2009-12-22
日本映画のガラパゴス化、インフェルノ鎖国
今年は日本映画が好調で、3年ぶりに興行収入が増えるとのこと。
NIKKEI NET(日経ネット):映画興行収入3年ぶり増加へ
で、その好調な日本映画の中で今年の興行成績ナンバーワンになりそうなのが、『ROOKIES -卒業-』。
他に今年ヒットした日本映画が何かといえば『僕の初恋をキミに捧ぐ』や『20世紀少年 最終章』。
来年は、『のだめカンタービレ』の完結編や、『踊る大捜査線』の最新作が公開される予定で、これらの作品も大ヒットが予想されています。
日本映画の好調を牽引してるのは、こういう映画なんですよね。
で、ふと頭に浮かんだのがタイトルにも書いた「ガラパゴス化」って言葉です。
ガラパゴス化とは、生物の世界でいうガラパゴス諸島における現象のように、技術やサービスなどが日本市場で独自の進化を遂げて世界標準から掛け離れてしまう現象のことである。
よく携帯電話なんかが例に挙げられるけど、こうしてみると映画も立派にガラパゴス化してますよね。
これらの"好調な日本映画"を喜んでるのは一部の日本人だけ、海外では全く通用しません。
ここでいう「海外で通用しない」ってのは「日本人にしか分からない心の機微が描かれてる」とか、そーゆー高尚な話じゃないですよ。むしろ、フランスで小津安二郎や溝口健二が評価されているように、「日本人にしか分からないこと」をしっかり描いた作品は海外で通用します。
これらの映画は、
- 大ヒットしたマンガやテレビドラマの原作を、
- マンガだから成立していた作品だとか、そういうことは考えずに、
- 「人が死んだら哀しい」「原作と一緒」「夢がなんちゃら」といった記号的な感動だけで構成し
- 人間の複雑さや普遍的なテーマを描くつもりはなく、
- 原作のファンをひたすら気持ち良くするためだけ、
に作られているので、海外で通用しないのです。
もっと簡単にいえば「今の日本でとりあえずウケればいい」という発想で作られてるからですね。
『20世紀少年』とか海外で大コケしてるみたいですけど、当たり前です。てか、なぜあれを海外に持って行くのか? あれが海外でウケると思った人は医者いった方がいいですよ。
フランスで好意的に迎えられたという話はありますが、そりゃフランスのマンガファンが集まっただけの話で、やっぱり映画作品としては評価されてないようです。
フランスの日々: 「20世紀少年」ルーブル美術館で会見、フランスでも大人気!
早くもFilmsActuに批評が出ていて、20段階評価で15でした。内容はかなり良くないようです。
(中略)
正直な感想をいうと、これは映画化が難しいマンガじゃないかなと思います。このマンガの良さはマンガの描写と密接に結びついてしまっているからです。マンガの映画化が失敗してフランスで次の漫画の映画化企画が出にくくならないことを願います。
まあ、日本国内的にはこの映画は成功してるので、マンガの映画化企画は今後もガンガン出てくるでしょう。ただ今のノリだと、この手の大作日本映画は永遠に海外で評価されるようなものにはならないと思います。残念ながら。
これらの日本映画のガラパゴス化が、本家(?)の携帯電話などのガラパゴス化と決定的に違うのは、著しくクオリティが低いということです。
日本の携帯電話は、世界標準と外れてはいても製品の水準は非常に高い。むしろ、日本のユーザーの要求水準が(へんなところで)高すぎるためにガラパゴス化が起こっているわけです。だから、「ガラパゴス化は必ずしも悪いことではない」みたいなことをいう人もいるわけで、『パラダイス鎖国』(BY id:michikaifu)みたいなフレーズが言い得て妙となるのです。
ところが、映画の場合はこれの正反対。大ヒットする日本映画はことごとくウンコ映画です。ここでいうウンコ映画というのは『スラムドッグ$ミリオネア』みたいにウンコが出てくる面白い映画って意味じゃなくて、存在がウンコみたいなダメ映画ってことですよ、念のため。
そんなウンコがもてはやされる一方で、『ダークナイト』がコケる。今年の『グラン・トリノ』や『イングロリアス・バスターズ』も振るわない。今年全米で大ヒットしたコメディ映画『ハングオーバー』なんか、劇場公開されずにDVDスルーです。(現在劇場公開を求める署名運動が展開されていて、俺も署名してますがどうやら厳しそうです。。。)
もちろん質の高い日本映画も作られてはいるんですけど、やはりなかなかヒットしません。例外的に大ヒットした良心作に『おくりびと』がありますが、これはアカデミー賞受賞によるレアケースです。むしろこの『おくりびと』の滝田洋二郎監督の受賞第一作が『釣りキチ三平』だということに病巣の深さを感じます。
ムカつく人もいるかも知れないけど、はっきりって日本の観客の要求水準が低いといわざるを得ません。
どうしてこうなったかというと、俺の考えでは「映画に興味のない人に映画館にきてもらうために最も安易な方法をとった」からです。
ときどき「映画だって商売なんだから、たくさんの人に見てもらった方がいいじゃん」みたいなことをいう人がいますが、果たして本当にそうでしょうか?
