世界アニメーション映画史

 著 者: 伴野孝司、望月信夫
 出版社: ぱるぷ
 刊行年: 1986年
 
 
 
 アニメーション上映・研究団体の老舗アニドウが「ぱるぷ」というレーベルで刊行した、実質的な自費刊行図書。一般の大型書店や、地方・小出版流通センターなどでも購入可能だったが、現在ではアニドウにも在庫がなくなり、古書のみでの流通である。
 タイトルのとおり、海外アニメーションの総説で、現在のところ、国内文献では最大の情報量を誇っている。
 
 近年、国内で海外アニメーション関連の文献が多く出版されるようになったが、この背景には、主にチェコやロシアなどの、いわゆるアート・アニメーションの人気がある。
 このためか、チェコヤン・シュヴァンクマイエルやイルジ・トルンカ関連の本はたくさんあり、それらを含めたヨーロッパ圏のアニメーションの話題を扱った本も少なからず出版されているのだが、なぜか、アメリカを含む海外全般ということになると、いまだに本書が唯一である。
 したがって、海外アニメーション研究には必須の文献だが、残念ながら、利活用しようとすると問題点も少なくない。
 
 特に、全体的に文章が趣味的・個性的すぎて、内輪ノリで書かれている傾向があり、アニドウを含む内輪の事情を知らない読者にとっては、かなり読みにくい。また、作家のプロフィールや制作作品などの基本情報が散漫に書かれてあるため、事典として利用しにくく、「調べるための本」というよりも「エッセイとして」読むための本という体裁になってしまっている。
 筆者の一人である望月がマニアと言っても良いほど傾倒しているテックス・アヴェリー(エイヴリー)に関する記述が、他のトピックと比較して異様に長く、またノリノリで書かれてあるところも、ファンにとっては嬉しいが、本全体のバランスというところからすると、微妙なところである。
 そして、日本のアニメに関する記述は、「動きが雑なテレビアニメの粗製乱造を嘆く」という、80年代の、海外アニメーション通のライターによるアニメ論特有のステレオタイプが全面を占めている。
 
 しかしながら、B5判・340ページに収められた情報量は、現在に至るまで他の追随を許さないのは間違いない。アメリカに始まり、ヨーロッパ各国、中国などアジア地域、少ないながらも中南米に至るまで、限られた情報を最大限駆使して書かれた本書は、まさに労作である。だからこそ、刊行後20年にわたって、君臨してきたのだろう。
 少なくとも刊行当時は、日本語で読める海外アニメーション総説としての本書の情報量は圧倒的なもので、その価値は現在でも十分に通用する。
 各章末に注記された引用文献リストも非常に参考になる。
 
 冒頭に書いたように、すでに版元のアニドウには在庫がなく、古書のみで流通しているので、入手は困難である。
 ただし、現在アニドウは大幅な増補改訂版を制作中とのことで、海外アニメーションに関する総説がほとんど出版されていない日本にとっては、その一刻も早い刊行を望みたい。