読書記録『学校司書研修ガイドブック 現場で役立つ23のプログラム』

(長く放置しているうちにはてなダイアリーがサービスを終了してしまった。そのためはてなブログとして新たにブログ名を変更してスタートすることにする。なおこの前日までは「月と檸檬」というブログ名であった) 

学校司書研修ガイドブック ―現場で役立つ23のプログラム―

学校司書研修ガイドブック ―現場で役立つ23のプログラム―

 

学校図書館に勤務する学校司書に必要な研修について掘り下げていく一冊。
第1章「研修を始める前に」で「学校司書とは何か」「学校図書館の基本Q&A」などの基本を押さえ、第2章から16分類計23プログラムの紹介へ進んでいく。

 


はじめに

第1部 研修を始める前に
1 学校司書とは何か
2 学校図書館の基本 Q&A
3 研修計画の立て方

 第2部 研修プログラム
研修プログラムの構成と進め方(資料)研修のふりかえりシート

 

研修プログラム
1 新任者研修
2 学校図書館とは何か(資料)学校図書館チェックシート
3 学校図書館に求められる資料の種類と特性(資料)チェックシート
4 学校図書館資料の構築
  4—1 図書の選択と収集(資料)ワークシート
 4—2 図書の分類と配架(資料)ワークシート
 4—3 図書の廃棄と更新(資料)ワークシート
5 学校図書館の環境整備
  5—1 学校図書館の案内表示と掲示
  5—2 学校図書館見学
6 子どもの本を知る
7 本を評価する(資料)選定用評価票
8 読書活動の時間(資料)読書活動アンケート
9 読み聞かせ
10 ブックトーク
11 学校図書館オリエンテーションと利用指導
  11—1 学年始めのオリエンテーション
 11—2 学校図書館利用指導(資料)情報カード
 11—3 学校図書館活用年間計画の作成と教科書(資料)ワークシート
12 学校司書がおこなう調べ学習支援(資料)ワークシート
13 レファレンスサービス
 13—1 参考図書(レファレンスブック)を知る(資料)レファレンス記録票
  13—2 レファレンスインタビューの実際(資料)レファレンスインタビュー記録票
14 学校図書館と子どもとのかかわりを考える
 14—1 子どもの発達と課題(資料)事前アンケート
 14—2 図書館の利用に困難のある子どもと向き合う
15 広報(資料)図書館だより(実物例)
16 業務のふりかえりと次年度の資料作り(資料)次年度の目標、計画案

 

まずこんなに入念な学校司書研修ができる地力のある自治体など全国にほとんどないに違いない。しかし「いきなりこんなにできるわけない!」と嘆いていても始まらないので、このなかから実践できそうなもの、学んでみたいと思うものを見つけてかたちにしていくことが肝要だろう。

全編通して注釈が丁寧で、参考文献も豊富である。また学校図書館現場の多様性にも配慮した手堅い構成と言える。「学校図書館」「学校司書」と一口に言ってもその実態の格差はあまりに大きい。その是正のために学校司書の研修が必要という本書の主張には強く共感を覚えるところである。
また読みながら「ああウチではこんな研修が必要だ」と気づきを与えてくれるのが本書のポイントと言えるだろう。個人的には「14 学校図書館と子どもとのかかわりを考える」が欲しいと思った。では「誰に講師を依頼するか?」となると具体的な名前を挙げることに頭を悩ませてしまうが、それを考えることがまず第1歩であろうか。

個人参加を除くと、もうずいぶん図書館員としての研修から遠ざかっている気がする。
休日の研修個人参加の方が「研修に行っている間学校図書館を閉めなくていい」「講師を好きに選べる」など有利な点が多い(もちろん時間と予算が余計にかかるというデメリットもある)ため、ついつい本来あるべき「職場での研修保障」をなおざりにしてしまっている気がする。もちろん職場で与えられた研修に素晴らしいものもあったし、そこから学んだことを職場で活かせたことも数多い。実りある研修とはどのようなものなのか、今一度考える機会を与えてもらった気がした。
ところで今自分の住む自治体の学校司書たちに効果的な研修とはなんだろうか?そこで思いついたのは「4 学校図書館資料の構築」である。うちの自治体は学校司書の配置が始まって日が浅く、学校司書の経歴を見ると公共司書・学校教員・保育士など多岐にわたっている。除籍のルールがまだ完全に定まっていない学校もあれば、図書の分類を苦手とする学校司書もいる。それらの研修が必要なのはもちろんだが、なにより多様な経歴をもった学校司書たちが選書をいっしょに学んだら得るものが大きい気がするのである。もちろん遠方からベテランの学校司書を招聘して話をしてもらうのでもいいのだが、これなら予算をかけずに多様な意見を反映することができる。
このように本書を読んで今一度学校司書の研修について考えてみるのはいかがだろうか。