俺はそうは思いません。目の前の利益を最大化することが、市場を壊してしまうことだってあるわけですよ。
孫引きで申し訳なんですが、最近読んだ山本弘センセのオタク万歳小説『詩羽のいる街』に幸田露伴の『番茶会談』の話が出てくるんですね。ざっと要約するとこんな話です。
- ある缶詰業者が急な注文で鮭が大量に必要になる
- 缶詰業者は、周りの漁業者たちに鮭を相場より少し高い値で買い取る約束をする
- 漁業者たちはこれを期に儲けてやろうと法外な額をふっかける
- すでに注文を受けてる缶詰業者は、泣く泣く高値で鮭を買う
- その年は漁業者は大もうけ。缶詰業者は大損してしまう
- これに懲りて缶詰業者は次の年から、元の注文を受けなくなってしまう
- 漁業者は短期的には大もうけできたけど、長期にわたってもっと大きな利益を得るチャンスをふいにしましたとさ。ちゃんちゃん。
日本の映画を取り巻く環境って、これと似たことが起こってるんじゃないでしょうか?
先述した『ハングオーバー』が劇場公開されないことについて、映画評論家の町山智浩さんもこんなことを書いてました。
ところがこの大ヒット作、日本では劇場公開なしでDVDスルーになる。日本の現状から判断すれば、それもしかたがない。邦画、それも女性向け、またはテレビや漫画の映画化しか客が入らないからだ。日本は本当の映画ファンにとって世界一住み辛い国になってしまった。
ただ、予言しておこう。この邦画バブルは弾ける。あまりにもカスばかりだから。そして、浮動層を狙うあまりベースとなる顧客を大事にせず、次世代の映画ファンを育てなかった映画界は、廃墟への道を進むだろう。
これはさすがの慧眼ではないかな、と。
ただ俺は「日本は本当の映画ファンにとって世界一住み辛い国になってしまった」とは思っていません。
DVDやBlu-rayなら、むしろ世界中の映画が見れる国だからです。
ちょっと寂しいけど、日本映画にこだわる理由はありません。
スゴく寂しいけど、フルハイビジョンのホームシアターが登場した今、劇場にこだわる理由も薄れつつあります。
もしかしたら、日本では本当の映画ファンというのは、"自宅にホームシアターで劇場に近い環境を再現し、テレビのプロモーションなど見向きもせずネットで情報を集め、厳選された世界中の良作をソフトでグヘヘと楽しむ人"かもしれません。
日本映画界が廃墟になった後も、こーゆー人たちは生き残ってグヘヘと楽しく映画を見続けることでしょう。めでたしめでたし。
あれ? 批判的なエントリを書くつもりがめでたい話になってしまいました。ま、いっか。
オマケ
今年NO1ヒット映画の『ROOKIES 卒業』の俺の感想です。
映画『ROOKIES 卒業』がスゴすぎる! - 俺の邪悪なメモ
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罪山罰太郎
