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diary / nowadays


2018-05-04-金

[]『晩春(1949)』

神保町シアターのロビー壁面に掲示されたスチール。 晩春 デジタル修復版 [Blu-ray]

原作:広津和郎『父と娘』 / 監督:小津安二郎 / 脚本野田高梧小津安二郎 / 製作:山本武 / 撮影:厚田雄春 / 照明:磯野春雄 / 美術浜田辰雄 / 編集:浜村義康 / 衣装:鈴木文次郎 / 装飾:小牧元胤 / 音楽伊藤宣二 / 出演:原節子笠智衆月丘夢路杉村春子青木放屁宇佐美淳三宅邦子、坪内美子、桂木洋子清水一郎、谷崎純、高橋豊子、紅沢葉子 / 松竹大船撮影所製作 / 配給&映像ソフト発売元松竹

1949年日本作品 / 上映時間:1時間48分

1949年9月13日日本公開

2015年12月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

生誕115年記念 映画監督 小津安二郎 「をんな」たちのいる情景』 (2018/4/21〜5/4開催)にて上映

神保町シアターにて初見(2018/5/1)


[粗筋]

 曾宮周吉(笠智衆)は妻に先立たれて以来、娘の紀子(原節子)をひとりで育ててきた。戦時中は身体を壊し、終戦ののち恢復してからも、自分の身の回りの世話を任せていたために、世間一般の娘が嫁ぐべき時期を過ぎようとしていることを、周吉は気懸かりに思っていた。

 周吉の妹・まさ(杉村春子)にそそのかされ、担当編集者である服部昌一(宇佐美淳)と縁づけようと試みるが、あいにく服部は既に縁談が進んでいるところだった。

 どうやら、自らが嫁いだあと、ひとりきりになる父の身を気遣って縁談に二の足を踏んでいるらしいことに気づいたまさは、紀子も面識のある茶道師匠三輪秋子(杉村春子)を周吉の後妻に迎えることを思いついた。

 だが、たとえ妻が先立ったとはいえ、男が2人目の妻を迎えることに不快感を示す紀子は、この提案がどうしても受け入れがたかった――


[感想]

“小津節”とでも言うのか、小津安二郎監督を代表するテーマ表現の原点として知られるのが本作である。何の因果か、遺作である『秋刀魚の味』からほぼ遡行するような順序で鑑賞していった私だが、そのお陰で、「本篇が原点である」という事実がとても理解しやすかった。

 テーマが共通しているのも勿論だが、構図や語り口も基本的にほぼ同じスタイルを貫いているのがあまりにも明白だ。『秋刀魚の味』まで13年、干支が一巡するまでのあいだ、同じテーマ表現をこうも繰り返し、しかも弛まずに研鑽を重ねていた、というのは、それ自体が驚嘆に値する。

 しかも、こうしたテーマ表現も、本篇を観る限り、いちど完成に辿り着いているのだ。

 構図も演出の呼吸も、ほぼ固まっている。そして、語気を荒くしたり、声高に他人を罵るような場面のない、極めて穏やかな語り口にも拘わらず、観るものを逸らさない緊張感と緩急のバランスも絶妙だ。どこか脳天気な紀子の友人や、初登場のときからやたらと軽妙な応酬を重ねる“おじさま”の存在が、どこか息苦しいこの物語に、緩急というかたちで救いをもたらしているのが実に巧い。

 この作品において最も印象的なのは、中心人物である紀子を演じた原節子の、表情の演技だ。序盤の彼女はひたすら朗らかだし、自らの縁談にもさほど関心はなさそうに映るが、そこに父の話がからんできたところから、影を帯びていく。ここで綴られる紀子の心情は、特に70年も時を経た現在の目から見るといまいち納得しがたいものなのだが、彼女の表情や目の動きからその感情はストレートに伝わってくる。とりわけ終盤に入ったあたり、父子で観能に出かけた際の顔と目線だけの演技は、無言にも拘わらず能弁でさえある。

 私が鑑賞したほかの小津作品にも共通して言えることだが、描かれている価値観、倫理観は、のちの世代の眼からすれば如何にも旧弊だ。そんな中においても、紀子の潔癖はいささか行き過ぎの感がある。だが、そんな彼女の心情を観客に伝えるための描写は非常に細やかだ。共感はしないまでも、紀子の味わった心痛は理解できるはずである。だから、終盤で彼女が感情を露わにする姿に打たれもするし、そのあとの父の表情、振る舞いがいっそう観る者に沁みてくる。

 いちど完成に辿り着いた表現、と書いたが、しかし比較していくと、本篇の表現は『東京物語』や『秋刀魚の味』と比較するとストレートで素朴だ。後年になるほど、感情表現に表情だけでなく全身の動きや小道具を駆使していくようになるが、本篇はほぼ役者の顔に委ねている。そういう意味ではやはり、後年の作の方が更に工夫を凝らし、洗練された表現になっていることは確かだろう。ただ、素朴だからこそ本篇は解り易く、より親しみやすい仕上がりとなっているように思う。

 まだまだ小津作品の入口しか見ていないような私だが、もし人に入門篇としてお薦めするなら、ひとまず本篇を選ぶ。


 ……以下は戯言である。

 作中、紀子が紹介されて見合いする相手がいる。その人物の名を“くまたろう”と言うのだが、どうやらこの響きは当時でも既に古めかしく聞こえるものらしい。見合いのあとで周吉に、妹のまさが愚痴を言うのだが、

「もし紀子と結婚したら、あのひとをなんて呼んだらいいのよ。“くまさん”、じゃ落語だし、“くまちゃん”って顔じゃないし。いっそ“くーちゃん”って呼ぼうかと思うのよ」

 ……それからしばらくのあいだ、私の頭の中では、紀子と野性爆弾のくっきーが謎の会話を繰り広げたのでした。しかも劇中、くまたろうの実物出て来なかったし!


関連作品:

麦秋』/『東京物語』/『東京暮色』/『秋刀魚の味

三本指の男』/『砂の器』/『黒蜥蜴(1968)

家族はつらいよ』/『家族はつらいよ2


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