7日間振り続けた雨

 うわべでは、事態が沈静化に向かいつつあるようだ。ミニブログでの書き込みの量さえ減っては来ている。代わりに、「明かり窓」のように「このミニブログはすでに削除された」という空っぽのボックスが目立っている。
 初七日を前に、複数の新聞は印刷直前に、紙面の差し替え命令が発令されたことはもう秘密ではない。
 ただ、何か溜まり続けているもの、蓄積し続けているものがあることは間違いない。恐ろしいエネルギーとして蓄積されつつある。 
 
 事件発生翌日夜の記者会見に出席した鉄道省の問題発言続出の報道官は、今や懐かしく思われており、「誠実な人」だと偲ばれている。これはお世辞抜きの本音だ。というのは、最近出てきた鉄道次官は、「土を埋めたようなことはしていない」、「捜索を停止しろうとは一度も指示を出したことがない」、「救援作業を愚かにして焦って復旧工事に切り替えたと言われているが、これは現場で救援に頑張っていた2000人以上の鉄道関係者の心に傷をつけた言論だ」と瞬きをせずに、テレビで公言していた。閉口した。それに比べて、問題報道官は「穴をほって土の中に埋めた」、「救援作業終了後にも2歳半の赤ちゃんが救出された。これは命の奇跡だ」と事実は否認しなかった。
 報道官の「あなたたちが信じよう、信じまいと、とにかくぼくは信じている」が流行語になっている。

 初七日の30日の取締りがいつも以上に厳しかった。差し替えられた「新京報」の一面はこの写真と見出しになった。
 「七日間雨が降り止まなかった=初七日」
 「一日に二回も警告をならした=一日二回も差し替え指示が出された」
 「雨が降り続けている中を走る自転車=中国は雨の中で前進している」
以上のことは決して深読みしたわけでもなく、秘密でもない。
そこまで来ている。
 

 その代わり、鉄道省の負債状況への追及は行なわれている。
 昨日、私の担当した「経済直行便」もその話題でした。
 記事は以下のようまとめてみました。

■ 高速鉄道事故、中国経済の成長スピードにも影響かhttp://japanese.cri.cn/918/2011/08/03/144s178628_1.htm

 番組録音は以下からです
http://japanese.cri.cn/782/2011/08/02/142s178590.htm

          ◆◆◆
 7月23日夜、温州郊外で起きた高速列車の追突事故から10日経とうとしています。
 2015年までに、高速鉄道営業キロを1万3000キロに伸ばし、世界最長になる整備計画を進めている最中での出来事だけあって、大きな衝撃が走っています。
事故が起きたのは、23日前に開通した北京・福州線です。全長2233キロ、いま、中国最長の高速鉄道路線でもあります。中国鉄道省は、事故再発を防止するため、2ヶ月にわたる全国規模の安全点検を進めており、隠れた安全リスクの摘出に尽力しています。
 一方、今回の事故が中国経済に与える影響も注目されています。鉄道関連株の暴落で影響を受けたA株市場(国内の投資家向けの人民元立て市場)を始め、急速に整備されつつある高速鉄道網とそれを支える鉄道関連投資と負債の行方、ひいては中国経済の今後の成長パターンへの影響に社会の注目が集まっています。

■低迷が続く鉄道関連株 
 23日(土)夜の列車事故を受け、上海証券取引所に上場している鉄道関連株33銘柄の時価総額は、わずか2日で376億元(日本円ではおよそ4500億円)も縮小しました。
 鉄道関連株はここ数年来、勢いよく成長し続けていることから、株式市場を押し上げる上で重要な役割を果たしてきました。ただ、今年に入ってから、鉄道株は調整期に入っていました。2月初め、元鉄道相の汚職問題が発覚したのを受け、鉄道株の時価総額はピーク時より30%下がりました。
 アナリストは、今回の事故の深刻さから、もともと疲弊状態にある鉄道株は、今後も引き続き下げ傾向が続き、下半期は継続的に激しい変動にさらされるだろうと見ています。
 「追突事故が中国の資本市場に与えた影響は投資者の予想を上回るものになった。そのマイナスの影響はもしかしたら、まだ始まったばかりに過ぎないかもしれない」という見方も出ています。

