボードに状況を書き取る。
「ラジフ基地上空をしばらく飛行した後、指示に従いバンダルアッバースへ飛行中に燃料がなくなり、脱出。シャダードへ向かっていることころをヘリに救助されました」
「ふむ。その間に怪我や傷は負ったりは?」
「あれって内出血に入るのかな?」
「うーん、どうなんだろう」
除染担当の四人は何事かささやき合うと二人に向き直った。
「……まぁ、大丈夫でしょう。除染作業を適切に行えば健康への影響はありえません。服を脱いで裸になって下さい」
「裸に?」
投薬程度で済むと見込んでいたランクは首を傾げる。
「流水で全身をすすいだ後に洗剤で十分な時間体を洗って頂きます」
「なるほどね。ま、いっか。もう見られちゃってるしね」
「……うん?」
狂鳥の意味深な言葉に軍医は頭を捻り、ランクはばつの悪そうな表情で視線を逸した。
除染に使われるらしき小部屋には簡易型のシャワーが二つ天井からぶら下がっていた。特に仕切りといったものはない。
「はいどーぞ」
狂鳥はフライトスーツを脱ぎ捨てて兵士の一人に押し付ける。少し躊躇ってから下着ごとタンクトップを脱ぐと、それまで抑えつけられていた豊かな乳房がたわわに実った果実のように揺れた。
その刺激的な光景に除染係の誰もが息を呑む。
「"ちゃんと"捨ててね」
砂漠の太陽より眩しい笑顔を浮かべた狂鳥が肌着と下着を兵士に渡す。その笑顔の中にある『変なことしたら容赦しない』という意味合いを知るランクはこれ以上狂鳥の不興を買わないよう口を閉ざすことにした。
「は、はははははっハイッ!」
兵士は裏返った声で答えて首を縦に振る。狂鳥がパイプから飛び出したコックを捻ると、太陽の熱で温められたぬるい湯が彼女の肌を叩いた。
「この状態で何分?」
同じようにぬるま湯を頭からかぶりながらランクが疑問を投げかける。
「10分間です。さらに5分間洗剤で全身を洗浄。さらに10分間すすぎです」
「な、なにー!」
ランクの叫びは冷たくなり始めたシャワーの水音にかき消された。
ようやくテントの外に出ることを許可されたランクと狂鳥は真新しい熱帯仕様の褐色の軍服に着替え、機材の収まったコンテナの上に腰掛けて髪を乾かす。
乾燥した風は天然のドライヤーのように髪に残った水分を奪い取っていく。
「うえぇ、鼻がもげて死ぬかと思った」
首元にタオルをかけた狂鳥が口元に手を当ててテントに恨めしげな視線を向ける。
「まさかあんな臭い洗剤だとは思わなかったよ」
ランクもため息をつきながら使い捨てのタオルで髪に残った水気を拭き取る。
シャワー自体は素晴らしかった。なにせ三日三晩着の身着のまま砂漠をさすらっていたのだから面白いように垢や埃がとれた。が、問題は全身を洗うための洗剤にあった。
狂鳥曰く『生ゴミをトイレで煮込んで熟成させたような臭い』のする緑色の洗剤はちょっとした化学兵器並みの威力を発揮した。
「あのガスマスク連中の口に詰めてやればよかった……うぅ、髪に臭いついたらどうしよう……」
「大丈夫だって、何度かシャワー浴びたら臭いは落ちるって言ってたし」
しきりに生乾きの髪の匂いを嗅いで顔をしかめる狂鳥をランクがなだめる。男勝りな彼女が年頃の少女のように髪や臭いに気を遣う様子はどこか本能をくすぐるものがあった。
横から近づいてきた下士官に呼ばれ、狂鳥が顔を上げる。
「基地司令がお呼びですので、こちらへどうぞ」
案内されたケルマーン基地の司令室は程良く冷房が効いていた。壁には基地周辺の味方の布陣が書き込まれている。
「まずはご苦労だったな」
メッケンジー中佐が椅子から立ち上がり、二人の肩を叩く。
「カイロの中東派遣軍本部から先ほど辞令が来たよ。504飛行隊は本日付で解散。リーデル中尉、及びランカスター少尉は本日付でヨーロッパ中央軍に編入。アレクサンドリア、マルタ経由で本国へ向かえ。とのことだ」
「はっ」
姿勢を正した狂鳥が了承の意志を示す。
「機材についてはFS-04が用意できている。残念ながら複座型の一機だけしか手配出来なかった。アサインは君たちに一任されている。明朝には出発の準備ができるはずだ。必要なものがあればその辺にいるものに言ってくれ」
「了解しました。あの、ところで……」
狂鳥の言葉が終わる前に彼女の胃袋が盛大に鳴った。彼女の顔に朱色がさす。
「食事だな。手配させよう。腹が減っては戦は出来んというしな。昨夜のアレでは腹も減るだろう」
――昨夜? まさか
ランクが昨夜の出来事をひと通り思い出し、何故それをこの司令官が知っているのかを理解した。
大型の無人機であれば、高空を飛ぶことでエンジン音を悟られずに近づくことができる。あたりをつけた上で小型機を飛ばして通信を中継する。
――昨夜既に追跡されてた。つまり……『全部』見られていた
