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diary / nowadays


2011-01-17-月 Ball and Biscuit

[]『ソーシャル・ネットワーク

『ソーシャル・ネットワーク』

原題:“The Social Network” / 原作:ベン・メズリックfacebook 世界最大のSNSビル・ゲイツに迫る男』(青志社・刊) / 監督:デヴィッド・フィンチャー / 脚本アーロン・ソーキン / 製作:スコット・ルーディン、ダナ・ブルネッティ、マイケル・デ・ルカ、セアン・チャフィン / 製作総指揮:ケヴィン・スペイシーアーロン・ソーキン / 撮影監督:ジェフクローネンウェス,ASC / プロダクション・デザイナードナルド・グレアム・バート / 編集:アンガス・ウォール,ACE、カーク・バクスター / 衣装:ジャクリーン・ウェスト / キャスティング:ラレイ・メイフィールド / 音響:レン・クライス / 音楽トレント・レズナーアッティカス・ロス / 出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールドジャスティン・ティンバーレイク、アーミー・ハマーマックス・ミンゲラ、ブレンダ・ソング、ルーニー・マーラ / 配給:Sony Pictures Entertainment

2010年アメリカ作品 / 上映時間:2時間 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12

2011年1月15日日本公開

公式サイト : http://www.socialnetwork-movie.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/01/17)


[粗筋]

 2003年10月深夜、マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)は在籍するハーバード大学、カークランド寮にあてがわれた自分の部屋で、コンピュータに向かい合い、取り憑かれたようにキーを叩き続けていた。

 最初はその晩、言葉のすれ違いから別れ話に発展した恋人エリカ(ルーニー・マーラ)の悪口や愚痴を並べ立てていただけだったが、いつしか怒りの矛先は、容姿やステータスで男を品定めする女子学生全体に拡散していった。ビールを呷りながらマークの思考はいつしか、ハーバード大学の寮生である女子学生をランク付けする“フェイスマッシュ”というウェブサイトの構築に向かっていく。

 マークの数少ない親友であり、気象に関する知識を駆使した石油ビジネスで学生ながら既にひと財産を築きあげたエドゥアルド・サベリン(アンドリュー・ガーフィールド)にアルゴリズムを作らせ、ブログ更新する傍らハーバード大学のあらゆるサーバハッキングを仕掛けて女子学生の顔写真やプロフィールを蒐集し、プログラムを作成して、早速とサイトを開いてしまった。

 深夜にも拘わらず、この“フェイスマッシュ”は瞬く間にハーバードの学生達のあいだで話題となる。午前4時という異様な時間帯に2万を超えるアクセス数を叩き出したマークの行為は、大学の倫理規定違反とされ半年の観察処分を受けると共に、全女子学生からの批難を浴びることになった。

 だがそれと同時に、友だちの少ないオタクでしかなかったマークに、ふたつのものを与える。ひとつは、良かれ悪しかれ、学内をパニックに陥れるほどの才能を示した、というステータス。もうひとつは、インターネット時代であっても生身の交流を切望する大学生たちを繋ぐ、“ザ・フェイスブック”というSNSのアイディアだった――


[感想]

 奇しくも私が鑑賞した当日に発表されたゴールデン・グローブ賞で、本篇は作品、監督、脚本音楽の4部門に輝き、世界各国の映画賞で得た栄冠は既に100を超えている。アカデミー賞有力候補の筆頭に掲げられているほどの話題作だけに、いまさら賞賛の言葉を並べるのは少々気が引ける――だが、他に言いようがないのだから、まずは断言してしまうことにしよう。

 本篇は間違いなく、映画史に名を残す傑作だ。

 デヴィッド・フィンチャー監督の作品を追ってきた者にしてみると、題材としてやや意外に感じられる作品でもある。これまでは『セブン』や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のようにひと癖もふた癖もある“虚構”を主に採り上げており、実話でも未解決の事件を未解決のまま提示する、というユニークな切り口で活写した『ゾディアック』があるのみだ。そんな彼が、現代進行形で発展を続けているSNS“フェイスブック”の創始者たちのエピソードを採り上げる、というのは、予想できない方向性だった。

 だが実際に鑑賞すると、決してこれまで発表してきた諸作と違ったベクトルのものではない――そもそも、同じような題材で同じような物語を綴る愚を犯していないフィンチャー監督なのだから、そこまでは察知して然るべきだったが、しかし一見して“らしい”と感じられるほど、本篇はきちんとこれまでフィンチャー監督が発表してきた作品の延長上にある。

