東大教養部関係者の本の引用が続いてしまいますが、蓮實重彦が『ユリイカ』での対談をまとめた近著の書き下ろし巻頭文には、次の一節が。
ところが、なぜかうまく説明できないのですが、当時[1950年代]の私の頭の中で、アメリカ映画とアメリカ合衆国とが素直に結びつくことはまずありませんでした。とはいえ、それは、誰もが「ヤンキー・ゴー・ホーム」と唱えながら口々に反米的な思想を表明していたとき、アメリカ映画に愛着を覚えてしまう自分を無理にも正当化するための韜晦術ではありません。[……]アメリカ映画はアメリカ合衆国を表象するものではない、つまり、アメリカという国はアメリカ映画ほど面白いはずがないというほとんど直感に近い確信から、つい数年前までの敵国への愛着など微塵も示さず、もっぱらアメリカ映画に愛着以上の思いをいだいていたのです。(黒澤清+蓮實重彦『東京から 現代アメリカ映画談義』10頁)
東京から 現代アメリカ映画談義 イーストウッド、スピルバーグ、タランティーノ
- 作者: 蓮實重彦,黒沢清
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2010/05/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「アメリカという国はアメリカ映画ほど面白いはずがない」という、いかにも蓮實先生らしい一文は、「オバマ大統領の就任演説に漂っている血なまぐささにはとても無感覚ではいられまい」(『新潮』2009年4月号、246頁以下)というエッセイと響きあっているような気がして、オバマの大統領就任と同じ年に首相になった人が退陣表明した日に読むのはタイムリーとも言えそうですが、
ここでは、「ヤンキー・ゴー・ホーム」から始めたいと思います。
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