 

 

 

読書記録『図書館員のための解題づくりと書誌入門(図書館サポートフォーラムシリーズ)』

筆者の著作である『装いのアーカイブズ』を執筆するまでに焦点を当てた本。タイトルの通り解題の作り方の本であり、著者の書いた解題の事例も複数収録されている。しかし筆者の展開する解題のレベルは私の想像よりはるかにレベルが高く、これは改めて執筆する理由も頷けた。ただ唯一の誤算だと思われるのは、本書でたびたび登場する『装いのアーカイブズ』の内容があまりに興味深く、そっちに関心がいってしまい細かな内容が頭に入ってこない気がすることか(笑)ちなみにこのタイトルの「書誌入門」の「書誌」とはビブリオグラフィのことであり、単一の書誌データのことではない。

第1章から第3章までは『館報池田文庫』の解題執筆から研究会発表、単著にまとめるまでの著者の行動や考えたことが書かれている。文献調査で原本に当たる大事さや記述スタイルについての言及など、この時点で解題について参考になることが多い。

第5章は「文献解題の書き方」はメインの章であり、解題の解説にあたる。冒頭で著者は解題の意義や機能を簡潔に大きく三つ挙げている。

  1. ある文献の書誌的事項を確認するために役立つ。
  2. ある文献の概要、特徴、価値などを知ることができる。
  3. ある主題または領域の研究史、研究方法、研究の手引きとすることができる。(64-65p)

本当に簡潔に挙げているが、ここに載せられていることが実際に伴っている書誌というのは使う側としてとてもありがたいが、書くとなると相当に骨の折れる作業なのがわかるだろう。この後著者の解題例が続くが、上記のポイントを踏まえた微に入り細に穿つ内容となっている。

本章の「おわりに」にもこうある。

書誌は、作成する目的によって、文献の配列、書誌的事項の記述、索引などの構成が編者により勘案されている。裏を返せば、書誌を用いるときは、その書誌的構成の理解なくしては、十分な活用はできない。書誌の利用法と作成とは、表裏一体である。(98p)

わかっているつもりで、意識していなかったのでとても印象に残っている。資料一つひとつにきちんと向き合えているか。読後も著者の言葉を何度も頭の中で反芻している。

読書記録『作ろう!わくわく図書館だより』

作ろう!わくわく図書館だより

作ろう!わくわく図書館だより

さすがに最近飛ばし過ぎだったのでペースダウン予定。ただ、こういうのも紹介しておこうと思う。

学校図書館だよりのモデル集。読書記録というのもどうかと思ったが、およそ20ページほど、著者による学校図書館だより講座(?)が入っているので、単なるお手本というだけの本にはなっていない。「誰を対象に書いているのか考えること」「発行ペースは必ず守ること」「フォントの選び方」などなど細かいチェック箇所に言及しており、図書館だよりに悩んでいる人の助けになるに違いない。

読書記録『司書教諭の実務マニュアル シオヤ先生の仕事術』

司書教諭の実務マニュアル シオヤ先生の仕事術

司書教諭の実務マニュアル シオヤ先生の仕事術

タイトル通り司書教諭の実務マニュアル。司書教諭として働くことになった「あき先生」に、「シオヤ先生」がその仕事について解説していくスタイルとなっている。
4章構成となっており、第1章は司書教諭の12か月と題して1年の流れを見ていく。第2章は環境整備と題して「授業・調べる」のために使える環境の整備や図書館資料の使い方の解説を行い、第3章は学習指導要領の解説と国語や他教科での司書教諭の関わりについて述べ、並行読書の充実の例を紹介していく。4章には関係法規や基準が掲載されている。

非常に短い内容だが、その中に司書教諭の仕事のエッセンスが詰め込まれている。学校司書主体の学校図書館実務本は多いが、比較して司書教諭主体となると数が少ない印象なので、こういう本はもっとどんどん出ていいと思った。授業に関わる教員の視点が強いのが特徴で、本書で解説されている「並行読書」という言葉も他書ではあまり見られないように思う。百科事典の活用方法、ビブリオバトル、リテラチャーサークルなどの読書指導関係手法の解説も、短いながらきちんと要点を押さえてあるのいい。
おそらく紙面の都合なのだろう、(1学期、というか4月に記述が集中しており)1章が駆け足になってしまっているのが気になるところ。