「んなっ!」
マッケンジー中佐に殴りかかろうとする狂鳥をランクが慌てて後ろから羽交い締めにする。狂鳥の拳が空を掻く。
「離して、ランク! こいつは女の敵よ!」
耳まで真っ赤にした狂鳥が豪快に笑う司令を指さす。
「いやぁ久々にイイモノを見せてもらったよ。少尉と仲良くな」
「ふ、ふぇぇ……」
恥ずかしさと怒りとがないまぜになり、狂鳥は顔を覆った。
「あ、知ってるのは私と当番の四人くらいだから安心していいぞ」
マッケンジー中佐は親指を立ててウインクする。まったく安心できない、むしろ逆に不安を煽るような口調だった。
しばらく後、食堂には非番の兵や手すきの者が集まって遠巻きに『よそ者』を見ていた。金髪の女性士官と黒髪の青年士官はこれでもかと言うほどトレーに料理を載せ、テーブルマナーなどといった文化的な慣習に気をかけることなく食事をとっている。
「おい、なんだあの二人組」
「知らないのか? 例のラジフの生き残りだとよ」
食堂の中央に向き合って座る二人組を見ながら周囲の兵士たちが声を潜めて噂話を始める。
「金髪のほうが狂鳥だったか」
「にしてもよく食うなぁ」
当の二人組はそんな周囲に気を配る余裕などなく無く、本能の求めるままにアフターバーナーに点火したジェットエンジンよろしく並んだ料理を次々に平らげていく。
「うまい! やっぱりうまい!」
「生きててよかった……」
スパイスの効いた豆のシチューをかきこんだランクが紙皿を右にどけ、まだ脂身が音を立てて弾ける厚切りのベーコンがのった皿を手元に引き寄せる。
テーブルを挟んで向かいに座る狂鳥は五個目のロールパンを片付け、低脂肪乳を喉を鳴らして飲みはじめる。こちらは半分ヤケ食いじみた様相を呈している。
「にしてもよく食うな、アイツら」
「三日三晩砂漠をふらふらしてたんだとよ」
「そりゃ腹も減るわな」
中東 ケルマーン空軍基地 201Y/3/20 06:04
まだ肌寒い無人の格納庫の中で翼を休める複座のFS-04を見上げたランクはすぐに機体に感じた違和感の理由に気付いた。
――そうか、いつもの機体じゃないんだな。
尾翼には慣れ親しんだ雷やショットガンのマークはない。愛機は今頃黒焦げになって砂の中に埋もれていることだろう。
不意に扉の開く音が響き、ランクは音のした方向に目を向ける。
「あ、いた」
「ミリィ」
狂鳥も既に新しいフライトスーツに着替えて新品のヘルメットを小脇に抱えている。
「準備はいいの?」
「準備もなにも、荷物がないからね」
お手上げといった感じで、ランクは両手を軽く上げる
「それもそっか」
そう言うと狂鳥はランクの隣に腰を下ろして足を伸ばす。まだ出発までは一時間ほど時間がある。整備作業や点検は昨夜のうちに済ませてあるので飛行前に再度チェックをするだけで良い。
「あ、そうだ」
思い出したように狂鳥はポケットの中をまさぐる。
「ID、昨日渡すのわすれちゃった」
「ありがとう」
狂鳥が再発行されたらしきIDカードをランクの手に握らせる。
「これも」
真新しい光沢をもったドッグタグがランクの目の前に垂らされる。狂鳥は立ち上がってランクの前に屈み込む。
「ミリィ?」
「つけてあげるから、動かないで」
ランクは言われるがままにじっと待つ。首にひやりとした感触があたり、ドッグタグがかけられる。機体を受領し、身分証を受け取った二人は名実ともに戦線復帰する準備を整えた。
王国 ヴィットムントハーフェン航空基地 201Y/3/21 10:32
丸一日かけた強行軍の末、砂漠の水鳥と二人の生き残りは本国の基地にたどり着いた。
「タワー、こちらコンドル1。着陸許可を」
「コンドル1、ランウェイ26への着陸を許可する」
FS-04のフラップが開き、格納されていた脚を降ろす。狂鳥は接地の直前に静かにスティックを引き、空気をクッションにしてそっと滑走路に機体を降ろした。
「コンドル1、スポット35へ移動せよ」
「了解。35番」
減速を済ませた所で管制塔から駐機場への移動指示が下る。狂鳥がラダーペダルを踏んで機体を転回させ、滑走路と平行に伸びる誘導路をゆっくりと進む。
「エコー隊、滑走路への進入を許可。離陸後はゴライアスの指示に従え」
「ラルフ、今エコーって聞こえた?」
聞き覚えのあるコールサインに狂鳥は共に翼を並べた青紫の機体を探す。
「そう言ってたよ」
後席のランクも頷く。
「アヤメも、来てるんだ……」
狂鳥が滑走路に目を向けると、めいいっぱいの武装を吊るした青紫のFS-04が二機、翼を並べて離陸していく様子が目に入った。その片方の翼には、とんがり帽子をかぶった魔女が描かれていた。
2012年01月11日 魔女さま一周年です
コンテンツの価値って?
