読書記録『コピペと捏造』

コピペと捏造:どこまで許されるのか、表現世界の多様性を探る

コピペと捏造:どこまで許されるのか、表現世界の多様性を探る

某人文系出版社の団体のチラシに載っていた一冊。仮に図書館学の本が載っていなくても人文系のチラシはついつい見入って結果→散財してしまう。今回は理性を働かせ図書館絡みの樹村房の本だけに注文を止めておいた(笑)と言いつつチラシはこっそり保存しておく。

本書の「はじめに」にこうある。

筆者はもともと学術研究における不正行為に興味があっていろいろ調べていたのですが、学術研究以外でもさまざまな不適切行為があることに気づき、ついついのめりこんでしまいました。

この本は、そうして筆者が調べ過ぎたコピペや捏造の事例を順々に紹介していく内容となっている。それぞれの事例にきちんと解説はなされているが、本文の主旨としてパクリや捏造の線引きを行うといったものにはなっていない*1。学術研究における問題は基本的に対象外で、おおまかに「コピペとパクリ」、「パロディとオマージュ」、「捏造と改竄」といった区分の3部構成となっている。

第1部「あらゆる分野にはびこるコピペとパクリ」は本書のおそよ半分を占めている。秋里離島『木曽路名所図会』と島崎藤村『夜明け前』の関係から始まり、近年の小説家の盗作事例、判断の難しいノンフィクションや俳句の盗用、他にも新聞記事、音楽、映画、演劇、漫画などなど。紹介される事例はかなりの数であり、最近話題となった東京五輪のエンブレム問題にも言及している。個人的に一番興味があったのは生徒や学生のコピペレポート問題で、「自由に使える読書感想文」や、コピペが難しいレポート出題とその対策について述べられている。
本文から話はずれるが、どちらも私には興味深いエピソードがある。前者は以前勤めていた高校で本当に上記のサイトの丸写しをした感想文が提出され国語の先生が怒った話である。普段意地でも文章を読まない読書嫌いな生徒が、いきなり某古典的名著で感想文を出してきたのだからその教員もびっくりだったようである。本文の内容を聞けばまったく理解できておらず、すぐに不正は発覚したらしい。これくらい正直なら話は早いが、巧妙な不正は対策が難しいだろうなと想像できる。後者は私の出身大学での話。講師の先生がレポート課題を発表したのだが、そこでこう付け加えた。「毎年同じ課題を出しますが不正はやめてくださいね。昨年まったく同じ内容のレポートを提出してきた二人の学生がいました。一昨年にもそれと同じ内容のレポートを提出した人がいて、こういうのはすぐばれますよ」と。こっちの例もバカ正直に丸写ししたので発覚したもの。しかし、「ちゃんとチェックしてるからね」と釘をさすのはある程度効果があるのかもしれない。

第2部「バレないと困るパロディの世界」ではオマージュやパロディについて見ていく。冒頭に紹介される著者がTwitterで見たツイート
*2では「バレると嬉しいのがオマージュ」「バレないと困るのがパロディー」とあるが、なかなかに的を得ているように思える。マッド・アマノのパロディ写真事件や『バターはどこへ溶けた?』事件の裁判から、日本ではパロディと認められても著作権は侵害してはいけないという、パロディ作品の創作が難しくなった事実を指摘している。他に扱われるテーマに「ドラえもん最終話」事件や「面白い恋人」事件を挙げている。感想だが、パロディも難しいと思ったが、オマージュも人によってはパクリと激昂する人がいそうで、それだけでも複雑な問題だと思った。

第3部「怪しい捏造と改竄」では少し趣向が変わり、テレビ番組のヤラセやグラフの改竄、佐村河内事件、ネッシーやミステリーサークルが扱われる。バラエティに富んでいるが、捜査当局などの公権力による捏造・改竄を扱った事件はとても許しがたいものばかりで、特に知っておきたい内容となっている。

誰でも知っているような近年の事件から百年以上前の事例まで本当にいろいろな問題が扱われている。本書の広告にあるように、不正に「白黒つけるわけではありません」本であり、はっきりさせたい人にはあまり向かない本かもしれない。ただきちんと参考資料が挙げられているし、それぞれの事件の説明も本文中でなされているために、そのような目的で読んでも決して損はしない本だろう。

*1:もちろん判決事例などもあり、一切取り扱っていないわけではない。

*2:参照 https://twitter.com/telsaku/status/633963559924293632 2017/05/01確認