2〜3章の詳細を見る限り、著者の司書教諭時代のパワフルさが想像できた。授業軽減などが進んで、司書教諭が学校図書館に関われる時間が増え、この本に書かれているような実践を行える司書教諭がいたら、学校教育は大きく変わっていくだろう。もちろん、これから司書教諭として力を発揮したい人は早速その手腕を発揮してくれると思っているが。

読書記録『図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供へ向けて』

図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供へ向けて

図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供へ向けて

「障害者の権利に関する条約」、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」を受けて公的機関で義務付けられることとなった「合理的配慮」。合理的配慮の提供に向けて図書館のアクセシビリティを向上させるため、これまでに図書館で行われてきた障害者サービスなどを例にとって解説していくのが本書である。もちろん図書館の利用に「対する」障害への対応が図書館のアクセシビリティ向上に欠かせないのであって、図書館が近隣にない人や、高齢者へのサービスの充実も重要であることが述べられている。

本書の執筆担当は編者の2人以外にも15人おり、それぞれの障害者サービス提供者の事例報告なども多く含まれている。まず第1章は図書館のアクセシビリティに関する基礎編として、その考え方、各館種・施設の現状、歴史(公共図書館点字図書館中心)、関係法令の解説が行われる。歴史の解説は第二次大戦前後のもので、個人的に知らないところが多く興味深かった。また法令(障害者差別解消法、著作権法ほか)の解説は関係の深い部分を細かく解説しているため、あまり把握できていないという人には有用な項と言えるだろう。
第2章は図書館資料、第3章は図書館施設・設備、第4章は図書館サービス、第5章は「関わる人」、とそれぞれにおいてアクセシビリティ向上に向けた各論となっている。それぞれ章を分けるなど簡単な解説・事例紹介に止めていないところが特筆に値する。特に2章の図書館資料と3章の設備の解説は、名前だけ知っていてよくわからない、という人の多いDAISYや各種機器の写真入り解説が入っていて初学者の理解が進むものと思われる。
第6章は国会図書館からスタートする各館種・施設の事例紹介となる。いずれも先進的なサービスを行っているところばかりだが、作中参照される各種データを見る限り、ここに載っていない図書館の事例はどこも惨憺たるものなのかもしれない(自館および自身の自戒を込めて)。

「おわりに」には今後の(図書館のアクセシビリティの向上に向けた)課題として5つが挙げられている。個人的にはその中の1つ、組織体制・予算のことが最も難しいように思われた。図書館資料費の減額などが進む中、新たな(というか今まで等閑視してきた)サービスにどれだけのお金を振り分けることができるだろうか。自分の住んでいる自治体の財政を考えた時、本当に切り詰めなどの大事さを痛感している。
そしてもう1つ印象に残ったのが以下の一文である。

すべての人には、等しく図書館を利用する権利がある。利用者が遠慮する必要はない。遠慮させる雰囲気を醸し出している図書館があったとするならば、それこそ図書館側のバリアである。(本書180p おわりに「(1)意識や理解」)

私がもし当事者だったら遠慮してしまうのではないか。本書を読みながらずっとそう考えていたが、提供者側がそんなことを思っていてはそもそも話にならないだろう。


そして最後に印象に残った言葉をもうひとつ。千葉市中央図書館の大川和彦氏の(文脈を無視して申し訳ないが)言葉がある。

「何から手を付けたらよいかわからないという話をよく聞きますが、とりあえず、できることから始めてもらえたら良いと思います。担当者は普通3〜4年で異動になってしまうという現実がありますが、その期間、熱い気持ちで学んで取り組めば、ガラッと変わりますよ」(本書106p 第5章「図書館のアクセシビリティに関わる「人」をめぐって」5.1.2「職員の事例」より)