趣味 | |
一部ネット界隈で紙飛行機の図面を無料公開するしない云々の議論があるようですね。
うちの図面が有料になるってことは基本的に今のところご安心を。
やるとしても架空機が同人誌のオマケでつくとかそんなレベルです。
さて、ここから本題。
うちのサイトでは12時間悪戦苦闘して図面を引いた機体をポイっとアップロードしているわけですが、組立説明の類は基本的にありません。
単純に機種が多い上に説明しにくい工程はさむせいでめんどくさい。ただそれだけです。
あと説明がわかりにくいとかそういった問い合わせの対応が嫌いというのもあります。
自分が作りたいと思って作った過程で生まれた副産物を再利用してるだけだもの。
というわけでリンク切れ以外は基本ノーサポートで気が向いたときに修正する程度。
サポートしない代わりに対価を受け取らないわけです。
作る方は好き放題できる。
DLする方は好きに作れる。
みんな幸せ。
まぁでもお金取るなら払う以上の価値をお客さんに見せられたらいいよね。
俺にはまだ無理。
【追記】
書いた後に色々やったりして戻ってきたらお金関係のモヤモヤが自分なりに理解できた。
「金取るなら客に面倒をかけさせるな」
たとえ100円のソフトグライダーでもわざわざお店まで買いに来てもらってる以上、客は自分の時間を割いてくれてるわけです。
それ以上の労力をお客さんにかけさせてはならないんではないかと思った。
ボタン一発、代引きかコンビニ決済で買えるならものぐさな人はポイポイ買う。
アマゾンは住所を書くだけで三日で届く。
安いのと速いのもそうだけど、入れる個人情報の量は少ないほうがいい。(セキュリティ云々もだけど単純に煩わしい)
中の人がwebサービスとかで入力フォームが消えるとキレるのはそのせい。
金を払ってもらう以上、購入までのプロセスは短くてシンプルなほうがいい。
2011年12月11日 20日後…
スカイスポーツシンポジウム雑感
イベント | |
昨日は奥歯の腫れと眠気と闘いながら御茶ノ水の日大理工学部キャンパスで開かれるスカイスポーツシンポジウムを聞きに行って来ました。プログラム1-5のところで舌っ足らずな質疑応答してたチェックのシャツが俺です^q^
というわけで超アウェーな中の人の見たり感じたり思ったことを書くよ!
事前情報で「罵詈雑言と紙飛行機の飛び交う第一次大戦の塹壕の如き会場」という話を聞いていたのでかなり恐る恐る入場しましたが静かに発表が進んでいてびっくり。
本日の狙い目は1-3〜1-5の「スカイスポーツのための空気力学(その2)」「模型飛行機の3次元空力特性」「模型航空と教育」「健康教育における紙飛行機遊びの教材化に関する研究」
の4テーマ。
「スカイスポーツのための空気力学(その2)」は、図表を用いて空力中心と重心関係の位置をわかりやすく図説。飛行船の空力中心、重心、圧力中心の位置関係は意外だった。
最近鵺師やこまP氏の作ってる折り紙ヒコーキのピーキーさがよくわかるお話でした。
「模型飛行機の3次元空力特性」では、X-Foil(翼型解析用のソフトウェア)を用いた翼型解析と同じモデルを用いた風洞実験の結果を発表。俺が高校時代にやりたかったことの遙か上を行ってる感じで「そうか大学レベルだとそこまでの事ができる&やらなきゃならないのか」などと心のなかで溜息ついてました。
というか翼型解析風洞って翼を地面に対して垂直につけるんですね。俺水平につけてたぞ/(^o^)「翼の形状と飛行特性の違い」とはなんだったのか。
もう許してください死んでしまいます。
「模型航空と教育」では、伸びしろのある模型飛行機の市場(競技者)として成人後、定年後の世代にフォーカスするというお話でした。ま、これについて思ったことは後述します。
午前の演目では最後の「健康教育における紙飛行機遊びの教材化に関する研究」が一番聞いててワクワクしましたね。
大学の講義の一部として紙飛行機遊びを導入し、アンケートと生理学的調査によってストレスの軽減効果があることを実証。いいなぁ、この講義だけ受けに行って痛機飛ばしたい(ヤメレ)
運動強度が中程度になるということにびっくり。意外と運動になるのねアレ。そりゃフライトしたあとはがっつり寝れるわけだわ(俺の場合寝不足でフライトに行くせいだけど)
