アニメ番組の主題歌におけるタイアップは、もはや悪ではない。

 
私が楽しみにしていたテレビアニメ「夏目友人帳」の新シリーズ「続 夏目友人帳」の放送が始まりました。
 
いや〜、今回も素晴らしいです。第一話から早速、心を掴まれてしまいました。
…何ていうか「夏目友人帳」って、見ている人のエモーションに凄く働きかけてくる作品だと思うんですよ。
 
本編は勿論のこと、オープニングも素敵です。
 
<続 夏目友人帳 OP「あの日タイムマシン」>

 
曲の前半では、主人公である夏目の周辺にいる人々の描写があり、後半では、彼らが暮らす世界に実は存在している「妖」の姿が、彼らの生活に並行して描かれます。
 
OPだけで、作品に流れる「見えるモノと見えないモノ」というテーマが見事に表現されています。これを見ただけで「夏目友人帳」という作品が持つ優しさや切なさといった感情がガーッと伝わってきて、自分は本編見る前から涙腺が緩んじゃいましたね。
 
ただ、番組が始まって実際にOPを見るまでは、少し不安を感じていたんですよ。
というのも、事前に公式HPをチェックしたところ、二期のOPが一期と同じ喜多修平さんではなかったからです。
 
二期のOPを担当しているLONG SHOT PARTYというバンドのことは、懐かしの深夜音楽番組「HANG OUT」で知ってはいたのですが、「ホーンセクションの入った、アップテンポなナンバーを演奏するバンド」ぐらいの印象しかなかった為に、「夏目友人帳」という繊細なアニメのイメージにあったOPになるのかなぁ、という不安があったんです。
また、一期のOPを歌われていたアニソン歌手、喜多修平さんの曲がとても好きで、作品のイメージにも合っていたので、
 
正直、「安易なタイアップによる選曲で、作品に合わないOPになったら嫌だなぁ…」
 
なんてボンヤリ考えていたんです。結果的には、私が勝手に思い込んでいたバンドのイメージよりも落ち着いた曲調と優れたアニメーションのお陰で、とても素敵なOPに仕上がっていたんですが。
 
テレビアニメの主題歌におけるJ-POP楽曲とのタイアップは、90年代半ばくらいから頻繁に目にするようになり、現在では各レコード会社にとって、スタンダードなマーケティング方法になっています。
ただ、アニメがそういったマーケティングに利用されているだけかというとそうではなく、「夏目友人帳」のように、そういった楽曲の見せ方がここ数年で非常に洗練され、アニメ本編のドラマ性を盛り上げる要素に一役買っているようにすら、私には感じられます。
 
 

■「違和感」が無くなってきたタイアップ

アニメが大手レコード会社とのタイアップ路線を図り始めた当初は、有名ミュージシャンによる楽曲が作品のイメージ、アニメーションと噛み合わず、曲だけが浮いてしまうという事態がよく見られました。
また、余りにも露骨に、アニメのOPやEDが「J-POPの90秒間のテレビCM」と化してしまったことに対するアニメファンの反発もあったのでしょう。アニメ番組におけるJ-POP楽曲のタイアップは、当時は余り好意的に受け止められていなかった記憶があります。
 
ただ近年では、従来のいわゆる「アニソン」ではないアニメ主題歌(つまりJ-POP系のタイアップ曲)を、如何に作品のイメージに近づけるか、違和感がないように見せるか、という技法や演出が格段に進歩しているように思うのです。
 
昨年、私が「夏目友人帳」と共に、とても楽しませてもらったテレビアニメ「鉄腕バーディーDECODE」のOPを見てみましょう。
 
<鉄腕バーディーDECODE OP「そら」>

 
物語の主要キャラや敵キャラが過不足なく配置された構成や、本編のスピーディーなアクションシーンを象徴するような主人公つとむの疾走とバーディーの飛翔シーン、とても爽快感のあるOPです。
 
では、今度はアニメーションを抜きにして、主題歌であるHearts Grow「そら」のPVを見てみると…。
 


 
楽曲がTVサイズと違うというのも大きいのでしょうが、随分と曲の印象が違うと思いませんか?
「バーディー」のOPアニメーションを見た時に感じた魅力と、このPVで描こうとしているアーティストの魅力には、結構大きな差があるみたいです。ストーリー性を排除し、メンバーのヴィジュアルや演奏シーンを全面に押し出したPVの内容は、ちょっとアイドルっぽい印象すら受けますね。
 
こういった正統派のJ-POP楽曲すらも、OPのアニメーションを付けることによって、アニメのテーマにピッタリと合っているように見せられる。
 
アニメのOPやEDを見ていて、「この曲いいな」と思ってCDを購入してみても、音源単体で聴くと「あれ? 何かイメージと違うな…テレビで見たのと違うな…」と思った経験は、皆さんも一度はあるでしょう。
 
要は、それって、アニメ作品の持つイメージやストーリー性、キャラクター、エモーション、そういったアニメの持つ一つ一つの要素に、楽曲が引っ張られてるんですよね。
 
当初はJ-POPのタイアップに対して、楽曲が浮いたり、違和感を生じさせたりと、四苦八苦していたアニメのクリエイターも、経験を重ねながら、それらを有効にアニメの世界に落とし込む術を身に付けてきたのではないでしょうか?
 