お金の問題など、挙げ始めればキリがない。何でもやればいいというものでもない。だが、熱心に取り組むからこそ変わることもあるのだと改めて感じることができた。

ちなみに巻末には資料として本書で出てきた関係法令(抄録あり)などが掲載されている。

読書記録『パスファインダー作成法:主題アクセスツールの理念と応用』

パスファインダー作成法:主題アクセスツールの理念と応用

パスファインダー作成法:主題アクセスツールの理念と応用

そろそろ言っておくが、私は樹村房の回し者とかではない(笑)同社の本が続いているのはたまたまである(関係書をたくさん出しているのもあるが)。

タイトルの通り、パスファインダー作成法を語った教科書のような本。ページも多くなく一件敷居が低く見えるが、「こんなにお手軽!1時間でできちゃうパスファインダーの作成法!」みたいなわけあるはずがなく、主題の分析を徹底解説する骨太な本となっている。ちなみに公共や学校でよく流通する一枚ものの紙媒体のパスファインダーとはまったく印象が異なるが、主題の分析の重要性などは間違いなく通底しており、自分の所属する業界では聞きなれない言葉が出てきても投げ出さないのならば、本書は必ず力になる本だと思われる。

本書はLCSHを徹底活用して主題の分析を行う方法を解説している。主に大学図書館が想定されているため、利用ニーズの把握のためにシラバスの分析も行うし、パスファインダーに掲載予定の情報資源媒体それぞれもすみずみまで調査することが書かれている。

第一部 図書館パスファインダー
第1章 概説
第2章 求められる機能
第3章 構造の特徴
第4章 作成の流れ
第二部 主題分析の応用
第5章 主題の分析
第6章 カリキュラムの分析
第7章 情報の収集
第8章 情報資源の主題分析
第三部 進化する主題検索ツール
第9章 ディスカバリーサービスとパスファインダー
付録 『パスファインダー作成法』の布石―本書ができるまで―

*部数の漢数字はローマ数字

本書は三部構成となっており、パスファインダー全体の解説にあたる第一部と主題分析を徹底解説する第二部が本書の肝と言えるが、個人的には第三部の「進化する主題検索ツール」、付録「『パスファインダー作成法』の布石」から読んだ方が著者の意図がわかりやすくて良いように思われた。特に付録は著者がなぜパスファインダーに取り組み始めたか、その元となる問題意識が明らかになるので、本文で伝えたいことがなおストレートに入ってくるように思われる。

第一部はパスファインダーに求められるものの解説・分析が丁寧で、わかりやすい。第二部は分析の基礎の基礎からスタート。ゾウを用いた分析の説明がユニークである。また統制語彙の扱いがメインになるが、これは本文中幾度となく出てくるLCのウェブサイトを触りながら読むことをおすすめする。第三部はディスカバリーサービスの解説が入り、パスファインダーとの共通点が語られる。最後はすでに書いてある通り「付録」で、本書が生まれるまでの話である。この布石から本書が出来上がるまでに15年以上経過しており、大学図書館勤務未経験、パスファインダー作成経験なしの私は時代に取り残されているようで、慌てて勉強し直したくなった次第である。

読書記録『ミュージアムの情報資源と目録・カタログ (博物館情報学シリーズ1)』

ミュージアムの情報資源と目録・カタログ (博物館情報学シリーズ)

ミュージアムの情報資源と目録・カタログ (博物館情報学シリーズ)

  • 作者: 水嶋英治,田窪直規,田良島哲,宮瀧交二,毛塚万里
  • 出版社/メーカー: 樹村房
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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人生とはよくわからないもので、博物館併設の図書室に勤務することもある。司書業務と博物館員業務半々のような仕事が始まって早ひと月。
この本を手に取ったのはそんな理由もあると思われる。同じ文化施設として、博物館のこともきちんと学んでおかなくてはと幾度も思いながら放置したまま。こういうきっかけがあったのはいいことだと思っている。

さて、本書は樹村房にて刊行される博物館情報学シリーズの第1作目である(全8巻予定)。博物館の素人が言うのもなんなのだが、学芸員課程の科目に対応するテキストシリーズというわけではないようだ。実際内容の区分けも6つの章と少なく、幅広くというよりは厳選した1トピックごとに丁寧な解説を行っている印象である。「各巻とも専門的な内容に踏み込みながらも新書レベルの平易さで解説することを心がけたつもりである」とある通り、初心者の私でもわかりやすく読みやすい印象だった(わかっているつもりなだけかもしれないが)。ただ田窪氏の担当する第2章「博物館情報学と図書館情報学の比較」だけは博物館学・図書館学両分野にわたる内容なので少し難しいかもしれない。

序章「博物館情報学体系化への試み」において水嶋氏が博物館情報学を「博物館の資料情報(美術館の作品情報、自然史博物館の標本情報を含む)と博物館の情報表現技術を学術的知識に照らしあわせ、系統性のある情報学および方法論として博物館情報を研究する学問領域」と定義し、学問体系化への試みを語っている。