 もともとデヴィッド・フィンチャー監督の諸作は、明快なストーリー・ラインを構築しながらも、観客に対して力強い問いかけを仕掛けてきた。『セブン』ではむしろストレートであったその問いかけは、作を追うごとにシンプルな物語の物陰に潜められるようになっていたが、本篇はそれが物語と表裏一体となり、切り離せないレベルにまで昇華されている。

 物語は、マーク・ザッカーバーグが起こされたふたつの訴訟の、面談の場で交わされる会話をベースに、いわば全篇が回想のような形で描かれている。そのため、基本的に時系列に添って描写されながらも、常にその結果を匂わせつつ話を運んでいるのが非常に巧妙だ。お陰で、これといって大事件も起きず、ほぼ会話だけで進行しているにも拘わらず、終始異様な緊張感が漲っている。

 そして、その会話自体も、きちんと一連の出来事の流れを観る側に解りやすく伝えながら、決して浅はかではない。しょっちゅう思考が跳躍し、しばしば噛み合わない話を始めるかと思えば、率直な言葉で相手を射貫くマーク・ザッカーバーグの変人ぶりが際立っているが、他方で彼の親友であり、価値観は似ているのにより常識的というだけで振り回されるエドゥアルドの哀感、逆に表面的な主張は完全に一致しながら、より即物的であることがなかなか伝わらないために、結果として終盤の“破滅”の引き金を惹いてしまうショーン・パーカーなど、実にくっきりした像を持つ人物たちが見せる駆け引きはそれ自体非常に見応えがあり、かつその複雑な感情や食い違いを窺わせて興味深い。パンフレットのインタビューを読むと、フィンチャー監督と脚本を担当したアーロン・ソーキンとのあいだで既に、たとえばマークエドゥアルドの友情について解釈の違いがあるようだが、作品の中でそれを一方に引き寄せるのではなく、観客もまたそれぞれの観点で違った捉え方が出来る、という幅の設け方が絶妙だ。

 個人的にはこの物語は、“フェイスブック”という、ある意味でプライヴァシーをさらけ出すことで新たな繋がりを創り出すサイトの裏で、むしろ“他人に期待されている人物像”や“社会的な成功者”というイメージを再現しようとして軋轢を生じ、挫折し、己を見失っていく、その二重性が興味深い。

 象徴的なのは、マーク恋人エリカから見捨てられるに至る冒頭の会話だ。各大学には、いずれ名士となることが見込まれるエリートのみ入会を認められる“ファイナル・クラブ”が存在するが、才能はあれど友人のないマークは、何らかの箔をつけて招かれることを夢想している。彼が天才であることは自他共に認めるところだが、そんな彼でも成功に至るステータスに憧れていることが感じられる。自らの才能で既に財を築きつつあるエドゥアルドはより如実にステータスに囚われているし、彼らに先んじて異才を発揮し、“ナップスター”のサービスで既にいちど痛恨を味わっているショーン・パーカーはそうして肥大化したイメージと自棄的に戯れているかのようだ。“フェイスブック”がクールウェブサイトとしてでなく、事業として拡大し関与する者が増えるにつれて、マークが選ぶ振る舞いは“成功した、偏屈な天才”という服を纏い、物言いは率直になるが、同時に彼の真意は最初よりも透けなくなる。それがクライマックス、ある人物の言葉によって引き裂かれたあと、覗くのは既に己を失い、虚ろになった彼の内面だ。プロローグと対比を成すあのラストシーンの名状しがたい余韻は、そうした虚像の積み重ねが齎すものなのだろう。

 そうした表現の奥行き、主題の掘り下げの深さ以外にも、独特のユニークさは蘇りながら、それをほとんど意識させないまで見事に物語と融合した演出や、こちらも時に抒情的に、時にノイズめいた音を奏でながら、シチュエーションに見事に合致した音楽、他の部分も間然しがたいクオリティにあるが、いちいち触れていると幾ら書いても終わらなくなりそうなのでこのあたりで止めておこう。

 決して“お涙頂戴”めいた描写はないし、観る者を興奮させるアクションもなく、綴られている出来事も恐怖や血腥さを匂わせたものではない。にも拘わらず、最後まで観る者の気を逸らさないエンタテインメントとして成立させながら、深く深く主題を掘り下げ、極めて歯応えがある。既に歴史的名画の風格さえ漂う、極上の1本と断じたい――仮に好みでなかったとしても、これが傑作であることを否定できる人はそうそういないはずだ。


関連作品:

パニック・ルーム

ゾディアック

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

イカとクジラ

ハンティング・パーティ

Dr.パルナサスの鏡


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