午前の発表はこんな所で終了、午後は最初の部だけ聴いて撤収しました。
模型飛行機がこの先生きのこるためには
紙飛行機 | |
というわけで個人的に論調がカチーンときたなんたらかんたらへの有形無形のモヤモヤを書きなぐります。空中Disとブーメランの山です。
まず前提として「定年後世代は果たして市場、教育者として適切か」
ではみなさん趣味世界に於ける60代以上の年齢層をちょっと思いうかべてみましょう。
……つまりそういうことです。
むしろ若いほうがいいんです。エネルギーと発想がいっぱいあるから。ガンガン作っていっぱい失敗してそこから立ち上がれる。
発表の中でも触れられていた「模型飛行機を理解して飛ばすためには高校生以上の頭が必要(意訳)」について。
まぁ、微積分の出てこない範囲の数字で挙動を学ぶには確かに高校生位の頭は必要でしょう。というか高校時代ヒコーキの研究してたときは揚力係数とか抗力係数とか全く考えてなかったしそもそも微積の記号が出てきただけでオエーッとなってたし。
が、ここで一つ疑問が。
なぜ「わからせる努力をしないのか?」
諏訪氏の発表のように、図表を効果的に用いれば感覚的に伝えることは可能なはず。
というか俺が見たり話した範囲の人だと皆機体(競技用機)を見て「これ設計の時計算とかしてるんですよね、すごいです」
って言われます。
あのね、そういうのちゃんと考えてる人は存在するけど俺は確実にそっち側じゃないよ^q^トライアンドエラー(もしかするとエラーアンドエラー)繰り返してる駄目な子だよ。尾翼容積とか計算したこともないよ。
そんなのの作ったヒコーキでも飛ぶんだよ。三角定規だってキメラだって飛ぶんだよ。ようするになんだって(折れたり曲がったりしなければ)飛ぶんだよ。
「競技人口を増やす努力はしているか?」
時代はインターネッツ(死語)とブロードバンド(これも常識になってきた)の時代ですよ皆さん。
ガンガンyoutube飛行動画アップしましょうぜ。Ustで配信しましょうぜ。HPつくりましょうぜ。TwitterにURL貼りましょうぜ。
ネット上には飛行機少年はまだまだたくさんいます。そんな隠れた需要を放置するとかないわーまじないわー。
2011年11月17日 赤い夜明け
Dawn of the Red(第18話)
北海の魔女 | |
王国 ヴィットムントハーフェン航空基地 201Y/3/18 05:01
移動命令から12時間後、魔女と鷲は本国の航空基地のブリーフィングルームに他の基地から集められたパイロットと共に座っていた。
魔女はあくびを堪えて大きく息を吸い、所在無げに室内を見回す。見知った顔や同期のパイロットも何人か混じっている。
魔女の隣では始まるまで仮眠すると言った鷲が腕を組んだまま静かに眼を閉じている。 何しろ移動後、3時間ほど休憩室のベンチで横になっただけでろくな休息を取っていない。魔女がドアの開く音に顔を上げると、いかにも叩き上げといった風体の中年の将校と、参謀らしき女性士官が入室してくる。
「隊長、始まりますよ」
「聞いてる」
鷲は魔女が起こすよりも速く目を開き、姿勢を正す。
「さて、諸君。話は聞いていると思うがついに共和国が宣戦を布告した。ライチェ少佐、状況説明を」
基地司令に変わり、妙齢の女性士官が進みでて地図を指示棒で指しながら説明を始める。
「昨夜、国境を超えたものに留まらず、各地で大規模な共和国軍の部隊が確認されました。ポドラシェ地区は民間施設も含め、広範囲で攻撃に晒されています。非常事態宣言により全戦線に部隊を送ります。無人機による偵察により、共和国軍の高性能ジャマーも確認されています」
味方の地上軍を示すマークが後退し、幾つかが消える。若いパイロットの何人かがざわめく。
「共和国軍は国境の主要な監視所を突破、現在アウトバーンを目指して進撃している」
王国との国境を超えた赤いマークが南東に進み、地方都市の一つの色が青から赤に変わる。言うまでもなくそれは共和国軍によって制圧されたことを表している。
「恐らく67号線からビャウィストクを抜け、一気にワルシャワに攻め入るものと思われます。現在陸軍が民間人の避難誘導と防御陣地の構築に当たっていますが、敵の航空支援と支援砲撃が強力で、苦戦を強いられています……現在の戦況は以上です」