 

■タイアップ曲をいかに見せるか? 「ドルアーガの塔」の場合

プロレスの黄金期に活躍をしたアメリカの名レスラー、ニック・ボックウインクルは、「私は、相手がジルバを踊ればジルバを、ワルツを踊ればワルツを踊る」という名言を残しました。
つまり、いかなる状況でも、また相手がどんなスタイルで挑んでこようとも、それに合わせて攻防をスイングさせ試合を成立させることができるのが優秀なプロレスラーの条件というわけです。
 
これと同じように、優れたアニメーターというものは、例えどんな楽曲であろうとも、それに見合ったアニメーションを作り、作品の主題歌として成立させることができるのだと思います。
 
近年の作品で、そういった創意工夫を強く感じたのは、テレビアニメ「ドルアーガの塔 〜the Aegis of URUK〜」のOPです。
こちらのアニメも、今冬から第二期の放送が始まりましたが、一期、二期とも大手レコード会社のavexのアニメ部門、avex modeがタイアップに付いており、一期ではムラマサ☆というバンドが、二期では「Saku saku」でお馴染みの「身長約170cm」中村優さん(コレがCDデビュー曲!)がそれぞれOPを担当されています。
 
タイアップ曲として使用された楽曲は、一期のムラマサ☆「Swinging」、二期の中村優「Questions?」共に、avexらしい非常にアップテンポで軽快なバンドサウンドです。対して、「ドルアーガの塔」という作品は、原作のテレビゲームの世界観を反映したファンタジー作品であり、劇中での描写も中世ヨーロッパの風俗を基礎としているように見受けられます。
 
「中世ヨーロッパ的な世界観に基づいたファンタジー」と「ポップなバンドサウンド」。
 
普通に考えると、ちょっと齟齬を起こしかねない組み合わせですね。
 
では、ここでどういう試みが行われたか?
 
ドルアーガの塔」はOPで、劇中のファンタジー、ヨーロッパ的な世界観とは異なる、主人公たちが学園生活を送るもう一つの世界を描きました。
 
<ドルアーガの塔 第一期OP「Swinging」>

 
若々しい通学風景の描写や躍動感のあるキャラクター動きといったアニメーションの一つ一つが、とても曲調にマッチしているように思います。
私の勝手な解釈なのですが、「ドルアーガの塔」のOPは、ただ単に本編のアナザーワールド的な遊びの要素ではなく、
本編とは違う世界を背景に音楽を流すことによって、タイアップとして与えられた楽曲と物語や世界観との齟齬を防ごうとしているのではないかなと思うのです。
 
いや、本当に勝手な解釈なんですけどね…。ただ、どういう趣旨があるにせよ、楽曲とキッチリ噛み合ったOPですよね。最初に見た時は、OPでいきなり世界観が変わった上に、第一話が凄くメタなギャグエピソードだったために、とても混乱したんですけど(笑)
 
「ジルバを踊ればジルバを、ワルツを踊ればワルツを」の好例だと思います。
 
 

■タイアップのOP、EDこそ、スタッフの腕の見せ所

事前に聞いただけでは、アニメのイメージと噛み合わないアーティストによるJ-POPのタイアップ曲もありますが、いざ蓋を開けてみると、意外と違和感がなかったりするもんなんですよね、最近のアニメって。
J-POPのアーティスト側からのアニメへの歩み寄りもあるのでしょうが、これは、アニメスタッフの尽力によるものが大きいのではないでしょうか?
 
中には、違和感バリバリのOPやEDも正直あることはありますが、それは楽曲云々ではなく、アニメーション一つで如何様にも見せることができると思うんです。
  
「タイアップ」は、会社とか金銭的な都合が露骨に顔を出しやすい「戦略」なわけですが、それすらも飲み込んで、エンターテインメントにするエネルギーとパワーが、今のアニメにはあるんじゃないかな、と私は考えています。
 
といっても、私はアニソンを専門に歌う歌手や、声優さんの歌が大好きですので、アニメの主題化がJ-POPばっかりになってしまうのとガッカリなのですが、アニメという表現分野とそれを利用するポップ・ソング…大袈裟に言えば「マス対コア」(by ECD)の対立すら飲み込んで、「おもしろいもの」「楽しいもの」を作ろうとしているアニメ製作者の熱意とアニメで「やれること」の度量の広さに、自分はチョッピリ胸が熱くなるのです。
 
タイアップも、アニメーターの技術や、演出法の巧みさを楽しむためのものとして、とらえてみるのはどうでしょうか?
1分30秒という短い時間に込められた趣向が色々と見えてきて、なかなか面白いですよ。
 
 
<関連エントリ>
 
■テレビアニメのオープニングタイトルについて、自分なりに考えてみる