第二百十八段
■ 原文
狐は人に食ひつくものなり。堀川殿にて、舎人が寝たる足を狐に食はる。仁和寺にて、夜、本寺の前を通る下法師に、狐三つ飛びかゝりて食ひつきければ、刀を抜きてこれを防ぐ間、狐二疋を突く。一つは突き殺しぬ。二つは逃げぬ。法師は、数多所食はれながら、事故なかりけり。
■ 注釈
1 堀川殿
・大納言久我通具(ごがみちとも)の子孫が住む家で、場所は不明。堀川は。京の西、一条から九条へ流れる川。
2 舎人
・ここでは、貴族の家来で、牛飼いや、馬の口引きを指す。
3 仁和寺
仁和寺
・京都府左京区御室にある真言宗御室派の大本山。
■ 現代語訳
狐は化けるだけでなく人に噛み付くものだ。久我大納言の屋敷では、寝ている召使いが足を噛まれた。仁和寺の本道では、夜道を歩く小坊主が、飛びかかる三匹に噛み殺されそうになった。刀を抜いてこれを避け、二匹を刺した。一匹を突き刺して殺したが、二匹に逃げられた。法師は散々噛まれたが、命に別状は無かった。