「詳しい内容については方面ごとに詳細な説明を行う。224,132,211飛行隊は北方面、その他の部隊は東方面だ」
「北方面の部隊はこちらへ」
女性士官に手招きされ、鷲と魔女の他、8人のパイロットが腰をあげる。
「あなたたちの任務は陸軍第31中隊と後退して来る味方部隊の援護と敵戦車部隊の足止めです。31中隊はアウグストゥフに避難誘導のため展開している部隊で、南北に機甲部隊を送っているため戦車や砲兵の援護が全く得られない状況です」
壁に貼られた詳細地図には何箇所かに味方歩兵部隊を示すマークが描かれている。
「そこであなた達には彼らと共に時間稼ぎをしてもらいます。恐らく北と東の道路沿いに進軍してくるはずです。東から撤退してくる味方の通過後、31中隊が橋を爆破、東から来る敵を足止めします。橋の破壊を確認し、地雷原の構築が終わり次第31中隊は西へ後退します。31中隊のコールサインはラズーリ1-3です」
「つまりは、だ」
ライチェ少佐の説明が終わった所で鷲が口を開く。
「何でしょうヘンシェル大尉?」
「要は、俺達に戦車と偵察機の代わりをやれと」
回りくどく説明された内容を過剰なほどにひとまとめにする。
「そういうことです」
「それにしても、よく半日でここまで集めたもんだ」
駐機場に並んだ機体を眺めた鷲が感嘆と呆れの混ざり合った調子で呟く。その視線の先には対地攻撃の可能な機体がずらりと30機ほど並んでいる。
「攻撃機はライアーだけですか? 海軍のVTOLが配備されていたはずですが」
魔女は基地を見渡すが、濃淡の緑の森林迷彩、青紫と灰色の洋上迷彩、そして最新のデジタル迷彩の施されたものまで、並んでいるのはライアーばかりだ。所属基地を基地を示す尾翼のテイルコードも違う。
「ハチドリ連中はもっと東の方にいるとよ。対地攻撃か、久方ぶりだな」
「そういえば、以前…」
魔女の言葉を鷲は遮る。
「対地攻撃は楽しいぞ。どっから弾が飛んで来るかわからんからな」
鷲はおどけた調子で話すが、その目は空を飛んでいるときにものに切り替わっている。
「それ、全然楽しくありません」
「上は味方がしっかりガードしてくれるから俺たちは地上に集中だ」
鷲はそう言うと機体に掛けられたハシゴをカンカンと金属音をたてながら登っていく。
魔女もその右隣で翼を休めている愛機の操縦席に滑りこむと座席に金具で自分の体を縛り付け、機器の点検を始める。
手信号で意思疎通をとった二人はそれぞれの機体の点検に戻る。
魔女が爆音のした方を振り返ると、尾翼の影からデジタル迷彩に身を包んだライアーの第一陣がたんまりと誘導爆弾を抱え、ジェット燃料を気前よく燃やしながら飛び立つのが目に入った。
「ネルケ3、4離陸を許可する」
管制塔は早くも滑走路に入った次の二機に離陸許可を与える。
戦略級輸送機の運用も見込んで作られたこの基地の滑走路は、大柄なライアーが二機横に並んでいても余裕を持って離陸できる幅を持っている。
先ほど離陸していった二機が空中で編隊を組み直し、南東へ機首を向ける。国境を超えた共和国軍は数に任せて進撃を続けている。
東欧 アウグストゥフ市 201Y/3/18 06:13
最前線からほど近い小集落では最後の民間人をのせたトラックが南東の都市へ向けて発車するところだった。
「身分証を拝見します……はい、確認しました。あ、おばあさん、荷物は我々が運びますから」
所々かすれた年金受給者の証明書を確認した兵士が老婦人にそれを返す。兵士は住民リストの最後の空欄にペンでチェックマークを書き入れ、老婦人の荷物を持ち上げる。
「兵隊さん、わたしゃもう長くないからいっそ最後まで見届けるつもりだったんだがね」
「まだ終わりませんよ、フラウ。我々が居ますから」
上等兵の階級章をデジタル迷彩の戦闘服につけた兵が荷物を抱えてトラックに運ぶ。
「頼もしいね、爺さんの若い頃を思い出すよ」
先の大戦と、それに続く冷たい対立と混乱と変革を見守ってきた老婦人の言葉が上等兵の胸に重く響く。
「さぁ、どうぞ。乗り心地は悪いですが安全は保証します」
トラックに控えていた兵士に手を引かれた老婦人はゆっくりとした足取りでトラックの荷台にかけられた板を軋ませながら登る。
