ファースト・コンタクト

人事異動の季節である。
僕がバイトしている赤バイク株式会社は
2年毎に必ず、部長が入れ替わる。
さすが元・親方日の丸系列というか、
人が余ってるのねというか、だったら
もう少し削ればいいじゃんというか。
とにかくきっちり入れ替わる。


部長が替わると必ず個人面談らしきものが
行われる。僕の場合「何故社員にならない
のか?」と聞かれる事が多かったが、
近年は部長データベースに「こいつ、写真
やってる。だからその気無し」と書かれて
いるらしく、いちいち説明しなくても良く
なった。良いのか悪いのか。


でもまあ、めんどくさいのは相変わらずだ。
最初の頃は「写真家です」と言うと、
「いい趣味だねえ」と言われる事が
多かった。趣味じゃねえよ、と言い返すが、
それで真っ当な収入を得てない以上、
理解される事は無い。
グッとこらえるのであった。


その次は「芸術家なんですねえ」と来た。
気を遣ってるつもりだろうが、これは
これで面白くない。小馬鹿にされてる感じ
がする。「写真家は芸術家じゃねえよ」と
叫びたいのを、グッとこらえた。


この面談で、僕の彼らに対する認識は
ほぼ確定する。初対面でどう接してくる
かで、彼らの腹の中がよく見えるのだ。
「こいつ見下してるな」と分かると、
その場ではヘラヘラ笑いつつ、僕の心の
シャッターはきっちり閉じられる。
はい、終了。さようなら。


そういう意味で、今の部長はかなりの
モノだった。いきなりこう来た。
「ツルタさんは、ほらアレ、アレだ。
アレなんでしょ。アレやってんでしょ」
人をヤク中みたいに言うな。
なんだアレって。


言いたくないけど言った。
「写真すか?」
「あ、そーそーそれ。そーなんだー。
すごいじゃーん。今度写真持ってきてよー」
「‥‥‥‥」
瞬時にシャッターが閉まり、彼の存在は
心のゴミ箱に叩き込まれた。はい、終了。


そんな彼も、もうすぐ任期終了である。
1年で出て行く人は初めてだ。この会社
にも良心はあるんだな。
今年もまた面談か。どうなるやら。