続く第1章「博物館情報学の三大原則」は引き続き水嶋氏が担当する。博物館情報とは何か、まず4つに分けて解説を行い、続いてその三大原則「正確性・公開性・成長性」を述べていく。

博物館情報の三大原則

  1. 博物館の情報は常に正確でなければならない。
  2. 博物館はすべての人に開かれていなければならない。
  3. 博物館は情報が成長する有機体でなければならない。

本文p.30より

ランガナタンの図書館学の5法則が「3」の元ネタになっているのは言うまでもない。だが素人ながら心に響いたのが1と2だった。1はある意味当然なのだが、博物館情報の正確さを求める原則である。図書館にいて、それぞれの情報資源の正確さに個人或いは組織として評価を下すことはあっても、基本的に情報資源の正しさや特性というのはあらかじめ資源自体のなかにあって、その情報自体の価値を誤って毀損してしまうことはない。だが、博物館情報は間違いが発覚して資料的価値が変わってしまうことがある。おぼろげながら覚えているが、過去にはある学者の捏造が発覚して、展示していた博物館の信頼すら損ないかねない事件があった。情報の正しさを追求するのは図書館も同じだが、情報への責任の持ち方などには違いがある。そして次の2の「公開性」だが、これが印象に残ったのは自身が博物館に勤務しているからという理由がある。博物館資料は図書館資料のようにコンテンツの形状やサイズが大方決まっているわけではない。そのため「開架」で展示できる数も限られて、「閉架」の資料がどうしても多くなってしまう(もちろん理由はそれだけではないが)。実際私の勤務先も来館者の目にすることのできる展示品は所蔵する資料の1〜2%に過ぎない。それほどの数の資料にまったくアクセスできない状況というのは、機関の機能性を考えるとどう考えても不合理である。現物を確認できないデジタルアーカイブに博物館はなじまないのではないかと思っていたが、それでも目録が整備され、多くの博物資料へのアクセスが完備されるのなら、革新的な変化と言えるだろう。
続いてストランスキーの博物館学に関する学説の解説が行われる。

第2章は、博物館情報学と図書館情報学の違いを目録などをキーにして比較していく。図書館情報学で言うところの○○が博物館情報学で言うところの何なのか、そこをイメージしながらだと理解しやすい。一番印象に残っている箇所はそれぞれを英語にした際の訳語のことで、「図書館情報学」は"Libary and Information Science"だが、「博物館情報学」は"Museum Infomatics"であるという指摘である。差異を特に意識しない場合もあるとされているが、前者の"Information Science"は資料や情報の流通・利用に関する分野、後者の"Infomatics"はコンピュータ科学およびその応用領域とされている。

第3章「博物館情報の編集と知的活動」では博物館目録の史的展開として4つの文献が紹介される。中国の余嘉錫による『目録学発微』から始まるが、それぞれの著作で目録というものをどのように捉えているかが非常に興味深い。資料の価値とは何かといったテーマにも細かく触れながら、博物館において目録を整備することの重要性を指摘して稿を締め括っている。

第4章「歴史的に見た博物館の目録」では日本近代初期以降の博物館の目録を材料に、博物館目録の記述について考えていく。各館の目録の記述内容の違いと解説は具体的で理解しやすい。東京帝室博物館の台帳編纂の例は、業務上の組織化で失敗した経験が想起されて身につまされる思いだった。

第5章「博物館活動の記録化について」では「年報」や「図録」などの博物館活動の記録の重要性について執筆者の学芸員活動の経験に照らし合わせながら解説していく。資料目録の記述の議論とは少し離れ、博物館活動自体に焦点が当たるので、少し毛色の違う章と言えるかもしれない。ただしそれらが博物館資料へのアクセスの重要性・公平性に繋がるという点では一貫している。

第6章は「事例研究 市立館の目録刊行」と題して、金沢湯涌夢二館の展示図録の事例が解説される。図録・目録を作成者サイドの視点で紹介しているのがユニークである。
余談だが、博物館勤務で驚いたのが来館者の図録購入率の高さである。作る側の趣向が凝らしてあればなおさら来館者に魅力的に映るに違いない。


毎度のことながら素人がわかったふりして好き勝手書いてきたが、博物館情報の価値を効果的引き出すために目録の整備が必要というのはよく理解できた気がする。そのための目録の規則はどうあるべきだろうか。図書館もすでに館内や近隣図書館とだけ繋がる時代は終わっている。図書館の外の世界と情報をやり取りする時に必要な目録の条件とはなんなのか、図書館員にとっても他人ごとではない。