「これで最後か?」
「あぁ、そうだ」
トラックに控えていた兵士が住民リストを受け取り、敬礼する。身分証を確認していた方の兵士は遠ざかるトラックを見送ると踵を返して本部へと駆ける。
本部と呼ぶにはあまりにもお粗末なテントでは、指揮官が地図を恨めしそうに睨みつけていた。
「失礼しますランバート中佐、この地区の避難は完了しました」
「ご苦労ロートマン上等兵。無理だと思ったら後退しろ。全員に英雄気取りは不要だと伝えておけ」
地図を眺めながら顔をしかめていたランバート少佐が顔を上げ、報告にきたロートマン上等兵をねぎらう。
――歩兵が200名、うち予備役が半分で、重火器は無反動砲と対戦車地雷だけ。砲兵による援護はなし、装甲兵員輸送車が3両……これでどう戦えってんだ? あのクソジジイ共のお陰でとんだとばっちりだ。
心のなかで開戦へ踏み切った両国のトップ二人に対して毒づいた。
「少佐、空軍からアウグストゥフ防衛の指揮官宛です」
無線機に張り付いていた通信兵がはっとしたように立ち上がり、ランバートを呼び出す。
「貸してくれ……はい、324中隊指揮官は私ですが? え? ……わかりました。おい! レーザー照準器とGPSは幾つある?」
無線機を耳に当て、二言三言言葉を交わした指揮官は近くにいた兵を呼びつける。
「各小隊に一台ずつあります!」
「よし、北と東に2基ずつ配置しろ。なるべく高くて頑丈そうな建物の屋上がいい。天使様が助けに来てくれるぞ!」
そう叫んだ指揮官の頭上を6機のFS-04が低く飛び越えてゆく。
「来たぞ! 航空支援だ!」
轟音に気づいた兵士たちが立ち上がり、大きく空に向かって手を振る。主翼に描かれた北極星のマークが夜明けの太陽光を浴びて輝いていた。
魔女は上空から市街の様子を素早く目視で探る。見える範囲には殆ど装甲戦力がない。2台ほど、灰色の都市迷彩に塗られた装甲車がいるだけだ。すぐに動ける機甲部隊は北と南に送られ、今ここを守っているのは歩兵だけだ。
――彼らを支援できるのは私達しか居ない。
「管制機エクリプセよりエコー隊およびヴォルフ隊へ、周辺空域はルクス隊が警戒する。市街地に敵を寄せ付けるな」
「了解。北からの敵はヴォルフ隊が受け持つ。エコー隊は東の道路を警戒せよ」
濃淡の緑色の森林迷彩に身を包んだFS-04が緩く左旋回していく。
「ヘクセ、ついてこい。マスターアームオン」
鷲の機体がわずかに右に傾いて機首を東南東へ向ける。魔女もそれに従い、戦闘準備を始める。
マスターアームオン、レーダー、対地モード。FLIR、オン。機首下に埋め込まれた赤外線センサーが起動し、地上を素早く走査する。
「無人機でそちらの索敵支援を行なっている。現在複数の車列がこちらへ移動中。発見次第そちらに伝える」
管制機からの声に魔女が周囲を見回すと、瑠璃色の空に灰色の無人偵察機が貼りつけられたように飛んでいるのが目に入った。
赤外線で地上を捜索していた鷲が何かを見つけ、敵味方を判別する。魔女もサブディスプレイに表示された明滅を繰り返す車両を見つける。
「管制機、こっちに後退してくる部隊の周波数はわかるか?」
「チャンネル67のCだ」
「感謝する」
管制機から教えられた周波数で鷲が交信を試みる。
「西進中の地上部隊、聞こえるか。こちらは空軍第224飛行隊、エコー1。現在そちらの上空を飛行中。我々が見えるか?」
「陸軍48小隊です、そちらを見つけました。国境警備隊と共にアウグストゥフへ向け移動中。間もなく橋を渡ります」
「了解した」
鷲は高度を下げ、目視で後退してくる車列を確認する。どの車両も小銃弾になんとか耐えられる程度の軽車両ばかりだ。
車列は橋を渡り、更に西へと進んでいく。その頭上を低いエンジン音を轟かせながら二機のライアーが逆方向へ飛んでゆく。管制機から再び通信が入る。
「エクリプセよりエコー隊、そちらへ向かう車列あり。そこから南東へ10マイル。664号線をそちらへ向けて移動中」
「目標を確認した。先頭から潰す。ヘクセ、詰まった車列を後方から叩け」
「了解」
鷲と編隊を解いた魔女は高度を上げつつ道路沿いに東進する。機首の赤外線センサーは戦車の排熱をはっきりとサブディスプレイに浮かび上がらせ、ヘッドアップディスプレイに四角く強調表示する。
