コラージュの奇跡『気狂いピエロ』

ヌーヴェルヴァーグ特集のオマケであると同時に、本命作品の紹介です。

気狂いピエロ [DVD]

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ジャン=リュック・ゴダールの長編第10作品目。非常に有名な作品なので、タイトルだけ知っているという方も多いのではないでしょうか。
あらすじは非常に単純。昔の恋人と再会し、家庭を捨てその恋人と逃げ出した主人公は、いろいろあった末に裏切られ、恋人を撃ち殺して自分もダイナマイトで自爆。大雑把に言えばそれだけの話です。しかし、それでもこの作品がヌーヴェルヴァーグを、ゴダールを代表する一本であることは間違いありません。『気狂いピエロ』の一体どこが凄いのか?今回はその辺の話をしてみましょう。
まず目に付くのは、他作品からの無数の引用です。主人公の読むランボーの詩、壁に掛けられたピカソの絵、ガソリンスタンドの看板、ポップアートetc。それらが渾然一体となって、汲み上げきれないほど豊かなメッセージを生み出しています。なお、ゴダールは後に『彼女について私が知っている2,3の事柄』のコメンタリィで以下のようなことを述べています。

言語はなんのためにあるのかを考えるのをやめたくなるほど、あちこちにこんなにたくさんの記号があるのはどうしてなのか?現実が曖昧になるほどに……たくさんの意味をもった記号がたくさんあるのは何故なのか?

ゴダールは多様な記号を「そのままの形で」私たちに提示し、互いに衝突し変成作用を起こす姿を見せてくれます。車の話が、美容の話が、人生の話がまったく噛み合わないまま同じ空間で進行し、英語とフランス語が奇妙に交差する。そして血はべったりとした赤いペンキで表現され、「赤」の持つ記号的な側面を浮かび上がらせる――。
それ以上に驚くべきことは、こうした前衛的な表現がストーリィと完璧に絡み合っていることです。主人公たちは劇中でコスチュームを何度も着替えるのですが、着替えるたびに原色の度合いが強くなり、それと連動するようにストーリィは破滅へと突き進んでいきます。最終的に主人公は自分の顔をペンキで青く塗り上げ、そして赤色と黄色のダイナマイトを巻きつけて自爆。この辺は実に上手いなぁと感じました。
ゴダールのほかの作品と比べればずっと一般的というか、ストーリィラインがはっきりしています。これからヌーヴェルヴァーグを見てみようという方だけでなく、他の作品を見て「自分には合わないな」と感じた方にもオススメです。

『ユリイカ 精霊の守り人特集』

ユリイカ 2007年6月号 特集=上橋菜穂子 〈守り人〉がひらく世界

ユリイカ 2007年6月号 特集=上橋菜穂子 〈守り人〉がひらく世界

今月号の『ユリイカ』に藤津亮太氏の『精霊の守り人』解説が掲載されています。おおまかな話としては「リアル」と「リアリティ」の違い、「ファンタジィは活字のほうが有利」と語る神山監督がなぜ『精霊の守り人』に挑戦したのか、といった内容。一般論的な内容でもあるので『精霊の守り人』に興味のある人にもない人にもオススメです。