ショパンの楽譜

ショパンの楽譜はいろいろと出ています。日本では昔からペーターズ旧版の焼き直しの全音のもの、井口校訂の春秋社のもの(フランス系?)が定番でしたが、さすがに古くなりました。

専門書によると、ショパンは初版が出版されたあともいろいろと書き加えたり、変更したりしていたようで、それが自筆楽譜や弟子の楽譜への書き込みなどで残っているそうです。そのうちのどれが「決定版」かは誰にも判りません。また、ペーターズやブライトコプフなどのドイツ系、ドビュッシー版やコルトー版などのフランス系と分かれており、最近になってもいろんなところからバリアントが出てくるようです。

たとえば、有名な「幻想即興曲」は、1960年ごろピアニストのルービンシュタインが「発見」したという原典版があり、従来から作品番号を付けられていたいわゆる「フォンタナ版」とはかなり異なります。特に左手の伴奏が複雑で難しく、芸術的になっています。

一説では、この原典版ショパンにより献呈された貴族のご婦人が個人用として持っており、したがって、フォンタナも出版できなかったとのことです。

ショパンを生んだ国ポーランドの国家事業として戦後間もなく出版されたパデレフスキー版では旧来のフォンタナ版ですが、最近のエキエル版では晴れてこの原典版が掲載されています。

エキエル版はショパンの決定版との声も高いですが、作品番号付き(生前の出版)とそうでないものを別シリーズにしていることで、使いにくくなっています。その点、同じ原典版ではドイツ系のヘンレ、あるいはペーターズの新批判版も捨てがたいです。

コルトー校訂版は楽譜としてはとても古く、今となっては採用しにくいのですが、練習法をこまかく書いているのが買いです。また運指はさすがですね。独学者必携。エキエル版は、ショパン自身が考えた運指法が特筆してあるので、ショパンフリークとしてはとても興味深いです。ヘンレ原典版は各曲の作曲年が記されており、音符も見やすく、textの選択も妥当です。運指もしっかりとついています。ペーターズ新批判版は上記を取りそろえたうえで、作曲の原点を見つめなおしたいときに最適です。運指はショパンの残したもののみで、音符は大きく、編集者のショパンへの愛情が感じられます。

どれかひとつというならば総合点でやっぱりヘンレでしょうか。

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