「アドラー、ライフル1」
鷲の繰る機体の翼下か対地ミサイルが切り離され、車列めがけて猛ダッシュを始める。直撃を受けた戦車の砲塔が吹き飛び、砲身が畑に墓標のように突き刺さった
混乱した車列の背後から大きく旋回して魔女が近づき、爆弾を投下して緩やかな旋回上昇に移る。鋭い風切り音を立てながら慣性誘導爆弾が指定された座標めがけて落下を始める。散開しようとする装甲車の側面にめり込んだ爆弾が起爆し、対空ミサイルを構えようと下車した兵士を粉砕し、金属片と血の混ざり合った破片へと変える。
魔女が機体を水平に戻し終えた時、道路上の車列は爆風と破片で無残に引き千切られた肉と金属の墓場と化した。
炎上する装甲車から何とか這いでた戦車兵が炎に呑まれ、恐ろしい絶叫を上げてのたうちながら息絶える。
「エコー隊、敵部隊が散開を始めた」
「わかった、へクセ、戦車は俺がやる。装甲車を狙え」
「了解」
魔女はそう答えると麦畑を踏みにじりながら進む装甲車に狙いを定め、緩やかな降下を始める。カナードの付け根が鋭い風切り音を立て、目標を捉えたことを示す電子音が鳴る。
「ヘクセ、投下」
再び二発ずつ誘導爆弾を投下し、旋回上昇で離脱する。片方は外れたが、もう片方の爆風をもろに浴びた装甲車が煙を吐いて停車する。
「アドラー、ライフル1」
鷲も対地ミサイルで戦車を仕留める。北の地平線上でも同じように森林迷彩に身を包んだ鳥たちが地上の車両をついばむように攻撃している。
「48小隊より324中隊、橋を渡った。爆破してくれ」
橋を渡り終えた車列から通信が入り、ランバート少佐が頷く。
「了解。クラウス、10秒後に起爆だ」
爆破を命ぜられた工兵が頷いて右手に起爆装置を握り、カウントを始める。
「3,2,1……爆破っ!」
スイッチにのせた指に力を込める。電気信号が一瞬のうちに伝わり、橋に仕掛けられた爆薬が爆発し、橋をバラバラに破壊……するはずだが、橋は崩壊どころか、ヒビひとつ入らず川の流れの上に鎮座している。
「おい、どうした」
「起爆……しません!」
何度もスイッチを押す工兵の顔から血の気が引いていく。
「なんだと?」
ランバート少佐が起爆装置を取り上げ、もう一度スイッチを押し、何も起こらないことを確認すると大きく舌打ちをしてそれを地面に叩きつけ、無線機のマイクを握る。
「エコー隊、マズいことになった。橋の爆薬が起爆しない」
「こっちの爆弾で破壊しよう。橋の強度はどれくらいだ?」
「直撃すれば確実に破壊できるはずだ」
橋の延長線上に機体の軸線を重ねる。こうすることで、前後に着弾位置がずれても左右のずれを修正するだけで済む。
「よし分かった、俺がやる。目標位置確認。エコー1、爆弾投下」
鷲は爆弾が橋の座標を認識したことを確認して発射ボタンを押す。が、投下された爆弾は橋ではなく、橋のそばの農家の石垣に隠れて様子を伺っている味方の頭上を通り越し、すぐそばの築200年は経っているであろう納屋を粉々に吹き飛ばした。
「何してやがる! こっちは味方だ!」
無線機から土塊と藁束を浴びせかけられた味方の悲鳴と罵声が流れる。
「エコー隊、それは味方だぞ!」
ランバート少佐の怒りが無線機越しに伝わってくる。
「どうなってる? GPSが……共和国の連中衛星電波を妨害してるぞ」
先程まで正常だったGPSで取得している自機位置が数秒おきにランダムにずれていることに気付いた鷲が驚きの声を上げる。
理論上、GPS衛星と同じ帯域の信号をタイミングよく発信すれば受信機は異常な位置を表示させることはできる。だが、実際に遭遇するのは初めてだった。
「なに? そんな馬鹿なことが……くそったれ! これじゃ当たるものも当たらないぞ」
手元のGPS端末で位置を確認したランバート少佐も口汚い言葉を吐く。
「隊長、レーザー誘導なら妨害されないはずです」
それまで黙ってやり取りを聞いていた魔女が割り込む。
「まだ残ってるか?」
「一発だけ」
魔女は胴体中央に残った爆弾の誘導モードをレーザーに切り替える。
「よしラズーリ、橋にレーザーを照射してくれ!」
「分かった、照射する。あの橋を渡られたら終わりだ。一発で決めてくれ」
ランバートが教会の鐘楼に登り、レーザー目標指示器を構えた兵士に指示する。
