ワーカホリック映画「天国と地獄」

天国と地獄[東宝DVD名作セレクション]

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黒澤明「天国と地獄」といえば、新幹線開通前で特急こだまが出てくるわけだが、以前テレビでその特急列車の場面からあと後半を見たきりだったが、全編ちゃんと見直したら、前半の室内劇風の権藤邸の一夜(脅迫電話が夜3回朝2回あるのだが、すべて見せ方が違っていたり、「ボースン」のキャラが次第にくっきりしていく仕掛けになっていたり、芸が細かい)と、後半の捜査会議(テレビの刑事ドラマだったら数分で終わりそうなところで捜査員それぞれに「ソロ」があって、名古屋章までもが見せ場をもらう)がとくに面白かった。

活劇の人が、一時期、どん底とか蜘蛛巣城とか、演技・演劇に凝って、それがこういうところに生きているのかと思った。

これは集団劇だったんですね。「七人の侍」が「数十人の刑事たち」へ増殖している(笑)。

(権藤家のお手伝いさんも複数だし、どこへ行っても、常にヒトは集団で動いている。この面白さに傾斜しすぎた結果が、のちの影武者だったのだろうか……。)

いよいよ犯人逮捕、という日に、わざわざ警察の屋上に捜査員全員が集まって、しかも、それぞれが変装というか扮装しているのは、晴れ舞台感があって、本番前の劇場の楽屋みたいだ。

こんな一癖も二癖もある技術者たちが組合で団体交渉したら、そりゃ学生運動や「プロ市民」の何倍も手強かろう。(実際ゼネストとか、色々やったわけだしね。)

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ところで、

この映画における刑事は「犯罪捜査の技術者」という描かれ方で、山の上の豪邸の権藤が靴作りのたたき上げの職人・技術者上がりだとわかって共感で結ばれる。そして犯人のほうも、(ネタバレするよ)医学の技術者を志望している。

つまり、出てくる人たちは、(ちょうど映画の撮影所が様々な技術のプロのプライドをもつ人々の集まる場所であるように)全員が職人・技術者、ということになっている。

すべての登場人物が24時間365日それぞれの「仕事」のことしか考えていないワーカホリック映画であるようです。

「名もなき技術者たちの高度成長」なるものは、プロジェクトX風に、個(我)を殺して集団に奉仕する、というのとは随分感じが違ったのではないか、という気がしてくる。

キングの身代金 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-11)

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87分署シリーズというのは、その道では有名なんですね。昔、渡辺謙が主演していた2時間ドラマ「我が町」もこれが原作なのか……。

映画があまりにも面白かったので原作を読み始めたが、設定を大きく変えているところがある反面、台詞をそのまま「いただき」なところもあって、なかなか複雑。

総工費3600億円

ところで、1959年に着工して1964年の前回の東京オリンピックに間に合わせて完成した東海道新幹線の総工費は当時のお金で3600億円だったとウィキペディアに書いてある。(今の物価水準に換算したらいったいどれくらいなのだろう。)

5年で完成したのは、土地買収や技術開発がそれ以前に根回し済みだったから、であるらしい。

世界銀行から8000万ドル借金したそうだが、それは総工費の1割に満たない額だし(=8000万×360円)、あとはどうやって調達したのだろう。

国家的プロジェクトって、こんな感じのスケールで進むものなんだね。

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総工費2500億円の例のあれは、話の進み方がグダグダ過ぎる、というのがあるにしても、国家の一大事風に報道・議論するには、色々なことがちっちゃ過ぎるんじゃないだろうか。

どのように決着するにせよ、あれは「日本の技術力を世界に誇る」というレヴェルの話ではないと思う。

晴れがましい場に着ていく服をどうしよう、オーダーメイドはユニクロとお値段が桁違いなのね、という井戸端会議な感じがします。

(ここでこんな風に揉めているようだと、おおかた開会式の中身はどこかの広告屋さんに丸投げで、チャン・イーモウ演出のトゥーランドット@北京五輪、みたいなことは起きないのでしょうねえ。)

表象〈09〉:音と聴取のアルケオロジー

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セミオトポス10 音楽が終わる時: 産業/テクノロジー/言説 (叢書セミオトポス 10)

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これからはもう「音楽」じゃない、「聴覚文化」の新時代だ、と立派な学会の名前を出して騒ぐのが流行っているわけだが、協力するにせよ潰そうとするにせよ、国家プロジェクトと切り結ぶ戦略などなさそうなのに、妙にかけ声が勇ましいのは何なのだろう。