■減らされるか、インフラ整備の投資
 固定資産投資は、中国の経済成長において重要な役割があります。2009年、GDPに占める固定資産投資の割合は67%でした。固定資産投資の25%をインフラ整備が占めており、その中で最大のシェアを占めているのが鉄道投資です。
計算によりますと、7000億元の鉄道投資には3000万トンの鉄鋼、1億4千万トンのセメントが必要です。また、全国の半分以上の物流と8割の石炭が鉄道で運搬されていることから、鉄道投資は鉄鋼、セメント、石炭産業ともプラスの相関関係にあり、経済成長を牽引する要素の一つです。
 もし今回の事故により、高速鉄道整備への投資テンポが緩やかになっていくとすれば、中下流産業の需要にも影響が及び、鉄道投資による経済成長を牽引する力が衰え、経済の各種指標にまで響くのではという懸念が出ています。さらに、事件の影響で国産技術や設備の仕入れが減られることになれば、鉄道信号と通信システムのみでも、年間500億元の市場シェアに影響が出る試算になります。
 ただ、こうした懸念は短期間のものに過ぎず、長期的に見れば、中国経済が高度成長を続けていく勢いは変わらず、人や物の流れが伸び続けていく傾向も変わることはない。高速鉄道網の全国普及計画そのものの傾向も変わらないだろうという指摘もあります。
 アナリストはさらに、もし今回の事故処理の成果として、鉄道省の改革が実現となれば、将来的に見ると、市場の上昇を押し上げる良い材料にもなると見ています。

■世界最速の高速鉄道整備計画 
 中国鉄道省が2010年3月に発表した高速鉄道整備計画によりますと、2012年までに、「四縦四横」(国土を横断、貫通するように縦、横4本ずつ整備する)の幹線を整備し、それにより、中国の高速鉄道は全営業キロが1万3千キロに伸び、世界最長になります。海外から高速列車の導入を決めたのは2004年のことだったので、ゼロから世界一まで10年足らずで完成するという計画になります。
 これらの幹線は、すでに運行開始の路線は13本、建設中が26本、これから着工予定のものは23本です。中でも、すでに営業開始している13本の路線だけでも、すでに5898億元の資金が投入されました。また、建設中の26本の総工費は8491億元になると見込まれています。
 鉄道省は、鉄道整備の資金は保障されているので、将来も投資は減らさないと訴えていますが、業界筋は今回の事故を受け、投資規模にはある程度影響が出るではないかと見る意見もあります。

■高まる鉄道省の資産負債率、金融当局も警戒
 中国の鉄道整備の資金源は二つの部分からなっています。一つは建設基金減価償却基金、地方政府の出資および社会保障基金などの機関投資家の資金、もう一つは銀行融資と債権の発行です。中でも、後者の割合が極めて高いとされています。
 この3月末の統計では、中国鉄道省の資産負債率は58.24%で、負債残高は2兆元近くに達しました。今回の追突事故は、債務リスクをいっそう高いものにしたと分析されています。
 7月26日付の北京の日刊紙「新京報」によりますと、鉄道省は7月21日、今年3回目の短期融資計画として、総額200億元の債権を発行しました。しかし、実際に市場で募集できたのは187.3億元に過ぎず、残りの十数億元は複数の銀行が引き取らざるを得ないという事態が起きました。
 中信債券のアナリスト・張宏波氏は「鉄道整備計画の規模拡大に伴い、鉄道省の資金不足問題が顕著になっている。もし、今後も利子付債務に頼って資金調達をするなら、年間の有利子負債は5000億元に上り、2015年までに負債総額は4兆6800億元になり、資産負債率は72.2%に達する恐れがある」という分析を示しました。
 企業負債の警戒線は60%です。それに比べ、中国鉄道省の資産負債率は58.24%になり、しかも高まっていく方向にあります。
拡大傾向にある鉄道省の債務リスクに対し、市場と金融当局は警戒を強めています。中国銀行業監督管理委員会はリスク予防を下半期の重点課題に据え、鉄道セクターの融資問題をしっかりと処理すべき課題の一つに列挙しています。 また、鉄道省がこれまで銀行融資を受ける際、利子は基準金利より10%も低く抑えられていましたが、長年、借金だけが増えている状況に鑑み、鉄道関連融資の利子は今年の年頭からほぼ、基準金利に戻されました。

■短期間での改善が望めない収益状況 
 ところで、拡大されつつある投資に対し、鉄道省の収益構造はとても喜べる状況にありません。
 鉄道省が明らかにした昨年度の財務諸表によりますと、2010年度の売上は6875億元なのに対して、利益はわずかの1500万元でした。
また、中国における高速鉄道の敷設コストは、1キロ当たり1億4200万元もかかります。この巨額投資に比べ、現段階の収益性はそれほど芳しくはありません。武漢と広州を結ぶ高速列車を例にすると、2009年の開通から、延べ利用客数は2000万人に達しましたが、赤字は30億元にもなっています。
 高速列車はまだ普及段階にあり、短期間で大量の乗客を引き付け、高額な収益を出すことは現実的ではないし、運賃の引き上げにより収益性を高めようと思っても、やはり一定期間の時間がかかります。
鉄道省の負債率上昇のリスクが指摘されている一方、「確かにリスクが大きいが、政府系のサポートがあるので、資金サプライに問題が生じるような事態にはならないだろう」という意見もあります。
今回の高速鉄道事故は中国の国民に、今後、中国の向かうべき道、求めるべき暮らしについてじっくり考えるきっかけを提供しました。と同時に、事故が今後の中国経済のあり方に与える影響も、引き続き注視されます。