「橋を空軍に吹き飛ばさせる。ど真ん中にレーザーを照射しろ!」
「了解です!」
力強い返答と共にレーザー光線が橋に向かって照射される。
「レーザー確認。ヘクセ、やれ」
「了解、ヘクセ、投下!」
鷲の声に魔女は短く答え、ヘッドアップディスプレイに表示されたレーザーマーカーをロックオンする、捕捉を知らせる電子音が鳴り、投下を促す。魔女は発射ボタンに乗せた親指に力を込め、主翼下に吊るされた最後の爆弾を投下する。
鋭い風切り音を立てながら橋に突き刺さった誘導爆弾が爆発し、鉄骨に薄いコンクリートをコーティングしただけの簡素を橋をちょうど渡ろうとしていた不運な戦車もろとも崩落させる。雪溶け水の流れる冷たい川に大きな水柱が上がった。
「命中、橋の破壊を確認した! エコー隊、航空支援に感謝する。総員撤収」
地上部隊から感謝の通信が入り、市街地から偵察車やトラックが脱出を始める。
「さぁ、諦めて帰りな」
悔しそうに川岸で立ち往生する戦車に鷲が機関砲を撃ちこんで威嚇する。
「エコー隊、味方地上部隊が後退を始めた、任務完了。帰投せよ」
すべての爆弾と対地ミサイルを使い果たし、身軽になったひとつがいのライアーは朝日に背を向け、本国の基地へと引き上げてゆく。完全に闇が払われ、水色に変わり始めた空を見上げた324中隊のほとんど全員が彼らに手を振り、魔女と鷲も小刻みに翼を振り返した。
アフリカ 201Y/3/20 9:47 ネオユニバーサルエンジニアリング社工場
駐機場に並んだ怪物たちが、大きく口を開いて次々に運ばれてくるコンテナやパレットを呑み込んでいく。その中には歩兵用の暗視ゴーグルにはじまり、無人戦闘機の胴体に至るまでこの工場で最終組み立ての行われるほとんどすべての製品が詰め込まれている。
「サフォーノク君、ここにいたかね」
ミハイルはその様子を一瞥すると、六発のジェットエンジンを翼下にぶら下げた巨大輸送機の食事会に背を向け、近づいてきた人影に向き直る。レイピアプロジェクトの主任技師が立っていた。
「あぁ、あんたか」
「スマンなぁ、あと10年、いや5年待ってくれれば光学迷彩を君の機にもつけてやれたんだが」
ミハイルたちは慣熟飛行の合間に半ば強制的に種々の試作兵器や技術を見せられてきたが、光学迷彩は空中戦の常識をひっくり返しかねないものだった。特殊なコーティングを施した平板に電気信号を流し、周囲の環境をカメラで撮影してコインピュータで処理し、最適な迷彩パターンに変化させる。ほぼ一瞬のうちに切り替わり、周囲の環境と同化していく様子はさながらタコやイカといった海生生物のそれを思い起こさせた。
「あれがあれば空にあるかぎり君たちは無敵だったのになぁ」
息子との約束を破った父親のように申し訳なさと無念さの入り混じった表情で技師は大きく肩を落とす。
「問題ありませんよ、ドクトル。そんなものがなくてもバリスタと99で十分です」
漆黒のレーダー吸収塗料に身を包んだレイピアを見上げながらミハイルがたしなめる。
「まぁ、君たちなら大丈夫だろう。では、また今度合う機会があれば」
白衣を乾いた風にたなびかせながら技師は『暗黒大陸の電気街』へと帰ってゆく。また明日から別の試作兵器のテストにかこつけて遊んでいるようにしか見えない日常に戻るのだろう。
「隊長、もう間もなく予定時刻です」
声のする方向に目を向けると、シェスタコフ中尉が飛行服に着替えて立っていた。
「……そうか。すぐに行く」
ミハイルは左手に目を向け、手首に巻かれた皇国製の頑丈さと無骨なデザインが売りの時計に目を向ける。重なりあった長針と短針は10時10分前を示している。静かに腕を下ろし、すぐそばの黒塗りの愛機を見上げる。
機体サイズにしては細い機首下の金色にコーティングされた光学センサーは、高貴さよりも邪悪さを引き立てている。
「よし、帰るぞ」
「はい、隊長」
ヘルメットを被って機体に乗り込み、メインシステムの電源を入れる。機体各所を制御し、そのすべてを統括するコンピューターが次々に起きだして自分の受け持ち部位の異常の有無を自発的に確認し始める。
「後席、異常ありません」
「前席も問題なし。キャノピーを閉めろ。エンジン始動」
漆黒の怪鳥は機体を微かに揺らしエンジンを起動する。精密機器と合金と複合繊維の塊は狡猾な捕食者へと姿を変えた。
